生理に対する理解を深めたい。

それは、生理がもたらす心身の影響を理解し合うことで、悩んでいる人が少しでも生きやすくなる社会をつくるため。

ここ数年で、生理や更年期など、今まで話すことがタブー視されてきたトピックの体験談が少しずつオープンに語られるようになってきたことは、多くの人が感じていると思います。

そして、この動きは日本に限らず、世界でも同様に起きていることです。

ある日、ランドリーボックス宛てに、生理の理解促進を行う、台湾の団体「Moonteacha」から一通のメールが届きました。

そこには、「生理に関することを発信している海外の団体を取材するために、日本を訪問するので会いませんか?」と書かれていました。

彼らは、台湾で生理の理解を深めるために、ボードゲームや、LINEを通じた生理の交換日記を作り、活動をしています。

私たちにとっても、台湾でどのような取り組みが行われているのかを知る貴重な機会。6月末に東京で意見交換会をしました。

その様子をレポートします。

Moonteachaってどんな団体?

左から、Joyce、Howard、Rina、Anita、Johnson

Moonteachaは、生理にまつわる社会的スティグマを打破し、生理がある全ての人の生活の質を向上させることを目的として設立された、台湾教育省の支援を受けているNGO団体です。

これまでに、全てのジェンダーが生理について自由に話し合えるよう、LINEを通じた交換日記イベントや、ボードゲームを制作し、活動内容の展覧会を開催。

教育省が主催したコンペティションにも参加し、活動が評価され「Outstanding Action Awards」を受賞しました。それにより、今回の東京出張が実現できたとのこと。

ボランティアグループで出会った5人の大学生によって運営されているMoonteachaから、Joyce、 Anita、Rina、Howard、Johnsonが東京に来てくれました。

台湾の生理事情って?

彼らは、台湾における生理の課題の一つに、個人が正しい情報にアクセスできていないことがあると語りました。

生理用品を例に挙げると、台湾の多くの女性は生理ナプキン以外の生理用品の種類について知識が不足しているため、ナプキンを選ぶしかないと思っている人も多いとのことでした。

ですが、一つの疑問が私たちの頭の中をよぎります。

以前、台湾発の漢方のライフスタイルブランド「DAYLILY」さんを取材したときに、台湾では生理について、女性はもちろん、男性もオープンに話すということを聞いていました。

そのため、台湾では生理にまつわる話はもっと活発に行われ、知識も十分なのでは?と思っていたのです。

そう尋ねると、「他の日本の団体とも話していて、台湾はたしかに日本よりスティグマは少ないかもしれません。でも、まだ存在しています」とHoward。

例えば、子どもが生理痛で苦しんでいるときに、病院を探すのはほとんどが母親で、父親が生理の話題を話すことに恥ずかしさを感じている人も多いそう。

また、大学生の彼らからすると、パートナーが生理痛で苦しんでいるときに「どうやって助ければいいのか」などを聞けずに、戸惑う人も少なくないそうでした。

だからこそ、彼らは、性別に関係なく、楽しみながら生理についての相互理解を促すボードゲーム「Share Your Period!(月聊月了解)」を作ったのです。

実際に、彼らのボードゲームを通して、男性が生理についてオープンに話し合っていたケースを多く見かけたのだとか。

Rinaは、「男性は、ただ聞くきっかけや機会がないだけ。だったら、その場所を提供できればいいなと思います」と笑顔で答えてくれました。

Z世代にも広まる漢方

台湾では漢方文化があるとは把握していましたが、Z世代の彼らにとって、漢方という選択肢はどれだけ身近なのかと尋ねてみたところ、台湾では、東洋医学と西洋医学をケースによって使い分けていると教えてくれました。

すぐに治療が必要な場合は医者を頼るものの、長期的な目でみて自分の体質を根本的に改善したい場合は、漢方医局を頼る場合も多く、漢方は台湾では一般的なんだとか。

Anitaも、「中高のときに生理痛がひどかったが、漢方を試してとても効いた経験がある。鎮痛剤のように即効性はないものの、自分の体質を改善するのに役立ちました」と話してくれました。

台湾の性教育はどれくらい進んでいる?

