フェムテックという言葉が拡がるなかで、セックストイやプレジャーグッズに対するハードルも下がってきたように感じます。
セックストイを使ってセックス中の快感やオーガズムを体験したり、セルフプレジャーの質をあげるのは性生活においてとても大切なこと。
けれど、性生活を楽しむためには、安全にセックスができる環境も必要です。
今回は安全に性を楽しむためのインフラを整えるプロダクトを開発しているスタートアップ、Kinsae (https://kinsae.com/)の共同創業者、エリザベス・テカンヨさんに話を聞きました。

従来のコンドームに限界を感じて起業した
こんにちは、Elizabeth Tekanyo(エリザベス・テカンヨ)です。
2020年に共同創業者としてKinsae(https://kinsae.com/)を立ち上げました。

私たちは従来の男性用・女性用コンドームに取って代わる、新しい形の避妊具「DARCi(ダーシィ)」を開発しています。
私ともう一人の共同創業者であるTrang Nguyen(タラン・ニュエン)は既存の性的指向や性自認に当てはまらないクィア(Queer)女性と自認しています。
そのため、従来のコンドームではオーラルセックスでの性感染症予防に限界を感じていました。
DARCi(ダーシィ)は女性だけでなく、外陰部を持つ人*すべてが多様な性生活を安心して楽しめる商品をコンセプトに開発しています。
女性の生殖・セクシュアルウェルネスの「あったらいいのに」に対応するフェムテック業界でも、クィアコミュニティのニーズにあった商品やサービスはまだまだ少ない印象です。
DARCiの開発前に、29か国から500人のクィアと自認する人たちにアンケート、インタビューなど、マーケットリサーチを行いました。
結果は、500人中、85%の参加者がオーラルセックスの際に性感染症予防対策をしていませんでした。理由は選択肢が限られているからです。
性交渉時に膣に貼って使うデンタルダムやLoralsというラレイテックスを使用した使い捨ての下着も出ていますが、挿入はできません。
多様な性生活へのニーズに可能な限り対応できる商品を開発したいと考えています。
*外陰部を持つ人(Vulva owner):「女性」という言葉はノンバイナリーのアイデンティティを持ち、且つ女性の体を持つ人を含まないため、よりインクルーシブな用語として英語圏で使われ始めている表現。
外陰部をもつ全ての人に向けたDARCiとは?
現在、一般的に使われているのが男性用コンドームかと思います。しかし、男性用コンドームはやはり男性主体での避妊・感染症予防になることが多いのではないでしょうか。
それゆえ、ステルシング(性行為の最中にコンドームを同意なく外すなどの行為)の被害も多く上がっています。
膣を持つ人が主体的に使える避妊具・性感染症予防の方法としては、女性用コンドームがあります。
ただ、女性用コンドームは膣内に挿入して装着する必要があるため、膣が十分に濡れていない状態では痛みが伴う可能性もあります。
そのほか、性交渉時に膣に貼って使うデンタルダムはオーラルセックスでの性感染症予防にはなりますが、オーラルセックス中にずれないように手で抑える必要があるなど、機能的ではありません。なにより、とにかくセクシーではありません。
そこで、デンタルダムと女性用コンドームを組み合わせた、新しい形のコンドームがDARCiです。

DARCiは一つで二役の機能を担っています。
一つは、オーラルセックスでの性感染症予防です。
レイテックス製の湿布のように粘着性のある薄いシートで、膣全体を覆うことができます。性行為中にズレたり、手で押さえる必要がない吸着性のあるシートです。
クリトリスを覆う箇所にはシートの内側に凸凹した加工がされていて、オーラルセックスや指の刺激でプレジャーが増す設計です。
現在開発中ですが、膣からシートをはがす際には、剥がす痛みや、アンダーヘアの巻き込みがないようにする予定です。
二つ目は膣内にセックストイや性器を挿入をする際の避妊・性感染症予防です。
シートの内側に女性用のコンドームが折りたたまれてくっついているような設計で、シートを外陰部に装着して挿入時にコンドームの部分を膣に装着します。
DARCiは一枚のシートとして、オーラルセックスのみでも楽しめるし、挿入時のコンドームとしても使えます。
プロダクトローンチは2024年を目指しています。
安心がプレジャーに繋がる
プレジャー(快楽)というコンセプトはエロティックな性的行為や身体的な快感に焦点が置かれがちですが、私たちはもっと広い定義でプレジャーを捉えています。
例えば、セックスする時にリラックスできる、安心できる環境が整っていることがプレジャーに繋がると考えています。
女性や外陰部を持つ人で、男性とセックスをする時に、男性主体の避妊や性感染症のリスクに不安を感じた人もいるのではないでしょうか。
不安要素がある中では、セックスは楽しめません。
人によっては避妊や性感染症予防に関するコミュニケーションがしづらい、気まずいという人もいると思います。
もちろん避妊具をつけてほしいとコミュニケーション、交渉ができることはとても大切ですが、自分で避妊具をつけるという選択肢があれば、男性に聞く必要がなくなるほか、自分で自分の身を守ることができるのではないでしょうか。
投資家に向けても性教育が必要
Kinsaeは2020年に設立したスタートアップ企業なので、資金を提供してくれる投資家を常に探しています。
しかも現在アメリカにおける投資の90~95%が男性のスタートアップ企業に流れています。女性が立ち上げたスタートアップ企業はまだまだ資金調達に高いハードルが課せられているように感じます。
私たちのような性に関するプロダクトで、投資家に向けてプレゼンテーションする際は、性教育が欠かせません。
先進国と言われる国、アメリカに生まれて、高い教育を受けてきた投資家でもクリトリスの位置や、外陰部(vulva)ワギナと膣(vagina)の違いがわからない人がほとんどです。
女性の投資家にピッチをするときは避妊や性感染症のリスクや、安心がセックスを楽しむ重要な要素であることに共感してもらえることが多いです。残念ながら男性の投資家にはいまいち響いていないと感じています。
男性投資家に向けてのピッチは、男性投資家にもわかりやすくするために、DARCi(ダーシィ)がいかにセックスの快楽を向上させるかについて重きを置く傾向にありますし、私たちも快楽に重点をおいてプレゼンをしています。
日本に向けたメッセージ
日本に住む皆さんそれぞれが、プレジャーをどう定義しているのか、プレジャーを高めるためにどんなニーズがあるのかとても興味があります!
ぜひKinsaeと繋がってほしいし、この機会にマーケットリサーチをかねて、日本のコミュニティと繋がれることを期待してます。