性交後72時間以内の服用で予期せぬ妊娠を防ぐ緊急避妊薬(アフターピル)「ノルレボ」について、2025年8月29日厚生労働省の専門部会が市販化を了承した。これにより、医師の処方箋がなくても入手できるようになる見通しである。
市販化後は、薬剤師による対面販売とその場での服用が条件となる。年齢制限や保護者の同意は不要とされ、今後はパブリックコメントを経て正式な制度化に向かう予定である。
緊急避妊薬スイッチOTC化における経緯
緊急避妊薬の市販化(スイッチOTC化)をめぐっては、議論と試行が重ねられてきた。
- 2017年:「時期尚早」とされ見送り。薬剤師の知識や体制整備が課題とされた。
- 2020年:第5次男女共同参画基本計画に「処方箋なしで利用できるよう検討」と明記された。
- 2022~2023年:パブリックコメント実施。約4万6000件の意見が寄せられ、9割以上が賛成や条件付き賛成であった。
- 2023年11月~2024年1月:全国145薬局での試験販売を実施。利用者からは「薬剤師の説明やプライバシー配慮に満足」という声がある一方、「費用が高い」との指摘もあった。
- 2024年秋~2025年初め:調査を拡大(339薬局)。16~19歳の利用も確認され、服用後のフォローアップ体制や妊娠可能性の判断などが課題となった。
- 2025年5月:薬機法改正で「特定要指導医薬品」として対面販売を義務づける仕組みが成立。
- 2025年8月:薬事審議会の部会で正式に市販化が了承された。
国際的な比較と日本の課題
WHO(世界保健機関)は「緊急避妊薬を処方箋なしで購入できるようにすべきである」と強く推奨しており、世界ではすでに80以上の国と地域で処方箋なしで購入できるようになっている。
「妊娠するかもしれない」と不安を抱えたときにすぐに緊急避妊薬にアクセスできるかどうかは、その後の人生を左右する重大な要素である。今回の了承は、日本の遅れをようやく取り戻す一歩となることを願いたい。
緊急避妊薬の市販化における今後の議論について
今回の決定を受け「大きな一歩」と歓迎する声があがっている。一方、薬剤師の対面販売やその場での服用義務について、時間的制約や、販売価格など含めて緊急事態に対応できる状況になるのかなど様々な声が寄せられている。
2020年に設立された市民団体「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表である、ピルコン代表の染矢明日香氏は、今回の了承について以下のように語る。
「ようやくの一歩の背景に、2017年の最初の検討から約9年という長期に渡る議論の間に、どれだけの人が思いがけない妊娠の不安で押しつぶされそうな日々を過ごしてきたのか、避けられた妊娠があったのかを考える必要がある。
国際的なガイドラインでは、面前服用ではなく緊急避妊薬の事前供給も推奨されており、無償提供している国も広がっている。今回をあくまで通過点として、包括的性教育の実現も含め、今後も見直しを求めていきたい」
また同団体では、9月2日付で「緊急避妊薬のスイッチOTC化に関する厚生労働省薬事審議会可決にあたっての声明文」を公開した。
今回の決定は、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)、自身のカラダや人生の決定権を自分自身が持つ権利がいかに大切なことかを社会全体で改めて考える契機となる。
緊急避妊薬は必要とする人が確実にアクセスできるべきものである。今後の市販化に向け、当事者の声や現場の声を取り入れ、医療機関やワンストップ支援センターとの連携など、実際に利用しやすい形に整えていくことが求められている。
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