少女まんが雑誌『りぼん』。学生時代に夢中になって読んだ経験がある人も多いのではないだろうか。
その『りぼん』が、2021年11月号に『生理カンペキBOOK』という袋とじ冊子を同梱し話題となりました。
今回は集英社・りぼん編集部の汪瀛(おう・いん)さんと、ライターの藤井智子さんに、話を聞きしました。
初めて生理を迎える年齢層に、届けたかったテーマ
——生理にまつわる冊子を付録にするというアイデアは、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?
りぼん編集部では、毎月企画会議を行っていますが、生理関連の記事をやりたいという提案は、ずっと出ていたんです。編集部の女性メンバーが共通して、「もっと早くから生理について知りたかった」と思っていたのです。
それに、2021年はメディアで「生理の貧困」が取り上げられ、改めて生理や性については急いで届けなきゃいけない情報だと感じました。最速で動いた結果、11月号(2021年10月1日発売)で実施することになりました。
——『生理カンペキBOOK』は本誌の中ではなく、袋とじの冊子という形で作られていました。なにか意図があったのでしょうか?
雑誌の中に入れ込む案もありましたが、他の記事に紛れてしまって届かないかもしれない。冊子の方が、目につきやすいと思ったんです。それに、読者によっては生理の話題に触れたくない人もいる。読むかどうかの判断は、読者に委ねたかったので袋とじ冊子にしました。
——冊子では、生理用品の一例としてナプキンだけではなく、タンポンや月経カップについても紹介しています。掲載する内容はどのように決めたのでしょうか?
『生理カンペキBOOK』は、産婦人科医の高橋幸子先生と生理用品ブランド ソフィを展開するユニ・チャーム(株)の方に監修をお願いしています。
生理用品に関しては、実際に小学生が使うのは、ナプキンがメインかもしれませんが、他の選択肢も知っておいて欲しいと思い掲載しました。
特定の商品を推奨しているのではなく、選択肢があるということを覚えていておいて欲しいなと。
タンポンでいうと、どうしても怖いイメージや大人しか使ってはいけないといった、誤った知識を持っている子も多いんですが、小学生でも水泳部でタンポンを使っている子もいます。とても便利だし、怖くないよということを伝えたくて、高橋先生にもアドバイスいただいたうえで、大きめのスペースを割いて掲載しています。
——生理用品だけでなく、ピルやHPVワクチンも取り上げていました。
ピルも選択肢の一つとして知っておいて欲しいと思いました。高橋先生からも、修学旅行や受験と生理が被らないようにピルを服用している子もいると聞いていました。
正しい知識がないと、実際に修学旅行でピルを服用している人を見て、「この子、何を飲んでいるの?」と疑問をもってしまうかもしれない。どんな理由で飲んでいるのか、知識として持っていて欲しいと思いました。
HPVワクチンに関しては、当初は掲載を想定していませんでしたが、高橋先生から必要な情報であるということを教えてもらい記載することにしました。
——今の女の子たちが知りたい情報が詰まっていますよね。ナプキンの捨て方なども確かに誰からも教わる機会がないなと。
自分たちが当時知りたかったことや今でも知らないことを盛り込んでいます。
また、様々な家庭環境があり、保護者に話しづらいという子もいると思うので、教えてもらわなくても、冊子があればわかるようにしたいと思いました。
例えばナプキンの付け方は教えてくれても、捨て方までは教えてくれていないということもありますよね。
ナプキンの捨て方は編集部でも話し合ったのですが、みんなやり方がバラバラでした(笑)。そこで、今回の冊子では、生理日に友だちの家に行くときどうすると良いかなど、実際にありそうなシチュエーションを想定してQ&Aコーナーを掲載しました。
悩みは、読者から届くハガキを参考にしたり、月に1度小学生に編集部に来てもらうモニター会(感染症予防のため現在は行なっておりません)で、悩んでいることや、何が好きかなどをリサーチしたりしています。
性教育や生理にまつわる言葉は、まずいものでも、タブーなことでもない
——本企画について、社内から反対意見などはありませんでしたか?
一切ありませんでした。今回の企画を通して、大人でも生理の話をしていないとあらためて気づきました。
私自身、学生時代に誤った情報を目にし、タンポンは大人しか使っちゃいけないと思っていました。この企画のおかげで、初めて編集部内で生理について話したり、知識を共有することができました。
もちろん、知るか知らないかを選ぶのは読者ですが、必要以上に隠すことではないと思います。
——タンポンの説明部分には「性交渉(セックス)の経験がなくても平気?」と書かれています。性交渉などの言葉を使うことに不安はありませんでしたか?
りぼん読者は小学2年生〜中学2年生くらいまで幅広いですが、小学5・6年生が多いです。小学校高学年になると、性交渉についてももうなんとなく知っていて、その先を詳しく知りたい子は自分でネットで調べてしまいます。
性教育や生理にまつわる言葉は、まずいものでも、タブーなことでもありません。隠してしまうと何も説明ができなくなってしまいます。ネットで間違った情報を信じてしまうこともある。それよりも、産婦人科医の監修のもとで、正しい知識を得て欲しいと思いました。
この年代は、隠してしまう方が気になったり、よりいやらしさを感じたりしてしまう。生理は単なる生物的な現象なので恥ずかしがることではないと、過去の自分にも言ってあげたいし、今の子どもたちにも知ってほしいというのが、編集部の共通の思いです。
——読者の反響はいかがでしたか?
ハガキによる読者アンケートでは、ほかの記事よりも上位に入っていて、関心の高さを感じました。
りぼんでは過去にも同様の企画を実施していましたが、その都度読者からの反響が大きく、読者層に求められているテーマだと認識しています。
数年前に、漫画作品の中で生理をテーマにした回があったんですが、その時も大きな反響がありました。アンケートや漫画家さんへのファンレターにも、生理について悩んでいたという感想が書いてありました。
逆に保護者の方々からは「こんなことまで載っているの」という驚きもあったようですが、こちらとしては踏み込んで書いたという意識はなかったです。もしかしたら、性の知識や認識に関しては親世代の方が、古いのかもしれないですね。
——確かにそうかもしれませんね。漫画作品や読み物企画も親世代が読んでいた頃とは内容も変わってきているように感じました。
昔は主人公が好きな人と両思いになるまでを描いた漫画が多かったのですが、子どもたちが知識を得る年齢が早くなっているので、今はカップルになってからのお話も人気だったりします。子どもたち自身の付き合う年齢も若くなっている。だからこそ、性についてもきちんと正しい知識を持って欲しいと思っています。
私たち編集部としてこの方向で行こうと決めているわけではありません。読者アンケートなどを通じて、読者が読みたい、求められているものを作ってきた結果だと思います。
漫画家も10代から30代の女性作家さんが中心です。作家自身が今描きたいと思うストーリーを描いているので、生理や性の表現も自然と物語に溶け込んでいるのだと思います。
——今後も今回のような企画を予定しているのでしょうか?
まずは現在連載している『りぼんっ子保健室』という身体と心にまつわる悩みに答える記事企画で、読者のリアルな悩みに継続的に答えていきたいと思っています。また生理の企画も実施したいと思っています。
これからも、生理や性教育は恥ずかしいことじゃない。正しい知識を身につけてもらえるように取り組んでいきたいと思っています。