トランスジェンダーの杉山文野さん、本当に嫌だった「生理」の記憶

「初めての生理で血を見たときに、自分の体が女なのだという事実を突きつけられショックだった」

2020年05月16日Emi Kawasaki
2020年05月16日
Emi Kawasaki

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  • ボクとわたしの生理

    生理の思い出

    トランスジェンダーと生理

    LGBTQ

    IUS(ミレーナ)


    生理は女性特有のもの。そう思っている人がほとんどではないだろうか。

    でも生理があるのは、女性だけとは限らない。FtMのトランスジェンダーは、心は男性だが身体的な仕組みが女性のため、毎月生理がやってくる。

    トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性別(戸籍に記載された性別)とは異なる性別と感じている人たちのこと。

    トランスジェンダーで東京レインボープライド共同代表理事の杉山文野さんは「まさか自分が、生理について取材を受けることになるとは思いませんでした」と笑う。僕にお役に立てることがあるなら、と取材に応じてくれた。

    生理と向き合った過去の記憶、いま思うことを杉山さんに聞いた。
     

    「いつか男性器が生えてくる」希望を失った、初めての生理

    杉山:初めて生理がきたのは小学生の終わり頃でした。周りでは、もう生理がきている子もいれば、まだきていない子もいる状態で、なんとなく周囲もざわざわしていました。

    自分の体に違和感をもちながら過ごした幼少期。誰も教えてはくれないけれど、いつかおちんちんが生えてくるんじゃないかって思っていたんです。

    だから初めての生理で血を見たときに、自分の体が女なのだという事実を突きつけられてショックでした。その瞬間、「おちんちんはもう生えてこないんだ」と悟ったんです。

    生理がきたことは誰にも言いたくなかったし、バレたくなかった。でも生理用品を自分で買いに行くことは苦痛すぎてできなかったので、母親に伝えて買ってきてもらいました。「お赤飯炊くのだけは勘弁してくれ」と話したのを覚えています。 

    当時は、生理用ショーツといえばピンクだったり可愛らしい柄だったり、いかにも女の子向けのデザインのものしか売っていなくて、それを履かなければならないことが本当に苦痛でしたね。

    もし誰かにこんなもの履いている姿を見られたら「もう生きていけない」と思いました。

    でも血が漏れちゃうのは困るし、仕方なく、自分のアイデンティティにそぐわない可愛らしいショーツを履き、それを隠すために紺パンを重ね履きしていました。

    女性なら多分わかると思いますが、生理のときはただでさえ蒸れるのに、重ね履きをすることで、余計に蒸れて……不快感しかなかったです。

    なんだか思い出せば思い出すほど、つらくなってきます……。 
     

    生理中は、自分が存在していたくなかった

     中学からは女子校に通っていました。女子しかいないので、みんな生理に関する会話は普通に飛び交っていました。それでも僕は絶対に、生理の話題は口にしなかった。トイレに生理ナプキンのポーチを持っていくことも嫌でした。

    水泳の授業を休むと、生理だってバレちゃうので、休みたくなかったです。タンポンを入れるのは苦痛だけど、バレるほうが嫌だから、タンポンを入れて、欠席しないようにしていましたね。

    とにかく生理がバレないことを最優先にして行動しました。

    周りの女の子たちは「生理が3日で終わる」とか「2カ月生理きてないんだよね〜」とか、生理不順で悩んでいる子がいたけれど、僕は正直うらやましいって思っていたんです。

    自分は毎月1週間きっちり生理があったので。男性ではないことを毎月必ず突きつけられたから。

    生理痛は動けなくなるほどの痛みはなかったけれど、それよりも精神的な苦痛にひたすら耐えるのみ。生理中は、自分が存在していたくなかったです。心をシャットダウンして過ごしていたように思います。
     

    あだ名は「お兄ちゃん」なのに


    写真=本人提供/ 高校生のときの杉山さん(右から3番目)

    ——杉山さんはフェンシング選手の女子日本代表にも選ばれ活躍されていました。スポーツしながらも生理と向き合うのは大変だったのでは?

