10代の頃からずっと性交痛(セックスの挿入時の痛み)に悩み、「セックスは痛くて当たり前」だと思っていたというKさん(40代前半)。潤滑ゼリーをお守り代わりに常備し、相手がイけば「自分はそれで満足」と言い聞かせ、痛みに耐えていたといいます。

そんなKさんのセックスに対する意識に変化をもたらしたのは、30代後半で出会ったパートナーでした。「自分がイくだけじゃなくて、君にも満足してほしい」と言われても、「私はイきづらいしいいよ」と断っていたKさんですが、少しずつセックスにおける「自分軸」を得られるようになりました。

お互いに真剣に向き合っていたからこそ、時にはふざけあうこともできたという二人の、セックスへの向き合い方と関係性の築き方について話を聞きました。

10代の頃からずっと「セックスは痛いのが当たり前」だと思っていた

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ーーKさんは、10代の頃から性交痛に悩んでいたのですね。

悩んでいたというより、「セックスは痛いのが当たり前だ」という気持ちでした。女性は痛みに耐えなければいけない、痛みを耐えてやっと女として認めてもらえる、と思っていた部分があります。

ーー痛みに耐えることが当たり前だったんですね。

10代の頃は性に関する知識がなく、セクシャルウェルネスに対して無知で鈍感でした。

セックスがとにかく痛くて嫌で、周りのみんなみたいに楽しめない自分も嫌で、自己嫌悪に陥っていました。

ーー年齢を重ねても、「セックスは痛いもの」という意識は消えませんでしたか?

20代の頃、五木寛之さんの『愛に関する12章』という本を読み、少し意識が変わりました。

本の中に、ある男性と女性が性行為に7日間かけるスローセックスのお話が出てきたんです。じっくりと時間をかけたスローセックスをすると、相手と本当につながっている感覚を得られるらしく、挿入を外そうとすると「バチッ」と静電気のような電流を感じて、「つながっていた」ことを再認識できる、と。

それまで、男性がイくことがすべてで、女性は痛みに耐えるのが当たり前、と思っていた私にとって、それほどに相手とつながって、満たされるセックスがあるのかと衝撃でした。

いつか自分が生涯を共にする人がいたら、この感覚を味わってみたいと理想のセックスを思い描いていました。

ーー「痛みに耐えること」が全てではないことを、本の世界を通して知ったんですね。

ですが、それは本の中の理想郷でしかなくて、現実とは一致しませんでした。

私は変わらず濡れにくく、イきにくい体質で、私にとってセックスは「耐える」ものでしたし、男性が射精して終わるだけでした。「気持ちいい」と感じられることもありましたが、ただただ身体の反応でしか快楽を得られませんでした。

20代から30代までずっと「相手がイけば自分はそれで満足だ」と思っていました。ですが、30代後半で今の夫と出会い、40歳で結婚したことを機に、長く一緒に生きていく上で性に対する価値観が一致しないと、この先きついなと感じるようになったんです。

ーーパートナーは、セックスに対してどういう考え方だったのですか?

彼は、自分がイくだけじゃなくて、私にも満足してほしい、イってほしいと思っていたんです。

「私はイきづらいし、あなたがイけば満足だよ」と伝えたんですが、それではイヤだと。そこから、どうしたらわかりあえるんだろうと考えるようになりました。

セックスのお守りだった潤滑ゼリー。彼と一緒に痛みの軽減の方法を探るように

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ーーどちらかが満足すればいいのではなく、お互いが満たされるほうがいいという考えだったのですね。性交痛の改善のためにどんなことをしましたか?

もともと、自分は濡れにくく乾きやすいタイプだったので、お守りのように常に潤滑ゼリーを準備していたんです。

彼とセックスするときも、初めから「ごめん、私これがないとだめなの」と事情を説明していました。

ーーKさんは、痛みの緩和のために潤滑ゼリーを使うことに対して罪悪感があったんですね。

彼は、「よっしゃ!わかった!使ったほうが気持ちいいんだね」と明るい反応でした。「どういうのだったらいいのかな?」と、彼自身が乗り気になって潤滑ゼリーを選びたがるほどで。

