2月末にオンラインで開催された「ウィメンズヘルスリテラシー協会」と「みんリプ」主催のオンラインイベント「変わらない日本をどう動かす? SRHRサミット2023」。
SRHRの分野に精通する産婦人科や専門家が集結し、SRHRの歴史を紐解きながら、現状の課題とこれからを語り合いました。当日のレポートをお届けします。
第1回では、国際協力NGO「JOICFP(ジョイセフ)」の小野美智代さんが「SRHRの歴史をひもとく」をテーマに、SRHRの歴史や概念を振り返りました。
自分の体の健康を自分で決められる社会を目指すーSRHRサミットレポート1/3
第2回は、産婦人科医の池田裕美枝先生による「SRHRの概念」、産婦人科医・重見大介先生による「男性におけるSRHR」に関するセッションをレポートします。
個々人の生き方を守るSRHRの概念
続いて登壇したのはNPO法人「女性医療ネットワーク」の副理事長を務める産婦人科医の池田裕美枝先生。
SRHRの概念を噛み砕き、いかにわたしたちの生き方に関わるものなのかを明快に語りました。
SRHRの考え方
いつ、何人、誰の子どもを産むのか、産まないのかを自分で決めるSRHR。しかし、「わたしの祖母は、顔も見たことがない人と結婚して、子どもを7人産んでそのうち1人は亡くなっています」と池田先生が言うように、最近までこの社会では、出産や結婚を自分で決めることができませんでした。
どこに住むのか、どのような仕事をするのか、どこの学校に行くのかなど、人生におけるあらゆる選択と同じくらい、出産の選択は人生を左右する重要な出来事。
「社会が個人に『産めよ増やせよ』と少子化対策を促したり、反対に『産むな』と人口増加を抑制するのではなく、一人ひとりが産みたいときに産みたい社会になるように、社会側が変わっていくことを目標にしたのが、SRHRだと思います」と池田先生は話します。
たとえば、職業選択の自由においても、勉強ができなければ仕事を選ぶこともできません。義務教育で全ての市民が学校に行けるよう整備したように、妊娠・出産や性暴力、避妊や中絶、不妊治療など性と生殖に関することも、一人ひとりの努力ではなく制度を含む社会全体として変わっていく必要があるものだという考え方がSRHRです。
なぜSRHRが日本に根付かないのか
SRHRが日本に普及しない理由として、意思決定をするときに周りの期待に応えようとする気質が大きく影響しています。
職業に置き換えて考えてみても、「いい会社に勤めたら親が喜ぶから」と働き先を選ぶことがあるように、子どもの頃から周りに期待されている自分を演じようとする文化が根付く日本の社会。
自分で決めるというのは、自分の心と体の声を聞いて、1番腑に落ちる選択をしていくこと。
池田先生は、自分の体に起こることを自分で決める「ボディリー・オートノミー(Bodily Autonomy)」をSRHRを普及するキーワードに掲げます。
「『人を大事にしましょう』と教えられることはありますが、わたしたちは自分を大事にするために、自身と対話する練習をしてきませんでした。SRHRが戦後から課題とされているものの、なかなか日本に広がっていかないのは、こういった背景があるからなのかもしれません」
人権の根底にある、自身のウェルビーングを追求するヒントが得られました。
男性におけるSRHRとは?
女性に対する課題が多く、これまで見過ごされてきた背景があるため、一般的には女性にスポットライトがあたるSRHR。果たして、男性には関係ないものなのでしょうか?
すべての人が「性と生殖に関する健康と権利」 を知り、享受できる社会を目指すプロジェクト「みんリプ」のメンバーである、産婦人科医・重見大介先生が「男性におけるSRHR」をテーマに登壇しました。
SRHRにおける男性の扱われ方
これまで、SRHRという文脈で男性は、女性のパートナーや、家族における夫・父親という形で「関与させる」存在として扱われてきました。
SRHRの課題を解決するためには、男性も関わっていくことが必要であり、カイロの国際人口開発会議でも男性の関与が重要であると強調されています。
しかし、男性自身の問題や、男性であるというスティグマで悩んでいる人もたくさんいるはず。
これまで男性は、家族計画において女性のパートナーとしてどのように必要なのか、という扱われ方をしてきましたが、2010年以降から男性にもフォーカスがあてられるようになります。
「ジェンダーという構造によって女性は不利益を受けていますが、男性もその構造によって不利益を受けることもあります。そもそものジェンダーという考え方や規範の見直しが学術的にも必要とされていて、今は変遷の途上にあるというような状況です」とSRHRにおける男性の扱われ方の変化に触れました。
男性におけるSRHRの課題
男性におけるSRHRの課題は、性感染症や避妊、家族計画、ウェルビーングなど、基本的には女性と同じ。男性特有の課題として、前立腺がんや陰茎がんといった生殖器系がんが挙げられます。
さらに、最近世界で注目されているのが男性の不妊症。
妊娠が難しかったり、セクシャルな楽しみを得られない性機能障害も含め、なかなか目が向けられていない現状がヨーロッパを中心に問題視されているようです。
父親の役割として、ジェンダーに関係なく子育てをする風潮は当然大事ですが、子どもが産まれて子育てに関わりたいのに、お金を稼ぐために長時間労働を辞められないというケースも考えられます。
企業の責任ではありつつも、社会構造の問題とも言える。実はこれが男性側における辛さのひとつに挙げられるでしょう。
また、ゲイの男性やトランスジェンダーの権利が守られていない点も、大きな課題となっているようです。
相手を尊重する社会を目指して
それぞれのライフステージに合わせて、性教育や性感染症の予防、父親としての役割、ガン予防などのSRHRに関するアプローチがあるなかで、重見先生は「過重労働やメンタルヘルスが中高年の男性における大きな課題のひとつ」と指摘します。
「日本の自殺者のうち7割が男性で、50代がもっとも多い。キャリアとライフスタイルのプレッシャーでストレスを抱え、自ら命を絶ってしまう人もいます。女性の社会進出や昇進、育児とキャリアの両立が問題になりつつ、男性にとってはメンタルヘルスで自殺をしてしまう社会構造が大きな問題。この二面性があると考えていて、そのどちらも大事だと思っています」と重見先生の見解を話します。
「人々があらゆるジェンダーや多様性において同等の知識、スキル、自尊心、支援やサービスへのアクセスを享受し、パートナーやその権利に対する尊重を持って関係を築き、計画的に出産や子育てを選択し、自分たちやパートナー、子どもたちの人生全体に及ぼす影響を考慮して日々を過ごしていけるとしたら」という社会の実現を目指し、すべての人にとってのSRHRをみんなで考えていく大切さを実感しました。
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SRHRサミットレポート全3回は、以下からご覧ください
第1回 各専門家が白熱議論。自分の体の決定権を自分で決められる社会へーSRHRサミットレポート1/3
第3回 SRHRを日本に根付かせるための課題とは?性教育・性的同意年齢・アフターピルと妊娠中絶薬 SRHRサミットレポート 3/3