あなたにとって最高のセックスはどんなセックスだった?こう聞かれて回答できる人はそう多くないのかもしれない。
同じタイミングでイキたい?上品に喘ぎたい?彼を喜ばせてあげたい?彼女を満足させたい?
私たちには、様々な「理想のセックス」が存在している。だけどそれって本当に二人にとっての理想なのだろうか?
MakeLoveNotPornが映す「日常のセックス」
そんな問いを投げかけているのが、Cindy Gallop(シンディ・ギャロップ)氏が手がけるサイト「MakeLoveNotPorn」。62才の彼女が手がける本サイトは、いわゆる一般の人たちがそれぞれのセックス動画を投稿するという前代未聞のソーシャルセックスサイトだ。
自由に投稿できるわけではなく、同サイトの検閲や審査を経てから公開され、視聴されると投稿者にインセンティブが入る仕組みになっている。
様々なセクシャリティの人々が、パートナーとのセックス、一人でのマスターベーションなどを投稿している。
それらの動画は、いわゆる「美しいセックス」ではなく、「日常のセックス」である。
セックスの途中で邪魔が入ったりすることもあるし、フェラが喉の奥に入りすぎてむせてしまったりすることもある。いわゆる「完璧」ではなく、リアルなセックスなのだ。
そんなもの見たいか?そう感じる人もいるかもしれないが、興奮ではなく会話をするためのセックス動画という方が正しいのかもしれない。
MakeLoveNotPorn創設者であるシンディ・ギャロップ氏に話を聞いた。
私たちは、セックス賛成、ポルノ賛成、違いを知ることに賛成です。
――MakeLoveNotPorn(以下MLNP)を設立したきっかけを教えてください。
きっかけは私の個人的な経験です。私は、20代くらいの男性と付き合うことが多いですが、10年ほど前に彼らのセックスについて、ある問題を感じました。
それらの要因は2つあると感じました。ハードコアなポルノに簡単にアクセスできる状況と、セックスについて正直に話さない社会性です。
これにより、彼らのセックスはポルノがお手本になってしまった。まさか、自分がこんな経験をするなんてと思いつつ、他の人もこれを経験しているのではないかと思ったのです。
でも当時、セックスについて話したり、書く人もいなかった。そこで、2009年にmakelovenotporn.comという小さなサイトを立ち上げました。
その後、TEDでもスピーチをしましたが、ステージで「顔射」という言葉を6回も使った唯一のスピーカーになりました(笑)
そのスピーチがきっかけで、若者から年配の方、男性から女性、異性愛者から同性愛者まで世界中から多くのメッセージが届きました。そのメッセージを見て、セックスの課題は国際的な社会問題だと感じました。
そこから、もっと有益かつ課題解決に効果的にしていく責任を感じたのです。それはまだ手付かずの社会的な高いニーズに応えるためのビジネスソリューションの機会だと。
そして、成功させるには、現在のポルノと同じくらい大衆的かつ、メインストリームになる何かでなければならないと思っています。
ーーー サービス名には「NOTPORN」という記載がある。ポルノに取って代わるということでしょうか?
いいえ、MLNPは反ポルノではありません。なぜなら問題はポルノではないからです。
問題は、私たちが現実世界でセックスについて話さないこと。ポルノをエンターテイメントだと理解するには、語り合うことが必要なんです。
MLNPはセックス賛成、ポルノ賛成、違いを知ることに賛成です。
私たちの使命はただ一つ。世界中の誰もがセックスについてありのままに話すための敷居を下げることです。セックスについてもっと話をしましょう。親は子どもたちに、教師は生徒たちに。そして、さらに重要なのが親密な相手に正直に話すことです。
我々は今セックスについて話していません。世界中で例外なく、一人一人にとって、非常に不安な領域です。私たちは裸になれば皆弱くなる。性的自我は非常に脆いものです。
だからこそ、実際にパートナーとセックスについて話すことは、奇妙なほど難しい。
なぜなら、セックスにおいて何が起こっているのかを話すことは、相手を傷つけ、やる気を削ぎ、出会いを台無しにさせ、さらには関係性が終焉してしまう可能性があるからです。
しかし、同時にパートナーを喜ばせたいとも思っている。
あなたは相手を幸せにしたいし、誰もがセックスをうまくしたいと思っている。けれど、上手なセックスとは何を意味しているのか誰も正確には分からない。
そして、その手掛かりを探そうとしてポルノに行き着き、その中で答えを見出そうとしてしまう。
なぜなら、両親はセックスについて話さなかったし、学校でもそれを教えてくれないし、友人は正直ではないのだから。
でも、その手がかりの中には、あまり良い答えはありません。だから、私たちは「セックスについて話す」という一つの目的に絞り、他のソーシャルネットワークが進出することのない領域に進もうと決めました。
ソーシャルセックスは、現実のセックスを讃えています。
ーーー ソーシャルネットワークをベンチマークとして見ていると
現実世界のセックスをして、それについて話し合い、社会的に受け入れ可能なものとする。そのために、Facebook、Tumblr、Twitter、Instagramで共有するのと同様に、社会的に共有可能なものにする必要がありました。
