毎月くる生理のために、どれだけのお金を使っているか計算したことはありますか?
生理用品の値段を見て、買うのを躊躇したことはありますか?
私の住むイギリスには、生理用品が買えない少女たちが少なからずいます。もしそんな状況だとしても、人にはなかなか「生理用品が買えなくて困っている」なんて言い出せないですよね。
この問題は長い間知られることはありませんでしたが、やっと少しずつ認識され始め、国が解決に向けて働きかけています。
イギリスを構成する4つの国のひとつであるイングランドでは、2020年1月20日より「教育機関での生理用品の無料配布」が正式に始まりました。教育省が率いる計画で、イングランド全土の国公立小学校、中学校、カレッジ(日本でいう高校や専門学校のような位置づけの学校)の生徒、学生が対象です。
イングランドでは、2019年にNHS(国民保健サービス)が運営するすべての医療機関を対象に、患者の要望に応じて生理用品を無料配布することが義務化されました。今回は、その対象を教育機関まで拡げたかたちになります。
子ども・家庭大臣のミシェル・ドネラン氏は、この発表に際して「生理は日常の一部です。生理のせいで若い人たちが授業を逃すことがあってはなりません」というコメントを出しています。
若年層の生理用品のニーズを満たし、知識を深める
各教育機関は、政府から1年分の資金を受け取り、提携する販売業者からナプキン、タンポン、月経カップなどさまざまな種類の生理用品を購入します。
生理用品の配布は校内の共用スペース(たとえば図書室など)で行わなければならないとされており、これは、体は女性でも心は男性であるトランスジェンダーの生徒への配慮からくるものです。女子トイレを使用しない人でも、生理がある人は生理用品を受け取れるようになっています。
また、生理を含めた健康的な生活に関する知識を深めることを目的として、今年の9月より人間関係や性行為、健康に関する教育の新ガイドラインが定められる予定です。
背景にある「生理の貧困」
こうした計画が実施される背景には、経済的事情により生理用品が購入できない「生理の貧困(Period Poverty)」と呼ばれる問題があります。
チャリティー団体プラン UKがイギリス内の14〜21歳の女性を対象に行った2017年の調査では、1/10が「生理用品が買えない」、さらに1/7が「自分では生理用品を買えないので友達から借りた」と回答しています。
こうした中には、古い靴下や新聞紙など衛生的に問題のあるものを代わりに使用する子どもたちもいます。また生理用品を使用できないことでいじめの対象となったり、万引きをはたらいてしまったりと、深刻な問題を引き起こしているケースもあります。
貧困関連の統計を専門的に手がける機関「Social Metrics Commission」による2017〜2018年の統計では、イギリスの貧困率は全体で22%、子どもに限定すると34%にのぼります。貧困家庭で育つ子どもは、家庭の経済的事情から生理用品が必要でも親に言い出せない状況にあることも考えられます。
この「生理の貧困」は、イギリスだけでなく発展途上国を中心に各国で問題となっており、イギリス政府もこの問題の世界規模の解決が2030年までになされるよう尽力すると宣言しています。
実際、イギリスでは生理用品はいくらする?
私はロンドン在住なので、今回はロンドンの主要なドラッグストアやスーパーで売られている生理用品の値段について紹介します。
生理用ナプキンは、だいたい1袋10〜16個入りで0.7〜2ポンド(約100〜290円)。2袋分をまとめ売りしているものもあり、その場合は少し割安になります。
タンポンは14〜32個入りと1箱あたりの個数に差がありますが、およそ2〜3ポンド(約290〜430円)です。
使用する量は個人差がありますが、仮に1回の生理で真ん中の価格帯のタンポン1箱、ナプキン1袋を使うとすると、約3.9ポンド(約560円)。年間12回として約47ポンド(約6800円)が生理用品に費やす金額となります。
この金額を高いと思うか安いと思うかは、人によって異なるでしょう。しかし、家賃や日々の生活費に困っている家庭で育つ子にとっては、毎月払うのが難しい場合があるはずです。また、痛み止めやサニタリーショーツなど、人によってはその他の費用がかかることもあります。
イギリスでは、生理用品は軽減税率対象
イギリスでも、日本と同じように生理用品は消費税がかけられています。ただし通常の税率は20%で、生理用品の消費税は軽減税率の対象となり5%となっています。
これに対し、非課税にすることを求める署名活動が起こったり、複数の大手チェーンスーパーマーケットが生理用品の税金を消費者ではなく店舗負担にするなど、各方面で動きが起きています。
イギリス政府も生理用品を非課税にする意向を示していますが、EU法の関係から具体的な施策が行われるのはイギリスがEUから離脱した後と見られていました。2020年1月末には、ついにイギリスがEU離脱となりました。今後この税率に変化が起きるか注目されます。
イギリスは「生理の貧困」をなくす社会の見本となるか
実はイングランドだけでなく、イギリスの各国政府が同様の施策を打ち出しています。
スコットランド政府は、イングランドよりも早い2017年に、世界初の取り組みとして教育機関での生理用品無料配布を開始しています。2019年には図書館やレジャーセンターなどにも配布対象を拡大しました。
そして、2020年2月には「生理用品を必要としているすべての人」に対象を拡大し、無償化する法案をスコットランド政府が決議したと報じられています。
ウェールズ政府も、スコットランドに続き、2019年に教育機関で同様のサービスを始めています。
イギリスでは世界に先駆けて、若い世代が生理用品に確実に手が届くようにサポートし、「生理の貧困」をなくそうとする取り組みが着実に進んでいます。
新たな課題も出てくるかもしれませんが、国が主導する動きとして、希望の持てる前進だと感じます。
女性が生理を“人生の不利益”と思わずに生きられる社会、そうした社会を作る見本にイギリスがなるのではないか。そんな期待が持てる変化です。
ランドリーボックスでは、「生理の貧困」に関する国内外の情報を集めています。自治体や教育機関、企業、団体などが取り組んでいる施策、無料配布が行われている地域など情報をお持ちの方はぜひ、こちらのフォームにご記入ください。