私たちランドリーボックスは、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)について発信してきました。そして、性にまつわる正しい知識はもちろん、その知識を得て「対話する」必要性をより深く感じています。

だからこそ、わかりやすく、楽しく学び、語り合えるようなツールが必要だと考え、2024年8月に性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」をつくりました。

そんな思いに至った理由のひとつに、これまで性教育に携わってきた方たちの存在がありました。

NPO法人ピルコン理事長の染矢 明日香(そめや あすか)さんは、自身の経験から日本の思いがけない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、大学生のときに学生団体ピルコンを立ち上げました。

性の健康について啓蒙している染矢さんに、活動の中での気づきや見えてきた課題について聞きました。

自治体と連携したユースフレンドリーな支援

Misa:まずは現在の活動について教えてください。

Asuka:2007年に学生団体としてピルコンを立ち上げ、2013年に法人化しました。

若い人たちに性教育をするための研修をして、学校に出向き性教育の講演をする活動が中心です。現在は50人くらいのユースの方が登録していただいていて、年間約125講演、約2万人くらいの中高生に向けて性教育をしています。

その中で自分たちも学び、外部に共有するための教材サイト「ライフデザインオンライン」をつくりました。

他にも「ユースヘルスケアアクション」というプロジェクトもしています。

これは、医療従事者は「気軽に相談して欲しい」と言ってくださるけど、ユースとしてはどこに相談していいかわからないという声もよく聞きます。

このプロジェクトでは、若い人たちに関わるうえでどんなことに気をつけると、より良い支援に繋がるのか、若者にやさしいユースフレンドリーなヘルスケアのあり方について発信しています。

あとは、大人にももっと性の知識や性教育の大切さを伝えていけたらと思っているので、保護者や教職員向けにも講演をしたり、政策提言の活動では、義務教育での包括的な性教育推進と緊急避妊薬のアクセス改善などにも取り組んでいます。 

10月からは品川区との委託事業で、10代の人向けにチャット相談ができるオンライン相談「ユースヘルスケアしながわほけんしつ しなわかチャット」の事業をプレオープンしました。気軽に相談いただけるような地域作りに繋がればいいなと思います。

Misa:性にまつわることを相談できるということでしょうか。

Asuka:心とからだに関することの相談窓口としていて、性のことがかかわっていてもいなくても、些細なことでも気軽に聞いてもらえたらなと思っています。講演をしていて感じるのは、聞きたいことがあってもみんなの前で質問しづらかったり、その後でももっと知りたいことが出てきたりするんじゃないかと。

講演後に個別相談会を設けることもあるのですが、自分が中高生のときのことを考えるとなかなか足を運びづらいだろうなと思ったんです。オンラインのチャットならユースの子も相談しやすいと思いました。

東京都では先行して「わかさぽ(若者ヘルスサポート)」が立ち上がっていますが、電話とメール、対面相談が中心で、今回は品川区によるチャット相談をメインとする取組みです。

「わかさぽ」にもイベント出演などでご一緒する機会がありますが、先日は、Netflixで人気の恋愛リアリティーショー「ボーイフレンド」のダイさんとシュンさんが参加してくれて、トークショーをしました。

大勢の人に参加していただき、SNSでも「よかった!」という声が多かったです。インフルエンサーの方たちとも一緒に考えて、広げていけるといいなと思います。

ニーズに合っているか疑問をもち、ブラッシュアップを続ける

Misa:今50人近くいるメンバーはどんな方ですか?

Asuka:社会人と大学生が半分ずつくらい。他に仕事をもっていたり、大学へ通いながらお手伝いいただいてる方が多いです。事務局では看護師の方やジェンダーを勉強されてきた方などが職員として活躍しています。毎年フェローと呼ばれるメンバーを春に募集していて、SNSでピルコンを知って興味を持ってくださったり、もともと性教育に興味があって、インターネットで検索してる中で見つけたというお声もあります。

Misa:若い子も多いんですね。彼らはなぜ性教育がしたいと思ったのでしょうか?

Asuka:「知りたかったけど知ることができなかった」というのが大きいのかなと思います。だからこそ自分で伝えていくことで、「もっと若い子たちが救われるようになってほしい」という思いで参加してくれています。あとは「自分自身も学びたい」、「性教育は面白い」と思って携わってくれる方が多いように感じます。

メンバーの中に医療職の方もいて、病院に行く前段階でアプローチしたいとおっしゃっています。悩んで悩んでようやく病院にたどり着くけれども「もっと早く来てほしかったな」と思うことがあるのだそう。

妊娠や性暴力の予防にも携わりたいという方も多いですね。ピルコンのような場だと、みんなが思いを共有したりして、価値を見出していただいてるのかなと思います。

Misa:性教育に取り組む立場で、課題に感じていることはありますか?

