「お母さんに吸水ショーツを買ってあげたい」
「もし自分が将来、娘をもつシングルファザーになったら、生理のことも相談してもらえるようなパパになりたい」
この言葉を聞いて、胸を打たれた。そんな話をしてくれたのは、東京・巣鴨にある中高一貫の男子校、本郷学園の男子生徒たちだ。
超吸収型サニタリーショーツ Bé-A〈ベア〉を展開する株式会社Be-A Japanは、2024年5月、本郷学園で生理セミナーを開催した。2022年の開催に続いて2回目となる。
生理セミナーに参加したのは、本郷学園の中学1年生〜高校3年生の「社会部」に所属する生徒たちとその保護者。
セミナーの冒頭、社会部・顧問の松尾弥生先生から生徒たちにこう伝えられた。
「知らないことは恥ずかしいことじゃなく、素晴らしいこと。なぜなら、新しく知ることで人に優しくなれる。そして自由になれる。君たちは今日、男女の身体のギャップをしっかり学んで、お母さんやお姉さん、妹さんのことをもっと理解できる立派な男になりなさい」
厳しくもあたたかい、愛のある激励だ。
100年前と比べて、生理の回数は約9倍
セミナーで教壇に立ったのは株式会社Be-A Japan、代表取締役・髙橋くみさんと、同社、商品開発責任者の中村千春さん。
まずは子宮と生理の仕組みについて解説し、生理の経血に含まれる成分、経血量についても紹介。経血量には個人差が大きく、中でも約4分の1の人は、「過多月経」と言われている。
「月経時に、毎回すごい量の血液を失う女性もいるので貧血になりやすかったり、鉄が欠乏することによる不調が起きやすくなります」
身体的なことだけでなく、生理は社会的にも関わりが深い。
「およそ100年前、1人の女性の生涯で、だいたい50回ほどしか訪れなかった生理が、現在はなんと平均で450回。約9倍の回数です。理由として現代は栄養面で恵まれているため早く初潮をむかえ、閉経も遅まっている。そしてもう1つ大きな理由は、出産回数が減っていることです」
生理の回数が増えた分だけ、現代の女性は子宮内や身体に負担がかかる。そのため子宮系の病気になるリスクも上がっている。
「だいたい12歳から50歳くらいまでと考えると人生で40年間、 生理の期間が毎月あります。これを合算すると、なんと人生で大体7年弱くらい、女性はずっと生理の状態で過ごさないといけません」
「それなのに全世界であまり話されてこなかったんです。人類が火星を目指している。そういった時代に、まだまだ女性たちは生理に困っているのが現状です」
体調不良は生理の時期だけじゃない
生理中の女性のおよそ8割くらいが、なんらかの不調を感じていると言われている。
生理痛でお腹が痛くなる、頭痛、お腹が空く、眠くなる、下痢になりやすい、便秘になる、ニキビ、胸が張って痛くなるなどの症状について髙橋さんが説明すると、生徒たちはメモを走らせながら耳を傾けていた。
「例えばお母さんや女性のご家族が、生理前に眠くて起き上がれないという様子を見たことがあるかもしれませんが、それは女性ホルモンのバランスの変化によって起きている症状なんです。決してサボりたいわけでも、怠けたいわけでもないんだけれども、眠気が強く出てしまうことがあります」
生理周期と女性ホルモンの変化によるPMS(生理前症候群)や排卵痛についても解説された。「生理でもないのにお腹が痛くて、盲腸だと思って病院に行ったら排卵痛だった」という事例の紹介も。
個人差があるものの、こうした事例のように生理の間だけではなく、生理の前後に起きる不調もあり、元気に過ごせる期間は「1カ月のうちわずか1週間だけ」という女性も少なくない。
Be-A Japanの中村さんは「私が中学生の頃、まだホルモンバランスが安定せずPMSがきつく出る時期がありました。テスト前に夜まで勉強をして疲れが溜まったときにPMSがくると、頭痛や吐き気、下痢などの体調不良が続くことにずっと悩まされてきました」と自身の経験を話した。
身近な女性たちに、そのような不調が起きていることは、同姓でもなかなか気付けないことかもしれない。彼らの同世代の女性たちが抱える、生理の悩みを知ることができる、きっかけになる話だ。
ワークショップでは、生徒たちの机の上に生理用ナプキンとタンポンが配られた。生理用品を実際に見て、触ってみようという試みだ。
「生理は緩んだ蛇口から水がポタポタ出ているような感じで、経血が出続けています。これを自分の意思で止めることはできないので、生理中は、この生理用品を着けて過ごします」
手元に配られたナプキンを開封して触ってみる生徒たち。色水を吸わせて、表面に触れてみると、それぞれのテーブルで感想を話し合っていた。
「思ったより吸わないな」
「吸うまでちょっと時間がかかる」
「着けていたら違和感がありそう」
「数日間これを着けていなくちゃいけないんだよね?」
髙橋さんが1周期の生理でだいたい25枚くらい消費すること、多いと1日10回取り替えなければならない人もいることなどを説明した。
「女子生徒は、休み時間のたびにこれを持ってトイレに行って、 自分の着けているものを外して、この剥がしたナプキンを畳んで、先ほどのこの包装にくるんで捨てて。また新しいものをセットして身支度をして、教室に戻って次の授業を受ける準備をしています」
まだ生理が来たばかりで慣れていない子たちには難しいかもしれない。話を聞きながら、5分しかない休み時間にそれをこなす女子生徒に思いを馳せてみる。
「そのあと何事もなかったかのように体育服に着替えて、体育の授業に現れて普通に運動しています。もしかしたら1〜2分遅れてしまって、先生に『なんで遅れるんだ』『3分前行動をしなさい』と叱られたかもしれない」
「女性が大変だと言いたいのではなく、男性も生理のことを知っていれば、男の先生や友達が、もしかしたら生理で大変なのかもしれないという想像ができると思うんです。知らなかったら気遣いや優しさは生まれませんよね」と中村さん。
男子生徒たちに実際にナプキンに触れてもらったのは、そういった想像をしてもらうためでもあった。うなずきながら、熱心に中村さんの話を聞く生徒たちの様子が印象的だった。
前を歩いている女性のスカートに血がついていたらどうする?
