生理・更年期・婦人科疾患など、女性特有の身体の症状が原因で、思うようにパフォーマンスを発揮できなかったり、仕事を続けられなくなったりするケースは少なくありません。

経済産業省の推計によると、これを改善することで期待される、日本における経済効果は、年間2兆円にものぼります(2025年時点)。

現状を改善するためには、労働年齢の女性がより働きやすく、また健康不安や課題をサポートする職場作りが欠かせません。

職場の女性が声をあげて改善を求めることも必要ですが、少数派あるいは勤め人の立場で企業を変えることは困難なことが多いものです。

そこで現在、国を挙げて推奨されているのが女性の健康課題に対する会社ぐるみで行うリテラシーアップや環境改善への取り組みです。そのひとつとして、フェムケアを包括する福利厚生制度の導入が注目されています。

今回は、2022年11月20〜22日にかけて開催された第一回Femtech Tokyoに出展された働く年代の女性の健康にインパクトを与える新興サービスを紹介します。

オール年代の職場女性をサポートする健康経営プラットフォーム

繊維会社の豊島株式会社のフェムテックブランド「Hogara」のブースでは、健康管理アプリやデバイスを開発する「MEDITA」がコラボしてスタートした福利厚生プラットフォームサービスが紹介されていました。

まず目にとまったのは「生理用品や薬品が入った大きめのお助け箱」。これはサービスの一部として職場に置き薬的に設置する女性従業員向けの薬品・生理用品などで、Hogaraのカラフルな吸水ショーツも含まれます。急な生理で困ったときや体調が悪いときにすぐアクセスできることで、20代〜閉経期の幅広い年齢の女性をサポートする設備です。

箱の中身は、生理用品だけでなく、生理に伴う便秘や冷えに対処する医薬品や、更年期の不調に寄り添う漢方薬なども揃えている。

また、不調を感じている女性従業員については、より積極的な健康支援としてMEDITAの健康管理アプリやバイタルデータ記録などでログを分析、データをもとに生活習慣の改善や、専門家への健康相談へつなげる二段階の支援になっています。

バイタルデータの取得については現在、スマートウォッチやウェアラブルなどが登場していますが、MEDITAは深部体温を継続計測するウェアラブルデバイスの技術がもっています。このデバイスを使用すると24時間継続して深部対応が測れるため、基礎体温もミスなく測れるなど、女性の健康管理にはとくに役立つデバイスとして普及が期待されます。

ウェアラブル体温計の本体。おへそ付近に装着して使用します。

コラボレーションを企画したのはHogaraの発起人でもある豊島株式会社の大川侑穂さん。少数派である営業部の女性社員のあいだで、ある日、大川さんが「何か私たちのための企画を作ってみたいなあ」と発言したところ「わたしもそう思っていた!」と意気投合して盛り上がり、Hogaraが始動したとのこと。

豊島株式会社 大川侑穂さん。営業職は女性が非常に少なかったこともあり、女性の働きやすさを向上させるために奮闘中。さまざまな企業のためにフェムテックアイテムやサービスを一緒に作る「豊島のフェムテックラボ」も展開中。

「弊社では、サスティナブル素材の衣料や吸水ショーツなどを発売してきていますが、弊社だけでできることは繊維や衣料に関わることになります。もっと働く女性に貢献することにチャレンジしてみたいとフェムテックについて調査するうち、MEDITAさんの取り組みに共感し、一緒になにかできないかとアプローチさせていただき、今回のプロジェクトが生まれました」

自立して活躍している働く女性に共感し、尊敬しているという大川さん、このシステムはこれから、豊島が営業窓口となって企業導入を進めていく予定だそうです。

学ぶ+24時間相談で働く女性の健康サポート

女性の身体は年代やライフステージによって大きく変化します。仕事と体調管理のバランスを崩したのが原因で、昇進の辞退や退職を選ぶ女性も少なくありません。男女問わず、お互いの身体の変化について理解しあうことが必要です。

しかし、従業員はもちろん、経営側や管理職にこれらを学ぶ機会がないということも大きな課題です。

産業医の派遣も行う人材派遣業のパソナでは、健康経営支援の一環として、社員全員が学び、世代別の課題に対応できる「女性の健康講座」、女性特有の健康課題や小児科の専門医が24時間対応する「オンライン相談窓口」の提供を開始しました。

