前編では、タイで臨床心理士、セックスカウンセラーをしているNestさんに、オーストラリアでセクソロジーを学んだきっかけ、そして、カウンセリング現場でどのようなセクシュアルヘルスの悩みが投げかけられていたかについて伺いました。
後編では、タイのセクシュアルヘルスの状況、そして、身体の構造を理解することの大切さについてお聞きしました。

セクシュアルウェルネスへの関心が高まるタイ
MISA: セラピストなど第三者に相談することで、セクシャルな問題の理由を紐解けることも多いですよね。タイではセックスカウンセリングは一般的なのでしょうか?
NEST:タイでは、 セックスカウンセリングはここ5年くらいで少しずつ関心が高まってきたように思います。過去5年くらいの間に、オンラインでより多くのコンテンツが見られるようになってきました。
例えば、YouTubeチャンネルやTikTokチャンネルで、セクシュアルウェルネスについてオープンに話す動画が増えてきています。そして、そういった動画を見ることで、コメントも増え、好奇心を持って質問する人も増えてきています。
これがTikTokの影響力なのか、それともタイの人の変化なのか分かりませんが、過去5年間でそういったことが顕著になってきました。
過去や現在の課題については、ひとつはタイにはまだ十分な専門知識や専門家がいないことが挙げられます。
現在、タイで提供されているセックスカウンセリング関連のコースは、たったひとつしかありません。それは医学系の大学が提供しているディプロマコースで、性的健康に関する基礎的な知識を学ぶ内容です。
さらに進んだセックスセラピーに関する知識を学べるコースもありますが、それもまだ少ないです。これらのコースが始まってまだ10年も経っていないと思います。
MISA: 本当に最近なんですね。
NEST: 二つ目の課題は、性に関する話題や質問をすることに対するスティグマがまだあることです。
今では友人同士で性について話すという人も増えたように感じます。30年、50年前は、そういった話題はまだ恥ずかしいものとされていました。親しい友人でさえも、性体験について話すことはほとんどありませんでした。
女性同士で性的な経験を共有することはなかったですし、男性同士でも「こういう問題があったことある?」なんて話すことはなかったんです。
でも今では、友達同士ではもっとオープンになり、信頼できる人とはそういう話をすることができるようになってきています。それは良い変化です。信頼できる人と共有できる話題になってきたことは前向きなことです。
しかし、信頼できない人、例えば医師や心理士、精神科医に対して性の問題について尋ねることに対しては、「もし誰かに、私がセックスの問題について心理士に相談していることを知られたらどうしよう」と思う人がまだ多いです。
そこにはまだタブーやスティグマが存在しています。
三つ目の課題としては、多くの家族やカップルが関係性の維持を最優先にしていることが挙げられます。
例えば、彼らは関係を維持することや他の側面に焦点を当てることが多く、性的な側面にはあまり目を向けません。
問題に直面したとき、性的な関係について話し合うのではなく、他の問題を解決しようとする傾向があります。
例えば、経済的な問題を解決しようとしたり、旅行に行ったり、友達に相談してお金の稼ぎ方を話し合ったり、子どものことについて話したりと、いろいろなことについて話しますが、性的な関係が問題の一部かどうかは話しません。
MISA: それは、性的なことを避けているのか、それとも他のことを優先しているだけなのでしょうか?
NEST: 私は、他のことを優先しているのだと思います。長期的な関係に入ると、性的な生活が悪化するのは当然のことだ、という信念が広がっているように感じます。だから、それを変えたり話し合ったりする必要がないと思っているのではないでしょうか。
多くの家庭が、タイでは文化として、長期的な関係に入ると性的な側面、例えば頻度や質が下がるのは普通のことだ、ということを学んでいるように感じます。
MISA: 興味深いですね。つまり、そこには焦点を当てず、まず他のことに集中するということですね。
NEST: はい、これは自然なことだと考えられているので、誰も「何か問題があるのかな?」とは疑問に思わないんです。多くの人が「これは普通だ。みんなこれが起こると言っている」と思っているのかもしれません。
身体の構造を知ることが「自信」につながる
MISA: 女性の体の構造について知ることが、クライアントにとって問題解決に役立つと思いますか?
NEST: 間違いなく問題解決に役立つと思います。二つの面で役立つと思います。
一つ目は、もちろん、クリトリスがどこにあるのか、どの部分が膣なのかを理解することは大事です。
若いティーンエイジャーなどは、クリトリスやGスポットがどこにあるのか、膣がどのような構造なのかについて疑問を持つことが多いです。たとえば、「指を挿入すると感じるこれは何なんだろう?」といった具合に。
ですから、どこを触れば良いのか、どこは触らない方が良いのかを理解することは、性的な感覚や欲望を高める手助けになると思います。
また、パートナーと話し合う際にも、どこをどう触れば良いかを説明する助けになるでしょう。
もう一つ重要なのは、ボディイメージです。
MISA: ボディイメージですか?
NEST: Ba-Vulvaは、女性器の色や形に個人差があることをサイトやSNSを通じて発信していますよね?
