新型コロナウイルスの感染が広がっている中、不安な気持ちを抱えている妊婦さんは多いと思う。私もそのひとりだ。

2020年3月末時点で、妊婦さんの重症化や胎児障がいの報告はない。

一般的に、妊婦さんの肺炎は横隔膜が持ち上がり、うっ⾎しやすいことから重症化する可能性がある。そのため、妊婦さんは特に⼈混みを避ける、マスクをかける、こまめに⼿洗いするなどの注意が必要と言われている。(参考:⽇本産婦⼈科感染症学会

生活がある以上リスクをゼロにすることは難しく、みんなそれぞれにできることを模索しているように思う。

私は片道1時間の満員電車に乗る通勤をやめ、100%の在宅勤務に切り替えた。

一定の迷惑をかけてしまうことは承知の上で、それでも早い段階で在宅勤務に切り替える決断ができたのは、過去に流産などを繰り返した経験があるからだ。

職場で、自分だけが妊娠を理由に配慮してもらうなんてお願いしづらい……。そう感じている人がもしいたら、周囲に伝える勇気を持ってほしい。だから、私の過去の流産経験を綴りたいと思う。

「流産ですね」

2019年春、ある土曜日の夜。出血があって病院へ。

かかりつけの病院で妊娠確認まではできていたけれど、早ければ妊娠5週の終わりくらいから確認できるはずの心拍が7週になっても確認できていなかった。

過去の妊娠でも6週には心拍確認ができていたので、頭の片隅で覚悟はしていたものの、心臓がどくんと大きな音を立てて、身体中がこわばるのが分かった。

まだ初期、傷は浅い。でも妊娠検査薬で陽性反応を確認して、病院でも胎嚢確認をして、この2週間、途方もなく長い1日1日をやっとの想いで重ねてきた。

流産の頻度は全妊娠の約15%といわれているから、それなりに覚悟していた半面、また妊娠できたんだという幸福感だって感じてきた。だけど、またゼロリセットだ。

これからまた妊活を再開できるまで最低2カ月はかかる。35歳までに次の子を出産したいと思っていたけれど、その願いはまた遠のいた。

今この瞬間、おなかにいる赤ちゃんのことを考えるべきなのに、先生の説明を聞きながら、頭の半分ではこれから先のことを考えている自分がいた。

流産なんて経験したくなかった。

流産なんて経験しなくても、妊娠・出産の難しさは痛いほど知っている。私は2015年に初めて妊娠した子を、新生児死で亡くしている。

妊娠5カ月におなかにいる赤ちゃんの難病が発見されて「生きたまま産むことは難しい。もし生きて生まれたとしても長くは生きられない」という診断だった。

病気発覚後の妊娠期間のさまざまな苦悩を家族や親友、上司・同僚に支えられながらギリギリのところで乗り越えて、妊娠7カ月の頃、自然分娩で長男を産んだ。

厳しい状況だったにも関わらず、長男は生きて生まれてきてくれて、言葉にできないほどあたたかな幸せなお産だった。

そんな経験をしてきているから今さら流産なんて経験する必要なかった……。必要なかったのに……とあふれ出しそうになる涙をまた身体の奥に戻す。

待合室で待っていてくれる夫と次男の存在に支えられながら、なんとか涙は流さなかった。次男は2歳で、まだ赤ちゃんの頃からの名残で手やほっぺがふっくらしている。「ぎゅってしていーい?」とお願いして、抱きしめてもらって、自分の中の「正常」をあらためて取り戻した。

夫には「ごめんなさい」と小さな声で謝った。謝るところではないと分かっていても、また「ごめんなさい」以外の言葉が出てこなかった。夫は言葉や仕草がいつも優しい人で、この日も変わらず優しかった。

悩み抜いた末に、上司にメールで報告

流産にも色々と種類があるらしく、私の場合は「進行流産」と診断された。

〇稽留流産

胎児は死亡しているが、まだ、出血・腹痛などの症状がない場合。自覚症状がないため、医療機関の診察で初めて確認される。治療として、入院して子宮内容除去手術を行う場合と、外来で経過を見て自然排出を期待する場合がある。医師の判断や患者さんの希望によりどちらかを選択する。

〇進行流産

出血がはじまり、子宮内容物が外に出てきている、いわゆる「流産」の状態。子宮内容物がすべて自然に出た「完全流産」と、子宮内容の排出が始まっているが、まだ一部が子宮内に残存している「不全流産」に分けられる。

「子宮内容物が自然排出されなければ、子宮内容除去手術をする必要がある」という趣旨の説明を受けて、しばらく様子をみることに。

タイミング良く(?)土曜日の夜だったので、とりあえず日曜日は自宅で安静に過ごすことに。徐々に出血量が増え「ああこれが流産なんだ……」といよいよ現実味が増してくる。

