SNSなどの多様な情報から誤った学習をしてしまうことも多い性知識。他者や社会と比較して、悩みを解決しようとするのではなく、2人にとっての正しい解決方法を知ることが大切だと、性教育者のエミリー・ナゴスキーさんは言います。

ニューヨークタイムズベストセラー「Come As You Are」著者、性にまつわるTEDトークの再生数が数百万回を誇るエミリーナゴスキーさんが、パートナーと意識のギャップを埋めるための質問方法、そして、「セックスレス」に対する考えを教えてくれました。

インタビュー前編はこちらよりご覧ください。
世界28カ国で翻訳、性の実用書「Come As You Are」は生徒の言葉から生まれた。性教育者 エミリー・ナゴスキー インタビュー

セックスカウンセリングは、安心して話し合い、傷つかずに聞く方法を学ぶ場所

Misa:日本ではカップルカウンセリングに行くことに抵抗を感じる人も多いです。外部の専門家からサポートを受けることのメリットは何だと思いますか?

Emily:カップルが悩んでいるなら、ぜひ専門家のサポートを受けることをお勧めします。

だって、私たちのほとんどは、他者と性についてどうコミュニケーションを取るかなんて学んだことがないですよね? 

私は専門的な学位を取っているのでできるけれど、そういった正式なトレーニングがなければ、どうやって話すのかわからなくて当然です。

だからこそ、専門家に相談して学ぶべきなんです。カップルセラピストとのセッションは、互いにジャッジされる心配はなく話し合い、パートナーの言葉を傷つかずに聞くための方法を学ぶものです。

パートナーとのギャップを埋めるための効果的な質問とは?

Misa:『Come As You Are』では、コンテクスト(関係性)の重要性が書かれています。

例えば、セックスレスなどの問題を解決したいと思っているパートナーがいる一方で、もう一人のパートナーがその問題に取り組むことに抵抗を感じている場合、どのようなコミュニケーションがそのギャップを埋める助けになるでしょうか?

Emly:それは、私の新刊である『Come Together』にも書いてあるんですが、変化の理論として知られている「トランスセオレティカルモデル(行動変容段階モデル)」について述べさせてもらいます。

この理論では、変化にはいくつかの段階があり、最初は「前熟考段階」です。これは、問題について考えていない段階のことです。

もしあなたのパートナーがこの「前熟考段階」にいて、問題についてまだ考えていない場合、いきなり「この問題について話そう」と言っても、壁を作って「嫌だ、話したくない」となってしまいますよね。

