これは以前にも少しご紹介した、「生理の貧困」について取り組むフランスのアソシエーション(市民団体)「Règles élémentaires」のテレビキャンペーン。実際に一部のテレビチャンネルで放映されている動画です。
「天気予報士は本日『生理』のために番組に来られませんでした」と男性のアナウンスが流れ、「フランスでは現在170万人もの女性が生理の貧困と隣り合わせの生活をしています」と続きます。
そして「生理用品が購入できないために、仕事や学校に行けない女性がいるという事実を変えましょう」というメッセージで結ばれています。生理のタブーに対してこの試みの斬新さに思わず唸ってしまいました。
みなさんはこの取り組みに何を感じましたか?
フランス政府が生理用品の無償配布に乗り出した
フランスでもまだまだ根深い生理の貧困や生理にまつわるタブー。これらをいかになくしていくか。その問題に取り組んでいるのがこの「Règles élémentaires、レーグル・エレマンテール」という市民団体です。
フランス語で「Règles élémentaires」とは「基本的なルール(生理)」という意味です。というのも、フランス語で規則やルールという言葉と生理という言葉は同じだからです。
2019年11月、政府が生理用品を無料配布する方針を発表したときに初めて取材をしました。明るい雰囲気と同時にプロフェッショナリズムを感じました。
その後、2020年3月に政府がこの試験的な無料配布に向けて100万ユーロの予算を組むことを公表。さらに5月28日、国際衛生生理デーの日に、元政権の4名(2020年7月に政権交代が行われたばかり)、男女平等担当マルレーヌ・シアパ元副大臣、ブリュヌ・ポワルソン環境連帯移行省元国務長官、アニエス・パニエ=リュナシェ経済・財務省元国務長官、クリステル・デュボス連帯保健省元国務長官が、9月から実験的に、中等教育以上の生徒・学生、受刑者、生活困難者と路上生活者たちに生理用品の提供を始めることを明らかにしたのです。
3月17日から2カ月の間、経済が一部を除いてストップしてしまったのです。これにはすでに生活が不安定だった人や路上生活を強いられている人、学生たちなどが大打撃を受けました。
今回、ロックダウンの生活が明けたのち、アソシエーション設立者でもあるタラ・ウゼ=サルミニさんに話を聞くことができました。ロックダウンの影響、政府が打ち出した新しい政策について、そして冒頭で紹介したテレビキャンペーンを行なった意図について取材しました。
ロックダウンによって生理用品のニーズが明確化された
——コロナ禍ではロックダウンとなってしまいましたが、アソシエーションとしてどのような対策に取り組んだのでしょうか。
タラさん:私たちのアソシエーションはそもそも、最前線に位置しているわけではありません。生理用品の回収まではしますが、その配布を請け負っているのは、フィールドでの経験とノウハウのある専門のパートナー団体たち(*1)です。彼らはロックダウン中も活動を続けましたが、私たちはその前のステップに位置するので、感染などのリスクを最小限に抑えるため、テレワークに切り替えました。しかし活動は止めることはできません。
私たちにとって、このロックダウンは非常にチャレンジングな状況でした。普段、生理用品の回収ボックスを設置している企業や学校はロックダウンによって全て閉鎖されてしまい、ここからの物流がストップしてしまったのです。
そこで、それまでとは全く異なる物流の最適化を考えなければいけませんでした。そんな中でうまく機能したのはメーカーさんとパートナーシップを組んで進めていた案件でした。生理用品メーカーの大手、Alwaysとは3月頭にパートナーシップを組み、すでに200万の支給品が手元に届いていました。ですから、ロックダウン中はこれらを配布することができたのです。
また、他のメーカー(SaforelleやGina)などもこれを機に支給の量を増加してくれました。結果、8週間のロックダウンで配布した量は2019年の1年間で配布した量を2倍も上回ったのです。もちろん、私たちにとっても大きな驚きでした。
ロジティクス面(物流合理化の手段)の難しさについてはあらかじめ予想できていましたが、できていなかったのは、ここまでニーズが高まるということでした。この期間中に多くのアソシエーションが生理用品が必要だと気づき、私たちに声をかけてくれるようになりました。
——ニーズの増加の理由とはなんだったのでしょうか?
