ここ数年、メディアで目にする機会が増えた「性的同意」という言葉。重要な概念ですが、学ぶ機会を得ても実践することは難しいものです。

注意:この記事は性暴力についての言及が含まれています。

同意のない性的行為は犯罪につながることが明確に

「性的同意」は、誰かと性的関係を持つ前に互いの意思を確認することをいいます。相手もあなたも性的関係を持ちたいかどうか、事前に正直に伝えることが重要です。

「性的同意」は自分と相手の境界線を認識し、尊重するための概念です。そして、同意のない性行為は性暴力につながる可能性があることを自分のためにも、相手のためにも認識しておくことが欠かせません。

2017年の#MeToo 運動以降、国内外を問わず、芸能界での同意を得ずにおこなわれた性行為に対する告発が増加しています。

2018年にスウェーデンは「暴力や脅迫の有無に関わらず同意のない性行為は性暴力」であると刑法を改正しました。他にも、イギリス、ドイツ、ベルギー、ルクセンブルク、アイスランド、オーストラリア、南アフリカなどでも同様の刑法改正がおこなわれています。

日本でも、2023年7月13日から刑法が改正され、「強制性交罪」と「準強制性交罪」を統合し、「不同意性交罪」に名称を変更しました。これによって、同意のない性的行為は犯罪につながることを明確に定義することが定められました。

「性的同意」を認識してはいるが、どうすればいいかわからない人が多数

日本では2023年に、性的同意を記録できるアプリ「キロク」がリリースされ、ソーシャルメディア上で話題になりました

ところが、アプリに対して多くの戸惑いの声があがりました。

「空気」を読む文化が根強い日本で、わざわざ言葉を発して同意を確認することへの抵抗や、馴染みのない概念があらわれて過去のおこないを否定されたような気持ちになるなど、さまざまな思いがあるようです。

国際協力NGOジョイセフが20203年10月11日の国際ガールズデーに向けて行った「性と恋愛ー日本の若者のSRHR意識調査ー」では、15〜29歳の4割強が「性的同意がどういうものかわかっていない」「どのように同意をとっていいかわからない」という回答をしています。「性的同意」という言葉自体は認知しているものの、具体的な同意の取り方、確認方法などは曖昧なままとなっている様子が読み取れました。

「性的同意」は人生を左右する重要な概念ですが、学ぶ機会が少なく、実践につながらないことを解消することが現状の課題のひとつです。そのため、海外ではさまざまな性教育サービスや取り組みが展開されています。

イギリスの性教育アプリ Elbee

親子向けに作られた性教育アプリ「Elbee」は、いかにも教育コンテンツといったデザインではなく、まるでTinderのようなデザインでスワイプ操作を取り入れ、気軽に学べるように設計されています。

依然として「性」について語り合うことのタブーがある中で、子どもが安全な選択を得られるよう、家族で一緒に会話できるようにリラックスしたカジュアルなデザイントーンで作られています。

Z 世代の性教育版「Duolingo」を目指すオランダのQuinky

アムステルダムを拠点とするQuinkyは、Z世代に向けて性や恋愛の悩みについて、手頃な価格で専門家のアドバイスを受けられる機会が少ないことに着目し、独自の性教育コンテンツを開発しています。

Quinkyは、ダウンロード数世界一の語学アプリDuolingoのように、誰にでも教育の機会を与えることを目指しています。

Quinkyの創設者のMariia Plotkina氏は若者の大多数がポルノかソーシャルメディアから性の知識を得ており、それらのほとんどが正確な情報ではないことに危機感を持ちQuinkyの事業を開始しました。

開発者の半分がZ世代の当事者で、若い世代の学びに変化を起こそうとしています。

また、知識を一方的に与えるのではなく、ゲームを用いて楽しみながら学べるゲーミフィケーションの方法を採用しています。現在は複数の資金調達を行い、ベータ版アプリで実証実験を行っています。