パートナーがその問題について考えているかどうかによって、アプローチの方法が異なります。

「どうやってパートナーを巻き込むか」を説明していきます。

①パートナーがまだ何も考えていない場合

もしパートナーがまだ何も考えてなくて、何か変えたいとも思っていない場合、パートナーに変化のメリットを考えてもらう質問をするのが良いです。

相手に少しでも変化について考えさせるようにするんです。

「私たちが性について話し合うことで、どんな良いことがあると思う?」

「お互いの性についてもっと話しやすくなることで、どんな良いことがあるかな?」といった質問です。

または、例えば「もし魔法の杖を振って今すぐ変化が起きるとしたら、どんな変化が欲しい?」というような、どんな変化が人生を良くするかを尋ねるのも良い方法です。

こうした質問で、変化のメリットについて考えてもらうことができます。

多くの場合、パートナーが求める変化は、「ストレスを軽減したい」「家事や育児の負担を減らしたい」など、性に直接関係のないことかもしれません。

でも、セクシュアルウェルネスに最も影響を与えるのは全体的な健康なんです。

②パートナーが変化について考えていない場合

もしパートナーが変化について考えていない場合、変化のメリットについて考えさせたり、現状が続くとおこるデメリットを強調する質問が効果的です。

例えば、「私たちの性的なつながりに関して、嫌だったこととか、問題があったら教えて?」と聞いてみると、パートナーが話しやすくなるかもしれません。

私の好きな質問のひとつは、「もしこのまま変化を起こさなかったら、どうなると思う?」というものです。

現状を維持することのデメリットを明確にする質問で、「このままだと、次はどうなるかな?この問題が続くと、どんな結果になると思う?」といった問いかけです。

③パートナーが変化について考えはじめている場合

一方、パートナーが変化について考え始めている場合には、意図的な変化を促す質問をします。

例えば、「私たちの性生活に変化をもたらすことは、どれくらい重要だと思う?」「私たちが試してみたいことは何?」「絶対にやりたくないことは何?」といった質問です。

何ができないかをはっきりさせると、実際に試すことができるアイデアをクリアにする助けになります。

また、「もし何か新しいことを始めるとしたら、どんなことが良いと思う?」という仮定の質問をするのも良いです。

まだ変化を始める準備ができていない段階では、無理に変化を押し付けないようにします。

変化を実行するわけではなく、その話をすることに許可を与えるだけです。「どんな行動が考えられるか、話してみようよ」といった感じですね。

セックスレスというラベルはいらない。それは「今起きていること」にすぎない

Misa:日本は「セックスレス大国」とも言われますが、『Come Together』では、セックスレスについて自身のご経験にも触れられています。「セックスレス」という言葉について、どう感じますか? 

Emily:「セックスレス」というラベルを貼ると、私にはそれがまるで希望のないもののように感じます。

例えば、カップルが自らの選択でセックスレスである場合、それは素晴らしいことです。彼らにとってそれがうまくいっているのなら、それでいいと思います。

でも、もしカップルが「セックスは2人の関係にとって価値あるもの」と感じていて、それでもうまくいかない、再びつながる方法が見つからないのであれば、それを「セックスレス」とは呼びたくありません。

アメリカでは、「欲望が低い」や「欲望が無い」「頻度が少ない」や「無頻度」といった言葉を使って、現状を説明する言葉を使いますが、それを状態や恒久的なものとして捉えるわけではありません。

それはあくまで「今起きていること」に過ぎません。

例えば、オーガズムを経験しない人についても、ただ「無オーガズム症」と言うわけではなく、例えば「一次無オーガズム症」と言って、これは生まれてから一度もオーガズムを経験していないことを意味します。

今セックスをしていないからといって、これからもずっとできないというわけではありません。

カップルにはできることがたくさんあります。何十年もセックスをしていなかったカップルでも、彼らに合ったセラピストを見つければ、性生活を再び取り戻すことだってできるんです。

私が最初に担当したカップルは60代後半の方々で、何十年もセックスをしていませんでした。セックスセラピーでは、よく宿題が出されるのですが、最初のうちは、お互いの身体をさわって興奮させないように指示されることが多いんです。

で、最初の週に「お互いを興奮させないでくださいね」と言った途端に、その週に2回もセックスをしたんです!

Misa:ええ!すごいですね。

Emily:セックスセラピーはとても効果的です。人々にこれまでとは違うルールを試し、探求するためのコンテクストを提供するんです。

ですから、セックスレスというのは関係している人々に問題があるのではなく、彼らが陥ったルールやパターンに問題があるのだと思います。

必要なのは「私たちにとってうまくいく、他のルールは何だろう?」と考えることです。

なぜなら、他人が私たちに「どうあるべきか」「何をすべきか」という意見は、私たちには合っていないからです。

ですから、私たちに合った新しいルールを見つけましょう。

自分の性器は敵だと思っていた。

Misa:私たちの性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」は、女性器の構造を学ぶためにデザインしています。構造を理解し、それについて話すことは大事だと思いますか?それらはコミュニケーション向上につながると思いますか?

