女性が女性のヌードを撮る。
9年前にフォトグラファーの花盛友里さんが女性のヌード撮影を始めた際には「風変わりなこと」として世間から捉えられていたプロジェクトでした。
しかし、2023年3月28日~4月3日に開かれた個展「脱いでみた。」では、訪れた人たちから「自分に自信をもつことを感じさせてくれる」というポジティブな感想が多数寄せられました。
花盛さんは今回の個展を通して、同じヌード作品でも見る人の感じ方に変化があったと話す。
「脱いでみた。」とは、「一番自然、だから一番綺麗」をコンセプトにモデル選考はせず、撮影を希望する一般の女の子たちを先着順に撮影しているプロジェクトです。
9年間、一般の女の子たちのヌード写真を撮り続けている花盛友里さんに、女の子たちを取り巻く社会環境の変化について聞いてみました。
花盛友里
大阪府出身。2009年にフォトグラファーとして活動を開始。雑誌や広告を中心に活躍中。2014年に「寝起き女子」、2017年「脱いでみた。」を発表。女の子の「ありのままの姿」を切り取った作品で注目を集める。2020年に「脱いでみた。」シリーズ第2弾となる「NUIDEMITA -脱いでみた。2-」を発表するなど作品づくりを続けている。2021年にアンダーウェアブランド「STOCK」を立ち上げるなど、幅広く活躍。二児の母。インスタグラムはこちら
ヌード写真の撮影中に「自分の身体、いいかも」と気持ちが変化する女の子たち
ーー「脱いでみた。」で女性のヌードを撮ろうと思った経緯を教えてください。
第1子を妊娠中に「お母さんになって保守的になりつつある自分」がとても嫌だったんです。だから、妊娠前のようにインパクトのある作品づくりをしたいなと思ってヌードを撮りはじめました。
最初はモデルさんでヌードや下着を撮っていたんです。私から見ると整えられたボディラインでとてもきれいな身体をしているモデルの女の子たちも、自分自身の身体にコンプレックスを抱えていることを感じました。
でも、一緒に写真を撮っていくうちにそのコンプレックスを抱えたモデルさんたちが、「自分の身体もいいかも」と気持ちがポジティブに変わっていくことがたくさんあったんです。
ヌードや下着姿で撮影することを一般の女の子たちをモデルにすれば、もっといろんな人をポジティブにできるんじゃないかと思って「脱いでみた。」プロジェクトを始めました。
ーー個展の空間からも、女の子たちが自分の身体をポジティブに捉えていることが伝わってきます。今回の個展を開いて感じることはありますか?
今回はコロナ禍での延期もあり、「脱いでみた。」では7年ぶりの個展開催です。
来場者の中には「自分のことは嫌いだったけれど、個展を見て自分も悪くないかなと思えるようになった」と泣きながら話してくれる人がいて本当に嬉しく思います。
他にも、脱いでくれた女の子たちがお母さんや旦那さん、お子さんを連れてきてれる人がいました。そして「娘/奥さんをきれいに撮ってくれてありがとう」と言ってくれたんです。
撮らせてくれた女の子たち、彼女たちの周囲の人たちのあたたかさや優しさを前回より一層感じることができました。
周囲の人たちが、女の子たちの気持ちや決断を応援してくれるように
ーー「脱いでみた。」プロジェクトをはじめて9年とのこと。女の子たちを取り巻く社会について、変化を感じますか?
とても感じますね。そもそも個展の取材ひとつとっても「女性をエンパワーメントするメディア」なんて9年前はありませんでした。
当時は「女性が女性のヌードを撮っている、なんか変わったことをしているフォトグラファーがいるぞ」という取り上げ方がほとんどでした。
でも、今は違います。女性や女性の心身を応援するメディアも増えたし、写真を見にきてくれる人たちのマインドにも変化を感じます。
ーーそれは、どのような変化なのでしょうか。
「今よりももっと自分を大切にしていいんだ」と思う人が増えたように感じます。
「脱いでみた。」に出てくれる女の子たちのマインドは昔から変わりませんが、見にきてくれる人たちの幅が広がりました。
前回の個展よりも男性率も高いんです。その男性たちも、前回は写真関係の人たちがほとんどでしたが、今回は写真関係ではない男性たちも見にきてくれています。
脱いでくれた女の子たちもパートナーを連れてきてくれました。
そういう意味でも、出てくれる女の子たちの周りの人の変化も感じます。以前はパートナーや会社からNGが出ることも多かったのですが、今は「脱いでみた。」に参加することを応援してくれる人が増えています。
今回の撮影のために旦那さんが有給をとって子どもの面倒をみてくれる人もいました。
「ヌードで写真を撮られるなんて、なんてことをしているんだ!」という周囲からの意見が減り、「自分の身体を自分で写真に残したい」という女の子たちの気持ちをサポートしてくれる人たちが確実に増えています。
それに、女の人が自分の意見を言うことが当たり前になりましたよね。夫婦別姓、同性婚も議論されていたり、CMでも男性の家事育児シーンをよく見るようになりました。
自分を好きになるためには、自分の感情に敏感になること
ーーでは、ヌードを撮り続けている9年間で変わらないことはありますか?
