フェムテック企業の多くは、セクシュアル・ウェルネス(性にまつわる健康)が人々にとって重要な権利であることを主張しています。
しかし、さまざまな理由でその権利を手に入れられていない人々がいるのが現状です。
障害のある人たちのセクシャルウェルネスもそのうちのひとつ。日本のある調査では、「セルフプレジャーの経験がある」と答えた成人女性は約60%に対して、障害のある成人女性は約38%。また、「していないけどしたい」と答えた人は約20%という結果に。(※)
(※)出典:NHK『バリバラ』女性障害者の体と性のなやみ
今回は、セクシュアル・ウェルネスを全ての人に開かれたものにするため、障害のある人たちにも使いやすいプロダクトを提供する企業を紹介します。
障害のある当事者が立ち上げたセックストイ企業
性的欲求の有無や多い少ないは人それぞれですが、障害のある人の性的欲求は不可視にされがちです。
理由としては、エイブリズム(非障害者優先主義)とも言われる偏見があるためです。例えば、保護や庇護の対象として見ることで欲望を持つ一人の人間として見られにくいこと、被害に遭うリスクが高いため性的主体性を認められにくいという点があります。
近年、そのような抑圧を打破するイノベーションが障害のある当事者によって生み出されています。
Bump’n
障害のある当事者と、そのきょうだいが二人で立ち上げたセックストイ企業「Bump’n」。こちらの企業は身体障害者の50%以上が、自力で性的快感を得ることに苦労している点に着目し、課題解決のための製品開発を行っています。
脳性まひがある車いすユーザーのAndrew Gurza氏は、障害に関するコンサルタントや活動家として活躍していました。
ある日、起業検討中だったきょうだいのHeather Morrison氏に、世の中には何十万種類もセックストイがあるが、障害のある人にとって使いやすいものがないことを相談したことが「Bump’n」が生まれるきっかけとなりました。
広告や新規事業のストラテジストとしての経験があるMorrison氏が、セックストイのデザインを研究するロイヤルメルボルン工科大学Judith Glover博士に相談し、産学連携の共創を経て「Bump’n」ブランドが完成。
参考:Pleasure Within Reach_ Heather Morrison, Co-Founder of Handi (Taboo Tech Stories)
Bump’nのジョイスティックという画期的なセックストイの開発チームは、障害者コミュニティ、作業療法士、デザイン、セクシュアル・ウェルネスの専門家のチームで構成されています。
ジョイスティックは約3フィート(1メートル)ある抱き枕のような形状で、手の動きに制限がある人にとって細かな操作が必要なく、開封しやすく衛生管理もしやすいように作られています。
Cute Little Fuckers
Cute Little Fuckersは、創設者のStep氏が神経疾患で視力や手の機能が衰え、仕事を退職せざるを得ない状況から一念発起して立ち上げたブランドです。
Step氏はノンバイナリーであることを公言しており、特定の性別に限定せず、障害や慢性疾患のある人にも使いやすいセックストイ作りを目指しています。
クラウドファウンディングサイト「Kickstarter」で目標の3倍の支援を達成しています。
SRHRと障害を語る女性
女性がSRHR(セクシュアルリプロダクティブヘルスアンドライツ)について語ることは、依然としてリスクがあります。本人にとって切実な問題でも「性」に関連するため、興味本位で消費されてしまう可能性があるからです。
それでも語られないままでは問題がないことにされ、当事者がスティグマ(不名誉な烙印)を内面化し、自分の「性」と向き合えず、次世代にも負の連鎖が続いていきます。
そんな複雑な状況にありながらも、障害当事者として女性としてSRHRについて発信し、課題解決に取り組む人たちがいます。
Hot Octopuss
イギリスのSex techブランドのHot Octopussのクリエイティブ責任者Kelly Gordon氏は、脊髄性筋萎縮症で車いすユーザーである自身の立場から積極的にソーシャルメディアで発信し、性と障害にまつわるアドバイザーとしてPR活動や事業計画と製品開発に携わっています。
Liberare
2022年秋、障害のある女性がセクシーでありながら快適に身につけられるランジェリーのブランドLiberareは、生理の偏見をなくす活動をしている社会起業家Nadya OkamotoのブランドAugustとコラボして「生理と障害」について語ろうと呼びかけました。
Liberareは、着脱しやすいアダプティブ・ウェア(Adaptive Wear)でありながら、自己表現ができるランジェリーです。身体障害のあるモデルを積極的に起用し、コミュニティーの活性化を図っています。
セクシュアル・ウェルネスの未来
障害と性にまつわる海外の動きは、タブー視せずオープンに語る文化によって発展していると考えられます。
誰もが性についてオープンに語りたいとは限りませんが、明確な課題があるにもかかわらず語られないままであることは健全ではありません。
そして、操作性や衛生管理など、機能としても使い勝手の良いデザインが重要な役割を担っていることがわかります。
スティグマをなくすため人々を鼓舞する思想と、これまでのデザインの過程で排除されてきた人を取り残さず参加を促す「インクルーシブ・デザイン」がこれまで紹介した企業には備わっています。
内閣府の令和4年版「障害者白書」によると日本国内で身体障害、知的障害、精神障害を持つ人の割合は、7.6%とされています。日本のセクシュアル・ウェルネス分野の包括的な取り組みに期待したいところです。