    フェンシングを始めたのは小学5年生だったので、その後に生理がきました。フェンシングはユニホームが白だし、動きが激しいスポーツなので、生理中は経血が漏れてしまうんじゃないかという不安がずっとありました。

    大学でフェンシングの合宿があったときのこと、今でも忘れられません。朝起きたら突然生理がきていて、血が漏れていて……。あのときが今までで一番最悪でした。

    当時、男の子っぽく振る舞っていたこともあり、周りから「お兄ちゃん」ってあだ名で呼ばれていて。お兄ちゃんって呼ばれているのに、生理の血が漏れている。最悪じゃん!って。

    アスリートとして生理と向き合う大変さももちろんあるのですが、僕は精神的苦痛の方が大きかったですね。
     

    男性用トイレにサニタリーボックスがない問題

    僕は、24歳で性同一性障害の診断書をもらい、25歳でカミングアウト本(『ダブルハッピネス』講談社文庫)を出しました。

    カミングアウトしたあとは、男性用のトイレを使っていました。でも男性用トイレには「サニタリーボックス」がないんですよ。

    捨てる場所がないから、ティッシュでグルグル巻きにしてバッグやポケットに突っ込んで持ち帰ったりして、大変だったことを覚えています。

    ——同じトランス男性同士で、生理に関する悩みや対処法など情報交換することはないんですか?

    生理に関しては、ほとんど話さないですね。

    「性別適合手術している?」と聞いたり聞かれたりすることはあります。「した」って答えた人には「いいなーじゃあもう生理ないんだね」という感じの会話があるくらいです。

    トランス女性だと、逆に「生理、経験してみたい」っていう子もいます。

    生理そのものがあまりオープンに語られないですし、トランスジェンダーの生理事情となると、余計に顕在化されていない問題なので、皆いろんな苦労があるでしょうね。

    男性用のトイレにも、普通のゴミ箱でも何でもいいから、使用済みナプキンをさっと捨てられる場所があればいいなと思います。
     

    ホルモン注射で生理は止まった

    ——杉山さんは、今は生理がくることはないんですか?

    僕は28歳のときからホルモン注射を打ち始め、それ以降、生理は止まっています。最初に生理が止まったとき、すごく感動しましたね。生活も気持ちも本当にラクになった。

    ただ、ホルモン注射を打ち忘れると、また生理がきてしまうので、常に気にかけていないといけません。久しぶりに生理があったとき「毎月こんなつらい思いしていたんだ。よく耐えていたな」って思いましたよ(笑)。

    トランスジェンダーは、ホルモン投与を続けている人が多いですが、ホルモンのバランスが変わることによって体調が悪くなる人もいるんです。

    全身がだるくなったり、精神的な浮き沈みがあったり、ニキビができやすくなったり。注射した翌日は、丸一日動けなくなるくらい体調を崩す人もいる。やっぱり体への負担は大きいですね。

    人の体はホルモンによる影響が大きくて、生活のリズムにも関わってくる要素なんだなと実感します。生理による不調に悩んでいる女性も多いと思います。僕もわかりますが、目に見えないホルモンに振り回されてばかりですね。

     

    ——IUS(ミレーナ)という、子宮内に埋め込み、黄体ホルモンを放出するシステムがあります。一般的には、まだあまり知られていないのですが、避妊目的や、過多月経、月経困難症などを改善したい方が、産婦人科で、入れてもらえるものです。これを入れると最長5年間、入れたままにできて、生理が止まる人もいます。

    へえ!そんなのあるんですか。 それは、もっと早く知りたかったですね。ホルモン注射を定期的に打つよりもラクかもしれない。


    IUSとはIntra Uterine Systemの略であり、子宮内に装着したのち、黄体ホルモンを放出し、主に子宮内膜に作用する薬剤で、その効果は最長5年間持続。避妊効果に加え、過多月経や月経困難症の治療にも用いられる。装着後、生理が止まるケースが多いが、慣れるまでは不正出血が続く場合も。
     