2012年、私はミッションの第一段階として、全てのユーザーが作成できる、クラウドソースのビデオ共有プラットフォーム「makelovenotporn.TV」を開始しました。
これは、現実のセックスを賛え、 世界のどこからでも、誰もがセックスをしている自分たちの映像を送ることができます。
これらはコンテンツとしての「ポルノ」ではありませんし、「素人もの」でもありません。
これまでに存在していなかった、「社会的なセックス」という新しいカテゴリーをインターネットに構築しています。
競争相手はポルノではなく、FacebookやYouTubeです。FacebookやYouTubeでは社会的に性的自己表現を許しません。
ーーー 投稿されている動画はこれまでのポルノ作品とは大きく違いますね。
ソーシャル・セックス・ビデオは、カメラの前の演技ではありません。
現実世界で自然に起こっている、面白くて、ぐちゃぐちゃで、輝かしくて、馬鹿げていて、美しく、滑稽で、コミカルで人間的なものを捉えることです。
我々のキュレーターは、始めから終わりまで、投稿された全ての動画を見て、リアルなものでなければ公開しません。
そして我々は収益分配ビジネスモデルを持っています。したがって、UberやAirBnBのようなシェアリング・エコノミーの部分があります。ユーザーは、セックスビデオをレンタルしたりストリーミング配信するためにお金を払います。
その収入の半分は投稿者のものです。我々は動画を投稿する彼らをMakeLoveNotPornスターと呼んでいますが、いつかMakeLoveNotPornスターがYouTubeのスターと同様に有名になることを願っているからです。
なぜソーシャルセックスが非常にユニークなのかというと、純粋にマスターベーション素材として作られているポルノとは異なるからです。
我々の動画をそのように見られることもハッピーではありますが、私たちにはそれ以上の価値があります。
例えば、ソーシャルセックスにおいて、我々は現実のセックスを讃えているので、安心を得ることもできます。
現実世界の体、ヘア、ペニスの大きさ、胸の大きさを讃え、ありのままの体を受け入れ、話すことや、自己愛についても教えることもできる。
あなたや私と同じように見える人がベッドで一緒に素敵な時間を過ごしているのを見ることほど、ありのままの体を受け入れられるものはありません。
誰かの理想や理想の体型ではない人たちを見て、互いを形作り、互いに惹かれあい、互いを愛し合う。 私たちのマントラ(真言)は、「現実世界のセックスをしている時、人は皆美しい」です。 本当にそうなのです。
ーーー たしかに投稿されている動画の中には奇想天外なものもありました。
ソーシャルセックスが視聴者を安心させる理由として、偶然や、ぎこちなさ、ドタバタを讃えていることもあります。
もし、あなたがポルノのセックスだけを好んでいるなら、あなたのセックスはパフォーマンスであり完璧でなければならないと思ってしまう。
そして、結果的に「ああ、恥ずかしいことが起こってしまった!なんて耐え難い!誰にも話すことができない!」と思ってしまうわけです。
ところが私たちの場合は、あなたがベッドで自分自身を笑うことができなければ、いつ笑うの?と投げかけています。
ですから我々のビデオでは、ばかげたことが起こります。これが現実の世界だからです。
あるビデオでは、カップルがセックスをしている最中に、猫がベッドに飛び乗り、彼らを見つめたり、歩きまわったり、ポーズを取ったり、枕の上に座ってしまったりしました(笑)
別のビデオでは、夫婦がセックスをしている最中に、妻の母親が電話をかけてきて、しかもどういうわけだか電話を実際に取るので、全てが止まってしまいます。
夫は部屋を離れ、ぺちゃくちゃと話したあと、電話を切り、じゃあ、また始めましょうと。
それが現実です。我々はそのリアルな感情を讃えます。現実世界の愛、親密さ、感情を讃えます。
我々の会員の男性が、私たちとMakeLoveNotPornスターにメッセージを送ってきました。
「ビデオの中のセックスは二の次でした。私はあなたたちが持っているものがほしいのです。私は、あなたたちがお互いをどのように見て、どんなふうに見つめ合っているかを見て、いつかそんな相手と私も出会いたいと願っています」と。非常に感動的なメールでした。
セックスにノーマルなんてありません。
ーーー ポルノ作品からはなかなか感じない感想ですね。
MakeLoveNotPornには、非常にユニークなカテゴリーがあります。ポルノスターによる、現実のセックスビデオを共有するものです。
ポルノスターも現実世界のセックスをしていますし、それは彼らがカメラの前で行っているセックスとはまったく異なります。
異性愛だけでなく、ゲイ、レズビアン、トランスのスターの友達は、現実の世界のパートナーと、現実の世界で関係を持っているセックスのビデオを共有しています。
彼らはポルノ撮影のセットの中で演じるセックスとどのように違うかについて、そのビデオで話しています。
私は自分の信念と哲学に基づいて、MakeLoveNotPornをデザインしました。その一つはデモンストレーションを通じたコミュニケーションです。
