キスやハグ、手をつなぐ、セックスなどの性的行為は、お互いが「したい」と思っているかどうかを確認する必要があります。
これを「性的同意」と呼び、最近重要視されているテーマです。
とはいえ、「大事だとはわかっているけど、どうやって伝えたらいいの?」と、実際の場面で性的同意のとりかたがわからない人も多いのではないでしょうか。
今回は4つのケースを具体例に、公認心理士の潮英子先生にきいた性的同意のとりかたの例を紹介します。
お話を聞いた方
公認心理師
潮英子
大学卒業後、商社勤務や台湾での日本語教師、航空会社勤務を経て、お茶の水女子大学大学院人間で夫婦問題を研究。自らの国際結婚・離婚、転職経験を活かし、セクシュアリティ、夫婦関係、女性のキャリア等の相談活動を行っている。過去20年間に携わった相談は2万件以上。著書「女性カウンセラーが教える50代からのhow to SEX」(光文社)等。
*4つのケースは順次公開予定です
ケース①:付き合いたてカップルのお泊まりデート
ケース②:産後の夫婦間のセックス
ケース③:彼女が「やめて〜」と言っている場合
ケース④:性に淡白な男性が、彼女から毎週求められる
まずは、潮先生に「性的同意」の問題点を解説していただきます。
性的同意の3つの問題点
#MeToo運動が盛んになった頃から「性暴力」「性的同意」という言葉が広く知られるようになり、日本社会の意識が大きく変わったと思います。また昨今は芸能人が過去の性加害を告発され失脚していく様を見て、「加害者と見なされる行動をしたらまずい」という危機感を覚え、自らの行動に気をつける男性は明らかに増えました。
ただ、以下のような問題点があるように思います。
①男性が同意に気を遣っている対象は、職場、友人、第三者に限られる
女性全体に対しての性的な言動や職場の上下関係を利用してセクハラ行為をしたらアウト、という意識は醸成されてきました。
私のカウンセリング室では、以前は上司や大学教授からのセクハラに関する相談をよく受けましたが、最近は滅多にありません。今は企業や大学内に必ずハラスメント相談室があるので、被害者から訴えられて懲戒処分になることを恐れ、権力のある側が自重するようになったのだと思います。
しかしこれはあくまで対知人や上下関係を利用した性的言動においてです。
交際相手や夫婦間での性行為においても同意が必要という意識はまだ低いという印象です。「パートナー間にも同意が必要」と聞いたことはあるのでしょうが、本音としては「そうは言ってもこれまで何度もしてきたんだし、今更いちいち聞くなんておかしいだろう」と考えている人が多いように思います。
②女性は「男性の同意をとる」意識が低い
世間で話題になる性暴力関連のニュースは圧倒的に男性が加害者のケースが多いため、同意する・しないの選択肢女性側にあると考えている女性が多いようです。
セックスレスは30年も前から社会問題として取り上げられており、カウンセリングでも男女双方からよくある主訴です。
しかし男性が消極的なケースをみると、
- 男性は「性欲が湧かなくて申し訳ない」と罪悪感を感じている
- 女性は「男性なのに性欲がないなんておかしい。浮気しているのでは?あるいは私を嫌いになったのか?」と、「男性には性欲があって当然」という発想から出発している
- セックスに応じてくれない男性を責めるか、求められない自分はもう愛されていないと思い落ち込む
という傾向があります。
また、女性は「自分から誘って断られるのが3回続いた。もう惨めでこれ以上誘えない」と、女性から誘って断られることを「恥」ととらえている人がとても多いです。
③建前と本音は違う、とどこかで思っている
性的同意という概念を充分理解していながらも、「実際には、いちいちしていいかを聞くのはシラケるし、逆にお互い恥ずかしい」「夫婦間で断って日常生活がギクシャクしたら困るから拒否なんて不可能」と思う人も多いようです。
毎回同意をとるのは正しいこと、と思いつつも非現実的な理想像という印象を持たれているのが現状です。
はじめてのお泊まりデート。「今日はまだしたくない」と伝えるには?
