「ステージ1の乳がんです」
医師から、あまりにもさらりと告げられた病の報せ。
一瞬「死」がよぎったが「意外にも冷静だった」と、当時を振り返る。
今回ランドリーボックスは、女性たちの健康を願って、婦人科検診の啓発活動を応援している花王「ロリエ」との共同企画により、乳がんをご経験された太田可奈さんにインタビューを行った。
「早期発見が後悔しない人生につながる」と語る可奈さんと、パートナーの健一郎さんの2人に、早期発見に至った経緯や、仕事を続けながら治療に挑んだ日々について聞いた。
友人のひと言で精密検査を決意
太田可奈さんは2020年9月、38歳のときに乳がんが発覚した。
同年12月に摘出手術、翌年1月から抗がん剤治療、4月からは放射線治療という乳がん治療のフルコースを経験した。現在は、ホルモン療法と定期的な検査のために通院している。
乳がんが発覚する3年ほど前から、人間ドックのマンモグラフィと乳房超音波の検査で乳腺の石灰化が見つかり「経過観察」だったという。
乳腺の石灰化は乳腺の中にカルシウムが沈着し、しこりがある状態。この状態で、胸に針を刺す精密検査(針生検)をしても、良性であるケースも少なくない。そのため引き続き経過観察とするか、痛みを伴う検査をするかは、医師の判断や本人の意志によって分かれるところだ。
「もしかしたら…」、不安が拭えなかった可奈さんは、都内の病院で院長を務める友人に状況を話してみた。
「『心配ならウチの病院で診てみようか?』と友人が言ってくれて、乳腺超音波で検査をしてもらいました。その結果を見て友人がすぐさま連絡をくれたんです。彼は『もし俺がダンナだったら針を刺す(針生検をする)ように言うかな』と言いました。もちろん針を刺すことへの怖さもありましたが、そのひと言に背中を押され、紹介してもらった病院で精密検査を受けることにしました」
精密検査の結果は、ステージ1の乳がん。
「びっくりするほどサラッと伝えられました。サバサバとした医師の対応が、私にはありがたかったです。『どうすればいいですか?』と、その場でこれからのことを相談しました」
「悲しみ」よりも「ありがとう」の涙
医師に告げられたとき、意外にも冷静だった理由は「言われる前から、なんとなく覚悟していたから」と当時の心境を語る可奈さん。
「その日は病院から仕事場に戻ったんですが、心配していた親友2人が私に会いにきてくれていました。夜は飲みに行って、2人の前で号泣しましたね。気が張っていて不安な私に、2人が寄り添ってくれて、泣かせてもらいました。そのおかげで家に帰ってからはケロッとしていたと思います」
パートナーの健一郎さんは、可奈さんの乳がんを知ったとき「率直にショックでした。それと同時に、自分がしっかり支えなければと強く思いました」と話す。
可奈さんの母とともに、病院に付き添った健一郎さん。可奈さんも驚くほど、次々と医師に質問を投げかけ、熱心に話を聞いていたそうだ。「ちゃんと勉強してくれたんだ…」とすぐにわかった。
「病と闘っていくためには、正しく恐れる必要があります。乳がんについての知識はほぼゼロでしたが、ネットを中心にできる限りの情報を集めました。大学病院のサイトなど、信頼できそうなページをいくつか比較しながら調べたと記憶しています」(健一郎さん)
そして可奈さんを支えたのは、友人に紹介してもらった乳がん患者のコミュニティサイトの存在も大きかったという。コミュニティでは、互いの状況を報告したり、励ましあったり、情報交換ができる場だ。
コミュニティを通じて、手術する病院を紹介してもらい、これから始まる治療に関するさまざまな情報を得ることもできた。「当事者しかいないコミュニティなので、的確なアドバイスをもらえて、とても心強かったです」と可奈さん。
治療をがんばれたのは、乳がんコミュニティで出会った人たちや、支えてくれたパートナー、友人、家族、仕事仲間のおかげだと話す 。
