ランドリーボックスは、外陰部の構造を楽しく、正しく理解し対話するためのパペットBa-Vulva(ばあばるば)を企画・制作しています。 

ばあばるばでは、適切な情報を知り、対話を通じて健やかな日々を送っていただきたいという想いから、<Ba-Vulva Friend>と題し、国内外の性教育やセクシュアルヘルスの専門家にインタビューをしています。

今回は、オーストラリアでセクソロジー(性科学)を学び、日本の性教育の現状と課題について発信している金ハリム(キム ハリム)さん。

性教育は「人権教育」だと語るハリムさんが、セクソロジーを学んだ中で感じた性科学の課題、今後の展望について話を聞きました。

──セクソロジーとの出会いについて教えてください。

大学と大学院でジェンダーの勉強をしていて、人権団体で働いていた社会人2年目の頃でした。

友人の高橋宏美さんと一緒に「人権教育としての性教育」というセミナーを企画したときに、包括的性教育について知るようになったんです。
ジェンダーの学びを仕事に活かしたいという願望も強かったので、日本で性教育を行うNPO団体「ピルコン」の活動にも参加して、そのうちにセクソロジーに関心をもちはじめました。

── 友人の高橋宏美さんと「セクソロジープロジェクト」も立ち上げられています。包括的性教育のワークショップなどもされていますが、現在はどのような活動をされているのでしょうか?

現在は、ピルコンで教材翻訳・作成の協力や、性に対する価値観トレーニングを行なってたりします。オーストラリアにおけるマイノリティのユースの支援事業にも関わっています。

──そして、ハリムさん自身は先日までオーストラリアのカーティン大学でセクソロジーを学ばれていましたよね。
はい、きちんと体系的にセクソロジーを学びたくてカーティン大学に留学しました。実際に学んでみると、想像以上に厳しかったです。1週間で100ページを超える文献を読みつつ、エビデンスに基づかない議論は減点となります。

軽い気持ちで学びたいと入学すると、課題の大変さに驚くと思います。
カーティン大学のセクソロジー課程は、卒業とともにオーストラリア性科学会(SAS)の学会メンバー資格が得られるほど信頼されているプログラムです。

── どのような人が学びに来ていますか?
医療従事者、カウンセラー、教育者が多くて、一番多いのは心理学出身の人たちです。

次に教育関係、ソーシャルワーク、医療従事者という感じです。それぞれすでに学位を持って働いている人が多いです。セクソロジーは大学院しかないので、かなり専門性の高い分野です。

性科学を学んで気づいた日本に足りない性教育

── 性科学を学ぶ中で、日本の性教育で足りていないと感じることはありますか?

いろいろありますが、特にプレジャー(快楽)の話は足りていないと感じます。日本において性教育は、学ぶ時間の制限が大きいこともあり妊娠や感染症予防の話だけになってしまっています。

包括的性教育には、性のポジティブな面や人権の観点、多様性の話も含まれていますが、日本ではそこが抜け落ちているように思います。あとは、「Toxic masculinity トクシック・マスキュリニティ(有害な男性性)」の話や、メンタルヘルス、高齢者の性の観点も大切です。


個人的に一番足りていないと感じるのは、多様な子どもたちへのインクルーシブな教育です。たとえば、部落の子でも障がいのある子でも、在日コリアンや外国ルーツを持つ子どもでも、「自分たちのこと」と思えるような教育内容が十分ではありません。

ジェンダーにおいては異性愛中心の内容になっているのも問題で、性の多様性をベースにしたコンテンツではなく、多様性を別の柱として扱っているところが根本的な課題だと感じています。

── 多様性を別の柱としてというのはどういうことでしょうか?

もともと性は多様であるにもかかわらず、異性愛を前提にした内容の中に、いわゆる「LGBTQ」や「性的マイノリティ」の人も存在するよね、という話し方をしてしまうと、まるで異性愛=「ふつう」、同性愛・両性愛など=「ふつう」じゃない、という構造を作ってしまう。

なので、そもそも異性愛も、同性愛も、その他も全部、性の多様性の一部なんだという伝え方が重要、ということです。

解剖学的知識はトランスフレンドリーな視点にもつながる

──  セクソロジーを学んで新しく知ったことはありますか?

