画像=Laundry Box

生理の貧困(period poverty)の問題が、諸外国に大幅な遅れを取りつつも、日本でもようやく認知され、支援に乗り出す自治体も増えてきた。

しかし、生理の貧困はバックラッシュのど真ん中にいる。

「スマホは変えるのにナプキンは買えないのか」

「数百円のナプキンも買えないというのは、お金の使い方が下手なんじゃないのか」

記事を出す度、そんなコメントで溢れかえる。最初の報道の仕方が、「コロナ禍で、数百円のナプキンも買えない人が増えている」という、絶対的貧困にフォーカスしたセンセーショナルなものだったことが、反発に油を注いだように思う。

そもそも性にまつわることがタブーとされてきた日本で、こんなデリケートな問題をいきなり公に語るのだから、戸惑いがあるのはいたし方ないことかもしれない。

「生理用品にアクセスできない」以外の、”広義の生理の貧困”

今日取り上げたいのは、広義の生理の貧困についてだ。現在、生理の貧困は、ナプキンやタンポンといった「生理用品にアクセスできないこと」を指している。

しかし私は、生理不順でも婦人科にいけない、生理の中で日常生活を送るために必要な薬などにもアクセスできないといった”広義の生理の貧困”も大きな問題だと考える。

生理の貧困というからには、生理に関係して発生する出費全体を鑑みて、議論が行われるべきで、ナプキンやタンポンにアクセスできないというのは問題の入口にすぎない。

生理の貧困を取材し、記事を書き始めたところ、ある友人から連絡があった。

「生理の貧困なんて、始めは自分には無関係だと思っていたんだけど、ヒオカちゃんの記事を読んで自分もそうだったかも、と気づいたんだ」

その友人は“裕福な家庭の子”という印象だったので、生理の貧困の体験を語るのは正直意外だった。

「嫌な言い方に聞こえたらごめんねだけど、私は経済的にも家庭環境的にもかなり恵まれていると言われるような家で育った。中学から私立のいわゆるお嬢様学校に通い、その中でも裕福な方だったし、両親健在の仲良し家族で甘やかされて育ってきたと思う。

世間の人が想像する“貧困”とは離れた暮らしをしていると思うし、ニュースで、生理の貧困の話を聞いても、大変なんだなとは思いつつ、身近には感じられなかったんだ。でも、「ヒオカちゃんの記事を読んで、自分にとっても身近で、誰にとっても身近になり得る問題なんじゃないかって思った。あれ?私ももしかして経験したことある?って思った」

苦痛を和らげることへの社会的・心理的ハードル

Photo by AC

友人の話を聞くと、経済的には困窮していなくても陥る、”生理の貧困”の本質、つまり生理の苦痛を和らげることへ投資する上での不安や心理的ハードルというものが見えてきた。

「とくにつらくて未だに思い出すのが、高校2年生の水泳部の合宿。中高では水泳部に所属していて、周りは生理中でも練習に参加している子が多かったんだけど、生理痛や貧血がひどい私は毎月見学していて。

試合や合宿のようなイベントと生理が重なったらどうしようっていつも不安だった。友人が短期留学の前に“生理を一時的に止める薬”(ピルって言うことすら知らなかった)を飲んだ話を聞いて母に『私も飲みたい!』といったんだけど『体に良くないからだめ』って許可してもらえなかったんだ。

その結果、高校2年生の合宿は生理期間とまるかぶりして、体調が悪すぎて部屋で寝て休む羽目になっちゃって。サボってると思われるんじゃないかって、周りの目も気になったし、その後の大切な試合で思うような結果を出せなかった。もしもあの時ピルを飲ませてもらえていて、合宿にちゃんと参加できていたら…ってすごく悔しい思いをしたんだよね」

彼女がいうように、ピル、という選択肢へのハードルはいまだに高い。ピルは月経困難症にも用いられるが、値段の高さはもちろんのこと、親や周囲の「体に良くない」「避妊薬はふしだら」という誤った知識や偏見があるからだ。