デートアプリでの性的同意を促進するキャンペーン

オーストラリア連邦警察は、2023年12月にデートアプリでの性的同意を促進するキャンペーンを展開しました。

世界で最も人気のあるデートアプリTinderと、キャンベラ・レイプ・クライシスセンター(CRCC)と共に実施したこのキャンペーンの目的は、近年増加傾向にあるオンラインの出会いでのカップルに対し、健全で敬意ある関係を作れるように、「性的同意」について啓蒙していくことです。

このキャンペーンは、「同意ほどセクシーなものはない!」というキャッチコピーを使い、性的同意について、はっきりと口頭で「YES」と答えていない限り、それは「NO」を意味するという考え方を伝えています。

警察、デートアプリ、性被害者支援団体の3者がタッグを組むことで被害を未然に防ごうというユニークな取り組みです。

ACT Policingプレスリリースより

大学全体で性的同意を推進するUsafeUS

大学内での性暴力やストーカーの問題は社会課題となっています。

フロリダ大学では、安心安全なキャンパスを作るため、キャンパスコミュニティにて性的同意を重点的に学べる取り組みをしています。

フロリダ州では、同意なしの性的行為は違法であり、大学でも学生行動規範違反の罪に問われる可能性があります。

フロリダ大学が導入しているUsafeUSアプリは、対人暴力や人間関係による暴力から学生を守るための情報提供をしています。

このアプリは、最大3名で位置情報を共有することができ、ユーザーが友人を招待して目的地までアプリ上で一緒に歩くことができるフレンドウォーク機能もあります。また、デート中などに危険な状況に遭遇した場合には、偽のメッセージや電話を通知することで、逃れること手助けをします。

さらに、地元のバーやレストランと協力した「エンジェルドリンク」は注文機能による危険通知サービスです。

「エンジェルドリンク」を注文すると、提携した店舗のスタッフがユーザーの危険を察知して、Uberやタクシーを呼んでくれたり、メニューからライムを追加すると、より危険な状況であることが伝わり警察に連絡がいくようなシステムなっています。

性暴力につながる前に、カップル間で性的同意について話し合えることが理想的ではあります。

しかし、相手に「NO」を伝えにくかったり、言えなかったとしても、一人で抱え込まずに、周りがサポートできることは安心材料になります。

「性的同意」が定着するためには

新常識ともいえる「性的同意」を理解し、自分の生活に取り入れていくことは重要です。

しかし、実際に同意をとるシーンを想像したときには、下記のようなさまざまな疑問も浮かびます。

  • どの段階で「性的同意」をとるのか?
  • どのような言葉で伝えるべきか?
  • 酔っていたら忘れるのではないか?
  • 断ったら逆上されるのではないか?

いずれの疑問も「性的同意」について私たちが考える機会がなく、馴染みがないことがあげられます。

大人になってから価値観を変えることに戸惑いを感じるのは仕方ありません。

当たり前に同意について確認できるようになるには、子どもの頃からの性教育が重要です。大人もリスク管理のため、また今後の人生を自分らしく生きるためにも、性的同意について学ぶ必要があるといえます。そして、次の時代を生きる子どもたちにも、周りの大人が教えられるようになるのが理想です。

*国際協力NGOジョイセフのプロジェクト「I LADY.」が企画制作をしている性とからだのMYノート「SRHR NOTE」はこちら

「わたしのカラダは誰のもの?」

私のカラダは私のものに違いないのに、自分を大切する気持ちが、パートナーや誰が決めたかもわからない社会の声にかき消されてしまうことがあります。

ランドリーボックスでは、「〜らしさ」といった、世の中の当たり前に囚われずに、自分の人生とカラダの自己決定ができる社会を目指し、本特集をお届けします。

自らのカラダとココロをしっかりと自分の手で抱きしめられるように。
そして、私たちと、私たちを取り巻く愛すべき人たちが健やかに過ごせるように。

本特集に際して、「性的同意」にまつわる実態を把握するためのアンケートを実施しています。

みなさんのご意見や体験談をお寄せいただけますと幸いです。アンケートへの回答はコチラから。

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