性的同意について考えたことはありますか?

漫画やドラマ、恋愛リアリティショーなどを観ているとき、思いがけず“突然のキス”といったシーンを目にすることがあるかもしれませんが、本来そうした行為はNGです。

セックスに限らず、キスやハグ、体に触れるなどの性的行為は、お互いがその行為を望んでいるかを確認する必要があるのです。

これを「性的同意」と呼びます。性的同意のない性行為は「性暴力(レイプ)」になります。性的同意をとらずに無理やり性行為に至った場合、刑法第177条「強制性交等罪」(*)になりえる、ということを覚えておきましょう。

親しい関係でも「性的同意」が必要

強制性交等罪と聞くと、見知らぬ人から被害に遭う強姦事件をイメージしがちですが、実は私たちにとってとても身近な問題です。

性的同意は、パートナーであっても確認する必要があります。

内閣府が2021年に行った「男女間における暴力に関する調査」によると、「無理やりに性交等をされた経験がある」と回答した人の割合は女性6.9%、男性1%という結果になりました。

内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査」より

その中で、相手は「全く知らない人」と回答した人は1割程度にとどまり、交際相手・配偶者が約3割ということが明らかになりました(そのほかの回答は元配偶者、家族、職場の人、友人、知人など)

パートナー間でも「無理やりに性行為をされた」と感じている人が多いことがわかります。

「恋人同士だからセックスするのは当たり前」、「夫婦だからいつでもできる」という考えを少しでも持っていると、相手を傷つけたり、性暴力の加害者になってしまうことがあるかもしれません。

だからこそ、性的同意について正しく知る必要があるのです。

「いつも紅茶を飲みたいわけではない」

イギリス警察が2015年に公開した性的同意に関する動画が「わかりやすい」と話題になりました。性行為を紅茶にたとえて表現しています。函館性暴力防止対策協議会が作成した日本語版を紹介します。

性的同意にピンとこない人でも、イメージしやすいのではないでしょうか。

この動画には次のような説明があります。

  • 無理やり紅茶を飲ませちゃだめ
  • 紅茶を飲むかどうかは相手次第
  • 「飲みたくないと」言った人にムカつくのもだめ
  • 途中で気持ちが変わっても、相手に紅茶を飲む義務はない
  • 意識がない人は紅茶を飲まない。無理やり紅茶を流し込んではいけない
  • 別の日に紅茶を飲みたがっていても、いつも飲みたいわけではない

動画の終盤では、「紅茶を飲みたくない人に、無理やり飲ませることがいかに馬鹿げていることか。セックスも同じ」と呼びかけています。

「家に泊まる=性行為OK」は誤解。性的同意のチェックリスト

特にパートナー間においては、なんとなく曖昧にしてしまいがちな性的同意ですが、きちんと確認できているかどうか考えてみましょう。

  • 相手の気持ちや体調よりも、自分の「したい」気持ちを優先していないか?
  • 自分はしたくないのに相手がしたがっているから、無理をしていないか?

性的同意についての理解を深めることを目的に京都市男女共同参画センターが発行した「ジェンダーハンドブック」に掲載されている、チェックリストを紹介します。

京都市男女共同参画推進協会発行「ジェンダーハンドブック」より

パートナーに同意をとる方法

性的同意を確認するために「キスしてもいい?」と尋ねたり、「セックスしよう」と提案したり、言葉にすることは大切なことです。

でも「いちいち確認するのは面倒」とか「恥ずかしくて言えない」とか「確認するとムードが壊れるのでは?」と思っている人は案外多いのではないでしょうか。

(したくない人にとっては、ムードも何もないのですが…)

Photo AC

そこで、具体的にどのようなコミュニケーションをとってお互いの同意を確認すればいいのか、いくつかの事例をご紹介します。

昼間に話してみた(Aさん・女性)

Aさん(女性)は、パートナーとのセックスについて“昼間”に会話をしたことがあるそうです。

「私は週に1回くらいセックスをしたいと思っているけど、あなたはどう?もっと増やしたいとか、今よりも減らしたいとかあれば教えてね」

「あなたとのセックスが大好きだけど、生理前はしたくないときがあるんだ。もし断ったとしてもあなたのことが嫌いになったわけじゃないからね」

夜ベッドで断ると喧嘩になったり、気まずくなってしまったりすることが不安なら、Aさんのように昼間にさりげなく話してみるといいかもしれません。「今日のご飯は何食べる?」って聞くのと同じように。

相手が断りやすい雰囲気を作っておく(Bさん・男性)

Bさん(男性)はパートナーを誘うときに、相手が性行為を望んでいるかどうかを確認するために、次のような声かけをするのだそう。

「今はやめておいた方がいい?」
「もし嫌だったら、無理しないでね」

ムードが壊れると感じたことはないし、相手も安心してくれるのだそう。大切なパートナーがもしその気じゃないときに、断りやすい雰囲気を作ってあげる。とても素敵な気遣いですよね。

付き合う前にセックス観を話した(Cさん・女性)

Cさん(女性)はお付き合いする前の男性といい雰囲気になり、セックスに流れてしまいそうなとき、こう伝えたといいます。

「あなたとはまだそういう関係じゃないから、今日私はセックスしないよ」
「そうなんだ。わかった…」(少し気まずそう)
「あなたのことをもっと知って、したくなったらそのときにしようね」
「うん。ありがとう」
「こちらこそ我慢してくれてありがとう。(欲求は)大丈夫?」
「勝手におさまるから大丈夫だよ(笑)」