現実世界のセックスとポルノの違いを見せるのに、ポルノスターが自分のセックスが現実世界のものとどう違っているのか見せるほど、ふさわしいものは他にありません。
MakeLoveNotPornの究極の目標はただ一つです。セックスについて世界の全ての人がオープンかつありのままに話すことを容易にするということです。
私たちの多くは、運が良ければ、良いマナー、労働倫理、責任感、説明責任を持つよう、両親に育てられます。
でも誰もベッドでうまくふるまうよう育てられません。しかし、ベッドにおいても繊細さ、寛大さ、優しさ、誠実さは重要です。
親が子どもに、行儀良く振る舞うことを教えているのと同じように、もっとオープンに、良い性的価値観や良い性的行動を取るように教える必要がある。
そうすることで、我々は性被害を生み出さないようにしたいと思っています。
レイプ文化を終わらせる唯一の方法は、一般的に、オープンに話し、理解をすること、議論すること、助言したり、機能すること、そして非常に重要なことに、何が良い性的価値、良い性的行動を形作る基準を探求するということを社会に根付かせるのです。
私は世界平和をもたらす自身の試みとしてMakeLoveNotPornについて話していますが、決して冗談を言っているのではありません。
ーーー MakeLoveNotPornを見ると、さまざまなセックスが投稿されています。何がノーマルなのかがわからなくなるような気がしました。
ここは重要です。
セックスに関してノーマルはありません。いいですか? 何が正常で、何か異常かはありません。セックスはコミュニケーションと同意なのです。それは良い性的価値観と良い性行動の重要な部分です。
投稿されている動画で重要なことは、彼らが現実世界の性生活を行っているということです。コミュニケーションをとり、互いに完全同意することで本当に楽しむことができます。
MakeLoveNotPornは偶然にできたものですが、偶然ではないのは、私が33年間広告業界で働いていたということです。
私はコミュニケーションの仕事に33年間勤めてきました。ですから素晴らしいコミュニケーションによって、人生もビジネスも全て上手くいくことを知っています。
セックスも同じです。素晴らしいセックスは素晴らしいコミュニケーションから引き出されています。私たちがしていることは全て、世界の誰もがセックスについて話しやすくすることです。
最高のセックス?まだ経験していませんよ。
ーーー 現在のユーザー数は?
私たちはお金をかけず、ゼロからMakeLoveNotPornを起業しました。資金調達もできず、宣伝費用もなかったので報道と検索によるオーガニックで成長をしてきました。
ニュース価値のあるベンチャー企業の利点の一つは、PRやメディアへの働きかけをしなくても、世界中のメディアに報道されることです。
つまり、我々の成長は完全に偶発的でもあるということです。そして現在は、 220の国と地域から100万人以上が登録し、350人のMakeLoveNotPornスターが3,000以上のビデオをサイトに投稿しています。
面白いのは、世界中のどの国でもメディアで取り上げられると、その国は即座に大量のアクセスが来ることです。アクセス数は拠点であるアメリカに次ぐ2位になります。国がどれほど小さくても、こうしたことが起こります。
これは、どれほど多くの人々が我々を歓迎し、我々がしていることを望んでいるかを示しています。日本でも同様のことがおきました。
私は積極的にあらゆる国で、現地の投資家を募っています。あらゆる国から「ここで地元のバージョンを立ち上げてください」とメッセージが送られてきているからです。
ーーー シンディさんは昔からセックスについてオープンな環境で育ってきたのですか?
いいえ、全く。私の父はイギリス人、母は中国人で、私はイギリスで生まれましたが、私が6歳のとき、ボルネオ島のブルネイに移住しました。
私はアジアで育ち、私の両親はセックスについて話したことはありませんでした。こうしたことは日本でも感じることかと思いますが、私の周りも同様でした。
ですが、私がセックスをし始めたときに「まあ、なんて最高なの」と感じましたし、私たちの社会での振る舞い全てが馬鹿げていると思いました。
私はこれまでもセックスについてはずっとフランクでしたし、MakeLoveNotPornは偶然の産物です。意図的に作ろうとしてたわけではないですが、私の生い立ちが、私の使命を実現するために強く作用しているとは思います。
ーー 最後に一つ。シンディさんにとって、最高のセックスはどんなものでしたか?
まだ経験していませんよ。私が好きなイギリスの作家、フェイ・ウェルダンの小説のセリフにこうあります。「直近の恋人よりも良い恋人がいつだっている」。
私も人生最高のセックスはまだこれからだと信じたいです。
ーー おそらく次であり、そのまた次であり、ということですね。
その通り(笑)
ーーー
シンディ・ギャロップ氏へのインタビューは全3回です。第2回、第3回もあわせて読んでみてください。
第2回
「一人で死んでいくのが楽しみ」社会が望む結婚と自分の違いに気づいたら人生を謳歌していた ー NYの女王シンディ・ギャロップ
第3回
セックステックに携わりたいと思っているあなたへ。いいですか、決してあきらめないでください。
Special Thanks! Mari Hirata