私たちのアソシエーションにはどのような人たちがどのような理由で生理用品を必要としているのかという情報までは上がってきません。寄付は完全に匿名性です。なぜ寄付が必要なのかを私たちは問いません。
ただ想像できることは、ロックダウンによって職を失った女性が増えた点があげられるでしょう。もともと不安定な仕事についていたり、フリーランスや不法就労をせざるを得なかった女性たちの収入が途絶えたわけです。そして、さまざまなアソシエーションなどに「困った」という声が届くことで、ニーズが明確化していったのではないかと思います。
——政府のアクションも影響したようですね。
その通りです。ロックダウン前に政府が2月末に生理用品の無料配布の試験的な試みのための予算、最大100万ユーロの発表をしたことはとても大きかったと思います。それによって、私たちの活動の認知度が高まっていったのです。そして結果的にこの期間中だけで140万以上の生理用品を配布するに至ったのです。
設立からたった4年半で、課題解決できたわけ
——SNSでも拡散された、テレビキャンペーンは秀逸でした。どのような経緯で実現したのでしょうか。
タラさん:生理用品というのは生活必需品であるということ、パンデミックだろうがなかろうがそれは変わらないということ。ロックダウン中はとにかく、そうしたメッセージを発信し続けました。人々に寄付を続けてもらうことが大切だったからです。
さてテレビのキャンペーンに関しては、とある広告代理店から「生理の貧困」に興味があるので何か一緒にできないかと声をかけてもらったことがきっかけでした。私たちにとって、とくに大切だったことが「生理」という言葉がきちんと出てくることでした。このキャンペーンを実行するための絶対条件として、生理に生理という言葉ではっきりと明言することを挙げていました。私たちの目的は生理へのタブーをなくすことだからです。
また、男性の声でアナウンスが流れることも重要でした。「生理の貧困」というテーマは、女性だけの問題ではないからです。社会の問題であり、公衆衛生の問題、社会復帰の問題に直結しています。誰もが関係していて、雇用主や教師などにも関わる問題なのです。そしてこのキャンペーンを通して「ルール(生理)を変えよう」というメッセージを伝えたかったのです。どんな人でもこの問題解決のために何かができるということを伝えることは重要です。
もうひとつのキャンペーンについてもお話をしましょう。2014年にドイツのWash Unitedの先導によって5月28日は国際生理衛生デーと定められました。この日にイベントを予定していましたが、コロナ禍で実施が難しかったため、著名人たちに生理のタブーについてオンラインで発言をしてもらうというキャンペーンを組みました。この動画キャンペーンは6万回再生され、多くの人たちに届いたようです。
アソシエーションを設立して4年半ですが、メッセージが広がるのが早く、この短期間で、フランスにあった問題の多くを解決できたと思っています。それは何よりもこの問題に取り組む一人ひとりの貢献によるものなのです。
——すでに達成できた目標とは具体的になんですか?
タラさん:私たちの活動の柱は2本あります。1つは生理の貧困の撲滅。これに関しては生理用品の回収と配布をしています。そしてもう1つがタブーをなくすことです。私が4年半前にこのアソシエーションを立ち上げた時、誰も「生理の貧困」という言葉を知りませんでした。しかし徐々に認知度が高まっていきました。メディアにも出ましたし、最終的には政府も動くまでに至ったわけです。
そして具体的に目指してきた中でも、もっとも重要なことが生理用品を適切な場所で無料化することでした。そしてシアパ元副大臣たちの発表で一部の場所で生理用品の無料配布が実現することが明らかになり、これは本当に素晴らしいことです。これこそ私たちが要求していたことの最優先事項だからです。
生理用品に支払ったお金の返還
——これから達成したいことはなんですか?
タラさん:まず生理用品の購入券の導入を目指しています。これは、完全に社会から排除されているわけではなくても金銭的には不安定な女性たちを対象に考えています。例えば高等教育の奨学生などです。彼女たちは普通にスーパーに行って生理用品を選んで購入することはできますが、毎月の生活はギリギリです。
また、私たちがこの活動をしていて気づいたことですが、どの女性も自分に合った生理用品を選べるということ、選択できるということがいかに大切かということです。生理用品には現在、さまざまなものがありますが、それらを全て無料化することは不可能です。ですから、ある程度は自立している女性に対してはこのような購入券を貸与することを目指し、自分にあった生理用品を選べるようにしたいと思っているのです。
それからもう1つ目指していることは、基礎医療保険を補完する共済保険(Mutuelle)が生理用品に支払ったお金を返還することです。これは学生用の共済保険(LMDE)のモデルが参考になると考えています。この共済保険では1年間でいくらか生理用品の出費について返還できるようになっていますが、ほかの共済保険にも広がることを求めています。
最後に、生理の貧困はもちろん生活不安定者とは密接に関わる問題ですが、実は誰にでも起きうることなのです。たとえば、突然日曜日の夜に生理用品を切らしていることに気づいてパニック、なんてことは誰にでもあったのではないでしょうか。
そういう意味で、私たちがもう1つ目指しているのは、自動販売機の設置です。道端や駅、空港など、さらには企業内やレストラン、バー、ホテルなどにも設置されることが理想です。もちろんこれは無料配布ではないですが、フランスではコンドームの販売機が道端に設置されているのでそれと同じようにいつでも生理用品の購入ができるようにしてほしいのです。
経済的に困難な状況になくても、生理用品がなくて困るという状況は誰にでもありうるからです。そして公共の場に、生理がしっかりと根を張った存在になるべきだとも考えているので、象徴的な意味でも大切なのです。
最終目標はRgèles élementairesが必要なくなる社会
——この4年半で同じような活動をする団体が増えたという実感はありますか?
