「ウィメンズヘルスリテラシー協会」と「みんリプ」主催のオンラインイベント「変わらない日本をどう動かす? SRHRサミット2023」。

SRHRの分野に精通する産婦人科や専門家が集結し、SRHRの歴史を紐解きながら、現状の課題とこれからを語り合いました。当日のレポートをお届けします。

第1回では、国際協力NGO「JOICFP(ジョイセフ)」の小野美智代さんによるSRHRの歴史第2回では、産婦人科医・池田裕美枝先生、産婦人科医・重見大介先生がSRHRの概念、男性にとってのSRHRについてのセッションレポートをお届けしました。

第3回は、SRHRサミットの後半に実施されたトークセッションの様子をレポートします。

性教育・性暴力・アフターピルと妊娠中絶薬に思うこと

もともとは、人口問題が発端となったSRHRではあるものの、ミクロがマクロに、国から個人の視点に変わったわたしたち一人ひとりの生き方を決める重要な転換期の今。

「性別やセクシャリティ、役割に関係なく、個人個人が自分の人生を決めていける集合体を我々は目指していきたい」と宋先生はまとめます。

最後は、福田和子さん(SRHR Activist/W7 Japan 代表)、松岡宗嗣さん(ライター/一般社団法人fair代表理事)、太田寛先生(産婦人科医)が加わり、性教育や性暴力、アフターピルに関するトークセッションがスタート。

目指すは「包括的性教育」日本の現状は…?

体や生殖の仕組みだけはなく、人間関係やセクシャリティ、ウェルネスなどの幅広いテーマが含まれた「包括的性教育」についてトーク。

日本での「性教育」にもたれるイメージとのギャップが浮き彫りとなりました。

重見先生:公衆衛生大学院に在学中、産婦人科に関わる社会問題を考えたときに、行き着く先は包括的性教育。人権を尊重し合う包括的性教育がみんな享受できれば、ほとんどの問題が解決できると思っています。

2018年にユネスコが発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、学童期から包括的性教育を行うとコンドームの使用率が増え、避妊をしないセックスが減り、ヘルスにおいてもメリットがたくさんあることがデータで証明されている。

お互いを尊重し、人権を守ることを進めていくのが大事なのにも関わらず、日本では……という話しになりますね。

小野さん:世界的には、包括的性教育の導入が早ければ早いほどいいとされ、ヨーロッパでは低年齢化されているんですよね。

娘を育てていて思うのですが、保育園で母の日にお母さんの似顔絵を描いたり、父の日にお父さんの似顔絵を描いたり、日本では家庭にお父さんとお母さんがいるのがノーマルになっています。

「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5歳のときから全てのカップルが男女ではないという視点が盛り込まれていて、お父さんが2人いる家庭もあることを学ぶ。日本もパターナリズムを早くやめてほしいな、と思います。

福田さん:東京大学で包括的性教育のゼミを行っていますが、避妊や性行為の話が出てくるのは、ガイダンスの最後の最後。

人権や文化、価値観など相手を重んじる重要性がわからなければ、性というセンシティブなところで本当の自分の気持ちを伝えることは不可能だと改めて思います。

最近の包括的性教育の潮流としては、プレジャーの視点を入れる需要が高まっているようです。WHOによると、たとえばコンドームの使い方も、性感染症の予防としてのみ伝えるのではなく、「より豊かなセクシャルライフを送るために欠かせないものだ」とポジティブな視点で伝える方が効果も高い。

なので、ネガティブではなくポジティブな視点で、幼い頃から規範も含めた包括的性教育をはじめてほしいと考えます。

松岡さん:小学校高学年で「自分はゲイかも」と気づきはじめた頃、保健体育の教科書では「思春期になると異性に関心が湧く」と書いてありました。(日本では)教科書でそう教えられてしまうので、最初から否定されてしまうところからスタートしているんですよね。

そもそも性のあり方は人権に関することで、一人ひとりが大切にされていることをベースにしないと腑に落ちません。

学校で生徒たちに講演するとき、学校側から「性教育の話は避けて、LGBTの話だけしてください」と言われることがあります。パートナーシップもセックスもすべてセットで性教育なはずなのに、LGBTQが「多様性」の文脈として切り離されて捉えられてしまっている。

なので、セクシュアリティやジェンダーのあり方を実践的に教育できる教員を養成してほしいと思っています。

今は関心のある先生が、たまたま得た知識を学校現場で教えている状況。それだと先生やクラスによって差が出てしまうので、基本養成の過程で必修にしてほしいなと思います。

池田先生:生野南小学校で行われた「生きる教育」がすごいんです。包括的性教育として実施されたけではなかったようですが、トラウマが人や社会、組織、集団にどのような影響を与えるかという「トラウマインフォームドエデュケーション」を実践していたら、結果として包括的性教育になっていたようで。

性教育を必修化する、というアプローチではなく、すべての教科で包括的性教育を目指していけば実現できるのかも、と思ったり。そのためには教員の育成が必要ですね。

宋先生:我々も、生殖の知識さえあればすべて上手くいくとは決して思っていません。同意においても、相手を尊重するとか、プレッシャーのない状態で本心が言えているのか、文化や規範に影響されてないか、そういった人間としての尊厳を学ぶ必要があると考えています。

性的同意年齢の引き上げと足りない教育

現在の日本で、「性交同意年齢」は13歳。13歳からは性交渉の同意を自ら判断できるとされており、この年齢は110年以上変わっていません。

児童期の包括的性教育の土壌が整っていない状況と合わせて考えなければならない課題であると話されました。

小野さん:児童と呼ばれる年齢は17歳以下なので、当然ながら18歳まで引き上げようとする動きが国際的にもありますよね。日本では遅れているというより、そこに対して問題視していない現状があるのかもしれません。