外見の違い、特に性器や胸などの見た目が異なることを学ぶことは、問題解決に非常に役立つと思います。多くの女性、そしておそらく男性も同じですが、実際に自分の性器に自信が持てない男性のクライアントと接した経験があります。
女性の場合は、肌の質感や色、サイズ、位置、バランスなどさまざまな要素に不安を感じることがあります。
多くの男性や女性が、性器をパートナーに見せることに不安を感じ、性的な行為に積極的になれないことがあります。
女性にとっては、胸についても同じです。性器だけでなく、胸もまた色や形、サイズが違うことがありますからね。
ボディイメージや体に対する自信は、性的な関係に対する見方や不安感に大きな影響を与えると思います。
性的なパフォーマンスの不安感以前の問題で、そもそも相手の前で裸になる自信がない場合、パフォーマンスの不安どころではありません。それはその後の話です。
ですから、私たちは性器や胸の違いについて、ポジティブな姿勢をもっと発信する必要があると思います。
性教育パペットBa-Vulvaは、構造を理解することに役立つ
MISA: Ba-Vulvaは、女性の外陰部の構造について学ぶために設計されています。Ba-Vulvaもカウンセリングで役立ちますか?

NEST: はい、とても役立つと思います!クリトリスを取り外して実際の形を見せることができる点が特に気に入っています。これは、多くの人がクリトリスに関して誤解している部分ですからね。
それから、色も気に入っています。特にタイでは、女性も男性も外陰部は明るい肌の色、ピンク色や明るい色が好まれるという考えが根強いんです。
ですから、Ba-Vulvaの色がその考えと違っている点がとても良いと思います。色が違っても全然大丈夫なんだということを表していますよね。
MISA: そうなんです、日本も同じで、正解はないと伝えたくて。
NEST: もし、今後改良されるのであれば、外側の構造だけでなく、内側の構造ももっと表現できると良いかもしれませんね!
たとえば、Gスポットの位置を示すことができれば、それが彼らの疑問に答える助けになるかもしれません。
今はクリトリスについて知ることができますが、「Gスポットはどうやって見つけるの?」という質問が出てくるかもしれません。
ちなみに、男性の性器に関しても作る予定ですか?
MISA: はい、男性器についても現在考えているところです。
NEST: いいですね!お客様が色も選べるようにバリエーションも増えていくといいですよね。
男の子も女の子も、さまざまな色のバリエーションを持たせるというのは、とても素敵なアイデアだと思います!
性の健康は、生まれたときから私たちの一部
MISA: 日本で性的な悩みを抱えている方々に向けてメッセージをください。
NEST: 性的な悩みを抱えている男性も女性も、どこにいても、セクシュアルヘルスは私たちの一部であるということを強調したいです。
私たちは生まれながらにしてこの部分を持っていて、それはすでに私たちの一部であることを示しています。
文化や歴史が、性について話したり共有したりすることを恥ずかしいと感じさせるかもしれませんが、目や笑顔、性格と同じように、性も私たちの体の一部なんです。
それらは良い面もあれば悪い面もありますが、最終的には完璧でなくても自分の一部として受け入れていますよね。
「これも私の体の一部だから受け入れよう。セクシュアルな問題は、今は完璧じゃないかもしれないけど、改善する方法を見つけよう」と考えることで、セクシュアルヘルスを向上させるためのステップを踏むことができます。
最初は難しく感じるかもしれませんが、周りを見渡せば、同じように感じている人や助けてくれる人が必ずいます。専門家も手助けを惜しみませんので、この部分について話すことを恐れたり恥じたりしないでください。
MISA: 感動的なメッセージです。ありがとうございます。Ba-Vulvaにもメッセージをいただけますか?
NEST: Ba-Vulvaは、今まさに私たちに必要な革新的なものだと思います。
私たちの体のもっと複雑な部分を、簡単に理解しやすく、手に取るようにすることが求められています。でも、画像を使ったり話したりするだけでは、退屈になったり、興味を持たれないこともありますよね。あるいは、逆に詳細すぎたり、視覚的に刺激が強すぎたりすることもあります。
でも、Ba-Vulvaはとてもかわいくて、学びやすいんです。
性的に露骨すぎる印象もありませんし、誰にでも親しみやすいと思います。
年齢を問わず、男の子も女の子も、学校や病院、クリニック、どこでも使えるものだと思います。そして、たくさんの人がBa-Vulvaを使って、自分の性の健康を向上させるチャンスを得られることを願っています。
MISA: 素敵なメッセージをありがとうございました。Nestさんの今後のご活躍も楽しみにしています!
Ba-Vulva(ばあばるば)では今後も、日本や世界のセクソロジストなどセクシュアルヘルスにまつわる活動をされている方々と連携していきたいと思っています。
公式インスタグラムでも定期的に情報発信をしているのでチェックしてみてください。
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Ba-Vulva(ばあばるば)は、おばあちゃんたちと手作りで作っています。ばあばるばに込めた想いやプロダクト詳細はこちらをご確認ください。
https://laundrybox.co.jp/BA-VULVA_jp
本記事はランドリーボックスが制作している性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」の公式サイトの記事を一部編集の上、転載しています。