私は長い間ずっと「女性の尿はクリトリスから出ている」と思っていた。それはとんでもない勘違いで、実際の尿道はクリトリスの下あたりにあると知ったのは、ほんの数年前のことだ。

自分の体のことなのに、なんでそんなことも知らなかったんだろう?

「おちんちん」は言えるのに、「おまんこ」は言っちゃダメ?

私には子どもがいるけれど「男の子でよかった」と何度か思ったことがある。男の子には「おちんちん、ちゃんと洗いなさい!」と平気で言えるからだ。

小児科の病院へ行っても「おちんちんが腫れている場合」「おちんちんのケアの仕方」などと堂々とチラシに書かれて壁に貼ってある。

対して女性器は? 女の子がいる家庭はどう伝えているんだろう? 

私は普段の会話でも女性器のことを名称で呼ぶのに躊躇う。「おまんこ」なんて恥ずかしくてとても言えない。ここに文字を書いた今も相当に恥ずかしい。

じゃあなに? 膣? ヴァギナ? 

どれも自分の生活に馴染んでおらず、つい「あそこ」などと言ってしまう。

「おちんちん」はいいけれど「おまんこ」は絶対に口にしてはいけない大人の卑猥な言葉で、口にした途端にその場が凍りつく呪いの言葉みたいな気がする。なんなんだ、この差は。

illustration:斉藤ナミ

自分の体の一部なのにそこだけはなんだか直視できない。「いやらしい」「汚い部分」という印象が強く、話題にするにも抵抗があるのはなぜなんだろう。

「女はどこからおしっこしてるの?」

クリトリスからおしっこが出ていると勘違いしたのは、小学生低学年の頃だった。2歳下の弟に「女にはおちんちんがないの? どこからおしっこしてるの?」と聞かれたのだ。

もちろん、おちんちんが男の子にしかないことは知っていたけれど、確かにどこから出ているのか、正確な場所は自分でもわかっていなかった。

気になった私は、一人になってからおしっこが出ているところあたりを手で探してみた。すると、ちょうどおしっこが出ているあたりにコリっとした盛り上がった部分があり、その内側に小さな小さな肉の塊があるのを見つけた。

絶対にここから出ていそうだ! と感覚で確信した。うわー。こんなところに、こんなものがあったんだ! みんな知ってるんだろうか?

ピンク色でプリっとしたその塊を発見したときの驚きは今でも覚えている。

「あった! 小さいのがあったよ! 豆みたいに小さいけど、女にもおちんちんあるんだ!」

すぐに弟に報告しに行った。

しかし母が「やめなさい!」と話を止めた。「女のおちんちん」や「おしっこが出る場所」について、母は何も教えてくれなかった。その日から私はずっと、女性にも小さなペニスがあり、そこから排尿をしているのだと心の底から思い込んでしまった。

保健体育の授業で女性器や子宮、月経、妊娠、出産などの知識が増えても、初潮が来て経血が膣から出てくることを体験しても、自分の性器のイメージがはっきりとすることはなく、ずっとぼんやり「恥ずかしい場所」のままだった。

「今日2日目」「お腹痛い」など、月経の話はできるけれど、女性器じたいの話はなんとなくタブーな気がして、友達にも、親にも、誰にも話せない。

月に一度、経血が出てくる場所ではあるものの、そのとき以外のそこはまるで体についていることを忘れてしまうくらいに存在が消されている場所だった。

お風呂やトイレで洗うたび、少しは目に入る自分の性器。薄い耳たぶのようなものがチラッと見えることがあっても、それ以上は見ないようにしてきた。

おそるおそる手鏡で女性器を見てみたら…

中学、高校と成長し、今度はセックスへの興味が湧いてきた。少女漫画や小説、テレビで見る情報から、なんとなくセックスのやり方を知っていった。そして彼氏ができ、セックスが自分の生活の中で現実味をおびてきたころ、再び気になった。

ー私の性器、どうなってるんだろう?

当時インターネットはまだなかったし、漫画にもテレビにも女性器の詳細なんてどこにも描かれていなかった。どんな色や形が正解なのかもわからないまま、とにかく好奇心に任せ、家に誰もいないときに、こっそり手鏡で自分の女性器を見てみることにした。

上は着たまま、下はお尻丸出しだ。お尻の肌が床に着くと床板はひんやりした。足をM字にそっと開き、ゆっくりと恐る恐る鏡を脚の間に降ろすと……

は? なにこれ、私のここ、こんなんなってんの!?

illustration:斉藤ナミ

……めちゃくちゃグロい。

本当にあわびみたい!(あわび食べたことないけど)もしくは、ナメクジの裏側?

なんだかむわっとしているし、穢らわしいもののような気がして、思わず目を逸らしたくなる。グッと堪えてさらに見る。

「グロい」イメージの大部分を担っている感じがする薄い耳たぶのようなビラビラしたものは、左右一対の羽のように2枚あった。ゾウの皮膚みたいにシワっともしている。この2枚のひだが膣の入り口を囲んで守っているのか……。

え、ちょっと待って! なんか左の方が右の倍ぐらいデカくない? どう見ても左だけ長い! これ、普通なの!?

そのバラバラな大きさの2枚のひだを指でつまんで広げてみると、膣の入り口が、”ここから先、内臓!”という感じでそこにあった。中身は予想よりも綺麗なピンク色だった。

まじか……膣ってこんなんなのか。こんな小さな穴から赤ちゃんを出すなんて無理でしょ!