話題は、性教育に移ります。

日本の学校の性教育では、生理について学ぶ際に、男女が分けられて授業を行うケースがほとんど。台湾では、性教育はどのように行われているのでしょうか?

Rinaは、「私の高校では、先生がさまざまな国から男性器の模型をもってきて、それぞれにコンドームをかぶせる練習をしました」と語り、全員から驚きの声が。

他のメンバーも、生理の授業は男女別に分かれていなかったといいます。

先生も、あえて男子に積極的に質問を投げて「どう思う?」とディスカッションに参加してもらうように試みていたとか。

ここで、「十分な性教育を受けたと思う人?」と聞くと、5人中3人が「はい」と回答する結果に。

残りの2人は、このグループに参加するまで知らないこともあったと語り、「生理や更年期などは、生物学的な知識だけで、具体的にどんな症状があるかはきちんと学ばなかった」とJoyce。

担当する先生の熱意によっても授業内容は異なり、また地域によっても学習内容の差はありそうでした。

それにしても、各国の男性器をあつめた先生、すごい!(笑)

生理の理解を深めるボードゲームって?

ディスカッションのあとは、Moonteachaオリジナルのボードゲームを実際に体験してみることに。このゲームの目的は、遊びを通じて生理についてオープンに語り合えるようにすること。

まず、プレイヤーチームと推測チームの2つのグループに分かれ、プレイヤーは「Feeling Card(感情カード)」と呼ばれるイラストが描かれたカードを5枚渡されます。

Feeling Card(感情カード)

次に、ボードゲーム上の「Question Card」と書かれた部分に3枚の「質問カード」を配置。その3枚の「質問カード」の中から、どの質問(お題)をテーマにカードを選ぶかを決めるため、プレイヤーチームが赤・黄・青の色が書かれたカードを1枚引きます。

「質問カード(お題)」と「感情カード」を、書かれている場所にランダムに置いていきます。

赤・黄・青のどの色が選ばれたのかはプレイヤーだけが見ることができ、推測チームはそれを知りません。

さあ、ここからが想像力の勝負です。

例えば、引かれた色が青だとしたら、プレイヤーは青の上にある質問(お題)に最も合いそうなイラストを、自分の手持ちのカードから選び、それを感情カードのエリアにランダムに配置していきます。

推測チームはそのイラストを見た上で、プレイヤーがどの色の質問に対して答えているのかを、自分たちの経験や体験談などを共有しながら推測していきます。

そのとき、生理についてよくわからないことがあるメンバーは、自由に質問できます。

推測後、プレイヤーチームから正解の質問(お題)を発表。推測チームで正解を当てることができた人はポイントを獲得できます。

今度はプレイヤーチームが、それぞれがイラストを選んだ理由を経験談を交えてシェアタイム。

その説明を聞いた推測チームは、誰の説明が一番良かったかを選び、最も得票数が多かった人がポイントを獲得できるというゲームです。

このイラストは、何を表している?

ここで、実際にプレイしたゲームの様子をご紹介します。

みなさんは、これらのイラストがどの「お題」を表しているかわかりますか?

質問カード(お題)は、左から、「鎮痛剤」「夏にナプキンを使うこと」「生理期間の不快感」。全てのイラストは、上記の質問カードの中から同じ1枚を表しています。

それぞれのイラストを見て推測チームのメンバーたちが自身の経験をシェアしながら、3枚のイラストの共通の質問カードはどれなのか考えます。

Anitaは、一番左のイラストを指差し、「生理中、子宮の中で津波が襲っているのかと思うくらい痛い。でも、鎮痛剤を使ったら、落ち着きます。この水はとても穏やかに見えるので、鎮痛剤を表しているのかな」と推測しました。

Rinaは、一番右のイラストを見ながら、「日本を訪れて1日目に、突然生理になったことがあります。そのとき着物を着ていて、帯がとてもきつく感じてつらかったんです。その痛みが、このロケットの勢いみたいだと感じました」と続け「生理期間の不快感」と推測。

このように、みんなの経験談をもとに推測チームがお題を推測していくと、「鎮痛剤」と「生理期間の不快感」の2択で迷いつつ、最終的には「鎮痛剤」を表しているのでは?と推測しました。

はたして正解の質問は….?

