「養子縁組」という制度について、なんとなく言葉を聞いたことはあっても、詳しく知らない人が多いかもしれません。
養子縁組とは、血縁関係にない人同士が法律上の親子関係を結ぶための制度です。その中でも、実親との親子関係を継続させたまま養親とも親子関係をつくる「普通養子縁組」と、⼦どもが⼾籍上も実親との親⼦関係を断ち切り、養親が養⼦を実⼦と同じ扱いにする「特別養子縁組」の2種類があります。
この記事では、特別養子縁組について説明します。
生後5日の赤ちゃんを特別養子縁組で迎えてもうすぐ3年になる池田麻里奈さんに、養親になる条件や費用、生みの親との関係性などの疑問に答えてもらいました。
答えてくれた人
池田麻里奈 さん
28歳で結婚し、30歳から10年以上、不妊治療に取り組む。人工授精、体外受精、2度の流産・死産を経験。子宮腺筋症で子宮全摘出後「それでもやっぱり育てたい」という自らの思いを確信し、特別養子縁組を決意。44歳のとき、0歳の息子を迎える。現在は、不妊ピア・カウンセラー。「コウノトリこころの相談室」主宰。
コウノトリこころの相談室 – 妊活・流死産・特別養子縁組のピアカウンセリング
ー特別養子縁組とは、どのような制度ですか?普通養子縁組や里親とはどのように違うのですか?
ひとことでいうと、「子どもが安心して家庭を得て暮らすために作られた子どものための制度」です。
その中で、特別養子縁組の1番の特徴は実親との親子関係が解消されるため、新しい親子の関係を安定させることができ、永続的に子どもの福祉を守ります。
一方で里親は、生みの親の代わりに一定期間、家庭内で子どもを預かって養育する制度です。里親は国から養育費が支給される点も、養子縁組との大きな違いです。期間は短期も長期もあり、子どもの年齢は18歳までです。
普通養子縁組は家の相続を継ぐための制度で、実親との関係も継続します。里親の年齢制限は65歳以下です。私の場合はこれからも里親になるチャンスはあると思い、限られた時期しか検討できない特別養子縁組を最初に考えました。
法律上の制度は違いますが、里親や養子縁組のどの制度も養育者は「親」だと思いますし、そのつもりで育てていると私は思います。
特別養子縁組の条件は?
ー特別養子縁組の養親になるにはどんな条件がありますか?
法律上の条件は、「原則として25歳以上の夫婦(ただし、一方が25歳以上であれば、一方は20歳以上でもいい)」です。
事実婚や同性カップルでは現在の日本の法律では養親にはなれません。
そのほかの条件として、経済的に安定しているかや、子どもとの年齢差が45歳以内という年齢差の条件を設けている民間のあっせん団体も多くあります。
ー池田さんが特別養子縁組を検討しはじめた理由を教えてください
不妊治療をしても子どもが授からず、もう1つの選択肢として養子は考えてませんか?と問われたことがきっかけです。当時は日本にこの制度があることすら知りませんでした。
養子を迎えるまでの流れ
ーどんな流れで養親になりましたか?
児童相談所に問い合わせをして、養子縁組の登録のための里親研修を受けました。
その最中に民間のあっせん団体の説明会に行き、申し込み、研修、家庭訪問を経て登録。その後、待機となり子どもの委託がありました。それから、家庭裁判所に特別養子縁組の申し立てをして、審判が確定し戸籍上も家族となりました。
ー子どもを迎えるまで、どれくらいの時間がかかるのでしょうか?
養親候補者として申し込むと、研修や家庭訪問、資料の提出を経て登録に進みます。登録後は待機家庭となり子どもの委託を待ちますが、この期間はさまざまで数週間後の場合もあれば、半年、1年の場合もあります。私の場合は申し込みから3カ月ほどで委託の連絡がありました。
待機期間や、待機家庭の数など、養親希望者は気になるところだと思います。その疑問を質問できる機会が説明会なので、疑問があれば団体や児童相談所に遠慮なく聞いてみてほしいです。
かかる費用は?仕事はどうする?
ー養親になる際に費用はかかるのですか?あるいは補助金などはもらえるのでしょうか?
行政と民間で違います。行政の窓口である児童相談所では費用はかかりません。民間団体は手数料がかかります。金額はさまざまですが、手数料というのは、私の場合は交通費・書類作成費などの納得できる金額です。
養親へ助成金のある自治体もあるので、認知が広がってほしいと思います。
ー夫婦共働きの場合、子どもを迎えるために仕事をやめる必要はありますか?