Asuka:これまでの性教育や私たちの性教育が、いろいろな背景を持つ子たちにとって適した内容になっていたかどうか、疑問や反省があります。

例えば、失敗してほしくないという思いで「性行為は危険だよ」「リスクがあるよ」とネガティブな側面ばかりを強調して伝えることで、性について学ぶハードルを上げてしまうんじゃないか。また、すでに性経験をしてる子にとっては、「いけないことをしている」という罪悪感を感じさせてしまうんじゃないか。

本来性行為は、お互いの同意があれば心地よさや幸せにつながるコミュニケーションにつながるもので、そのための自分や相手を守る知識や、ヘルシーな関係性についても伝えていく必要があります。ちゃんと適切なアプローチができてるのかっていうところに、疑問を持ち続けています。

講演後のアンケートでは、もちろん良い反応もあるんですが、中にはちょっとネガティブな声もあったりするので、子ども・若い人たちの声をきいてブラッシュアップし続けてくことが大切だなと思っています。

アメリカの性教育に関わるNGOが、教育者を養成するためにつくってるビデオ動画教材があるんですね。それを翻訳して性教育に関わる大人にももっと見てほしいなと思っていて、大人の意識改革も頑張っています。

学校でどこまで教えるか?性教育の「歯止め」

Misa:学校の性教育の「歯止め」はどうですか?

Asuka:まだ「歯止め」があると感じています。「子どもに性に関して何をどのように伝えるか」の議論も、もう少し積極的に推進してほしいと感じています。

実際に中学校で「性行為や避妊は扱わないでください」と言われることもあります。学習指導要領を超える範囲でも、その学校の課題や保護者、教職員の理解のもとで指導してもいいと文科省から伝えられているのですが、それでも学校側はリスクが少ないように歯止めが入ることがあります。

Misa:学校側のリスクを減らすことで、子ども側のリスクが増える可能性もあります。

Asuka:実際にすでに子ども側での性的なトラブルが起こっている、もしくは起こりうる環境の中で、指導しないことのリスクの方が高いですし、子どもにトラブルがあったときに学校側が適切な対応ができるかといえば、逆により問題を深刻化させることも起こり得ます。

そういった問題が根本にあるので、アプローチしやすい、話しやすい環境づくりを広めていけたらいいなと思ってます。

Misa:子ども達が知りたいことと学校側が教えられることの乖離がありますね。包括的性教育がなされているとは言い難い状況ですね。

Asuka:日本の施策等でも「プレコンセプションケア」と言って、少子化だから生殖に関する知識を増やすことが健康や家族形成に繋がるとされていて、そこに予算がついています。プレコンセプションケアの流れの中で、包括的性教育を推進している。

でも本来の包括的性教育は、人権教育として、産まない選択肢や、性生活を楽しめること、お互いの同意を確認するということが含まれます。そこが抜きにされたままで本当にいいのかなと思ってしまいます。

Misa:出生率を上げるための施策や、女性が働き続けることによる労働力向上の施策については推進されている印象がありますね。

Asuka:国連人口基金など世界的な視点で見ると人口が増減ではなく、それぞれが望む数の子どもを産むか産まないか、どちらにしても自分らしく過ごせるかが大事ですよと共有されています。

だからこそ、性教育で少子化を打開するみたいな感じになってしまうことが怖いです。女性が自己決定をするとか、子どもたちが自分の意思で失敗も含めて決めていける力を育むことが大切です。

そして、失敗した子が悪いと責めるのではなく、必要なサポートをしていく姿勢をもっと広げていかないと、と思っています。

子どもを産むためのことは教えるけれど、避妊や性行為の楽しさは教えない結果、子どもたちはAVやポルノで描かれる暴力的で支配的な性を学んでいくというのはモヤモヤします。

世界的にも包括的性教育がスタンダードでガイドラインにもなっている。国際的に常識的なことをしても、批判され、声を発する現場から席をなくされてしまうっておかしいですよね。

ただ、今は、少数でもSRHRに関心を持って広げようとしてくれる人がいるので、理解者同士、繋がっていくことも大事なのかなと思います。

プライベートゾーンがなぜ大切? 子どもへの伝え方

Misa:ランドリーボックスが提供している「Ba-Vulva」は、体の構造を理解するためのパペットです。構造を理解することについてどう思いますか?

Asuka:女性の性器って見ようと思わないと自分でも見えないし、見なくても生活できる。私自身も大人になるまでじっくり見たことがなかったんです。でもみんな気になってはいるんですよね。自分の体なのに、自分の性器について知らないというのは、多くの人が感じていることです。

こういう教材を使うことで、子どもでも興味を持ったときにきちんと理解できるというのは大事なことだと思います。タブー感もなく学べる機会になります。

包括的性教育を推進している国では、性器の正式な名前や働きを、5〜8歳くらいのときに学んでいるところが多い印象があります。生物の教科書などにイラストが載っています。

日本ではむしろ、性器に関する説明は少し減らされているんです。「プライベートゾーン=水着で隠れてる場所+口」という説明がありますが、隠れているからわからない。

Misa:「なぜ、プライベートゾーンが大切なのか。なぜ他人に見せない・触らせない(他人のプライベートゾーンを見ない・触らない)ことが大事なのか」が掲載されていないことも多いのですが、どのような回答がありますか?