日曜日の夜の出血量は、夜用ナプキンを1~2時間ごとに取り替えれば耐えられる量だった。会社では部門の責任者を務めていて、週明けの月曜日はあるイベントの本番だった。

休むという状況ではない。でも、職場で大量出血でもしたらどうしよう。普通の生理とは違うので、急に出血量が増えるかもしれない。そもそも精神的にやや不安定で、職場で責務を果たせるのか私。

悩みぬいた末に、まだ妊娠報告もしていなかった役員(女性)に、流産をメールで報告することに。

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〇〇さんどまりにして頂けると有難いのですが、実は土曜日夜に流産をしてしまいました。心拍確認に至る前の超初期だったのですが…。生理の時よりも多い出血が続いており、貧血気味で心身共にやや不安定な状態です。明日日中の〇〇(イベント)は参加させて頂きたく思っているのですが、体調が芳しくなく懇親会の方は欠席をさせて頂ければと思っております。〇〇さんだけには知って頂ければと思い、ご連絡をさせて頂いてしまいました。体調を見ながらですが、大丈夫そうであれば明後日以降も通常出勤をさせて頂き、連休中に身体を休めたいと思っております。難しそうな場合はまだご相談させてください。〇〇(イベント)の前日に申し訳ございません。(実際の文面)

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休むことだって多分できた。

私がいなくてもきっとなんとかなる。

誰にも言わずに隠すこともできたかもしれない。

でも自分の心身を鑑みて「イベント本番は役割を果たせる」「イベント以降の仕事も穴はあけずにすみそう」「懇親会やパーティーなどの社交の場は当面行けそうにない」とその場では判断した。

とはいうものの、仕事をしてみないと実際のところは分からない。急に涙があふれだしたり、取り乱すかもしれない。責任者として正しい意思決定ができる状態ではないかもしれない。

そういう状況になるかもしれないことを、自分の上司に知ってもらうこと、さまざまな意味合いのバックアップ体制を築くことは、プロとして必要だと思ったし、それは何より自分への安心材料になった。

大丈夫。もし「やっぱり仕事できない」と思っても、仕事をカバーしてくれる心強い仲間がいる。

ほかにもいくつかの安心材料(会社で泣きたくなったらあそこに行こうとか、誰かに話を聞いてもらいたくなったら〇〇さんに話そう、とか)を心の中でリスト化して会社へ向かった。

妊娠報告のベストタイミングはいつ?

Photo by mochi / Laundry Box

今回は「流産」の報告だったけれど、そもそも職場への妊娠報告のベストタイミングはいつなのか、非常に悩ましい、という話はよく聞く。

「妊娠報告は、安定期(妊娠12週目以降)に入ってからが良い」という意見もあるけれど、安定期に入る前の妊娠初期こそ、ホルモンバランスの変化に伴う倦怠感やつわりなどの体調変化が表れやすい傾向にある。周囲のサポートが必要なケースも多い。

私自身初めての妊娠のときは上司への報告タイミングを随分と迷って、心拍確認ができたあとしばらく経って、妊娠3カ月頃の報告だったと思う。

妊娠・出産に苦労している人が周囲に多かったこともあり、あまり大々的に職場に妊娠報告をするつもりはもともとなかった。

だけど、プロジェクトに関わっている〇〇さんにも伝えたほうがいいかな、〇〇さんにも…と自分の気持ちとは裏腹に、義務的に妊娠報告を重ねていた。

今なら分かる。そんなことはしなくていいと。

仕事の割り振りがあるから直属の上司には伝えた方がいいけれど、それ以外の人には、伝えたい人にだけ伝えればいい。

妊娠経過は千差万別で、産婦人科医からも「ひとつとして同じお産はない」とよく聞く。体調も、妊娠の受けとめ方も、周囲のサポート状況も、同じ人はいない。

周囲に妊娠報告をするときは、妊娠週数・状況に加え「自分の正直な気持ち」をあわせて伝えることが大事だと思う。

たとえサポートしたいと思ってくれている人がいたとしても、それは自分が望むサポートの形とは違う可能性もあるからだ。

信頼できる人にそっと打ち明ける

妊娠報告を受けた方へ。あなたの上司・部下あるいは同僚は、一大決心の末、あなたに妊娠報告をしているかもしれない。どうか、妊娠・出産の経過は人それぞれ大きく違うことを心にとめて、話を聞いてあげてほしい。

未曾有の新型ウィルスが猛威を奮っている。今、この瞬間においても、妊娠報告のタイミングを悩んでいる妊婦さんはいると思う。こういう状況下だからこそなおさら、安定期を待たずに、周囲に報告することは、悪いことでは決してない。

信頼できる人にそっと打ち明けることで、不安な思いが少しでもラクになるかもしれないから。

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【参考リンク】

日本産婦人科感染症学会
公益社団法人 日本産婦人科学会「稽留流産の診断」
公益社団法人 日本婦人科学会「流産・切迫流産」

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