Photo by Netflix Japan

2月27日(木)より、写真家の蜷川実花さんが監督を務めるNetflixオリジナルシリーズ『FOLLOWERS』の配信がスタートしました。

東京を舞台に、20代から50代までの多様性に富んだ女性たちの人生が色鮮やかに描かれる本作。誰のどの言葉が見る人の心に響くのかは、置かれた状況によってそれぞれだと思います。

今回は、『FOLLOWERS』が教えてくれたこと-伊藤ハルカ編-をご紹介します。

「仕事も子どもも100%」なんて甘くない?

夢を掴むために苦しみもがく20代、名声やお金など欲しいものを大体手にした30代、結婚か仕事か最後の選択を迫られる40代に、恋愛に無限の可能性を感じる50代。同じ女性でも価値観や大切なものはまるで違うものです。例えば、中谷美紀演じる主人公のリミ。彼女は東京で活躍する人気写真家で仕事もプライベートも至って順調に見えます。 そんな彼女ですが、唯一叶えられずにいる「子どもを産みたい」という夢を、真剣に考えるようになります。

毎日ひっきりなしに仕事が舞い込むし、働くことはとても楽しい。でも子どもをもつことを諦められない。

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印象的だったのは、1話でのリミのセリフ。「私、決めたの。100%を仕事と子どもで分けるんじゃなくて、仕事も子どもも両方100%。分母を200%に増やすって」。

2人の幼い娘を育てながら働く私は、複雑な思いでリミのこのセリフを聞いていました。

実は、私も次女を出産する前にリミと同じことを夫に宣言していました。「きっと私たちにとって最後の赤ちゃんになるだろうから、思う存分一緒に過ごしたい」、そう思った私は、次女を1歳半まで保育園には入れないことを決意します。

しかし、フリーランスライターなので仕事はもちろん待ったなし。私だってせっかく声をかけて頂いた仕事は絶対に断りたくありません。

出産前の私はまさにリミのように、「育児も仕事もやりたいようにやる!」と無敵の母親状態でした。出産後は、家で次女を転がしながら仕事をすればいいし、打ち合わせや出張には子供を同伴すればいい、やろうと思ったら何だってできる、そう信じて疑わなかったのです。

ところが、実際その生活に入ると目が回るほどの忙しさ。子どもが寝静まった深夜に仕事をすることが多いので、寝不足のあまり体調を崩したり、集中力散漫で初歩的なミスを起こしたりと、ビジネスにおいてはなんとも効率が悪くなっていました。

それは子育ても同じで、過去にコラムで「子どもと一緒にいる時には仕事をしない」と書きましたが、そのルールにたどり着くまでに色々ありました。

私は納期が迫ると鬼と化すので、「ママ〜」と仕事中に話しかけてくる子どもに心底イラついて声を荒げてしまうのです。「なんてだめな母親なんだ…」と落ち込み、涙したことが何度もありました。

両方を手にするはずがどちらも失っているような気がするのはなぜなのだろう。ずっとこんな風に悩んでいました。

だからこそリミの「どっちも100%で分母を200%にする」というセリフに、「かっこいいけど、甘くないか。世の中そんなに簡単ではないよ」とモヤッとしてしまったのです。働くお母さんもそうでないお母さんもみんな死に物狂いで子育てをしています。本当に本当に大変なことだよ?わかってる?と。

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しかし、最終話まで見れば分かるのですが、名声もお金もあるリミの母親街道は決して順風満帆ではありませんでした。どの母親でもぶつかるだろう現実の厳しさにリミもきちんとぶつかるのです。

仕事でも育児でも誰しも「こうありたい」という理想を掲げるもの。でもその理想が高ければ高いほど、うまくいかなかった時のダメージが大きい。

自信満々のリミだって、できるだけ母乳で育てたいとがんじがらめになったり、アンコントローラブルな育児に打ちのめされたりします。もちろん「ベビーシッターに預けて働けばいいのに」という意見もあるでしょう。しかし、自分でどちらも100%にすると掲げた以上、人の手を借りることを許さなかったのだろうと同じく母親である私は推測します。