こうして、二人はのちにお付き合いをすることになったそうです。

相手のことを知るためにパートナー関係を結ぶ前にセックスをしたい人もいれば、ゆっくり時間をかけて信頼関係を築いてからしたいと考える人もいます。

どちらが正しいということではありません。セックスをしたいタイミングは人によって異なります。

相手の雰囲気に流されず自分のスタンスをきちんと相手に伝える。相手のスタンスも聞く。そしてもちろん、したくない人に対して無理やり性行為をしない。これが、性的同意を確認し合えるポイントといえそうです。

したくない理由もきちんと伝える (Dさん・男性)

Dさん(男性)は、パートナーとのセックスを断るとき、理由もあわせて伝えているそうです。例えばこんなふうに。

「明日は大事なプレゼンがあって、余裕がないからしたい気分じゃないんだ」
「今日はとても疲れていて早く寝たいから、もう寝てもいい?」

セックスしたいときに相手に断られたら、ちょっとがっかりする人もいるかもしれませんが、理由がわかれば余計な不安を抱くことも少なくなりますよね。

「別の日ならしたい」気持ちをちゃんと伝える(Eさん・女性)

今日はあまり食欲がないとか、中華の気分じゃないと思うことと同じように「なんとなくセックスしたい気分じゃない」というときが誰にでもあると思います。

Eさんは、なるべく相手ががっかりしないように、こう伝えるそうです。

「今日はここまでがいいな。ハグしよう」
「また今度しようね」

今したくないだけであなたを嫌いになったわけじゃない、別の日ならしたいと思っている。それを話してあげると、大切に思っていることが伝わるかもしれません。

断るときの伝え方に悩む人も多いと思うので、ぜひ参考にしてみてください。

性的同意年齢とは?

Photo by Siora Photography on Unsplash

性行為の同意を自分で判断できるとみなす年齢を「性的同意年齢(性交同意年齢)」といいます。

日本の刑法上の性的同意年齢は明治時代から長らく13歳と定められてきましたが、引き上げを求める声が上がり、16歳に引き上げる法改正の動きが進んでいます。

性的同意年齢とはつまり「性行為をしたいかどうかを、自分で判断できる能力がある」とみなされる下限の年齢のこと。裏を返せば、(性的同意年齢が16歳の場合)16歳以上に対しては、同意の上の性行為であれば罪には問われないということになります。

子どもや若年層が被害にあう性犯罪が増えている近年、性的暴行にあったときに「どのように加害されたのか」、「(それに対して)どのように抵抗したのか」を説明しなければなりません。

「相手が同意したのだから、罪に問われない」という加害者側の主張に対して、両者の関係性が対等でないとき「抵抗できなかった」状況も考えられます。その場合「同意がとれた」と判断することは危険です。一方で「抵抗したかったのに抵抗できなかった」ことを証明することもまた簡単なことではないでしょう。

今回の法改正では、性行為を目的に子どもに近づき、手なずける行為「グルーミング」に対しても処罰の対象となりました。これも両者の見解が食い違った場合、それを証明することは簡単ではないため多くの課題が残っています。

このほか、強制性交等罪(強姦罪)の公訴時効をこれまでの10年から15年に延長することも法改正の要綱に追加されました。

引き続き考えなければならない課題はありつつも、性暴力について議論が深まり、被害を減らせるよう一歩前進したことは良い動きなのではないでしょうか。

もしも被害に遭ったら?

いつ、どこで、だれと、どのような性的な関係を持つかは、自分自身が決める権利があります。身近な人や恋人・夫婦の間でも同じです。年齢、性別にかかわらず望まない性行為は、暴力にあたります。

つらいこと、不安なことがあったら一人で抱え込まず、まずは性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターに話してみてはいかがでしょうか。

被害後まもない方へ(72時間以内)

加害者に連絡先や位置情報を把握されていて一人で不安な場合や、どうしたらよいかわからない場合は、警察の性犯罪被害相談電話「#8103(ハートさん)」や性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター「#8891(はやくワンストップ)」に連絡してください。

被害後しばらくたった方はこちら

内閣府男女共同参画局のサイトでは、こうしたホットラインを紹介しているほか、性暴力被害にあった人の心のケアについて以下のように案内している。

・無理をせずに、まずはこころとからだをしっかり休めてください。
・安心できる場所にいてください。
・できそうなら、信頼できる人に話してみてください。
・ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、睡眠をとったり、軽く運動するなど、ゆっくりでよいので、自分のペースで日常生活を送ってみましょう。
・仕事や学校に行きにくかったり、行っても思うように仕事や勉強ができないかもしれませんが、今は無理をしないでください。
・深呼吸をしてみたり、音楽を聴いたり、ストレッチをしてみたり、アロマを使うなど、自分の心が落ち着くこと、リラックスできることを試してみましょう。

 *

今回は、「性的同意」を正しく知ることの大切さ、パートナー間における性的同意のコミュニケーションについてお伝えしました。

性暴力をなくすためにも、性的同意の概念を広げることが重要だと感じます。まずは身近なパートナーと話してみてはいかがでしょう。

そしてもしも望まない性行為に悩んでいたら、ひとりで抱え込まず信頼できる誰かに相談したり、ワンストップ支援センターを頼ってください。

*刑法第177条(強制性交等):十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし,五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

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