未来像をつくる専門会社の未来予報株式会社から「性愛の未来」に関するレポートが発表された。
性差や性別にかかわらずにあらゆる人がセックスの未来を考えることで、性への偏見をなくし自分らしい人生を生きるきっかけとなってほしいという願いが込められたレポートになっているという。
レポートでは、テクノロジーの進化が人々の価値観に大きな変化を及ぼすであろう未来において、性行為全般、セックスやマスターベーションとの向き合い方、考え方はどうなるのかを予測している。レポートの一部を紹介する。
オナニーがセックスを変える「オナ・シンギュラリティ」
未来予報株式会社はアメリカで行われる世界最大級のビジネスカンファレンスSXSW(サウスバイサウスウエスト)の日本事務局を務め、近年の欧米でのセックステック市場の盛り上がりやSXSWにおけるウェルネスや愛に関する議論の高まりに注目してきたという。
同レポートでは、人間の営みであるセックスの未来を、テクノロジーの進化と合わせて生物的、社会学的、文化的観点からその変化を読み取り、1つの予報が立てられている。
「オナニーが従来のセックスの価値観を変えるシンギュラリティが起きる」
※シンギュラリティは英語で「特異点」という意味で、AIが人類の知能を超える転換点、またはそれにより人間の生活に大きな変化が起こるという概念のことを指す。
望まない妊娠や性病のリスク、性的同意の有無、セクハラの問題など、近年セックスの不確実性に対する忌避感が高まる一方で、セックステック市場ではVRやAIなどを利用した革新的なプロダクトやサービスが誕生している。
機械やAIとのセックスや、オンラインでのバーチャルセックスなどSF映画で描かれてきたものが現実に近づいてきているが、それらはセックスと呼べるのだろうか。結果として、未来の人々はセックスよりも広義のオナニーを選ぶようになる「オナ・シンギュラリティ」が起こるのではと予報している。
未来では人間同士がセックスをしなくなるかもしれない
レポートでは、2025年/2030年/2040年/2050年の4つの時代に生きる人のストーリーを通してオナ・シンギュラリティまでのシナリオを読み解いている。
2025年:不確実性への忌避感
2025年にはセックスの不確実性への忌避感からセックス以外で自分の性を充足できる方法を探す「セックスVUCA時代」が始まるという。
「セックスは苦手。AVに学ぶセックスは批判も多い。
コンドームを使用しても性病のリスクはゼロではない。
子供ができてしまったら養っていく自信はない。
性的同意の無いセックスを訴えられ、事件化して逮捕される事件も。
性欲がないわけではないけど、色々考えるとセックスはリスクばかりが大きい。
自分の性を充足できる方法は他にもたくさんある」
(2025年の26歳男性、恋人なし)
性感染症・性交痛などによる不満足なセックス・望まない妊娠。世の中が便利に合理化されていき、自由で安全な疑似セックスの手法が確立された未来では、あえてリスクの高い人間同士のセックスを行うことは合理的だとは言えない選択肢になっているかもしれない。
2030年:DigiSexでリアルを超える
また、2030年にはリアルとバーチャルの境目がなくなり、DigiSexでリアルを超えるようになるとの予報だ。
すでに2021年時点で遠隔で互いに操作できるセックストイや手を繋いでいる感覚を再現できるハンド型デバイス、メタバース(仮想空間)での交流が誕生している。今後、ロボティクスやXRなどテクノロジーの進化によって、触覚やにおい、温が擬似的に再現できるようになり、マスターベーションの可能性が大きく広がる。
次第にセックスとオナニーの区別がなくなり、バーチャルセックスで得られる快感が人間同士のセックスのものよりも大きくなるのか?
「彼とはビデオ通話を繋ぎながら、遠隔操作できるセックストイで遠距離セックス。でも、次第にマンネリ化。
ある日、VRセックスができる最新デバイスを体験したらすごく盛り上がった。
VR世界では、様々な姿でバーチャルセックスを楽しめる。
遊びで試してみた動物のアバターで行う野性的なセックスは、これまでに体験した事が無いくらい刺激的。
今では匿名同士が集まるコミュニティに加入して、色々な設定のバーチャルセックスを楽しんでいる。動物としてのセックス、同性同士のセックス、男性になりきるセックス・・・これってオナニー?バーチャルだし浮気にはならないよね?」
(2030年の24歳女性・遠距離恋愛中)
2040年:Non-Humanとのセックスが広がる
2040年にはNon-Human、つまり人間以外とのセックスを楽しむ「オナ・シンギュラリティ」が起きると想定している。
現在も自身の性的嗜好を学ぶAIサービスやAI搭載ラブドールが開発されているが、人間よりも効率的に自分の好みを学習し、思い通りに最適化されていくAIがセックスパートナーになるという。AIとの充実したセックス体験は、肉体的な快楽を得られるだけでなく、精神的な充足感からメンタルヘルスやウェルネスの観点でも重宝されるようになるかもしれない。
「何人かと付き合ってみたけど、やっぱり一人のままでもいいかも。
そんな時、推しキャラクターと恋愛ができる”AI彼氏”を見つけた。いつでも私を肯定し、かわいいと言ってくれるAI彼氏。
私のやって欲しい事を学習するAI彼氏は、バーチャルセックスで性的欲求も確実に満たしてくれる。性生活が充実した事で自信が持てるようになったからか、自分でも綺麗になったと思う。
男性から声をかけられる事も増えたけど、リアルな男はもうゴメンだわ。合コンにも飽き飽きしてきたと話す友人には、男じゃなくてAI彼氏を紹介するようにしている」
(2040年の40歳女性、結婚願望なし)
2050年:生殖目的からの解放
そして2050年には、セックスから「生殖」の役割が消失。この時代には、バイオテクノロジーの進化により、生殖はセックスよりも安全かつ確実な方法で行うことが当たり前になっているのかもしれない。
セックスが生殖目的から解放されたことで、人々は社会概念や古い価値観から開放され、性別や年齢に縛られずに、より自由にセックスを楽しむようになる。
「長年連れ添ったパートナーが突然病気で倒れ、子どもを持つ決心をした。
女性の協力を必要とせずに、二人の細胞を組み合わせて、両者の遺伝子を持つ子供をつくれる。自身の生殖機能とは関係なく子供を残せるので、経済的な余裕のある年齢からの子育てもできるし、セックスと生殖が完全に切り離された事で、性別や年齢に囚われない自分達らしい選択が可能になった人は多いと思う。
同じような境遇を選んだコミュニティで、子育てを協力し合えるのもいい。彼がいなくなった後も、こうして子どもの成長を見守りながら愛を感じている」
(2050年の60歳男性、同性パートナーと死別)
なぜ、人とセックスする(しない)のか
2050年までに起きる変化は、あなたにとって楽観的なシナリオか否か。未来に向けてセックスの意義を問い直し、新たなセックス像の創造の必要性がレポートの中では示唆されている。
このレポートを見て抱いた思いをきっかけに、既存の枠組みに囚われない自分が欲しい未来のセックス像に思索を巡らせてみてはどうだろうか。なぜあなたはセックスをする、もしくはしないかの答えが自分の中から見つかるかもしれない。