「体調悪いなら帰ったら?」

大学のとき、男の子からいわれた言葉。私は、部室で横になって眠っていました。ウンウン唸って眠る様子が、とても辛そうに見えたのだと思います。

その日は、生理初日でした。例えるなら、お腹周りに1歳くらいの子どもが常にぶら下がっているようなだるさ。そして、子宮をぎゅーっとぞうきん絞りされているような痛みに襲われ、立ち上がるのもやっとの状態です。

(そう言われても…薬が効く前に動いたら余計しんどいんだけど……)

と内心思いつつも「そうだね〜…」と笑って誤魔化すことしかできませんでした。

当時は、大っぴらに「今日生理だから」と言うのが恥ずかしかったのです。とくに男の子に対しては。

社会人になっても、生理の大変さは変わりませんでした。生理初日は、必ず半休を取るほど。「この生活がずっと続くのかなあ…」と思っていた矢先に、お気に入りの雑誌で紹介していた「DAYLILY(デイリリー)」に出会いました。

Photo by Yuka Kasuya / Laundry Box

台湾で誕生した「DAYLILY」は、バイオリズムが変化しやすい女性の一生に寄り添う漢方のライフスタイルブランド。

2019年9月には、東京・日本橋にある「COREDO室町テラス」2Fに日本1号店をオープンしました。

創業者は日本出身の小林百絵(こばやしもえ)さんと、台湾出身の王怡婷(オウイテイ)さんの2人。王さんの出身地である台湾には、不調が現れる前から体を大切にしようとする文化があります。生理についても、始まりそうな日の前から漢方を飲んで準備をすると聞いて驚きました。

漢方は、台湾の人にとって「お守り」のような存在なんだそうです。

台湾には、生理に対して、どのような「お守り」があるのだろう。台湾出身の王さんに話を聞きました。

ライフスタイルとしての漢方

Photo by Emi Kawasaki / Laundry Box

——台湾の人にとって漢方は、「お守り」のような存在だと聞きました。どんな理由があるのでしょうか?

王さん:漢方は副作用が少なくて手軽に飲めるからですね。不安なときに、体だけではなく心の支えにもなるから「お守り」と言われてるんです。

——普段から、漢方はよく飲まれるんですか?

はい。漢方は台湾のライフスタイルの中に溶け込んでいます。。台湾には、地域ごとに漢方薬局がありますし、「夜市(毎晩、台湾のあちこちで開催されるマーケット。屋台やB級グルメが楽しめる)」に行けば、薬燉排骨(ヤオドンパイグー)と呼ばれる、骨つき肉と漢方の薬膳スープが飲めます。コンビニやタピオカ屋さんでも、漢方ドリンクが売っています。

——台湾では身近な存在なんですね。日本の漢方は、敷居が高いイメージがあるので驚きました。

しかも台湾の漢方薬局は、地域の人との交流が盛んなんです。漢方薬局の店主と「今日、学校でこんなことがあった」「家族内で、こんなケンカをした…」みたいなプライベートなこともよく話します。普段から友達のように会話することで、何かあった場合の相談も気軽にできる。

こうした日々のコミュニケーションも処方の判断材料のひとつにもなっていて、対話を通して、地域の健康を見守ってるんです。

生理にオープンな台湾の文化

Photo by Emi Kawasaki / Laundry Box

——お話を聞いていると、台湾と日本の漢方文化は大きく違うと感じました。ちなみに、王さんが思う、台湾人と日本人の違いはなんですか?

台湾人は、とにかく何でもオープンに話すんです。そこが、日本との大きな違いかも。生理の話題も、女性同士だけではなく、男性に対してもオープンです。

——日本の女性は、「恥ずかしい」と思ってしまう人が多いかもしれません。子どもの頃から生理を「女の子の日」のようにボカして表現してきた人も多いはず。日本の男性は、生理の話題に「どう対応していいか分からない」という声も聞きます

確かに、日本の男性の中には戸惑ってしまう人もいますよね。印象的だったのは、日本の職場で男性の同僚に「生理きちゃった!」と言ったときです。その人、すごくびっくりした顔で私を見て慌てて、冷たい水を出してくれたんです(笑)。

——彼なりの優しさだったんですね。

そう(笑)。でも、冷たい水は体を冷やしてしまうから、生理中は白湯やホットミルクなどがいいですよね。

——台湾の男性は、「生理中は体を冷やさないほうがいい」ことを知っているんですか?

知っている人が多いです。あと、生理前って甘いものを食べたくなりますよね。だから、女性にチョコレートや甘いスープを作ってくれたり、生理用ナプキンを買ってきてくれたりする男性もいます。「多い日用」とか「羽根つき」などの意味も知っているんですよ。

——なぜ、女性の体のことがわかるんでしょうか?

女性自身がオープンだから、男女問わず、生理の知識を得る機会が多いんだと思います。男性同士でも生理の話をするんじゃないかな?「女性は大変だから、守ってあげよう」という考えを、台湾の男性は持っている。生理の話題にも慣れているし、とにかく女性に対して優しい人が多いです。

——そう考えると、日本の男性が生理の話題に戸惑ってしまうのは、女性が隠していることも理由のひとつかもしれませんね。

そうですね。もちろん話したくない人は、話さなくてもいいのだけれど、話すことで理解が得られるし、負担が減ることもあると思います。

日本の女性へ 我慢しないで

DAYLILY JAPAN 株式会社 創業者 王 怡婷(オウイテイ)さん Photo by Emi Kawasaki / Laundry Box

——たとえパートナーには話せたとしても、仕事関係の人にまで話すのは「甘え」になるんじゃないかという気持ちもあります。

「甘え」ではなくて、その時期に体調が悪いのは事実なのだから、「言い訳になってしまう」と思ってはいけないと思います。鎮痛剤を飲んで一時的に痛みを抑えるよりも、自分の体にきちんと向き合ったほうがいい。台湾のように、仕事や学校でも「今日、生理なんです」と話しやすい雰囲気をつくるのが大切ですね。

——台湾には、日本と同じような生理休暇はあるんですか?

1カ月に1日取得できる生理休暇があります。制度は日本とほぼ同じなのですが、取りやすさは全然違いますね。

日本の企業に入社して初めて生理休暇を取ったんです。すると「生理休暇は取らない方がいいですよ」と、上司に言われて、すごく驚きました。職場内で、女性が力を発揮できない仕組みになってしまっていて、とても残念に思いました。

DAYLILYのオフィスでは、私自身がオープンに話すので、周りのみんなもだんだんオープンになってきました(笑)。

日本では、「我慢するのが美徳」という考え方があるのかもしれません。でも、一人ひとりが抱え込まずに話せる環境をつくり、お互いに助け合うことができれば、女性も男性も、今よりもっと幸せになれるんじゃないかな。

 *

今回お話を聞いて、「漢方はお守り」という考え方が、台湾のオープンで包容力のある生理文化にもつながっているように感じました。

生理を我慢したり隠したりせずに、少しずつ対話することから始めれば、性別を超えて、もっと理解が深まるかもしれません。

それが台湾の生理文化のように、男女ともに「生理」を主体的に捉える雰囲気にも繋がってくるのだと思います。

(取材・文:糟谷柚佳)

 

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