最近、芸能人も公表したことで話題の卵子凍結保存。卵子凍結は女性の人生設計の幅を広げる選択肢になるのでしょうか。

海外でも注目を集める卵子凍結スタートアップをご紹介します。

高まる卵子凍結への期待

photo by Shubham Dhage on Unsplash

現在、世界の多くの国で女性が子どもを産む年齢は上がっているため、卵子凍結のニーズは年々増加傾向にあります。もともと卵子凍結は、がん治療などで将来妊娠することが難しい女性のために、卵子を凍結保存しておくことを目的にして作られた技術です。

最近では「今は産めないけど、いつか産みたい」という女性の選択肢としても注目を集めています。

選択肢を得ることで「今は仕事に集中したい」「母親になりたいけど相手をまだ見つけられていない」などという精神的負担を軽減することができます。

卵子凍結はSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の、中でも「妊娠したい」「産みたい」と願う権利を守る重要なもの。ですが、卵子凍結はさまざまな費用が必要で高額になる傾向があります。検査、採卵、凍結、保存、そして卵子を使って妊娠を試みる際には出庫、体外受精の費用も必要です。

日本とアメリカの場合、保険適用については、将来生殖能力に支障をきたす病気がある人など、医学的な理由で卵子凍結する場合は保険適用されます。しかし健康な女性が将来のために備える「社会的適応(ノンメディカル)の卵子凍結」はほとんどの場合、保険の適用外で高額になる傾向があります。

グーグル、アップル、METAといったグローバル企業は、働き盛りの人材を引き止めるため、高額になりがちな卵子凍結を福利厚生で提供し、人材確保につなげています。

卵子凍結スタートアップ

卵子凍結を必要とする女性たちのために、さまざまな取り組みを行う海外のスタートアップをご紹介します。

Cofertility

アメリカのスタートアップCofertilityでは、卵子凍結する際に採卵した卵子の半分を不妊に悩むカップルやLGBTQ+カップルに「卵子提供」する代わりに、もう半分の卵子を自分用に10年間、無料で凍結保存できるサービスを提供しています。

卵子凍結にコストをかけられない女性と、卵子提供を必要とするカップルのマッチングはこれまでにないビジネスモデルで、両者の課題を解決する新しい取り組みです。

また、卵子凍結されたものの多くは使われることなく廃棄される問題も解決することができます。

Cofertilityの卵子提供プログラムは、誰でも参加できるわけではなく、21〜33歳までであること、BMIが29未満で健康体であること、非喫煙者であることなどさまざまな条件が設けられています。

画像:Cofertilityサイトより

Lilia

カナダ発のLiliaは、徹底したコスト削減で平均の半額程度で卵子凍結できるサービスを提供しています。CEOのアリッサ・アトキンス氏は、Airbnb、Dropboxなど有名企業を多数輩出したアクセラレータープログラム「Y Combinator」の卒業生として、世界から注目されています。

アトキンス氏自身が29歳で卵子凍結をして、キャリア形成と将来子どもを持つことのプレッシャーから解放された経験をもとに、平均的な卵子凍結の価格や時間を半分に抑えて、卵子凍結が効果的な時期と考えられている24~35歳に向けてのサービスを展開しています。

TMRW Life Sciences

卵子凍結は凍結保存できれば安泰というわけではありません。TMRW Life Sciencesは、スタッフが手作業で管理するドラム缶保存によって損傷したり、紛失してしまう従来の保管方法のリスクをなくすため、自動保管システム CryoRobot Select を開発しました。

このシステムは、世界初の凍結卵子の管理プラットフォームとしてFDA(Food and Drug Administration:アメリカの政府機関)に認可されています。

CEOのタラ・コモンテ氏は、「Uberのドライバーをアプリ上でトラッキングできる時代に、自分の大切な卵子の管理もデジタルでトラッキングできるようにするべきだ」と語っています

卵子凍結は10年以上保管するケースも少なくないため、アナログな管理方法ではなく、デジタル化することで利用者が安心できるようになっています。

卵子凍結の課題

現在の卵子凍結ブームは、1960年代にアメリカで経口避妊薬のピルが開発されて広まったときのように女性のライフスタイルを豊かにする、SRHRの変革を起こすインパクトがあるものです。

しかし、凍結した卵子を使った妊娠の「成功率」には課題があります。

最近では、40代のセレブリティのコートニー・カーダシアンが30代後半で卵子凍結した7個の卵子を使って体外受精を試みたものの成功しなかったことや、体外受精のためのホルモン補充で精神的、肉体的な負担が大きかったことを告白して話題になりました

その後、コートニー・カーダシアンは自然妊娠しましたが、不妊治療期間には多くのストレスがあったそうです。
卵子凍結の妊娠・出産可能性についてはさまざまな研究・事例の情報がありますが、38歳未満の女性が20個以上の卵子を解凍した場合、妊娠の可能性が70%に上がるという研究結果も出ています。ですが、採卵数が上がるほど保管費用も上がっていきます。

卵子凍結は若いうちからはじめるほど、凍結できる数や卵子の健康状態があるので良いため、卵子凍結を提供するスタートアップはTikTokなどの若年層が見るソーシャルメディアで広告展開しています。

これに対して、不必要な焦りや、得られる利益を上回るコストの負担を若い女性に強いているのではないかという意見も出ています

日本でも女性の選択肢が増えることを願う

日本では、東京都が2023年9月に「卵子凍結に係る費用への助成」・「凍結卵子を使用した生殖補助医療への助成」を開始し、現代の女性のニーズと少子化対策の支援に取り組んでいます。しかし「妻の年齢が43歳未満の夫婦で凍結卵子を使用した生殖補助医療を受ける方」を助成対象としており、「将来のために」「今は仕事に集中」という独身女性は対象外です。

メリットとデメリットの両方がある卵子凍結ですが、まだまだ課題が多く、必要とする年代の女性にとって身近な存在とは言い難いです。

日本でも卵子凍結サービスを提供する企業が増えて、技術も高まり、公的な助成の対象が広がることが、女性にとって良い選択肢を与える機会になるでしょう。

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