身体の構造として、バルトリン腺(膣口の左右にあり、性的興奮時に分泌液を出して膣を潤す腺)やスキーン腺(尿道の両側にあり、尿道を保護し潤滑する分泌液を出す腺)の存在を知ったときは感動しました。スキーン腺が前立腺(男性の生殖器の一部で、精液の一部を分泌する腺)とすごく似ているということも。解剖学的に機能は違うけど、形は同じなんです。

こういう知識があると、性に関する話もより包括的になりますし、トランスフレンドリーな視点にもつながります。

骨盤神経の複雑さも興味深いです。人によって神経の走り方が違うから、どこが気持ちいいかプレジャーのスポットも人それぞれ。「みんな違ってみんないい」が科学的に証明されているんです。

それから、正確な解剖学的知識を知らないことが、実は性暴力の増加にもつながるということも学びました。自分のからだがどうなっているのか、正式な名前を知らないと、何かされたときに説明できない。自分のからだを理解することから、すべてが始まります。

日本人の友人で、30代になるまで女性の下半身には穴が3つあることを知らなかった人がいました。尿道と腟口を同じだと思っていたそうです。こういうことが起こるのは、基本的な性教育が不足しているからです。


── 私たちは性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」を作っています。このような教材についてはどう思われますか?

素晴らしいと思います。実際に形や色を見ないとわからないことがたくさんあるんです。私もセクソロジーを学ぶまで、バルトリン腺やスキーン腺の存在を知りませんでした。知った時の嬉しさといったら!

解剖学的な正確性を伝えるには、やはり模型が一番効果的です。Ba-Vulvaの色も良いですよね。リアルな色よりも、あえてポップな色にすることで親しみやすくなっている。

AVやポルノで広まっている「理想の色」のイメージを払拭する意味でも重要だと思います。


── Ba-Vulvaを使ってどんなことができそうですか?

解剖学講座とかもできますよね。「これがVulvaで、ここにクリトリスがあって」と実際に見せながら説明ができる。
ポルノで見る外陰部と実際の多様性は全然違うということを、視覚的に示せます。
私のパートナーも自分の外陰部の形を「おかしい」と思っているんです。でも実際には全然おかしくない。こういう模型があることで「みんな違ってみんないい」ということを伝えられると思います。

── Ba-Vulvaに期待することはありますか?

今の膨張した状態のクリトリスだけでなく、平常時のバージョンとかもあるといいですね。あと、今作っている途中とのことですが、子宮の模型もぜひ。

インスタグラムでの発信も応援しています。医学的名称でも規制対象になってしまう問題はありますが、日本語なら英語ほど厳しくチェックされていないかもしれません。

科学的根拠に基づいた情報を広めるBa-Vulvaの活動は本当に重要だと思います。

──今後の活動について教えてください。

性教育をちゃんとプロフェッショナルな仕事としていきたいですね。人権教育としての性教育について学ぶ機会を提供していきたいです。


──最後に、読者へのメッセージをお願いします。

性教育は決して恥ずかしいものではなく、人権教育の一部です。自分のからだを知ること、相手を尊重すること、多様性を認めること。これらはすべて、人として大切な価値観です。

日本でも包括的性教育が広まることで、もっと多くの人が自分らしく生きられる社会になると信じています。

特に、在日外国人や移民、外国ルーツを持つ子ども、部落地域における子ども、障がいのある子どもなど、あらゆるマイノリティの子どもたちにも「自分たちのこと」として思えるような包括的な内容にしていくことが本当に大切だと思っています。

人権教育としての性教育が広まれば、もっと誰もが大切にされる社会になるはずです。

ーー

お話を伺った方

金ハリム
ソーシャルセクターにかかわる企業に在職。任意団体セクソロジープロジェクト共同代表。

オーストラリアと日本で人権教育としての性教育に関わっている。
社会学、ジェンダースタディーズについて主に学んだ後、人権教育の企画職を赴任。2025年にオーストラリア カーティン(Curtin University)にて性科学修士号 (Master’s degree in Sexology)を取得。大阪大学大学院人間科学研究科 博士前期課程修了。

得意な性教育テーマは、性の多様性、ボディイメージ、プレジャー、SNS、インターセクショナリティなど。

本記事はランドリーボックスが制作している性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」の公式サイトの記事を一部編集の上、転載しています。

https://laundrybox.co.jp/Ba-Vulva/kimharim_interview

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