目に見えない部分だからこそ、”贅沢品”にされてしまう

「大学生になってアルバイトを始めてからは、自由に生理用品や鎮痛剤・貧血の薬などを買えるようになって、必要なものの入手に困ることはなくなった。だけど『アルバイトをしていたら生理用品くらい満足に買えるはずだ』とは思えなくて。

コスメや洋服のような”見える部分”を優先する人の気持ち、分かる気がするんだ。私は、コスメや洋服よりも鎮痛剤や貧血の薬の方が”贅沢な嗜好品”という感覚だった。人に見られる部分は自分の印象やそれに付随した交友関係も左右しかねないから。生理の期間をなるべく快適に過ごしたいって、それなりに金銭的に余裕があって初めて手に入れられるものなのかもって実感した」

見えない部分だからこそ、後回しにしてしまう。この心理は、多くの人が抱えるものなのかもしれない。

「中高生の頃の私のような経験をすることも、私の母のように悪意なく、誤った知識を子どもに伝えてしまうことも、誰にでも起こり得ることなんじゃないかなって思う」

経済的状況に関わらず、正しい教育がされなければ、生理のつらさを解消する、という発想や、行動に繋がりにくいということがわかる。また、フェムテックの躍進により、選択肢は増えたようにも思うが、「自分の体をケアする」「医療的アプローチをする」ことは、ハードルが高く、贅沢、という印象がいまだに根強いように思う。

単なる「買えない」を脱出して、広がっていく議論

本来、生理による痛みや不調は、取り除くべきだと思う。その選択肢の存在が、生理と付き合う人たちに届いて欲しい。

Photo by AC

また、生理の貧困と聞くと「たった数百円のナプキンも買えないのか?」という声が必ず聞こえてきて、ナプキンの安さマウントが始まる。

私が以前、「生理用品だけでなく、カイロや鎮痛剤、漢方なども含めると月1000円くらいはかかる」と記事に書いたら「1000円なんて高すぎる」というコメントがあった。それをツイートしたところ「生理に月いくらかかるか論争」が勃発したのだ。

198円から1万円以上と、とにかく幅があったが「1000円で収まるわけがない」という声が圧倒的に多かった。鎮痛剤や通院費、ピルや漢方、貧血の薬など、決して快適さを求めるというレベルではなく、日常生活を正常に送るための範疇で必要なアイテムに、多額の費用がかかるという切実な声が寄せられた。

また「敏感肌で安価なナプキンでは肌がかぶれてしまうため、割高なものを買わざるを得ない」、「経血量が多くて、生理用品も高くつく」という人もいた。経血量が不安定なら、大きさの異なるナプキンを用意する必要もあるだろう。

ほかにも、見えない出費について挙げる人もいた。例えば、トイレットペーパーの消費がどうしても多くなる、食事に気を使ったり、出血で失われる鉄分を補うなど、普段よりセルフケアに費やさねばならない、といったものだ。

生理がある人の中でも認識の差が大きく、ましてや男性からは「そんな出費があるなんて考えもしなかった」という反応があった。

生理用品が買えない、という狭義の生理の貧困から、婦人科を受診できない、鎮痛剤が買えないなどの広義の生理の貧困へと、議論が拡大されていく必要がある。

私にメッセージをくれた友人は、こうも話してくれた。

私が勤めている会社には鎮痛剤が常備されていて、誰にも断りを入れることなく、好きなときに箱から取って服用できるようになっている。薬を買えるお金があっても、鎮痛剤を忘れてしまったときはすごく便利なんだ。

この歳になっても、あまり親しくない人には生理について話しにくいから、誰かに断りを入れる必要がないのも精神的にとてもラクなの。例えば、学校にも生理用品が常備されていたら、入手に困ってる人もそうでない人も、みんなにとって安心材料になるんじゃないかな」

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