【お悩み】
30代・第1子を妊娠中です。60代の親と出産の価値観が合わず、悩んでいます。
私は無痛分娩で痛みをなるべく軽減したいと思っていますが、母親に反対されています。親は自分も痛みを伴った出産だったためか、「お腹を痛めて産むことが母親への一歩」と思っているようです。
出産方法ですでに価値観が異なるので、これから始まる育児の価値観も異なってお互いストレスになるのではないかと今から不安です。
親世代のときと比べると医療の進歩もあり、世代間で価値観も違うと思います。親に今の私の考え方を理解してほしいのですが、どのように伝えればよいでしょうか?
こんにちは、露の団姫(つゆのまるこ)です。期待も不安もいっぱいの出産だからこそ、人生の先輩でもある母親とはアレコレ楽しく出産の相談をしたいものですよね。はじめての出産を良い形で迎えられるよう、一緒に考えていきましょう。
「痛み」と「親になる」をくっつけて考えない
まずは、私自身は母体の状態と医療体制が整っているのであれば、希望する妊婦さんが無痛分娩を選択するのはアリだと考えています。
なぜなら、「痛み」と「親になる」をくっつけて考える必要はないからです。
「お腹を痛めて産まなければ親になれない」というのなら、出産をしない父親側は、全員、親になれない理屈になってしまいます。でも、決してそうではないということは、よくご存じだと思います。
もちろん、自然分娩の痛みは相当なものですから、お腹を痛めて産むことによって、我が子への愛がよりいっそう深まるという人もいると思います。だからといって、「痛みがなかったら愛せない」ということではないのです。
根性論で愛は決まらない
ところで、「痛い」「苦しい」といえば、「苦行」を連想される人も多いと思いますが、実は仏教では「苦行」を否定しています。
というのも、お釈迦様は出家後に6年間の苦行をされて悟りを開かれましたが、そのとき、「苦行では悟りは得られない」ということを悟られたのです。
苦行は心身を消耗するだけであり、その痛みによって真理に到達できるわけではありません。それよりも、人間は愛欲や快楽から離れること、そして、肉体を追い詰めるような苦行から離れることで悟りを開けると説かれました。
「お腹を痛めて産んでこそ」という考え方は、正直、根性論に他なりません。
苦行で悟りは得られないのと同じように、根性論で愛は決まらないのです。
帝王切開をした私が知人にいわれた一言
ここで、私自身が産後に体験した出来事をご紹介します。
私は9年前に息子を出産しましたが、出生時、息子は3900グラムのジャンボ赤ちゃんでした。そのため、陣痛でどれだけ苦しんでも自然分娩で産むことができず、急遽、緊急帝王切開となったのです。
そのことを後日、知人の女性に話したところ、「帝王切開!?アカンやん!」と言われてしまいました。そのときは怒りや悲しみを通り越して、ポカンとしてしまいました。
帝王切開は自然分娩とは違い、お腹の傷口も大きく、深く、そして、回復にも相当な時間と痛みを伴います。そんな出産を「帝王切開で楽をするなんて!甘えるな!」という意味で言われたのです。
私は、ただでさえ痛い帝王切開の傷を、さらにえぐられるような思いでした。
なにより、一番大切なのは出産方法ではなく赤ちゃんが無事に生まれてくることです。少しずつ前に進んではいるものの、自然分娩だけが「いいお産」とされる考えが残っている世の中は、子育てがしにくい日本社会を象徴しているのではないでしょうか。
「自分の過去の苦労が否定される」という心理
スポーツ界や厳しい徒弟制度の中で生きる人たちとお話をしていると「自分の時代はもっときつかった」という言葉をよく耳にします。
これらの言葉は、時代に即した合理的な配慮や工夫が登場するたびに、同業種の若者に向けられるものですが、そこにはとある心理が働いています。
それは、自分と同じ結果を出そうとする人間が合理的な方法を得ると、「自分の過去の苦労が否定される」という心理です。
私はこの心理を「苦労の傷跡」と呼んでいますが、その傷跡を抱えたままでは、人類は前へ進めません。
どの時代にも、どの修行にも、時代や人それぞれの苦労があるはずです。それは本来、比べるべきものではありません。
しかし、自分の苦労の傷跡を上手に労ったり癒すことのできなかった人は、新しい合理的な方法を否定する、というかたちで自分の傷跡を慰めようとしてしまいがちです。
「労いの言葉」は何年経っても苦労した人の心を柔らかくする
ご相談者のお母さんの世代は、結婚したら出産して当たり前、妊娠中も家事をこなして当たり前、産後もすぐに家のことをして当たり前…と、出産は命がけであるにもかかわらず、すべて、当たり前のものとして扱われてきた世代ではないでしょうか。
だからこそ、話し合いを始める前に、「お母さんがお腹を痛めて産んでくれたこと、本当にすごいと思っている。ありがとう」と、まずは「労い」と「感謝」の言葉を伝えてみましょう。
労いの言葉は何年経ってもその苦労の傷跡を癒してくれます。そして、その労いの一言と感謝の気持ちが、お母さんの心を柔らかくし、自分にはできなかった選択に耳を傾けてくれるきっかけになると思います。
どうぞ、良いお産となりますように。