続いて2つのお題に対して、グループでのディスカッションが行われた。
1つめのお題は「通学時に歩いていて、自分の前にいる女性のスカートに生理の血がついていたらどうしますか?」というもの。
「これに、絶対な正解はありません。考えてみてください」と前置きしてディスカッションが始まった。
グループごとに話し合った結果をそれぞれ発表してもらう。次のような発表があった。
「指摘されるのが嫌な人もいるから直接的なことは言わず『体調大丈夫ですか?』『何かできることありますか?』と声をかけてみる」
「道ですれ違っただけなら言わない配慮も必要。注目を浴びて、傷ついてしまうかもしれない」
「電車で隣の席にいたら、自分も関係しているので伝えてあげたほうがいい。一緒に電車を降りて、付き添って何か手伝えたら手伝う。でも配慮が必要だと思う」
「異性から言われたら傷つくかもしれない。周りに同性の方がいたら、自分の代わりに声かけてもらう」
できる限り相手を慮った行動を取りたいという、誠実さが伝わる発表だった。
お母さんが具合が悪そうに横になっている。そろそろ夕食の時間。どうする?
2つめのお題は「夕食の時間なのに、お母さんが頭痛と腹痛で辛そうに横になってる。どうしますか?」というもの。
このお題に対して、次のような発表があった。
「生理かどうかはわからないがそれは関係ない。僕はあまり料理できないので、スーパーへ行って惣菜を買ってくる。普段母や父がやっていることを代わりにやってあげるのがいいと思う」
「だいじょうぶ?何かできることある?と聞いて、もし自分で作れそうなら自分で作る」
「気を使い過ぎるのも逆に疲れさせてしまうかもしれない。1人の時間を確保してあげて、あとはそっとしておいてあげる」
「まずは休ませてあげること。最近はレトルト食品とか冷凍食品も増えているから、夕食はそういうものを食べる。1番やっちゃいけないことは『ご飯まだ?』って言うこと」
「先日、自分で3食分作ってみたら結構大変だった。お腹痛いのにキッチンに立つのは辛いと思う。自分で作ると伝えて、負担が少しでも減るような行動をする」
正解はないとはいえ全員が最善を一生懸命考え、発表してくれた。どの発表も同年代の息子をもつ母親ならば涙が出そうな話だ。
「生理」を取り巻く社会的な問題
セミナーの後半では、より社会的な生理の課題にフォーカスした内容だった。
職場での生理休暇は、取得率が1割にも満たないこと。その理由として、職場でのジェンダーバランスや「休みたい」と伝えにくい職場環境、「生理=恥ずかしいことである」という女性側の思い込みなどを挙げた。これは女性たちの活躍の機会が損失している現状があるということでもある。
また近年話題になった「生理の貧困」について。経済的な貧困だけではなく、知識の貧困もあると語られた。
例えば父子家庭では、父親に生理の知識がないと、子どもが「ナプキンを買って」と言い出せないケースがあること。生理は女性だけの問題ではないということがよくわかる。
また女性同士であっても、必ずしも生理について理解し合っているとは限らない。
「親娘で、例えば娘さんが生理が重くてお母さんはそうではないという体質に違いがある場合があります。娘さんは痛み止めがないと過ごせないくらい辛いのに『生理痛ぐらい我慢しなさい』と言ってしまったり。『ナプキンもうなくなったの?なくなるの早くない?」と言ってしまったり」
「そうすると娘さんは『お母さんはどうせわかってくれない』と諦めてしまいます。この令和の時代にも起きていることです。知識がなく、理解が貧困であるということも問題なのです」(髙橋さん)
そのほか、国会議事堂の中に1987年まで女性用トイレがなかったことや、被災地で避難所での生理用品の配布が1人あたり1〜2枚しか配布されなかったニュースに触れ、意思決定をする場での男女比が問題になっていることも語られた。
女性にとって生活必需品である生理用品が、軽減税率の対象になっていない現状についても話された。
あらためて「生理」を取り巻く社会について考えると、知識の乏しさが理解不足に繋がり、社会問題にもなっていることが感じられた。
「ベアの吸水ショーツ、お母さんにプレゼントしたい」
生理セミナー終了後、社会部顧問の松尾先生と、生徒たちに話を聞いた。生徒たちはどんなことを感じたのだろう。