実は、「夏にナプキンを使うこと」。

なんと見事、全員不正解という結果に!

「引いたカードの運が悪かったんだ〜」と全員が言い訳タイムに入りました(笑)

左から、Howard、Johnson、YAKOが選んだイラスト

Howard「彼女が、夏の生理はとてもベタベタすると話してくれたことがあります。このキャラクターは、翼があるのに(飛ばずに)地面にくっついているというのは、ベタベタしているからなのかな、と。あと、地面から生えている赤い草の色も生理や、翼の色も夏を表しているように思いました」

Johnson「チョイスがこれしかなかったです(笑)この猫は自分だとして、夏の陽が暑くて不快だと感じているから片側に寄っているんだろうな。だからこのカードを選びました」

YAKO「日本の夏は湿気が多くてムレて、その時期の生理は最悪。だから、このロケットを夏の熱い日差しと捉えて、モンスター?を、逃げたい私と例えて選びました」

笑い合い、ときに共感の声も入りながら、楽しく生理にまつわる体験談を語り合える仕組みに関心しました。

感情カードの一例

興味深いポイントは、これらのイラストは全てAIによって出力されたということ。

生理だから〜というワード選びではなく、「緊張」「コラボレーション」「アスリート」「空」などランダムな言葉を選び「感情カード」を生成していったそう。

なぜ具体的なイラストじゃないのかと尋ねたところ「バラエティを増やしたかったのと、抽象的なイラストにすることによって想像力が働くのではと思った」という答えが返ってきました。

ゲームという遊びを介することで、自分の体験談をシェアしやすい、また聞きやすい環境になっていて、教育機関で取り入れても楽しめそうだなと思いました。

LINEでやりとりする生理の“交換日記”

彼らの他の取り組みには、LINEを通じた交換日記もあります。

Googleフォームで交換日記に参加したい人を募り、日記の交換相手となるペアのマッチングからはじまります。2週間にわたって、月経の知識や生理用品、経験談など、4つのトピックを通して理解を深めていきます。

実際にLINEで送られてくる内容

その後、LINEでのやりとりを通じて、どう思ったかなどのアンケートを収集し、最後にインタビューに協力してくれた人には、今までのやりとりが冊子になって届くのだとか。

参加した人からは「生理に関する誤った知識をアップデートするのにとても役立った」、「疑問に思っていたけど、自分からは聞くきっかけがなかったことをたくさん学べてよかった」、「ペンパルから日記を受け取ることが楽しくて、オンラインだとしても、誰かが直接話しているような感覚で、魂のつながりを感じることができた」という声が届いているそうです。

話しにくい話題を語れるようにするには

最後に、ランドリーボックスでもお悩みが多いセクシャルウェルネスについて、台湾の状況を聞いてみました。

あまりオープンになっていないとのことでしたが、Howardが、「多くの大学生がそのようなトピックを語ることを恥ずかしいと思っているものの、パートナーがリラックスする環境をつくるにはどうすればいいのかなど、信頼している友達と情報を共有したことがあります」と語ってくれました。

みんなが恥ずかしいと思っている中、なぜ自分は聞けたのかを尋ねると「信頼している友人だったので、セーフプレイスだと思いました」と。

そんな、話しにくい話題を語り合える「セーフプレイス」をつくるには、どんな取り組みができるのでしょうか?

オープンに語る上で心理的安全性が必要という点では、生理や性も、根本の問題は同じかもしれません。

オープンにする、しないはその人の自由。

でも伝えたいのに伝えられない、と思っている人のための環境やきっかけを増やしていく。

その選択肢のひとつが、Moonteachaの制作したボードゲームや、交換日記になるのだと思いました。

他国で行われている楽しくシェアし合える方法を知り、とても学びの多い機会となりました。

各国で生理のスティグマを解消しようと活動している「仲間」に出会い、私たちもできることを頑張っていきたいと改めて感じた交換会でした。

Moonteachaのみなさん、ありがとうございました!

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