Emily:とてもそう思います!『Come As You Are』の最初の章が解剖学の章になっているのは、そのためです。

アメリカにも、ヴァルバパペットがあって、私はVulvaパペットを最低3つは持っています(笑)大好きなんです。

セラピストたちは、性の悩みを抱えた女性たちと話す際に、パペットを使います。

これらのパペットは魅力的で、全然怖さを感じません。パペットを手に取ったときに涙を流す女性も多く、パペット自体が、自分自身の体に優しく、対立せずに向き合う方法となるんです。

涙する理由としては、このかわいらしいパペットには愛情を感じることができるのに、自分の体にまだ愛情を感じられていないということもあります。

これは特に性暴力や虐待の被害者にとって、自分の体とのつながりを取り戻すための、美しく優しい方法です。

性暴力の経験は、その部位に対して恥ずかしさを感じるだけでなく、恐怖心を植え付けてしまいます。だからこそ、かわいらしく魅力的なパペットが、優しさと共感を持って自分の体を探求し、学ぶ方法としてとても強力なんです。

個人的には、誰でもできることとして、鏡を持って自分の性器を見てみることをおすすめします。

私が性教育者としてトレーニングを受けた最初の宿題のひとつです。

1995年、私は18歳。メイク用のコンパクトミラーを使って、ズボンを脱いで自分の性器を見ました。そして、涙が出たんです。

はじめて自分の性器を見た瞬間、それが体の普通の一部であることに気づいたからです。鏡を取り出してズボンを脱ぐときは、「敵と対峙するような感覚」があったんです。

でも、その感覚はどこで学んだんだろう? 両親は私の体について何か悪いことを言ったことはないし、性に関してとてもニュートラルな家庭で育ちました。

じゃあ、なんで自分の性器を私は「敵」と感じたのでしょう? でも、見た瞬間に「これは、私の体の友達だ」と思ったんです。

足の裏や肘の内側と同じように、これは私の体の一部で、普通で健康なものだ、と。普段あまり見ることがないからといって、価値がないわけではありません。

私は、自分の性器を直接見ることで、愛情のこもった関係を築くことができました。でも、まだそれができる準備が整っていない人もいるでしょうし、パペットは素晴らしい代替手段だと思います。

実際の外陰部を使って性教育をする場所はほとんどありませんし、特に生身の人間でのデモンストレーションは難しいです。

でも、パペットならどこにでも持ち運べますよね。

パペットなら若者たちの前でも見せることができ、先生が性的に露骨なことをしているとはみなされません。なぜなら、それは人形ですからね!

Misa:実は、Ba-Vulvaはクリトリスを取り出すこともできます。Ba-Vulvaも仲間入りさせてください!

Emily:わあ!!アメリカのヴァルバパペットには、クリトリスの内部構造が全部は含まれていません。すごい、すごい!ぜひ!本当に嬉しいです!

クリトリス全体の構造を理解するのはすごく重要なんです。女性の性的な反応やオーガズムのメカニズムを説明するのに欠かせません。

1995年に聞かれた質問が、2024年にもまだ聞かれてるくらい、みなさんとても混乱しているんです。

「なんで私はセックスでオーガズムを得られないの?」という質問をよく聞かれますが、その答えはすべてクリトリスの構造に関するものです。

それをパペットで説明できることはすごく助けになります。

<プロフィール>

性教育者
エミリー・ナゴスキー

本書『私たちのセクシュアル・ウェルネス(原題:Come As You Are)』はニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーとなり、TEDトークの再生数は数百万回を誇る。Netflixのドキュメンタリー・シリーズ『快楽の原則』にも出演。キャリアの始まりは、デラウェア大学在学中にボランティアとして学生たちに健康、とくに性についてのアドバイザーとなる訓練を受けたことだった。大学卒業後はインディアナ大学大学院でカウンセリング学の修士号と健康行動学の博士号を取得。同大学キンゼイ研究所で研修を受けたのち、スミス・カレッジで8年にわたって教鞭を執った。現在は執筆と講演活動を中心に活動。漫画家の夫と2匹の犬、2匹の猫とともにマサチューセッツ州西部に暮らす。

本記事はランドリーボックスが制作している性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」の公式サイトの記事を一部編集の上、転載しています。

https://laundrybox.co.jp/Ba-Vulva/EmilyNagoski_interview2

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