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セックス診断サービス「Seek H」を開発していると、好奇の目で見られがちなのだが、「自分らしくヘルシーなセックスライフをたのしむ女性を増やすことによってジェンダー平等を達成したい」というビジョンを持っている。

これまでセックスは男性中心で語られ、女性のプレジャーは軽視され、「女性らしさ」を押し付けられてきた。また、セックスは悪いもの、汚いもの、タブーとしてとらえられてきた。そんなステレオタイプをぶっこわして、セックスポジティブな文化を築き、ヘルシーにセックスを楽しむ女性を増やしたい。

受験、仕事、そしてセックスでも直面する「女性らしさ」

(Photo by Sam Manns on Unsplash)

誰もが一度は経験したことがあると思うのだが、私も昔から「女性らしさ」のステレオタイプに苦しめられることが多かった。

最初は高校生のとき。京都大学を目指して勉強を頑張っていたら、「女子なのになんでわざわざ京大目指すの?そのへんの私大に入って、稼げそうな男をつかまえて専業主婦になるのが女の幸せでしょ!」と友達に言われた。

大学に入学してからは、学生団体でプロジェクトリーダーを頑張っていたときに、友人に「女性はリーダーに向いていない」と言われた。

同じように恋愛・セックスにおいても、ジェンダー規範に直面した。

セックスの際、避妊するかどうか決めるのは私ではなく相手だった。友人からの性暴力被害に遭いそうになったときに「露出度の高い服を着てるから悪い」と言われたこともあった。

経験人数の多い男友達は自慢し崇められていたのに、私が少しでもセックスについて話すと、「ビッチ」だと罵られた。女性は貞操観念を持つべきだと。

受験でも、仕事でも、そしてセックスでも、自分が女性であるがゆえに「主体」としてみなされていない、偏見を押し付けられている、と感じた。

図書館でセックストイについて話す友人に衝撃を受けたイギリス留学

(写真=本人提供)

「女性らしさ」というステレオタイプをなくして自由に選択できるようにしたい、という想いからジェンダーを学ぶために、イギリスへ留学した。普段の授業も楽しんでいたのだが、一番衝撃を受けたのは性に対する意識の違いだった。

性にオープンな女性が多かった。誘われたから仕方なく、ではなく「自分がしたいから」セックスを楽しんでおり、女性からも誘う。

図書館で複数人で勉強をしているとき、目をきらきらさせながらセックストイの話をされたときはさすがに驚いた。そんな姿を見ているうちに私も性の悩みを相談するようになった。避妊の話をしたときは、「避妊についてはパートナーと話すべき」「もし話しても聞いてくれないなら、別れるべき」と諭してくれた。コンドーム以外の避妊法についてもたくさん教えてくれた。

これをきっかけに性教育に興味をもち、現地の性教育NPOでインターンをした。とくに、性的行為の前にお互いの積極的な合意をとる「性的同意」という概念が気に入った。性的同意の前提となる「わたしの身体はわたしのもので、自分がしたいこと、してほしくないことは他の誰でもない自分が決める」という言葉が、わたしのモヤモヤをクリアにしてくれた。女性はセックスにおいて客体ではなく主体なんだ、と。

帰国してから性的同意に関するさまざまな啓発活動をした後に、パートナー間でセックスについて話すのをITを使って手助けしたいと思うようになった。

自分たちで開催したワークショップから着想を得て、株式会社メンヘラテクノロジーさんと共同開発したのが、昨年末にリリースした「Seek H β版」だった。LINEのチャットボットサービスで、セックスの好み・嫌いなことについての質問に1人ずつ回答すると、2人の回答がマッチした部分がわかり、マッチしなかった部分については話し合うヒントを教えてくれる、というものだ。

セックスとは身体的要素より精神的な要素が強い

(写真=本人提供)

現在大幅なアップデートを準備中なのだが、パートナー間でセックスについての価値観をすり合わせる以前にまずは自分の「プレジャー」について考えてみてほしいという理由で、1人でできる診断を加える予定だ。

ユーザーへのヒアリングを重ね、そしてセクシャルウェルネスについての海外の論文を読む中で、ヘルシーなセックスのために必要なのはパートナーとのコミュニケーション以前に、まずは自分の身体やマインドと向き合うことであると分かってきたからだ。

古くから、男性の場合は勃起した状態、女性の場合は女性器が濡れている状態が性的に興奮している状態だとされてきた。しかし最近の性科学の研究によると、必ずしも「身体の反応=性的興奮」ではない、ということが分かってきた。

ある研究では、男性の場合、性器の身体的な反応(勃起)と主観的な性的興奮が重なる人は50%、女性の場合は10%しかいないという実験結果もでている。

つまり濡れているのに楽しんでいない、あるいはとても興奮し、欲しているのに身体は濡れていない(興奮の不調和)、というのはかなり一般的なのだ。従来の、身体の反応=性的興奮、とは女性よりも不調和が起こりにくい男性中心の概念だったということだ。

ステレオタイプに振り回されず、自分のプレジャーを見つけてほしい

(Photo by Sharon McCutcheon on Unsplash)

 では性的に興奮している、セックスを楽しんでいる状態ってなんだろう。

性欲というのは人々が思っているより複雑で、強弱の問題ではなく、種類のちがいなのだ。性科学の理論デュアルコントロールモデルによると、性欲はアクセルとブレーキから成り立っており、敏感さも人それぞれ。

そしてここが重要。性欲のアクセルとブレーキを刺激するのは、コンテクスト(文脈)だ。

同じ刺激でも感じ方が違うと思ったことはないだろうか。仕事に集中していたり、イライラしているときにパートナーにスキンシップを取られても何も感じないが、リラックスした状態だと性的興奮が高まる、というように。

「相手との関係性」「日常生活・仕事のストレス」「お互いの健康状態」など一見関係なさそうなコンテクストが、セックスの質に大きな影響を与えている。しかもベストなコンテクストというのは人それぞれで、例えばストレスが高まったときに性欲が高まる人もいれば、真逆の人もいるのだ。

また見逃されがちなのが、「ボディポジティブであること」(体重や見た目関係なく、自分の身体をありのままで好きになること)がセクシャルウェルネスに直結している、ということ。

画像提供:Genesis

身体に自信がなくて相手に見られたくない、ということに意識が向いてしまうと気が散り、大きなブレーキ要因になる可能性がある。他には「セックスは恥ずかしくて、汚いこと」「毎回挿入でイかなきゃいけない」といったようなステレオタイプも、考えすぎてしまうとブレーキ要因になる。

要するに、セックスを楽しむための近道は、意外とプレイのテクニックを習得することではなくて、自分を受け入れることだったり、どんなコンテクストが好きか考え、探索することだったりするのだ。

その探索をSeek Hでお手伝いしたいと思っている。8月には公開予定なのでぜひこちらから事前登録してほしい。また、7月末に「ポジティブに、ヘルシーにエロを語る女子のプラットフォーム」を立ち上げたので、こちらも気になる方はぜひチェックしてほしい。

外出自粛でおうち時間が増えている中、女性のセルフプレジャーにも関心が高まっているようだ。性に対する考え方も以前と比べてタブーとされなくなってきているように思う。そのような流れを加速させるために、自分の身体やマインドと向き合いヘルシーなセクシャルライフを楽しむきっかけとなるサービスをこれからもつくっていきたい。

参考)

Come as You Are: The Surprising New Science That Will Transform Your Sex Life, Emily Nagoski

Sex Differences in Patterns of Genital Sexual Arousal: Measurement Artifacts or True Phenomena?

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