Asuka:プライベートゾーンというのは、日本でできた言葉で、もともとはプライベートパーツと言い、性器、おしり、胸を指し、口が入ることもあります。そもそも体の内部とつながる粘膜で傷つきやすいところというのと、やっぱり生殖や尊厳に繋がる部分っていうのが、あるかなと思います。

「尊厳」という言葉は子どもにはわかりづらいですけど、自分自身とも繋がっている深い部分です。体は全部大事でその人だけのものだけど、という前提でプライベートパーツ/ゾーンの説明するときは生殖やはたらきの話もセットでするといいですね。

例えば、男の人と女の人の体にはそれぞれ「命のもと」があって、その命のもとをつくったり大切なはたらきをする部分だよ。という伝え方はできるかなと。自分や他の人の安全を守るためのルールとして、見る時もさわるのも基本的には自分だけ。さわる時は一人の時にやさしくさわろう、と伝えられるといいでしょう。

Misa:でも学校では、生殖について話すことは難しいんですよね。

Asuka:そうですね。

ただ、私たちは小学生に向けた講演は少ないんです。放課後のデイサービスや、学校以外の場での講座に呼ばれたり、PTAなど親御さんや先生向けにも伝えたりしています。

小学校で、小学生に生殖について、「命のもとがくっつく」くらいまでの説明は大丈夫でも、性交についての説明はNGなところが多いです。

学校以外の場でも、保護者の方へ伝え方の確認を事前にとって絵本などを使って説明しています。子どもたちが性交や性行為について、暴力的なAVや漫画で学ぶのか。それとも子ども向けに作られたやさしいトーンの情報で、信頼できる大人から安心感をもって学ぶのか。それによってその後の性についての印象も大きく変わってくるのではと思います。

性の楽しさ、性的同意のあり方を伝えるために挑戦したいこと

Misa:プライベートゾーンだけが誇張、特別視されすぎることに、私は少し違和感を持ってしまうのですがいかがでしょうか?

Asuka:触っちゃダメ、見ちゃダメ、でも子どもにとって性器や性に興味があることは自然なことですよね。

成長の中で好きな人ができることや、性的な気持ちや行為について探求することも、自分はまだ興味を持っていないけど相手から性的な思いを向けられることもある中で、「触れた/触れられた私は悪いんだ」とか「興味を持った自分はダメなんだ、いけないことをしちゃった」と罪悪感に繋がってしまうことや、本当は望んでいなかった行為で傷つくこともあると思うので、そこを超えて心地よいふれあいにつながるのが「同意」だと思うんです。

自分の体の機能をちゃんと知って「自分はここまではOK。でもここからはダメだよ」と伝えれば性的なコミュニケーションも安全に楽しめるものだと思うし、それがないまま大人になっていきなり行為があると「怖い」と思っちゃいますよね。

参考にするものがAVになっちゃって、とにかく受身で何かやんないといけないっていうので、自分が求める性行為が行われていないのかなと。 

Misa:ピルコンさんでは「Pleasure」など、同意のもとの性行為のあり方についてもお話もされるのでしょうか?

Asuka:プレジャーや同意についての性教育動画を翻訳したり、講演で取り上げたりもしています。けれど、知識として知るだけではなくて、様々な現実的な実践方法について話し合ったり、ロールプレイをしたりすることも必要かなと思います。

スウェーデンに視察に行ったとき、性教育協会が提供するビデオ教材を見ました。同性同士でいちゃいちゃしているシーンがあって、そこで「同意はあったのかどうか」を生徒さんにディスカッションしてもらう授業をされてて、未来にはそういうものがあるといいなと思いますね。

Misa:Ba-Vulvaを使ってできそうなことって?メッセージがあれば。

Asuka:Ba-Vulvaは怖がらずに女性器について知ることができる、リアルすぎずにデフォルメされた感じがいいですよね。

性教育の講座でスライドのイラストだけだと理解するのが難しい子もいるから、立体的な構造なのでより具体的に学べるし親しみやすくていいかなと思います。

手作りで性教育のツールを作っている先生もいるので、知ってもらうといいかもしれませんね。

私たちも、楽しく、こころ、からだ、性を学べたらと思い、性教育カルタ「ここからかるた」をつくっているので、何か一緒にできるかもしれませんね!

<プロフィール>
染矢 明日香
NPO法人ピルコン理事長/公認心理師/思春期保健相談士

性の健康啓発を行うピルコンを2013年に設立。中高生や保護者、教育関係者向けの性教育講座や情報発信の他、包括的性教育の推進や緊急避妊薬のアクセス改善にかかわる政策提言、海外の性教育動画Amazeの日本語翻訳プロジェクトの統括を行う。公認心理師、思春期保健相談士。著書に『マンガでわかる オトコの子の「性」』、『はじめてまなぶ こころ・からだ・性のだいじ ここからかるた』。監修書に『10代の不安・悩みにこたえる「性」の本』(学研プラス)。

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本記事はランドリーボックスが制作している性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」の公式サイトの記事を一部編集の上、転載しています。

https://laundrybox.co.jp/Ba-Vulva/Someyasan_interview

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