自身の体と人生のために、婦人科にかかりつけ医がいた方がいいとわかっていても、過去に婦人科で言われた心ない言葉がトラウマになった、何をされるかわからないので怖い、どうやって見つけたらいいかわからないという声がある。
一方で、医療業界においては、医療環境の現状を把握しないままに進められる政策や世論などで現場が圧迫されてしまう現状もある。
どちらも当事者の声が伝わっていなかったり、適切な情報が閉ざされていることによる乖離があるのではないか。
それらの課題を少しでもなだらかにできたらと、丸の内の森レディースクリニック院長 宋美玄医師ら医療関係者らを中心に、ヘルスケア情報や、患者や医師の声を集約させる健康情報サイト「Crumii(クルミー)」を開始するという。現在はサイト公開を目指し3/10までクラウドファンディングを実施中だ。
https://readyfor.jp/projects/crumii2025
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同プロジェクトの発起人である宋美玄医師、プロジェクトメンバーの丹羽永理奈さんに話を聞いた。
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この情報は信じていいの?医療情報の解像度を上げられる場に
ーーー 「Crumii」をスタートする経緯について教えてください。
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丹波:これまでも、何か誤った医療情報などが出てきた際には、正しい情報を医師が個人のSNSなどで発信していました。参画してくれている医療従事者もそうです。
それぞれで発信発信はしているのですが、きちんと集約する場所を作っておく必要があると感じました。今は情報が溢れている時代です、女性自身が何を信じたらいいのかわからないという方もいると思います。
信憑性の高い情報源にどうやって辿り着けばいいのか、そう思っている方々に対して、ここを見ておけば大丈夫だよという場所を作りたいと思いました。
それと、SNSなどを見ていても、婦人科で傷ついている人たちがいる。自分が望む治療を提供してくれる婦人科と繋がりたいと思っている人たちは多いですよね。
ーーー 近くのクリニックを探しても、どういう病院かがよくわからないということもありますよね。
丹波:いくつかクリニックを探すためのサイトもありますが、商業的な要素が強いものもあります。それに、婦人科といっても、不妊治療に強い医師、お産に強い医師、スポーツ選手のサポートをしているスポーツドクターだったり、実際には得意分野がわかれていたりする。
でも、こういう情報は一般の人には、わかりづらいですよね。私自身もこの業界に入る前までは、医者の世界はドクターXの大門未知子の世界くらいの情報しかありませんでした。医療者の当たり前は、患者さんから見るとわからない情報も多いので、それらをわかりやすく、きちんと集めた場所を作りたいというのが根底にあります。
ーーー 確かに、正しい情報もですが、医療業界の実情ってわかりづらいですね。
丹波:そうですよね。例えば、分娩の保険適用の話などは、一見、安くなるからいいなと感じるかもしれませんが、現実的に試算すると、無痛分娩など様々な選択肢を検討している場合などにおいては、現在の出産育児一時金を活用した出産よりも費用負担が増える可能性もある。医療関係者としては、現行の診療報酬制度のままこの政策がスタートすると負担が大きく患者の受け入れが難しいと感じることも多いので、このような政策が世論の形成によって進んでしまうことに課題と危機感を感じています。
けれど、このような情報も業界にいないとわかりづらいので、そのような情報を掲載していきたいと思っています。
患者が求める選択肢と医師が提供する選択肢との乖離
ーーー まずは情報を発信しながら、患者と医師の架け橋になりたいとのことですが、どのような課題解決へ?
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宋:大きな課題として、もっと女性たちがSRHRのプロバイダである産婦人科にかかりつけてほしいと思っているのに、我々医師がハードルを感じさせてしまっている現状があります。だからこそ、安心してかかれる医師がどこにいるかわかれば受診にも繋がるのではないかと思っています。
例えば、ピルやミレーナがマスコミで紹介されて、近くのクリニックに行ったら自費でしかピルを処方してもらえなかったり、ミレーナも未経産婦には入れていないなど、目の前にある選択肢を選ばせてもらえない経験をしている人もいます。そういった嫌な思いを少しでも減らせたらと思っています。
もう一つは、体の情報だけでなく、健康や権利に関する社会問題の発信です。例えば、アフターピルのOTC化など、どこにどう声を上げていいのかわからないし、どういう規制があるのか、業界の実情がわからないという方がいます。
個々の情報の解像度を深めていくことで、一人一人が声を出しやすくしたいです。もっと言えば、声を出せる場にしていきたいと思っています。
私たちは医師が立ち上げたサイトとして、自分の体を管理できる権利があるんだということをポジティブに発信していきたいです。
ーーー SRHRに理解のある医師と繋げていくとのことですが、医師側のマインド向上も目指しているのでしょうか?
宋:まさにそうです。サイト開始時は、ユーザー(患者)と医師に登録してもらうのですが、医師には登録してもらう際に、SRHRや患者さんへの診療姿勢に関するアンケートに回答してもらい、私たち側で選定していきます。
婦人科は患者さんからするとハードルが高いですよね。
もちろん、人と人の話なので相性もあるけれど、それでも、生理痛が重い人に対して「それは子供を産んだことがないからだ」というようなことを言ってしまうような医師はふるいにかけるようにしたいです。
ーーー 登録時に医師も患者さんが何を気にしているのか理解することに繋がりそうですね。
その通りです。小学生でも診察できるの?とか、内診台のカーテンはあるの?とかもですね。
私たちのクリニックだと内診台のカーテンは患者さんの希望によって開けておくこともできますが、そのような対応をしているのかどうか。
患者さんによっては、自動で動く内診台は嫌だという方もいます。あとは女医在籍とあっても、常時なのか、非常勤なのか、患者が医師を選べるのかどうかによっても違いますよね。
細かい話にはなってしまうかもしれませんが、患者さんの声を最初に聞いて、細かく検索できるようにしておけば、受診する前に病院に問い合わせなくてもいい。
それに、これらの選択肢を事前に提示しておくことで患者さんとクリニック側の相違をなくせるのでクリニックにとってもいいことだと思っています。
ーーー クリニックからすると気にしていないことも、患者からすると心的負担が大きいものもありますよね。未成年や性交経験がない場合に、配慮なく内診をされてトラウマになったという声も聞きました。患者は緊張で問診時に相談しづらいというのもありますよね。
宋:そうですよね、人前で足を開くということ自体、嫌だと感じない人はいないと思います。本来、性交経験がない場合は、希望があれば経膣ではなく経腹超音波検査で検査もできます。
今、患者さんたちの権利意識も変わってきています。ただ、SNSなど含めて情報を一切見ていない医師もいるので、その変化に気づけていない場合もあります。サイトを通じて、医師側もアップデートしていける場にしたいです。
ーーーSNS等で情報発信している医師が都市圏に多く、地方でかかりつけ医を見つけるのが難しいという声もあります。
確かに認知されている医師は都市部の医師が多いかもしれません。ただ、地方にもいいドクターはいます。将来的には、そのような医師を自薦他薦でスポットあてていけるようにしたいです。