育休を取得できる企業もあります。子どもの委託は話が急に進むことも多いので、職場に養子縁組の登録を進めている状況をあらかじめ伝えている人もいます。毎日出勤する仕事の人は、ご自分が出産したとき時のことを想像すると良いと思います。
私は、自営業ですのでおんぶして仕事をしたり、ベビーシッターなどを利用して乗り切りましたが、メインで子どもの世話をする人は必要だと思います。委託後はガラッと生活が変わり、子どものことで頭がいっぱいだったというのが私の経験で感じたことです。
迎える子どもは選べるか?
ー迎える子どもの希望(年齢、性別)は出せますか?
養親側が子どもを選ぶことはできません。「条件付きの愛情」ではなく、どんな子でも受け入れる覚悟は問われました。
ー子どもが障がい・反抗期などで育てにくいことを考えたときに、迷いはありませんでしたか?
子どもの障がいは自分が産んでもその可能性はあるので、誰にも選べないと思います。どんな子どもでも反抗期はあるでしょうし、そのときどきで親は悩むでしょう。血縁の有無だけでは言い切れず、私はこれからの人生の時間を、子どもの悩みに使えることを幸せだと思いました。
血縁がないことで子どもが思い悩むことはあると思います。しかし、それも成長の過程で起こることですし、自然な反応だと研修を受ける中で理解していきました。血縁がない親子関係に将来の不安はありましたが、子どもが超えていく課題を隣でサポートする人になれたらいいなという気持ちに変わっていきました。
ー夫婦で決断するにあたり、話し合いのポイントはありますか?
どうして養子を迎えたいのか、自分の気持ちを整理して相手に伝えることです。
ー民間のあっせん団体の選び方は?
私の場合は、どんな信念があって活動されているのかを説明会のときに聞き、心に響いたので決めました。委託後のアフターフォローや勉強会があったことも重要ポイントでした。
子どもには養子であることを伝えなければいけない
ー子どもには養子であることを伝えますか?
子どもは出自を知る権利があります。大人が出自を知らせることを「真実告知」と言い、特別養子縁組を行う際の条件になっています。私の場合は、0歳で委託されてから事あるごとに自然に伝えています。
ー養子であることを子どもにどう伝えていますか?
「パパとママの家に来てくれてありがとう。すごく嬉しいよ。今日も元気でありがとう、大好きだよ、おやすみ」と伝えるのが、寝る前のお決まりトークになっています。
生みの親との関係性
ー生みの親の情報を養親は知ることができますか?
母子手帳は引き継ぎますし団体の書類には名前や住所が記載されています。審判確定後に裁判所の調査票を閲覧できるので、親子関係を解消するにあたりどんな事情があったのかを読むことができます。
また、私は団体を通じて、生みの親が相談した当時の様子も教えてもらいました。
ー生みの親と対面しましたか?
対面するケースもありますが、私たちは対面しませんでした。全員で記念写真を撮る家族もいるようで、素敵だなと思います。
ー委託後に生みの親から「子どもを返してほしい」と言われることはありますか?
裁判所の「特別養子縁組届け」に生みの親(実母)が同意する前後によって異なります。同意前は、生みの親の心変わりを翻意(ほんい)といい、子どもは生みの親の元、もしくは児童養護施設に戻ります。同意後は翻意があっても撤回ができません。
委託中、養親のもとで数カ月愛着を形成し慣れてきたところで養育者が変わると、子どもの環境が安定しません。そのため団体では、実親から相談されたとき、子育てできるあらゆる方法を考え、最後の手段として養子という選択肢を提案すると聞いてます。できるだけ生みの親が納得して子どもを送り出せるよう、話を聞くことが大切だと思います。
【12月3日(金)イベント】先輩教えてください!特別養子縁組ってどういうものなの?
ランドリーボックスでコラム連載もいただいている池田麻里奈さんをゲストに迎え、特別養子縁組をテーマに有料ウェビナーを開催します。
<配信日>
2021年12月3日(金)20時00分〜21時30分 (時間が前後する場合があります)
<出演者>
池田麻里奈(「コウノトリこころの相談室」主宰)
西本美沙(ランドリーボックス代表)
<お話しする内容>
- 養子縁組の基礎知識・条件・ステップ
- 養子縁組をする上での心構え
上記以外にも、皆さまから事前にいただいた質問やお悩みにも答えていきます。
詳細はこちらをご覧ください。