「夫は家事をしてくれたり、毎朝のウォーキングやラジオ体操にも付き合ってくれたりと、サポートしてもらいました。入院するときは、みんなが寄せ書きをしてくれました。治療でつらいとき、職場の部下たちを頼もしく感じて、すごく嬉しかったことも覚えています。乳がんがわかってから、ありがとうの涙を何度も流しました」
「元気にしているよ」と伝えたくて
3カ月に及ぶ、週に1度の抗がん剤治療は、回を重ねるごとに体のだるさ、痺れなどの副作用に苦しんだ。また免疫力が低下して、口内や肛門、膣などの粘膜がただれてしまう症状にも悩まされる日々を過ごした。
抗がん剤の副作用で、髪の毛も抜けていった。
「もともとわかっていたことなので、来た来たー!という感じでしたね。抗がん剤を打ち始めて3週目あたりから、一気に抜けるんです。抜けた髪が散らばるから、ショートにして不織布の帽子を被っていました。そのうち、少しだけ残っている毛が逆に気になってしまい、夫に全部剃ってもらいました」(可奈さん)
「髪の毛を剃ってあげたときのことはとても印象に残っています。がん治療中の怪我は禁物なので、今思えば、あまりおすすめできませんが…。脱毛さえも意外と楽しんでいるように見えて、そのポジティブさに拍子抜けしました(笑)」(健一郎さん)
可奈さんは友人や職場の仲間にも、SNSを通じて、治療の経過を伝えてきた。抗がん剤治療の「ラスト2週間は本当につらかった」というが、そんなつらい状況の中でも、思わず笑顔になってしまうような投稿を続けたのはなぜか。
「みんな心配してくれていたので、私は相変わらずだよ、元気にしているよ、と伝えたかったんです。もちろん体がしんどくて何もできないときは、『今日は無理だから、あとはよろしくね』と仲間を頼っていました」
抗がん剤治療が終わったあとは、放射線治療のため、毎日通院した。
「放射線治療も、抗がん剤と同じように回を重ねるごとに倦怠感が増していきました。15分ほどの短時間ではありますが、毎日通い続ける大変さもありました。副作用でずっと眠くて。それが1番しんどかったですね」
「自分は健康である」という思い込みを捨てる
太田さん夫婦は、4年前から不妊治療をしていた。そんな中で発覚した、可奈さんの乳がんだった。健一郎さんは「可奈の身体が1番だから、不妊治療はお休みしてしっかり治そう。サポートはするから」そう言って彼女を励ました。
つらい闘病生活を乗り越えてきた可奈さんが、前向きに乳がんの治療と向き合えた理由はもう1つあった。
不妊治療クリニックで血液検査をして「早発閉経(*)」と診断されたのだ。可奈さんはこのとき36歳だった。日本人女性の平均的な閉経年齢は50.5歳と言われている(*40歳未満で卵巣機能が低下して無月経になること)。
「早発閉経が発覚したときは、夫と2人で泣きましたね。私は離婚することも本気で考えたほどです。乳がんももちろんショックだったけれど、私にとっては早発閉経と言われた過去のほうが、もっとつらかったんです」
小学6年生で初めて生理がきて以来、遅れることもなく毎月しっかり生理があった。これまで健康体で生きてきたからこそ、どこか「自分は大丈夫」という思い込みがあったと話す。
「根拠もなく、大丈夫という自己判断は絶対にしない方がいい。そう痛感した出来事でした」
「不妊治療は私にとって“出口の見えない博打”のような日々でしたが、乳がんの治療は、病気に打ち勝つというゴールが明確にあって、前を向くことができたと思います。早期発見できてよかったです」
人間ドックは夫婦の恒例イベント
早期発見のためには、定期的な検診をーー。
わかってはいても、「忙しい」、「がんを宣告されるのが怖い」などの理由で検診を受けずにやり過ごしている人も少なくないだろう。
太田さん夫婦は結婚以来、毎年必ず2人で人間ドックを受けている。先導してきたのはパートナーの健一郎さんだ。
「妻は父をがんで亡くしていますのでやっぱり不安があって、結婚当初に、人間ドックは毎年欠かさずに受診しようと決めました。いつも忙しい妻ですが、前もって予定を組んで一緒に受診すれば、忙しくて行けないということもないはず。私が毎年2人分を、同じ日に予約して受けるようにしています」
