仕事や家事・育児で忙しい現代の女性たち。ランドリーボックスでは、特集「がんばりすぎちゃうあなたへ」を1カ月にわたってお届けしています。第4回は整理収納アドバイザーの村橋りえさんです。

Photo by Emi Kawasaki / Laundry Box

抱えている仕事を誰かに「託す」こと。家事、育児をパートナーに「任せる」こと。つらいとき誰かに「頼る」こと。毎日を忙しく過ごしているあなたは、ちょっとだけ意識してみるといいかもしれない。意外とみんなできていない。

人を頼ることは「モノを手放す」ことにも通ずると、村橋りえさんはいいます。

村橋さんは、大手運送会社に23年間つとめたのち、2018年に整理収納アドバイザーとして独立しました。整理収納セミナーやお片づけワークショップなどを開き、モノの整理整頓を通じて“モヤモヤ”を解決するアドバイスを仕事にしています。

「モノの整理で人生の困難を乗り越えてきた」と話すお片づけのプロ、村橋りえさんに話を聞きました。

夫の育児うつがきっかけ。一念発起して「お片づけ」で起業

——村橋さんは会社員のとき、管理職をされていたそうですね。長年勤めた会社をなぜ退職したのですか?

もともとは定年まで勤めるつもりでした。不妊治療の末41歳で出産しましたが、幸いなことに自営業の夫が家事育児をしてくれたので、育休復帰後はフルタイムで仕事を続けることができました。

ですが40代も後半に差し掛かり、会社員としては“折り返し”かなというタイミングで、今までと同じはたらき方ではダメだと感じました。勤めていた会社は男性優位で、女性の役割はある程度かぎられている職場でした。夫が家事育児をやってくれるとはいえ、まだまだ子どもに手がかかる時期。新たなプロジェクトなど、挑戦したいことはいろいろあっても、長時間労働はできない。

そんな思いを抱えているときに、夫が“育児ウツ”になったのです。

そのとき、私はモノを片付けることで気持ちの整理をしていました。これが人生を見直すきっかけでした。不思議と、離婚という選択が私にはできなかったんです(笑)。家族を手放せない代わりに、家族との時間を作るために、一旦仕事を手放そうと決めました。

Photo by Emi Kawasaki / Laundry Box

——転職ではなく、起業したのはなぜでしょう?

もしかしたら母の存在があるかもしれません。実家は長崎県の港町で鮮魚店を営んでいました。ある年に父が病気で倒れてしまい、お店を休業せざるを得ない状況になってしまったとき、母は家族のために会社員になって働きだしました。そんな母が、職場での人間関係がうまくいかず、家ではよく仕事の愚痴をこぼしていたんです(笑)。

母にとっては、やっぱり地域や地元のお客さんたちとの関わりの中で、楽しく仕事をすることが合っていたのだと思います。それまで苦労をあまり表に出さずに、仕事や子育てをしてきた母はカッコイイな、とも思いました。そんな母への憧れもあり、気づけば私も自営業をしています。収入の大きさよりも、人との関わりを大切にしたいと考える仕事観が、母と似ているかもしれません。

私も母に似て会社員に向いてなかったのかな(笑)。そんなことには気付かず23年間も勤めました。

仕事を任せることでチームが成長する

——管理職にもなったのですから、向いていないことはないと思います。

当時は女性の管理職は少なく、まさか自分が部下を持つようになるとも思わなかった。きっとこの会社では一生ペーペーだろうなと思っていました。慣れない管理職に就いてからは、後輩たちのロールモデルにならなければ、とプレッシャーに感じていました。空回りしながらも、自分の力量に気付かず仕事を抱え込んで無理をしていたと思います。

——でも無理は続かないですよね。どのように乗り越えたのでしょうか?

私の場合、仕事がうまくいかずモヤモヤしていたときもやっぱり「片付け」で乗り越えてきました。うまくいかないことがあると、モノを整理します。

仕事を人に託すことと、モノを手放すことって似ているんですよね。だから仕事も、ひとりで抱えるのではなく「手放す」ことにしたのです。手放すということは、人に任せるということ。初めはなかなか勇気がいりますが、託したおかげでメンバーの成長が見えて、とてもうれしかったんです。

「失敗したら私がなんとかするから、がんばって!」と伝えて任せてあげる。ひとりで抱え込んでいた仕事が楽しみに変わり、チームも成長できました。

Photo by Emi Kawasaki / Laundry Box

家族もチーム。互いの得意を見つけてパートナーを頼ろう

——仕事を「手放す」。家事、育児もそうですが、誰かに頼ることが苦手な人多いですね。

甘え下手な人って多いですよね。その点、家族もチームですから、うちは夫が家事と育児をしてくれて助かっています。本人はワンオペ夫といっていますが、実は水回りの掃除がニガテで、そこは私がやっているんですよ(笑)。

チームのパフォーマンスを最大化するために、得意なことを得意な人がやるのがいいという考えです。

——共働きが増えているなか「夫が家事育児をしてくれない」という女性の悩みはよく聞きます。

そうですね。ご家庭にもよるとは思いますが、パートナーが家事育児をやらなくなった理由ってきっとあると思うんです。やり方は人それぞれなので、自分の思い通りにならなくてもグッと我慢することが大事です。口を出しちゃうと相手のやる気を奪ってしまうので。これは仕事でも同じですね。

いろいろなご家庭でお片付けの悩みを聞くのですが、家族の持ち物を互いに把握していないケースが多いことがわかりました。衣替えや部屋の模様替え、引っ越しなど、パートナーと一緒に手を動かす作業がとても有効です。持ち物にその人の価値観が出やすいので、持ち物を把握することで、相手の考えを理解できるようになります。そして、一緒に作業をすると、相手の得意なことを発見できたりします。

それをきっかけに、パートナーの得意そうなことを見つけて、少しずつ頼ってみてはどうでしょうか。

モノを手放すことは、今の自分を受け入れること

—村橋さんにとって片付けってどういうものでしょうか?

これまで仕事に悩んだとき、不妊治療で辛かったとき、夫が育児うつになったとき。人生のいろいろな場面で片付けに救われてきました。だからこそ、片付けを仕事にしようと思えたのです。

片付けって今の自分を受け入れてあげることだと思います。たとえば、クローゼットがいっぱいになっても服を捨てられない女性って結構いますよね。それはその服を着ていた「若くてかわいかった過去の自分」が捨てられないんですよね。

—耳の痛いお話です(笑)

もう着ない服、使わないモノはいっそ手放して、今の自分を受け入れてあげると本当にスッキリしますよ。

モノを手放すことは生きていくなかで絶対に必要です。就職して社会人になる。部下をもって上司になる。結婚して夫/妻になる。出産して父/母になる。人はそうやって、いろいろなものをどんどん背負っていく人生なんです。

背負い込んだ荷物を、時には手放さないと潰れてしまいます。意識的にモノを手放し少し身軽になれば、また前に進めると思います。

Photo by Emi Kawasaki / Laundry Box

New Article
新着記事

Item Review
アイテムレビュー

新着アイテム

おすすめ特集