タラさん:いくつかフランス国内でもこのテーマを扱う小さなアソシエーションが生まれました。でも私たちが特に喜ばしいと思っているのは、大きな団体が生理用品を必需品と見なすようになってきたことです。彼らの予算の中にも組み込まれるようになってきました。もしかするとこの9月から、これらの団体は私たちを必要としなくなるかもしれません。でもそれこそ本当に喜ばしいことなのです。
私たちは刑務所とも仕事をしていますが、新しい政策によって、政府が自らの予算に刑務所への生理用品の配布を組み込むことができるようになったのです。この問題をさまざまな場所で、団体や政府組織が内在化していくことは素晴らしいことです。
私たちの目的は、いつまでも寄付をする人たちと配布をする団体との仲介をし続けることではありません。私たちを通して生理用品を提供しているアソシエーションや団体が自ら生理用品の回収もするようになるといい。
アソシエーションを設立してから今までに300万以上の生理用品の配布をしてきました。それはもちろん最初がゼロだったことを考えるととても多いのですが、ニーズの全体を見渡すとまだまだ足りません。本当は毎年、何千万も必要なのです。そういう意味でも私たちのパートナーたちが自立して回収できるようになるといいです。そしてこれらの組織にいる男性たちがこの問題に気づくことも大切です。
——生理や生理の貧困に関しては世界中で関心が高まりつつある気がします。
今日、世界中でこの問題に関心を抱く人たちが増えていると思います。行動を起こす女性たちが世界で増えているというのがまずあるでしょう。私自身もそもそもイギリスにあったモデルをフランスに紹介したのです。今や、イギリス、アメリカ、フランスだけではなく、インドやブラジル、アフリカの一部の国でもこのような試みが始まっているようです。
それからこれはSNSがあったことで浸透が早かったのだとも思います。そしてさらに有名人たちが積極的に発言をし始めたことも影響していると思います。たとえばモデルのナタリア・ヴォディアノヴァは生理のタブーをなくすために発言をしていますし、イギリス王室のメーガン・マークルは結婚式の場で、生理の貧困のための寄付を募りました。これらも社会を動かす要因となっています。ですから関心は世界規模に広がっているわけです。
私たちの活動のうち90%が回収と配布に割かれています。そして残りの10%が世論の喚起という活動です。5年以内にこの割合が逆転してほしい。世論への喚起という活動をメインにして、配布や回収は必要な時にする程度になっていればいいですね。
すぐには難しいかもしれませんが、本当の理想はこのアソシエーションを必要としない社会になっていることです。
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生理の貧困に対して、日々メッセージを発信し、アクションをし続けることで社会を変えることに成功したこのアソシエーション。9月からの無料配布の開始にあたり、政府は生理の貧困に携わっているアソシエーションを支援することを発表し、Règles élémentairesもそこに含まれています。
生理の貧困という分野ではこの数年間で大きな前進が見られたフランス。一人ひとりのアクションが物事を動かすことに成功した、とてもいい事例です。タラさんは「生理のタブー」や「生理の貧困」への関心は今や世界に広がっていると言い、アソシエーションの活動もフランスを超え始めています。
日本で暮らすみなさんは、この世界の動きをどうご覧になりますか? SNSにつぶやいた小さな声が、社会を動かすきっかけになるかもしれません。
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[*1] 配布をしている団体はフランス赤十字、 Samu social de Paris、Action contre la faim(Action against hunger)やEmmaüs(エマユス、フランスの慈善団体)などです。今では全国で200以上のパートナーがいます。
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