”最先端をいく女性の生き様を描くドラマ”なイメージが先行しがちな本作。もちろんその部分も含むのですが、社会的に成功し、自由に自分らしく生きる女性でさえ、これでいいのかと悩み、苦しみ、固定概念にがんじがらめになってしまうことってあると思うのです。そこのリアルさがきちんと詰め込まれた、先を行きながらも地に足のついたドラマだと私は思います。

”仕事も子どもも100%”。はじめは違和感を感じたリミのこのセリフですが、ドラマを見終わったあと、私の中で別のものに変わっていました。

母親として世間から厳しい洗礼を受けた時、それに対して怒るのではなく受け入れ、それを教訓として前に進んでいこうとするリミ。「分母2倍宣言」を撤回するのではなく、やり方を変えてそこに向かおうとしたのですね。

そんな彼女の姿を見て、結果としてうまくやれなくてもいいからまずは手にしたいと願い、実行してみることは悪くないと思えたんです。「私は分母を2倍にする」って、あえて宣言してみるのもいいのかも。

結婚してもしなくても、出産してもしなくても。女性の選択肢は無限。

もう1つ注目してほしいのが、女性には多様な生き方があっていいということ。

リミのように未婚のままひとりで子どもを出産する道を選ぶことだってできるし、結婚・出産を選ばずに一人で生きていく道だってもちろんあります。夏木マリさん演じるエリコが年齢差のある男性と恋をするように、歳を重ねても自由に恋愛を楽しむことだってできます。

目の前にはたくさんの選択肢が広がっていて、私たちはどれを選択してもいいはずなのに、社会は私たちを古い慣習に閉じ込めようとする癖があります。いわゆる”普通”と違うことをしたら、普通に戻そうとされてしまう。

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この作品は、そんな窮屈な思いをしている女性たちに向けた蜷川監督からのラブレターのように思いました。「自由に生きていいんだよ、あなたの好きなように!」と。

苦しみながらも夢を叶えたいと手を伸ばすことは、今を生きる私たちに与えられた権利なのです。

こんなに辛い仕事と子育てがやめられないのは、面白くて素敵だから。

最後に私の大好きなセリフを紹介します。それは夏木マリさん演じるエリコの「生きるって最高に面白くて素敵なことよ」の一節。このドラマは置かれた状況によって響くメッセージが人それぞれ違うと思うのですが、私はシンプルにエリコのこのセリフが刺さりました。

仕事も子育てもうまくいかないことばかりで立ち止まりたくなることもある。でもなぜこんなに夢中になれるの?それは私にとって、どちらも「面白くて素敵だから」です。だから苦しくてもやめられなくて手放せない。

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蜷川監督は「大人って面白いのに!」と、以前インタビューで話していました。これまでのドラマで描かれる女性たちは、みんな結婚したくて、いつも悩んでいて。でも大人って楽しくない? 女性って面白くない? それをストレートに伝える作品が作りたかったと。

これには共感しかありません。私は10代より20代、20代より30代の今が俄然楽しいです。時間を積み重ねていくたびに人生が面白くなっていくのです。

今を生きる女性の周りには様々な悩みと不自由さがあると思います。でも目の前に広がる数え切れないくらいの選択肢を捨てるか選ぶかは私たち次第。

様々な捉え方があると思いますが、私にとっては、自分の可能性にワクワクする一作でした。

我が家では、4月から次女が保育園にいくというビッグイベントが控えています。私は、これまでスキマ時間を見つけて仕事をしていたのですが、これを期に実に1年半ぶりにフルタイムワーカーへ復帰します。不安がないと言えば嘘になるけれど、この作品が「はじめから諦めないで、まずは手を伸ばしてみたら?」 と、私の背中をそっと押してくれたような気がします。

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■Netflixオリジナルシリーズ『FOLLOWERS』(フォロワーズ)

Netflixにて全9話世界190ヵ国へ独占配信中。http://netflix.com/followers

監督:蜷川実花

出演:中谷美紀 池田エライザ 夏木マリ 板谷由夏 コムアイ 中島美嘉 / 浅野忠信 上杉柊平 金子ノブアキ 眞島秀和 / 笠松将 ゆうたろう

#FOLLOWERSNetflix

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