    トランス男性の中には「ホルモン注射までは望んでいないけど、生理だけはとにかく止めたい」という人も結構いるので、選択肢のひとつとして認知が広まるといいですね。トランスジェンダーで生理に悩んでいる若い子たちにも教えてあげたいです。

    一緒に暮らしているパートナーとは10年を超える付き合いですが、ホルモン注射を打ち忘れて急に生理がきてしまったときに彼女に「ナプキン貸して」って言うのが、気まずかったことがありました。

    今では彼女も「ハイハイ」って感じで、気にしていないと思うけど、当時は、彼氏の生理用品を買いに行くのは複雑な気持ちだったんじゃないかなって思います。

    ——生理を経験して良かったと思うことはありますか?

    生理に関しては、正直、よかったことはほぼありません。

    でも生理を経験しているから、生理がある人のしんどさは理解できるし、少しは寄り添ってあげられるのかなとは思います。でもよかったことをなんとか絞り出してその程度、というくらい、つらいことばかりでした。
     

    子宮と卵巣に関する情報がもっと必要

    ——杉山さんは、日本初となる渋谷区の「同性パートナーシップ証明書発行」に携わってこられました。パートナーシップ制度を導入する自治体が増えている一方、国の制度や法律はまだ整っているとはいえません。トランスジェンダーの性別変更の要件(戸籍上の姓を変えるには、「性同一性障害」の診断書と、生殖器を摘出する「性別適合手術」を受けることが「要件」となっている)についてどうお考えですか。

    「生きやすさ」という意味で、手術要件を外すべきだと思います。

    性別適合手術は、体の負担が大きく、場合によっては命に関わる。仕事ができるくらいまで回復するのに数カ月かかる場合もあるし、さまざまな理由で手術を受けられない人もいます。

    手術を望む人が手術をするのはもちろんいいです。でも、それを望まない人の「性」の自己決定と婚姻に対して「手術すれば権利を与えてやる」って、どう考えてもおかしいです。

    いまだに法改正しないことに対し「国民の理解が進まないから」「国民が混乱するから」といっている政治家の皆さんには、ご自身の理解が進んでいないだけでしょうって言いたいですね。

    僕らは制度のために生きているのではなく、幸せに生きるために制度があるのだと思っています。

     

    ——杉山さんカップルは、信頼している友人から精子提供を受け、人工授精を経て、2018年11月に赤ちゃんを授かったそうですね。

    僕のパートナーは、不妊治療に取り組んでくれて、子どもを授かることができましたが、卵子の数が少なかったこと、タイミングがなかなか合わなかったことで、(妊娠するまでに)1年6カ月ほどかかりました。不妊治療を始めてから、初めて知ることが多かったです。

    子宮や卵巣に関する情報が、いまの日本には圧倒的に少ないと感じました。性教育の問題かもしれません。

    ライフプランニングを考える意味でも、子宮・卵巣に関わる情報がもっと普通に語られ、広まるといいなと思います。

     

    杉山文野(すぎやま・ふみの)

    1981年東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー 。
    早稲田大学大学院教育学研究科修士課程終了。2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、現地で様々な社会問題と向き合う。
    日本最大のLGBTQプライドパレードの運営を行うNPO法人東京レインボープライド共同代表理事や、日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。現在は一児の父として子育てにも奮闘中。

     

    (編集協力:笹川ねこ)

    ランドリーボックスでは特集「#ボクとわたしの生理」を始めました。
    ボク?男性に生理は関係ない?
    そう、生物学的な「男性」に生理はありません。
    だけどみんなで社会を築いていく。
    そう考えたら、それぞれがお互いを知る必要があるのかも。
    生理に向き合う多様な人たちの声を集め、性について考えていきたいと思います。


     *


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    ・特集「ボクとわたしの生理」
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    Emi Kawasaki
    フリーランスの編集者。ランドリーボックスのコンテンツ・ディレクターをしています。
    生理痛、PMS、経血量の多さなど悩み多め。自分に合うサニタリーショーツを模索中。
    日々パワーアップしていくイヤイヤ期の娘を育てています。

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