「自分のことを認めたい」気持ちは変わらないと思います。自己肯定感は低いけど、自分のことを好きになりたいっていう気持ち。
「脱いでみた。」に出てくれる子たちは、そんな自分の気持ちに向き合って一歩踏み出してくれた子たちなんです。
個展では、「自分の好きなところ」を来場者に壁に書いてもらうコーナーも作りました。
最初はみんな「何を書けばいいのかわからない」って言うんです。でも、写真展を見るうちに自分の好きなところを見つけてくれる。
しかも、体系とか見た目だけではなく、「大きな声」とか「風邪をひかない」とか内面的なことも多いんですよね。
見た目だけで自分を好きになろうとしなくていいと思うんです。
ーー内面も含めて、自分を好きになるためにはどうしたらいいでしょうか?
自分の感情に敏感に、正直になること。
悲しい、嬉しい、ドキドキした、ワクワクしたっていう気持ちを溜めておくことが大事だと思います。
SNSの発達により、自分の気持ちに鈍感になっている人が多いんじゃないかな。他人がいいと言ったものに流されているようにも感じます。
私もついついスマホやSNSを見てしまうけれど、「この木はすごいいいな」とか「ワンコの散歩コースの花が咲いたな」とか、小さなことでも自分の感情の動きをキャッチするようにしています。
そうやって日々の小さな変化に気づける自分が好きなんですよね。
そして反省もします(笑)。「次はやらないようにしよう」と反省することも、自分と向き合うことのひとつ。
情報に振り回されがちな世の中において、自分の感情と向き合うことはとても大切です。他人の意見に流されるのではなく、自分で選びとって決めていく。そうしていないと、脳みそが劣化していくようにも思います。
ーー脱いでみた。に登場した人たちから花盛さんへの手紙の展示も拝見しました。自分の身体やヌードになることへの葛藤を経て参加されたことがとてもよく伝わってきました。
そうなんです。こういった写真に出ている子たちを見ると、やっぱり「自分とは違う」「かわいい子」「自分に自信がある子」と思って見る人が多いと思うんです。
でも、「それは違うんやで。みんな同じなんやで」ということも伝えたくて、手紙を展示しました。
手紙を読んで泣いてくれる人もいました。
みんな一般の方なので応募するまでに葛藤があったり、私と出会うまで「やっぱりやめようかな」と思ったり緊張したり。そんな気持ちはみんな一緒なんですよね。
プレジャーアイテムも、男女関係なく使いたい人が使えるような世界になったらいい
ーー花盛さんは3月上旬に公開されたirohaの広告撮影もされていましたよね。ヌードに限らず、女性の「性」の変化についてどう感じますか?
ドラッグストアでデリケートゾーンのケア用品を目にする機会も増えましたよね。昔はデリケートゾーンを保湿しましょう、なんて全く聞かなかったのに。
でも、一般的にはまだまだ浸透はしていないと思います。だから、今後は女性の性のことがCMで流れるくらい一般的になったらいいですよね。
irohaを含むプレジャーアイテムについても、男性が使うことは当たり前で、女性が使うのは恥ずかしいというようなイメージや認識があるのはおかしいと思います。
男女のカテゴリに関係なく、使いたいと思う人が当たり前に手にとれるようになればいい。
アイテムを使うことが当たり前になったらいいなと思います。
海外のドラマでは普通にアイテムが出てきますよね。だから、irohaの広告のように水原希子さんが性についてインタビューで答えているのはとてもいいと思いました。
今の子どもたちが大きくなった頃には、ヘアオイルと同じようにアイテムを気軽に使えて「何使ってるの?」って自然に会話にあがるようになればいいのかな、とも思います。
参考記事:【日本初】セルフプレジャーブランド「iroha」の広告を全国紙の朝刊に掲載
「脱いでみた。」マインドをもつ人たちとのコミュニティをもっと深めていきたい
ーー今後はどのような活動をしていきたいですか?
海外にも進出していきたいですね。日本で撮った写真を海外に持っていったり、海外の人を撮ったり。また日本とは違う文化もあるとは思いますが、女の子たちには日本と通じるものもあると思います。
あとは「脱いでみた。ギャラリー」を常設したいです。訪れた人たちが自分を好きになって元気になってくれるような場が常にあると最高だなって思います。
ーー今回の個展からも「脱いでみた。」プロジェクトは、そのコンセプトに共感する人が集まる場所としても意味合いが強いと感じました。
「脱いでみた。」はただの写真作品ではなくて、コミュニティだと思っています。今回の個展もただの「写真展」ではなく、「脱いでみた。」コミュニティを感じられた個展となりました。
脱いでくれた人たち、見に来てくれた人たち、その家族など関わる人たちが優しくてあたたかくて、そのコミュニティの空気感を目の当たりにできたことが嬉しかったです。
そういった「脱いでみた。」マインドを持った人たちとのつながりを深めたいので、Instagramでも非公開・承認制のアカウントを開設して、承認された人たちの中でコミュニケーションがとれるような場を作っています。
コメントやストーリーでフォローしてる人たち同士が悩みを話し合えるような場にどんどんしていきたい。SNSが生きやすい場になったらいいなって思います。