最近、セレブを中心に「代理出産」という言葉を耳にする機会が増えました。
なぜキム・カーダシアンやパリス・ヒルトンなどのセレブたちは代理出産を選ぶのか。注目が集まる代理出産ビジネスを探っていきます。
世界で需要が高まる代理出産ビジネス
晩婚化・晩産化が加速する中、代理出産ビジネスの世界の市場規模は2032年までに1290億ドルを超えるともいわれ、発展しています。
もし、あなたが経済的に余裕があっても産めない事情がある場合、子どもをどうしても欲しいとしたら、代理出産はあなたの選択肢に入りますか?
日本では2024年現在、代理出産に関する法整備が進んでおらず、禁止もされていません。ただし日本産科婦人科学会が代理出産を認めていないことから、今の日本では実質、不可とされています。法制化されている海外諸国で、日本人が代理出産を依頼した事例があります。
また、次のような問題を指摘する声もあがっています。
「女性の身体を出産のための道具のように扱っているかのようで、倫理的課題がある」
「富裕層が貧困女性を搾取する経済格差の構造」
「母体や胎児、依頼主に不測の事態が生じた際の対応」
「子どもを授かりたいのなら代理出産ではなく特別養子縁組がいいのでは?」
代理出産は不妊治療の選択肢や、高齢出産のリスク回避、同性カップルが子どもを持つ手段として注目されることが増えています。一方で、経済的な理由で身体を提供する女性の存在や、女性間の格差など複雑な問題をあわせ持っています。
アメリカ全体では代理出産が合法化されていないものの、2021年にニューヨークで商業的代理出産が合法となってから「女性の選択肢を広げるもの」としてビジネスも活発になってきています。
アメリカのマイアミを拠点に置く代理出産プラットフォームNodalは、これまで合計870万ドル(約13億4,600万円)を資金調達し、需要の高さに応じて高騰化する代理出産の費用や、何カ月もの待機状態を解決しようとしています。
子どもを望む依頼者と、代理母となる女性を結びつけるマッチングは、アメリカでは平均は9〜18カ月かかるところをNodalは平均45日でマッチングを可能にし、2022年9月のサービス公開からこれまでに108人の依頼者と代理母をマッチングさせています。この数は従来の斡旋業者の年間25人に比べると数も多くスピーディーです。
さらに、代理母のメンタルケアにも取り組んでおり、新人の代理母に対して、経験豊富な先輩がメンターとして相談に乗り、代理母メンバー間での体験談共有も行われています。
「母」とは何か、根源的な問いを私たちに突きつける
代理出産ビジネスは家族づくりの選択肢の多様化として、LGBTQカップルや、不妊治療が難しいカップル、シングルペアレントへの新たな希望と捉えられています。
さらに、新しい市場の開拓として、医療サービスの創出をする可能性を秘めています。具体的には高度生殖医療技術の発展や、遺伝子検査との連携、医療ツーリズムなどがあげられます。
また代理出産は、「母とは何か」、「家族のあり方」といった根源的な問いを私たちに突きつけます。
「母」とは、血縁関係がある関係だけを指すのでしょうか?胎内で生命を育む存在だけをいうのでしょうか?遺伝子を提供する「遺伝子的な母」と、胎内で子どもを育む「代理の母」、そして子どもに愛情をかけて育て上げる「社会的な母」のいずれにも差はあるのでしょうか。
生殖補助医療(ART)が一般化する現在、「生命の選択」や「リスク回避」は代理出産に限らず行われています。出生前検査では、胎児の遺伝的な異常や疾患の可能性を調べ、中絶の選択を行うことがあります。
代理出産では遺伝的な母の様々な条件を考慮して、子どもを産むことを他者に依頼します。
受精卵、胎児、新生児のどこからが「生命」と見なされるのか、それぞれに生命の価値はどのように変化していくのでしょうか。
また、経済的な理由だけではなく、他者の生命誕生に貢献したいと願う女性もいますが、その視点で語られることは少ないです。代理母になることを選ぶ女性が、自主的に身体を代理出産ビジネスに生かしているという「自律性」は認められないのでしょうか?
代理出産についてをオープンに語る有名人
女優・歌手であるセレーナ・ゴメスは、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス)と双極性障害の持病を持ち、服用している薬の影響から自ら妊娠することができないため、代理出産や養子縁組を検討していると公表しました。
サッカー界のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウドは5年前の32歳のとき、代理出産によって双子の「未婚の父」となりました。
子どもを持ちたい男性が、結婚やパートナーの存在に縛られず自分の子どもを持つことをできるというライフスタイルを世の中に提示しました。
アメリカの起業家のイーロン・マスクは12人もの子どもがいることで知られていますが、
第一子を乳幼児突然死症候群(SIDS)で亡くして以降、パートナーと体外受精によって子どもをもうけました。
なかでもアーティストのグライムスとの間にもうけた3名の子のうち、第二子は代理出産によるものであるとグライムス自身がインタビューで語っています。
代理出産により、女性と女性の格差が深まる懸念も
代理出産ビジネスはグローバルな取引が行われています。なぜかというと国によって法律が異なり、規制緩和された国に依頼が集中するためです。
さらに、費用が安い東ヨーロッパや中東の国に需要が偏る傾向があります。かつてはウクライナが代理出産ビジネスの人気国でした。
しかし、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が起きたタイミングで代理母から生まれた赤ちゃんは、カナダ人の依頼主の夫婦が迎えに行くことができず防空壕に避難したままになったり、産科・小児科病院を爆撃される中で代理母が妊娠9カ月の状態で戦火を逃れて各地を転々をしなければいけない状況に陥りました。
この戦争以降は、ジョージアとキプロスに市場がうつり、メキシコなど南アメリカにも広がっています。
ジョージアでは、子どもの治療代や離婚後の生活のために複数回(平均4~6回)代理出産を行う女性が存在しています。
代理出産が複雑なのは、代理母も依頼主の多くもともに女性でありながら、社会経済的な地位や選択の自由度、抱える問題が異なることです。
男女格差ではなく、女性間の格差である「女女格差」が代理出産によって深まることが問題視されています。
「女女格差」という言葉は、人材派遣業を行う実業家の奥谷禮子氏が発信した言葉ですが、この格差によって女性間での連帯ではなく、分断が広がっていく懸念があります。
代理出産が社会に投げかける問い
代理出産は、個人の選択の自由と、社会全体の価値観との間で、新たな葛藤を生み出しています。このビジネスは、個人の問題ではなく、社会全体で向き合うべき、新しい時代の課題となりつつあります。
家族のあり方、女性の役割、そして生命の尊厳といった、根源的な問いを社会に投げかけています。
医療技術の発展と法整備など多角的な視点からの議論も不可欠です。女性の経済的な選択肢を広げる一方で、新たな形の搾取を生み出している可能性もあるのです。
あなたは、代理出産についてどう考えますか?