先日、卵子凍結をしました。
「卵子凍結」とは、将来の妊娠に備えて、また卵子の老化に備えて、未受精卵の状態で保管しておく技術のこと。
一般OLの私がなぜ未婚の状態で「卵子凍結」をしようと思ったか、その経緯や動機については過去の記事をご覧ください。
今回は、卵子凍結の過程で苦労したこと、トータル通院回数、費用など、私の経験を詳らかに公開していきたいと思います。
採卵までの通院期間・回数・トータル費用
- 通院期間:約1カ月間
- 通院回数:6回(+凍結後の事後説明1回)
- 費用:約48万6000円(内6万6000円は採卵時の全身麻酔のオプション料金)
上記以外に今後(凍結1年後以降)かかる費用として、凍結保存料 5万5000円/年
※凍結卵子数:11個(採卵数15個のうち未成熟卵や変性卵4個を除いた個数)
クリニック選びのポイントは?
私の周囲に既婚者で不妊治療中の知人は少なくありませんが、未婚で卵子凍結をしたという人は聞いたことがありません。
クリニック選びは、私と同い年の33歳で、都内の有名な高度不妊治療専門クリニックに通っている友人に相談してみることに。するとその友人が通院時、先生に「未婚の場合の卵子凍結はどこのクリニックがおすすめか」を聞いてくれたのです。
その結果を踏まえ、やはり最初から高度不妊治療専門クリニックで卵子凍結するのが安心で近道だと考えました。将来、凍結した卵子を使う時、それは自然妊娠しなかった場合なので、必然的に不妊治療がともないます。
友人らの話を聞いていてひしひしと感じる不妊治療の難しさは、本当にケースバイケースで、どの手段を取るのが良いかも人それぞれである点です。
高度不妊治療専門クリニックは圧倒的症例数を誇る上、他の一般的な婦人科では妊娠が難しかった人の事例も多数蓄積されているため、“正解”のない不妊治療において、よりそれに近しいデータを持っていると考えました。
さらに、凍結された未受精卵を使っての妊娠事例はまだほとんどないからこそ、いざ自分がそれを使って妊娠にトライする際にやはり高度な技術を持つクリニックで実施したいと考えたのです。
幸いなことに私は都心でアクセスの良い場所に住んでおり、高度不妊治療専門の御三家クリニックと呼ばれているクリニックのいずれも自宅から通いやすい場所にあります。約1カ月間とはいえ、ほぼ毎週通うことになるクリニックなので、自宅から、あるいは職場から通いやすい場所にあるのはありがたかったです。
ちなみに卵子凍結をするのに通院回数が少ないことをウリにしているクリニックもありますが、私個人的にはおすすめしません。
通院のたびに採血、超音波エコー検査があり、子宮内膜の厚さ、凍結できるサイズにまで育っている卵子の数などを測定し、出来るだけ空胞や変形のない卵子を凍結できるように、注射の薬剤などを微調整しコンディションを整える必要があるようです。通院回数が少ないということは、そのケアがそこまで手厚くないのではないかと考えました。
(私の友人で、通院回数が少ないクリニックで採卵した結果、23個育っていた卵子のうち、そのほとんどが空胞で凍結できたのはわずか3個だったという事例もあります。その後、OHSSのため水抜きの手術もしていました)
私の場合、最初は凍結できるサイズの卵子が少なく、採卵に向けて通常のスケジュールより1週間遅らせて開始する少し特殊な方法をとり、不足している男性ホルモンも補いながら進めました。やはりさまざまなデータが蓄積されている高度不妊治療専門クリニックに最初からお願いして良かったと思いました。
結果からお伝えすると、AMH値が平均値より下回っている状態でも、トータル15個を採卵し、そのうち11個を凍結できました。私は複数回にわたる卵子凍結を現時点では考えておらず、1度に10個以上凍結できるといいなと思っていたのでひとまず安心しました。
採卵日までに大変だったこと
まずは通院。事前予約制ながら受付からお会計までは毎回3時間ほどかかります。
さらに、最終的に採卵日が決まるのは卵子の発育状況を見て約1週間前となるため、大体の日程の目処は立てられるものの、時間やスケジュールに融通が利きづらい仕事の方はここがまず大きな関門になるのだろうなと感じました(私はリモートワークなのでその点は両立しやすくありがたかったです)。
そして、なんと言っても毎日の「自己注射」。注射を打つペースは人によって異なるため、必ず毎日とは限りません。私の場合は、12日間連続で毎日注射を打つ必要があり、さらに前半は高刺激の薬剤だったこともあり、注入時の痛みはないものの少し滲みる感覚がありました。
※以下4枚注射器の写真があります。先端恐怖症の方はお気をつけ下さい。
私はピアスの穴を開けることさえ断固拒否派の人間なので、自己注射に対しての不安が最も大きかったのですが、すぐに慣れますし鈍臭い私でもできたので、この点はそこまで心配しなくても大丈夫ではないかと思います。毛穴よりも細く短い針を刺すだけなのでご安心を。
ただ、やはり気分がいいものではなく、慣れるとはいえ毎日のこの作業はどこか気が滅入るものがありました。また、卵子が育っている中、排卵抑制されている状態の後半は、お腹が張っている感覚が出たり気持ち悪くなる人もいるようなので、少し仕事をセーブしたり、上司や同僚に事前に相談したりできると安心かもしれません。
採卵日当日の流れ
私が通っていたクリニックでは料金に局所麻酔代は含まれていたものの、局所麻酔で臨んだ友人から「採卵7個目を超えたあたりから耐え難い激痛で号泣した」と聞いており、ある程度の数の採卵が見込めていた私は追加料金6.6万円を払って「全身麻酔」に切り替えました。
痛みの感覚は個人差があるとは思いますが、10個近くの採卵が見込める場合には全身麻酔を検討してみてもいいかもしれません。私が通ったクリニックでは全身麻酔をあまり推奨しておらず、局所麻酔のみで行うケースが多いようでしたが自己申告により、全身麻酔でお願いしました。
手術室に入るといつの間にか気持ちよく眠っており気がついた時には採卵は無事終了し、待機部屋のベッドの上でした。採卵後は腹部に鈍痛が出やすいので(生理痛に似た痛みで温めるとラクになります)、採卵日当日もできれば仕事は休みにできると安心かと思います。(難しい場合でも、なるべく業務を詰め込みすぎないようにしたほうがいいです)
残念だった点は?