でも、「見て!これ大容量だよ!人気のAV女優がPRしてるし、いいんじゃない?」と、いわゆるローションと潤滑ゼリーを一緒くたにしていたり、内側に潤滑剤がついたコンドームを買おうとしたりしていました。

だから私は「成分をよく見てよ、膣内に挿れちゃいけないものばっかり入ってるよ!」、「摩擦で痛くなっちゃうから、コンドームの男性側(内側)が潤っていても意味がないの」と口を出しながら一緒に通販サイトを見るようになりました。

参考:潤滑剤とローションの違い知ってる?その違いを解説します

ーー二人で一緒に痛みの軽減について考えるようになったんですね。

ちゃんと潤滑ゼリーの役割を理解してからは、彼なりに「もっと弾力のあるゼリーのほうが痛くない?」、「使う量が多いと逆に感じづらくなっちゃうかな?たくさん使ったほうが気持ちいいの?」と気を遣ってくれるようになりましたね。

最初だけ使えばいいわけではなく、あとから痛くなってくることがあるともわかってくれるようになったので、途中からゼリーを追加するなど、調整もしてくれました。

セックスに対するネガティブな部分をだいぶ解消してもらえましたね。

ーー潤滑ゼリー以外に試したことはありますか?

はい。婦人科で性交痛について相談しました。

結婚後、子どもがほしいと思い不妊治療のために婦人科に通い出したんです。妊娠の相談の前に、「そもそもセックスが痛いんです」と話したら、痛みを軽減するためのホルモンが配合された膣座薬を処方してもらえました。

ーー膣座薬はどのように使用するのですか?また、使用してみて変化はありましたか?

排卵が起きてから座薬を膣に入れます。座薬なので、ちゃんと奥に入れないと翌朝溶け出てしまうこともあり、「これでほんとに効果があるのかな?」と半信半疑でした。

でも、3日間くらい薬を入れてから、セックスをしてみたら、私も彼も「あれっ、いつもと何かが違うぞ?」と。

ーー目に見えて変化があったんですね。

いつもより濡れやすくなったなと感じました。また、自分ではわかりませんでしたが、彼いわく膣の内側の感触も柔らかくなっていたみたいです。

なにより、私がいつもより痛がらないことに彼はとても喜んでいました。

*Kさんの場合の対処法と感想です。性交痛にお悩みの場合は医師に相談し、ご自分に合った対処法をとることをおすすめします。

「どうしたら二人で楽しく生きていけるかな?」性交痛のことも明るく扱えるように

Photo by Scott Broome on Unsplash

ーー「自分が満足するだけじゃいやだ」と言っていたパートナーさんの気持ちが伝わってきますね。

セックスに限らず、彼とは「どうしたら二人で楽しく生きていけるかな?」という前向きな共通意識がある気がします。

私が性交痛を感じることも、お互い暗い気持ちになることなく、なんとか明るくしようという空気がありました。

ーー具体的にどういうことをしていたんですか?

例えば、セックス中に彼が潤滑ゼリーを使うとき、なんとなく気まずい間が生まれるのがすごくいやだったんです。

ある日、なんとか楽しい雰囲気にしたいなと思って「オープン・ザ・セサミの儀式が始まった」と私がつぶやいたら、彼が「今日はお城の門番、開門してくれるかなぁ」と応じてくれて。

ーーなるほど、「ひらけゴマ」の呪文ですね。

そうですそうです。それから彼も私も面白がって、「いつになったら俺は天守閣まで登れるのかなぁ」、「おっ、今日は門番が寝てるみたいだ、城に入れそうだぞ」、「開門します!」と言い合いながら性交痛やセックスに向き合うようになりました。

ーーふざけているようで、信頼関係があるからこそ成り立つコミュニケーションに感じます。他にも、楽しむために二人で工夫したことはありますか?