「生理休暇の取得率が1%以下と聞いて驚きました。生理がつらいって、カミングアウトしちゃえばいいのにと思っていたけど、言いたくても言いづらいこともあるんだと思いました。自分も微熱くらいで学校を休みたいとは言いづらいので、その気持ちもわかるなと思いました」
「女性同士なら分かり合えるんだと思っていたけど、個人差があってそんな単純じゃないんだと知りました。自分には妹がいるんですけど、妹の性格的にも生理の話は嫌がりそうなので、しんどそうなときはなるべくそっとしてあげようと思った」
「母が50代、今思えば更年期でつらい時期があったんじゃないか」
「将来、自分がもし娘をもつシングルファザーになったら生理のことも相談されるようなパパになりたいと思った」
「ベアの吸水ショーツを知って、めちゃくちゃいいなと思いました。今も生理があるかどうかわからないけど、お母さんにこのショーツをプレゼントしたいと思いました」
「他人の靴を履いてみる」社会部顧問・松尾先生の思い
「使い捨ての生理用品でプラスチックゴミが大量に出ていることが気になっていました。ベアの高機能なサニタリーショーツは、ゴミを減らせると言う点でも素晴らしいです!」
そう賞賛した松尾先生は、自身の生理の体験も話してくれた。
「大学受験のとき、センター試験と生理が重なって大変でした。頭痛いし、お腹痛いし、“(男女)平等な戦い”ってなんなんだ?って思いましたね。男性は女性のそういう苦労を知らないままの人もいますので、今回のセミナーで生徒たちに知る機会を作っていただいてありがたいです」
「大事なことは男だから、女だからではなく、誰かがつらそうにしていたら『大丈夫?代わりに何かできることある?』と気遣えるような和やかな人間関係を育むこと。知識を得ることが彼らの自信に繋がります。社会科という学問は自分自身を羽ばたかせていくための学びだと思っています」
松尾先生の話を聞くと、年齢や(教師・生徒など)立場に関係なく、お互いにリスペクトを持って接していることがよく伝わってくる。パソコンが得意な生徒にはよく助けてもらっていると話してくれた。
今回のセミナーを受けた生徒たちのことも、頼もしく感じたようだ。
「自分がもし娘をもつシングルファザーになったら生理のことも相談されるようなパパになりたいって話してくれた子がいましたね。嬉しかった。彼のような人が増えていけば日本も『子どもを生みたい』と思える人が増えていくんじゃないかと思いました」(松尾先生)
本郷学園社会部の部則は「絶対差別禁止」と「他人の靴を履きなさい」なのだそう。立場の異なる人の気持ちを考えてみよう、という松尾先生の教えだ。
社会部では生徒たちの希望で東日本大震災の被災地を訪れたり、セクシュアル・マイノリティへの理解を広めるイベント「東京レインボープライド」を取材する活動もしているそうだ。
「社会部は価値観をぶっ壊して回る部活動です。実際に現場を訪れて目で見て、直接話を聞くことで、それまでの価値観が壊されていく。彼らには“こうであらねばならない”から自由になって、彼ら自身になって欲しいと思っています」(松尾先生)
株式会社Be-A Japanは、女性支援のためのプロジェクト「GBA(ジービーエー)」に取り組んでおり、本セミナーもその一環として主催した。
代表取締役・髙橋くみさんは「男子校にて生理セミナーを開催し、実際に男子生徒たちに生理用品を触れてもらうことに対し『そこまでやる必要があるのか』というお声を、少なからずいただくことがあります」としたうえで、この活動についてこう振り返った。
「私たちはこれまで小学生から社会人まで、約400人の男性たちに生理セミナーを開催して参りましたが、実際の生理用品をどのような状況下でどのような症状と共に女性たちが使用しているのかを手に触れながらお話しすることで、思いを寄せやすく、より想像しやすくなると感じております」
「今回の生理セミナーは『生理と社会』というテーマでジェンダーや人権についてもじっくりお話しさせていただきましたが、本郷学園の学生さんたちが本当に熱心に聞き入ってくれた様子が頼もしく、嬉しかったです。今後も多くの教育機関で開催したいと感じられた貴重な経験になりました」(髙橋さん)