一通り見終わると、いけないことをしている気がしてそそくさとパンツを履いた。気持ち悪くて、なんだか怖くて、ショックでたまらなかった。やっぱり、見てはいけないもののような気がした。

なんてこった……こんなグロいものが私の脚の間についていたなんて。こんなものを好きな人に見られるなんて、セックスって最悪じゃないか。いくら顔や髪や服をかわいくしたって、ここがこんなことになっているなんて、彼に知られたら嫌われるんじゃないだろうか?

セックスをするときはいつも、なんとかして限界まで部屋を暗くすることが私にとって何よりも重大なミッションとなった。

インターネットで簡単にAVが観られる時代になると、今度はセクシー女優たちの女性器の綺麗さに打ちのめされた。

私のと全然違うじゃん! 本当はこんなにピンクで小さくて綺麗なの? 私のはどうしてこんなに汚いの?

今まで私の性器を見た男性たちは、みんなドン引きしていたに違いない……。

私のは他の女の子よりも黒ずんでいて、大きさも変。グロテスクで、卑猥で、最悪だ。恥ずかしい。隠したい。見られたくない。見たくない。

その後も調べ続けると、どうやら性器の黒ずみや大きさや形に悩んでいる女性は世の中にたくさんいるようだった。

小陰唇(2枚のひだ)の黒ずみを漂白してピンクにしようとしたり、切除して小さくしようとしたりする人もいるようだった。マジか……切除とかめちゃ痛そう。でも、セクシー女優さんのような綺麗な女性器にしたいという気持ちも、痛いほどわかった。

みんな悩んでるんだな。友達にだって聞けないもんね。

できることなら私だって自分の性器をもっと好きになりたい。人とも話したい。……でも恥ずかしい。名前を口にすることも勇気がいる。カジュアルに話せたら、もっと楽になれるのに。

女性器はめちゃくちゃ有能で繊細で精密な器官

そんな中、私は今回、ランドリーボックスさんの作った女性器のパペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」を見た。かわいいー! と思った次の瞬間、めちゃくちゃ驚いた。

Photo by Laundry Box

なんと、クリトリスが思っていたものと全然違ったのだ! 私の知っているクリトリス像は、全体のほんの一部でしかなかった。

Photo by Laundry Box

みんなはクリトリスって表面の突起物だけだと思っているかもしれないけれど、
実は、それはクリトリスの頭の部分(陰核亀頭)だけなんです。
実際は、こんなペンギンみたいな形をしています。

Ba-Vulva公式サイトより

実際のクリトリスは見えている部分より何十倍も大きく、長く、2本の脚のような部分が膣の周りを囲んでいるということを初めて知った。

クリトリス、おまえ……そんなに長かったんか……! 5ミリくらいの小さな豆粒じゃなかったんか!

なんでそんなことも知らなかったんだ? クリトリスにはいつもあんなにお世話になっているのに!

考えてみれば、私はずっと性器とともに生きている。

セックスに出産、毎月の月経、毎日の排尿。こんなに身近な場所にあって、一生切っても切り離せない大事な存在なのに、どうして私はこんなにも自分の性器が苦手なんだろう。そう思うと、途端にかわいそうに思えてきた。

サッと検索しただけでもたくさんの知らない情報が出てきた。その形、色、匂い、構造、愛液、オーガズム、全てに意味があり、私のことを病気から守ってくれていて、なるべく健康で優秀な子孫を生み残すための、非常に有能で繊細で精密な器官だということがわかった。

なんだよ、女性器ってすごいじゃん! めちゃくちゃ有能じゃないか! 

どうしてこんなに大切で、素晴らしいことが、タブー視されているんだろうか?

どうして自分の体なのに、こんなにも知らないことだらけだったんだろうか?

ごめんな? グロいとか、穢らわしいとか、見たくないとか、ひどいことばっかり言って。

長い間ずっと私のそばにいて、初めての月経も、性の目覚めも、初体験も、恋愛も、妊娠も出産も、ずっと一緒に二人三脚でやってきたのに。

そう思うと、左だけ大きい小陰唇も、変な形も、黒ずみも、少し愛おしく思えてきた。むしろ面倒臭くてたくさん拗らせて不器用に生きている私の性器にピッタリじゃないか。

まだまだ一緒に生きていくんだし、私はもっと女性器のことを知りたい。そして、自分くらいは、自分の性器のことを「いやらしい」「汚らしい」なんて思わないで、仲良くやっていけたらいいなと思う。

自分の性器を見たことがない女性は意外と多いらしい。

あなたは、自分の性器を見たことがありますか?

見たとき、どんな感想を抱きましたか? 

(文・イラスト:斉藤ナミ)

特集「わたしのカラダはわたしのものだって、言うけれど。」

My Body My choice – わたしのカラダはわたしのもの。

あたりまえだし、大切なことだとわかっている。でも、私たちって自分のカラダのことをちゃんと理解している?プライベートゾーンもそう。

 「自分にとって、プライベートな場所はどこなのか?それはどのような場所なのか」大人でさえも向き合うことや学ぶことがありません。 

本特集では、Vulva(外陰部)をテーマに、さまざまな切り口で、自分のカラダやSRHRについて対話するきっかけを提供できればと思っています。 

なお特集に際して、性教育/プライベートゾーンに関するアンケートを実施中です。みなさんのご意見や体験談をお寄せいただけますと幸いです。

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