その名は、女性の健康サポートプログラム「Kira+sup(キラサポ)」です。

「女性の健康講座」はビデオオンデマンド形式で、NHK「あさイチ」などのメディア出演もされている産婦人科医の高尾美穂さんが講師となり、30分×5本のテーマで講座を行います。

リテラシー差もあるため、女性従業員向けと管理職向け(特に男性を意識)動画があるほか、視聴状況チェックやアンケートによる効果検証が同時に行えるシステムもまとめて提供しているとのこと。

また、「オンライン相談窓口」は、派遣登録をしている産業医を抱えるパソナならでは。医師が直接、しかも365日24時間対応できる相談窓口が企業向けに提供できるのは珍しいといいます。

相談者は、女性特有の健康課題、育児や出産の悩み、妊娠中の不安などを、産婦人科・小児科医、助産婦から悩みに応じてアドバイスを受けることができます。

Kira+supのサービス構成(パソナのHPより)

企業の人材を資本ととらえ、従業員の健康に配慮する健康経営は、生産性、企業価値などを高める経営手法として経産省も推奨しています。フェムケアのキラサポはその一環となることから、健康経営に乗り出している大企業で、積極的に導入され始めているそう。

従業員にとっては24時間オンライン相談ができること、さらには育児や子どもの健康の悩みにも、それぞれの疾患に詳しい医師に相談できるとあって、働きやすさにつながりそうな支援システム。すでに導入実績が数十社あるそうです。

日本初のフェムテック福利厚生プラットフォーム

株式会社nanoniが提供する、女性特有の健康課題にアプローチする「carefull」は、代表取締役の張聖さん自身の経験と思いから立ち上げた福利厚生代行サービス。

2020年に構想がスタートし、「carefullクラウドサービス」として提供を始めたのが2021年10月です。

女性のキャリアとライフステージ上に想定する、月経、PMS、婦人科疾患、妊活、不妊、産後、育児、更年期といった身体の悩みに対し、連携する12のサービスへ繋ぐことで、スムーズにさまざまなケア体制の仲介を担います。

carefullの入会自体は企業あたりの年間契約で15万円〜と低価格で、従業員1人あたりで数百円程度(月額)でサービスを提供しているそう。

基本サービスでは月1回のセミナーやeラーニング、従業員特典、匿名相談コミュニティが提供されますが、個々の診断や処方が必要となった場合は、従業員が特典などを活用しながら個別にサービスを利用して料金を支払うシステム。

Carefullの対応する連携サービスの範囲(パンフレットより)

企業側は男女ともに従業員が働きやすい環境づくりや、健康リテラシーのアップが見込め、フェムテッック、フェムケアの導入工数がまるっと専門業者に委託できるメリットが大きいと言えます。

また従業員は、オンライン診断、婦人科の各種検診をはじめ、ホルモン検査や精液検査、卵子凍結、更年期相談など、信用できる高度医療サービスにアクセスするための情報収集にかかる手間を解消できるメリットがあります。

先ほど紹介したパソナが大企業向けなのに対し、carefullは中小企業でも気軽に導入できそうなリーズナブルさも魅力に感じました。

女性特有の身体的問題を個人の努力や我慢に任せていいの?

本文では取り上げていませんが、今回出展されていた団体の中に、女性学生アスリートのための活動「1252プロジェクト」があり、「1252とは?」とたずねました。ご存じの方の多いかもしれませんが、「女性は1年間52週のうち12週は生理期間である」ということだそう。

あらためて、生理に影響される日が多すぎる!と感じました。月経にともなう体調の問題、妊娠あるいは不妊、妊娠、出産、育児による精神的な不調、婦人科疾患、更年期など、“産む機能”が割り当てられた性別では、10歳頃から何十年間も女性特有の問題・不安がつきまといます。

その問題を個人の努力や我慢にまかせて、組織や社会が取り組んでこなかったことは、今まさに日本の出生率減少問題に繋がっていると思います。

女性の問題を個人の問題にしない、そのために取り組める手立てとして福利厚生を充実させることは、どんな規模の企業にとっても必須なのではないかと感じました。

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