人間ドックを習慣化した太田さん夫婦。その秘訣は「楽しむこと」だという。「夫婦の恒例イベントみたいに捉えていますね。その日は2人で出かけるデートのつもりで、検診後の食事を楽しみにしています」と可奈さんは微笑む。
「乳がんの手術で入院したとき、同じ病室だった方の中には、ステージ4の方もいました。私よりももっとしんどい治療をしている方たちの姿を目の当たりにして、早期発見がいかに大切であるかあらためて感じました」
「仕事や家族を優先して、自分を後回しにしている方もいらっしゃいます。でも早いほうが治りも早いし、元気にもなれる。後回しにしたら自分も周りも悲しい思いをすることになるかもしれない。どうか、自分は大丈夫と思わずに検診を受けてほしいです」
乳がんに限らず、子宮頸がんなどの女性特有の疾患に、関心を寄せる男性はそう多くない。人間ドックを欠かさない健一郎さんでさえも例外ではなく、パートナーが当事者になるまでは、情報に接する機会がなかったと話す。
「乳がんや子宮頸がんについて、男性も知るべきだと思います。知る機会がもっと増えれば、理解が深まるし、検診を後押しするなどパートナーを支えることにつながるのではないでしょうか。若いうちに知っておけば、行動も変わると思います」(健一郎さん)
人生一度きり。好きなことをするためにも早期発見、早期治療を
IT系ベンチャー企業の役員を兼任しながら、子ども向けのプログラミングスクール事業を運営するなど、仕事に邁進してきた可奈さん。
乳がんを経験してからは、自身の働き方、生き方に対し心境の変化があった。IT企業の役員を退任して、本気で取り組みたい、子ども向けのIT教育事業に全力を注ぐことにした。
「人生は一度きり。そうわかっていても、やりたいことに飛び込めずにいる自分がいました。でも、いつ死ぬかわからないとわかったら、もう後悔したくないと思って、やりたいことだけをやると決意しました」
「知り合いに『好きなことやってお金が全部なくなったとしても、バイトでもなんでもしてまた働けば、食べていけるよ』と話してくれた人がいて(笑)。それもそうだなと思ったんです。地位や名誉より、後悔しない人生を選びたい」
可奈さんは仕事をしながら、シングルマザーや共働き・核家族で子育てが大変な親御さん、学校に馴染めない子どもたちをサポートする活動をしたいという思いを抱く。
「この先、乳がんが再発する可能性もゼロではありません。だから養子縁組の選択もしばらくは難しい。今は仕事や地域の活動を通じて、“みんなのお母さん”になれたらいいなと思っています。こうして新たな夢を持てたのも、早期発見、早期治療ができたからですね」
(写真:川しまゆうこ)
検診は、自分のカラダを知る一歩でもあり、パートナーを守る機会でもある
子宮頸がんは、国内で年間約1万人が罹患し、患者数は近年増加傾向にあります。また生涯、乳がんに罹患する女性は約9人に1人とのデータもあります(いずれも国立がん研究センターの調査)。
女性の心とからだに寄り添い続ける花王株式会社の生理用品ブランド「ロリエ」は、10月の乳がん月間と11月の子宮頸がん月間を機に、2022年10月3日(月)から11月30日(水)まで、婦人科検診の啓発キャンペーンを実施します。
自分のカラダを知る一歩として、また自分の家族やパートナーのカラダを守る機会として。婦人科検診が当たり前になることを願っています。
特設サイト「検診促進活動~女性たちの健康を願って~」では、子宮頸がん、乳がんに関する基礎知識や、「Twitterリツイート募金」の取り組みについて発信しています。俳優の二階堂ふみさんが婦人科検診を受けるようになったきっかけを語った、女性ライフクリニック銀座・新宿理事長、対馬ルリ子先生との対談もご覧いただけます。
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