高度不妊治療専門クリニックの良いところばかり挙げてきましたが、残念だった点は、「未婚の卵子凍結患者」であることがクリニック内で共有されておらず、採卵日前にも「ご主人の精子は院内で採取されるか、自宅から持って来られるかどちらにしますか?」など聞かれ、そのたびにいちいち事情を説明しなければならず億劫でした。
自身の事情を極力話したくない人にとってはストレスに感じられるポイントかもしれません。
また、高度不妊治療専門クリニックに最初からアクセスする人は少数派で、不妊治療で通院されている方も近所のクリニックで成果が出なかったなどの理由で転院の末にたどり着かれる方が多数いるようです。そのためもあってか、クリニックの先生たちは基本的な説明を省略しがちなので、気になることがあれば自分からどんどん質問しなければなりません。
私は親身な寄り添いより、圧倒的症例数に基づくデータと技術の高さを何より重視したので致し方なしと受け入れましたが、この辺りは今後未婚の卵子凍結などが広く普及することで整備されていくのかなと期待したいポイントです。
長くなりましたが、私の「卵子凍結」体験記は以上です。採卵までの過程は不妊治療で言うところの「体外受精」と同じ流れを辿ります。そのため、不妊治療の入り口の過程を体験し、その大変さの一端が垣間見えたように思います。
ライフプランの選択肢のひとつに
「卵子凍結」が全ての問題を棚上げにしてくれる訳でもなければ、これで将来安泰ということも全くありません。
自己注射の習慣は大変だし、毎回通院時に卵子の個数や内膜の厚さの数値がフィードバックされるたび、自分ではどうしようもない部分で毎度通知表を受け取るような何とも言えない気分にもなります。
費用も気安く皆に勧められる金額では決してありません。特に高度不妊治療専門クリニックは料金も相応であるため、私のケースは高額なほうだとお考えいただければと思います。ただ先輩いわく、10年前には60万円程度かかるものだったようなので、技術の進歩により確実に安くはなっているようです。ちなみに現在は30万円程度でできるクリニックもあるようです。
この金額を見て、婚活費用に充てた方が良いと思った人は迷わずそうしましょう。卵子凍結のためのローンメニューがカード会社から発表されていますが、私は賛同しかねます。
私も皆さんに卵子凍結を勧めたいのではなく、こんな選択肢もあることを詳細データも開示した上で知っていただき、ライフプランに向き合うきっかけにしてもらえたらと思います。
こんなにお金をかけて、こんなに大変な思いをするくらいなら、婚活頑張ろうと思える人はパートナー探しに今より切実に取り組めるかもしれません。
未来に備えた投資のひとつに「卵子凍結費用」を加味するのもいいかもしれません。ご自身の本音に向き合い、自分の人生や優先順位を見直すきっかけにしてもらえると嬉しいです。
〈卵子凍結〉
卵子凍結とは、将来の体外受精を見据えて未受精卵を凍結する技術のこと。
元々は悪性腫瘍や白血病等で抗がん剤治療や放射線療法を受ける女性患者に対し、治療前に卵子や卵巣を凍結保存しておくことで治療後の生殖能力を維持するために行われてきた。
2012年、凍結融解卵子由来で生まれた子どもに染色体異常、先天異常、および発育障害のリスクが増大することはないという見解を米国生殖医学会が発表。2014年にはFacebookがいち早く女性社員の卵子凍結費用を上限2万ドルまで補助する福利厚生制度を導入し、Apple、Google、Netflix、Uberなど数多くのテクノロジー企業、投資銀行、アメリカ国防総省などでも同様の制度の導入が進んでいる。
米国生殖補助医療学会の統計によると、米国での卵子凍結の症例数は2014年の6,090件から4年間で2018年には13,275件までに急増している。日本でも日本生殖医学会が2013年にガイドラインを発表し、健康な女性が将来の妊娠に備えて卵子凍結を行うことを認めている。
〈AMH検査〉
AMH(抗ミュラー管ホルモン/アンチミューラリアンホルモン)検査とは、卵巣の中に卵子がどれくらい残っているかを調べる(血液)検査。
AMHは、抗ミューラー管ホルモンと呼ばれる⼥性ホルモンの⼀種で、これから育っていく卵胞(発育卵胞、前胞状卵胞)から分泌されるホルモンのこと。
胎生期に卵巣で作られた原子卵胞は、加齢とともに減少し、AMH値も低下していく。AMH値が⾼ければ、これから育つ卵胞が卵巣内に多く残っている状態、値が低いと卵胞が減ってきている状態を指す。AMH検査は⽉経周期や体調などによる変動はなく、将来の妊娠の可否を決めるほどの正確なものではない。