子宮内黄体ホルモン放出システムIUS(Intra Uterine System)を知っていますか?
子宮内に子宮内黄体ホルモン放出システムを装着すれば、黄体ホルモンを持続して放出することで、子宮内膜の増殖を抑え、月経量を減少させるとともに月経痛が軽くなります。婦人科で装着してもらうことができます。避妊効果が続くだけではなく、生理痛や経血量の多さに悩んでいる人にとっては救世主になるはず。
まだあまり知られていないIUSについて、婦人科医の宋美玄先生に話を聞きました。
現代女性は、子宮を酷使している
—私たちは、生理の日々が少しでも心地よくなれる選択肢を伝えるために、生理メディア「ランドリーボックス」を立ち上げました。まず、生理についてですが「きちんと教わっていない」という声をよく聞きます。
月経について学校で習うときって、どんな感じでした?
私が記憶しているのは、学校で女子だけ教室に集められて、先生が「お父さんの何億個の精子と、お母さんの何百億の卵子のなかから出会った奇跡。それがアナタなのです」、「生理とは赤ちゃんのベッドなのです」と奇跡とか神秘の話をされました(笑)
あとは「大人になった証です」「月経は毎月きます」それくらい。で、どうすればいいの?というところは教わっていません。
生理って大事なことなのに、あまり触れてはいけない話題のように感じてしまいますよね?子どもが性器を触ると「やめなさい」と怒ってしまう親がいる。なんでそこだけ触っちゃダメなの?と。学校や家庭内での性教育が不十分だと、子どもとしては「この話はあんまりしないでおこう」と思ってしまいますよね。
—生理に関しても「赤ちゃんを産むため、自然なこと」と考え、生理痛でつらくても薬や病院には頼らない、という人もいますね。
いま子宮内膜症や子宮筋腫になる人がとても増えています。現代病ともいえるでしょう。
ひとつクイズを出しますね。昔と比べて子宮内膜症など婦人科系の病気が増えているのですが、理由は次のうちどれでしょう?
1. エアコンが普及したことで女性たちのカラダが冷えたため
2. 石油など有害物質を含む生理用品が普及したため
3. 食品添加物が増えたため
正解はこの中のどれでもありません。
現代女性は初潮が早まり、出産回数も昔ほど多くないため、100年前と比べると生涯経験する生理の回数が9倍にまで増えています。生理の回数こそが、病気が増えた原因なのです。
毎月、排卵して着床の準備をしてそれが剥がれ落ち経血となって出てくる。生理は健康の証でもなんでもなく炎症です。その回数が増えたことで、カラダに負担がかかり子宮内膜症、子宮筋腫といった病気が増えたのです。生理によって、実はカラダを酷使している状況なんですよ。
生理痛や経血量が多い人は、必ず婦人科で診察してもらうようにしましょう。病気の場合は治療が必要ですし、重たい生理痛にはピルやIUSなどの選択肢もあります。
IUSは忙しい現代女性におすすめ
—宋先生もIUSを装着しているそうですね。
はい。2人目の子どもを出産したあとIUSを入れました。IUSの存在を知ったとき「こんなにいいものがあるのか!」と思いました。それから子どもを産んだらIUSを入れて、さっさと生理とおさらばするのが夢だったんです(笑)
—子宮に器具を入れるってちょっと怖い印象もあります。出産を経験していなくても入れられるのでしょうか?
未経産婦は入れられないとの間違った情報もありますが、実際は未経産婦でも問題ありません。装着するときに子宮口を広げるので、未経産婦さんの場合は、多少痛みをともないます。
性交渉の経験がないと、怖く感じる人もいるかもしれないので、そういう人はピルのほうがいいのかもしれません。まれに、脱出(IUSが外れてしまう)や腹痛などがある場合もあります。そのときは、すぐに婦人科で診てもらうようにしてください。
人によっては初めの数カ月間は、不正出血があります。私の場合は3カ月〜半年くらい、たまに出血がありました。徐々に出血量が減ってそのうちに止まります。
—どんな人におすすめですか?
年齢や肥満など血栓症のリスクがあってピルが飲めない人。ピルが合わない人やピルを飲むのが面倒な人にもおすすめです。とにかく負担が減るので、毎月の生理がつらく、忙しい女性たちにはおすすめです。
—現在はどれくらいの人がIUSを装着しているんでしょうか?
データがないのでなんともいえませんが、ここのクリニックでも年間100人ペースでIUSを希望する患者さんがきます。取り扱いのクリニックがまだ少ないため、使っている人も少ないですが、徐々に増えている印象です。選択肢のひとつとしてまずは知ってもらえたらと思います。
IUSは医療機関側に利益が少ないので取り扱わないクリニックが多いのもわかる気がします。私は困っている女性たちにひとつの選択肢として提供できればと思っているので、趣味に近いかもしれません(笑)。
相性のいいかかりつけ医を探そう
—お話を聞くと、かかりつけ医の大切さがわかってきました。一方で、どのクリニックを選べばいいかわからないという悩みも聞きます。選び方を教えてください。
ひとついえるのは、初めから大きな病院ではないほうがいいと思います。産科院の場合は、出産メインなので第一選択ではないかな。ピルが合わなかったときに、ほかの選択肢を出してくれるよう、扱うピルの種類が豊富なクリニックがいいと思います。
口コミサイトもあまり頼りにならないので、まずは身近な友だちに「ここのクリニックはこの点が良かった。この点はいまいちだった」という話を聞いてみて、重視する点とそれほど気にならない点を自分なりに判断するしかないですね。
相性って行ってみないとわからないので、最初からホームランを狙いに行くんじゃなくて、まずは足を運んでみるといいです。
—クリニックに行くタイミングもわかりません。単なる生理痛くらいで行くのも悪いかな?と思ったりします。
生理痛ならすぐきてください。くる方は、どんなにクリニックが混んでても毎回いらっしゃいますよ。正直者がバカを見るじゃないですけど、遠慮していたら損です。自分のカラダを大事にしてくださいね。
—わかりました。すぐに行きます。
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お話を聞いた方
産婦人科医
宋美玄(そん・みひょん)
1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。子育てと産婦人科医を両立、メディア等への積極的露出で“カリスマ産婦人科医”として様々な女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などに付いて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。2017年に丸の内の森レディースクリニックを開院。