福田さん:まだ確定はしていませんが、性交同意年齢が13歳から16歳に引き上げることなどを盛り込んだ法改正の試案が示されています。

ただ、13〜15歳の場合は、加害者が5歳以上年上の場合でないと、対象にならない。中高生にとって1年の差が大きい中で、5歳の差はけっこうシビアだなと思っています。

宋さん:年齢が引き上げられる動き自体は前進と捉えるべきではありますが、パワーバランスって、年齢だけではないですよね。

性交同意年齢が引き上げられるのであれば、それとセットで性交に同意したとされる年齢までには、責任を持って同意ができるような教育も進めていただきたいです。教育もされていないのに、同意するのは不可能なのではないでしょうか。

アフターピルの市販化・経口中絶薬の導入

UnsplashHal Gatewoodが撮影した写真

メディアやSNSでも目にする機会が増えた、アフターピルの市販化。さまざまな角度で議論が重ねられ、市販化に向けての課題が見えてきました。

アフターピルと混同されやすい経口中絶薬の導入は、まだ時間がかかる課題のようです。 ※厚生労働省の薬食審・薬事分科会は、国内初の経口人工妊娠中絶薬・メフィーゴパック(一般名:ミフェプリストン/ミソプロストール)について国内での使用を承認する見通しを発表しました。

福田さん:緊急避妊薬に関してのパブコメですが、2017年は300件ほどだったのが、今回は(2022年12月から2023年1月の約1カ月間)4万5,000件ほど集まり、なんと150倍の社会的関心が寄せられています。

検討会の議論のなかでは、「薬剤師さんの前で飲ませることを義務にすべきか」「プライバシーを守るためには個室がある薬局だけが扱えるようにすべきか」と議論されていますが、そうなるとひと県に数軒の薬局でしか扱えなくなり、本当に必要な人がアクセスできない運用方法になりかねない。

引き続き注視しながら、みんなで一緒に声を挙げていきたいです。

宋先生:我々みんリプでも、医薬連携によるアフターピルのOTC化を目標に掲げています。

地域の薬剤師さんと産婦人科がつながることで、薬局でピルを飲むよりも産婦人科に行った方がいい方やピルを飲んだ上で産婦人科受診をしたほうがいい方がきちんと婦人科に行けるような体制を組むべきだと思っています。

産婦人科医もOTC化の追い風になる存在として動いていきたいです。

あとは、経口中絶薬とアフターピルを混同している人も多いので、そこは説明が必要だと感じます。飲んだら、スッと中絶ができる夢の薬ではありません。

池田先生:わたしが処方したことはありませんが、自分が経口中絶薬を飲んだことはあります。

妊娠8、9週目で流産したときはイギリスにいて、内服での中絶を選びました。まずは子宮の入口を開く薬をのみ、48時間後に入院して子宮を収縮させる薬を飲みます。

当時は薬が外に出回らないよう、入院が必須でした。1剤目、2剤目は何もありませんでしたが、3剤目でお腹が痛くなって。

そこで大事な思い出になっているのが、ベッドの上で震えているわたしの背中を夫がずっとさすってくれていたことです。一緒に中絶を乗り越えた感覚がありました。

単に自分だけで中絶を終えるというだけではなく、選択肢が増えることで体験にも多様性が出るんですよね。個人的には、そこも大事だと思っています。

イギリスの医師は処方したら割と放置で、わたしはこれを「患者を信頼してくれているな」とポジティブに捉えています。「3週間後に妊娠検査薬で陽性だったら再度受診してね」という感じで、そもそも日本とイギリスで医師と患者の関係も違う。

太田先生:他国から持ち込まれた経口中絶薬を自宅で飲んでお腹が痛くなり、救急車を呼んだ患者の処置をさせられた経験を持つ医師が何人もいます。

日本みたいに救急車を呼ぶのに障壁がなく、すぐにきてくれるような国でそんな状況が続くと、「収拾がつかなくなるのでは」と経口中絶薬に反対の人もいます。

どのように日本で体制を組めるかは考えないといけないと思っています。

宋先生:東京の大病院では人工妊娠中絶をする時間がなく、個人病院や開業医で処置している例が多いと思いますが、経口中絶薬が導入されるとまた全然違う医療体制が必要になります。

承認に向けて、今は産婦人科医も治験をおこなっている段階。実際に運用をするときは、今の医療体制のまま計画を立てて半日で帰れるものと、子宮に器具を入れずに経口でできるものと、時間はかかると思いますが、みんなが幅広く選べる医療体制をつくっていきたいですね。

自分の体と健康を自分で決められる社会に向けて

包括的性教育の重要性や、わたしたち一人ひとりが意識してアクションしていくことがやがて大きな力となることを再認識し、イベントが締めくくられました。

自分の人生を決めるのは、他の誰でもなく自分自身。

SRHRは、自分がどのように生きたいか自身の対話のなかから探り、それを体現できる社会をみんなで目指すことだと思います。

社会の構造を見直して、誰もが自分の意思決定のもとで生き方を選ぶことができれば、人や環境、社会にとってのウェルビーングにつながるはずです。

誰も「いない」とされない社会、自分も相手も尊重し合う社会の実現に向けて、大人になった今だからこそ改めて包括的性教育を学び直そうと思えるイベントでした。

SRHRサミットレポート全3回の各回は、以下からご覧ください


第1回 各専門家が白熱議論。自分の体の決定権を自分で決められる社会へーSRHRサミットレポート1/3
第2回 SRHRの概念と男性にとってのSRHRとは?SRHRサミットレポート 2/3

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