……いろんなコスプレやシチュエーションプレイを試すようになりました。今思えば、そこからセックスに対する意識が大きく変わったのかもしれません。

ーーコスプレ、ですか?どういった変化が生まれたのでしょう。

もともと、私はコスプレには一切興味がなかったんです。でも、彼が突然バニーガールの衣装を持ってきて「これ、着てみたいんだ。俺って中性的な顔だし、いけるでしょ?」と言い出したんです。

普通に私に着せようとしたら断るだろうから、あえてふざけたんだと思います(笑)。

「なにそれ、だったら私が着るよ。でもこんなのどうやって着るの?」と、はじめはしぶしぶ着たんですが、以降は「今度はこれを着てみてよ!」と彼にリクエストされて、いろいろと試すようになりました。

コスプレで彼が興奮するのを見て、初めて、「セックスって視覚情報も大事なんだ!」と気づいたんです。

ーーなるほど、身体の反応から得られる快感が全てではないとわかったんですね。

はい。さらに、衣装に合わせたシチュエーションも二人で考えるようになりました。

「今日はこんな設定でしてみよう」、「せっかくなら部屋のセッティングもしちゃう?」と、私もちょっとずつ楽しくなってきて。

二人で「今日はどういうプランでいきますか?」と、こうしてもらいたい、こういう感じがいいと伝え合って、事後に軌道修正をするなど、話しあうことも増えました。

次第に「今日は私が主導権を握ってみたい」とも思えるようになったんです。

セックスは身体の反応が全てじゃない。ストーリーを感じられるようになった

Photo by Scott Broome on Unsplash

ーー初めにお話されていた、「セックスは耐えるもの」というところから考えると、かなり大きな変化ですね。

身体の反応も大事だけど、きれいごとじゃなく、心が満たされないといいセックスはできないとわかりました。むしろ、私は「物語」に興奮するんだと気づいたんです。

ーー「物語」?

例えば、彼がいつもより汗をたくさんかいていたり、表情に変化があると、「私に興奮してくれているのかな、気持ちいいのかな」と感じることができる。

性器への刺激や快感だけじゃなくて、視覚、触覚、体温、声の温度、全部にストーリーがあって、それがセックスなんだって。

ーー身体以外に意識が向くようになって、心でストーリーごと感じ取れるようになったと。

10−20代の頃は、付き合う気がないのに性行為だけを求めてくる人もいました。そんなセックスは心が満たされず、虚しさしかなかったです。

思い返すと、以前は私自身の自己肯定感が低くて、自分を認める力が乏しかったと思います。

自己肯定の代わりが、「性行為」だったときもありました。私が痛みに耐えて相手が気持ちよくなること=自分が認められたような気がしていたんです。

セックスは相手軸でしかなくて、自分の気持ちはあとまわしでした。

ーー今のパートナーとのセックスを通じて、次第に「自分軸」を持てるようになっていった。

彼は、セックスだけじゃなくて全てにおいて私の存在を認めてくれました。

私はもともと夫に片思いをしていたので、結婚する前から、彼とのセックスが終わった後にはいつも「今日も私とセックスしてくれてありがとう」と伝えてきました。

それは、「こんな私を抱いてくれてありがとう」という意味でも、性行為に対する「ありがとう」でもなくて、「お互いの存在を認めて尊重する関係を築けたこと」に対する感謝です。

「俺もだよ」と返してくれて、この人でよかったなぁと感じます。

ーー「お互いが満足をするセックス」を含め、二人で関係を築いてきたんですね。

むしろ、徐々に積み上げていくほどの余裕はなかったかもしれません。40歳で結婚したので、42歳までには第一子ができたらありがたいなぁと考えていました。

でも、妊娠するようにタイミングをとるのも、あまりストレスを抱えたくない。とはいえ歳はとっていく。私は卵巣機能が万全ではなく、妊娠できるのか焦りもあり、どうセックスしていくか悩んでいたんです。

でも彼は、「まだまだこれからだ!がんばるぞ!」ってメンタルでいてくれて。

排卵が変則的でも、子どもを作るためのセックスではなくてコミュニケーションとしてのセックスをしようという姿勢でした。

ーーセックスは、あくまでコミュニケーションの手段として。

彼に対しては、本当に学ぶことが多いです。

関係を築いていく上で、「とりあえず二人で力を合わせてやってみよう。間違っていたら軌道修正をしたらいいよ」というスタートラインに並んで立っている感覚です。

お互いに真剣に向き合っているからこそ、性交痛すら「ひらけゴマ!」と面白がることができたんだと思います。

相手のことを尊敬していて、信頼できるからこそ、ふざけ合いながらセックスを楽しめるようになりました。

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