さて、上記を踏まえて、ケース①を見ていきます。
ケース①:付き合いたてカップル
付き合って1カ月の20代学生同士。彼氏との性行為に興味はあるけど、ちょっと怖い気も…。そんなときに、お泊まりデートに行こうと誘われ、行きたい気持ちももちろんあるので行くことを決めました。ごはんを食べたあと、なんとくなくスキンシップから、体を倒されてセックスの雰囲気に。「今日はまだしたくない」とどう伝えればいいのでしょう?
まだ交際相手とセックスをしていない段階ですね。この時点でしっかり話し合えていれば、その後もうまくいくのでチャンスです。
理想を言えば、交際すると決めた初期に自分の考えを伝えておくのが一番です。
「私はまだ性行為が怖い。あなたのことが大好きで、最高にいい関係になりたいから、あなたとセックスしても大丈夫と私が思えるときまで待ってほしい」と伝えたら、彼女のことを大事に思ってくれる彼なら納得してくれるはずです。
ただ、このご相談ではお泊まりに行き、すでにセックスの雰囲気になってしまっている場面です。
恐らく彼は「ここに至るまで抵抗しなかったのだからYESだろう」と思っています。彼女としても今断ったら嫌われてしまうかも、と不安が大きいと思います。
でも、もし心からしたいと思えないまま流されてセックスをしたら、きっと後悔するでしょう。彼が自分勝手に見えてきて、彼への思いも冷めてしまうかもしれません。それはとても残念なことです。
伝え方の2つのポイント
そこで、伝え方が大事になります。
伝え方のポイントとしては、
①どの段階でも断る権利はある。申し訳ないと思わないで毅然とした姿勢でいること
②彼をなるべく傷つけないために、「アイメッセージ」で伝える
アイメッセージとは、主語を「私」にして、その後に感情を表す言葉を続けることです。
「私は〇〇が不安」「私は△△してもらえたら嬉しい」という伝え方です。
主語を「あなた」にして「あなたに求められるのが恐い」というと相手を悪く言うようなニュアンスになることがありますが、「私はまだ先に進むのが恐いの」と言えばあくまで自分サイドの問題で、相手を責めるニュアンスにはなりません。
まずは「ちょっと私の話を聞いてくれる?」と切り出し、きちんと向き合って話をしましょう。
「私はあなたのことが大好きで大切に思っている」
「スキンシップは嬉しいし幸せな気持ちになる」
「でも性的なことはまだ正直恐いし準備ができていない。お泊まりに来る前に話し合いをしておけばよかったし、もし私がYESなんだと思っていたのならごめんなさい。私が大丈夫と思えるようになるまで待ってくれたらすごく嬉しい」
「したいなと思ったら私から伝える。もしわからなかったら聞いてほしい。そして、そのときに『まだ無理かな』と答えたとしてもガッカリしないでほしい。あなたが好きな気持ちには変わりない」
ということをしっかり伝えます。
このときに大事なのは、「彼に申し訳ない」と罪悪感を抱かないことです。
するかしないかを決めるのは自分自身であり、相手の気持ちを忖度する必要はないのです。
当然彼はガッカリするし、ふてくされることもあるかもしれません。しかし彼女への思いが強ければ、やがては納得して彼女の気持ちを尊重してくれるはずです。
彼女の意思を受け入れてくれた彼への感謝の気持ちを充分に表し、翌日のデートも楽しく過ごしましょう。
もしいつまでも怒っていたり、それが原因でギクシャクするようになったら…。
もう答えは出ていますね。彼女を思いやれない男性は、セックス以外の面でも自己中心的にふるまうようになる可能性が高いです。そういう彼とは、交際自体を見直したほうがいいでしょう。
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私のカラダは私のものに違いないのに、自分を大切する気持ちが、パートナーや誰が決めたかもわからない社会の声にかき消されてしまうことがあります。
ランドリーボックスでは、「〜らしさ」といった、世の中の当たり前に囚われずに、自分の人生とカラダの自己決定ができる社会を目指し、本特集をお届けします。
自らのカラダとココロをしっかりと自分の手で抱きしめられるように。
そして、私たちと、私たちを取り巻く愛すべき人たちが健やかに過ごせるように。
本特集に際して、「性的同意」にまつわる実態を把握するためのアンケートを実施しています。
みなさんのご意見や体験談をお寄せいただけますと幸いです。アンケートへの回答はコチラから。