体質と症状・悩みに合わせて選べる、クラシエの漢方薬シリーズ「漢方セラピー」。

「漢方ってよくわからない」そんな声を受けて、漢方薬を「もっと身近に、わかりやすくしたい」と2006年にスタートした。誕生から15年、漢方薬を取り巻く環境は変わり続けている。

コロナ禍を経てライフスタイルにも変化がある中で、「漢方セラピー」は何を目指すのか、クラシエ薬品株式会社、ヘルスケア事業部マーケティング担当の砂橋久瑠実さん、阿部容子さんに聞いた。

漢方をもっと身近に。2006年に誕生した漢方セラピー

ーー 2006年、薬局・ドラッグストアで展開する漢方セラピーが誕生しました。スタートの経緯を教えてください。

砂橋さん:それまでの漢方薬は、「よく分からないもの」というイメージが強くありました。例えば、漢方薬のパッケージにただ「処方名(漢方薬の名前)」だけを書いていたりなど。

しかし、それでは当然、その漢方薬が「どんな症状に効くか」「どんな不調を改善してくれるか」といったことが一般の人に伝わりません。

漢方セラピーは、そこに注目しました。

「漢方薬の分かりづらさ」を変えないと、我々が助けになりたいと思っている人たちに漢方薬を届けられないと思ったんです。

まず一般の人から見ても分かりやすくて選びやすい。そんな漢方薬ブランドを作るために、漢方セラピーをスタートしました。

ーー たしかに漢方セラピーは、分かりやすいパッケージが印象的です。例えば、パッケージの全面には「漢方薬の名前」を記載するのではなく、「つらい足の冷えに」といった具体的な症状が書かれています。

パッケージには、自分の体質や症状に合わせて選べる文言を分かりやすく記載しています。

売れ行きを伸ばしてきた漢方セラピー

ーー 今までの漢方とは異なったイメージを打ち出す上で、社内からは、漢方セラピーをスタートすることに対して懸念や反対意見などはなかったのでしょうか?

砂橋さん:やはり漢方セラピーをスタートする前は、社内に「漢方にしてはライトすぎないか」、「お手軽感が強いのでは」といった疑問の声がありました。

従来品のパッケージは、重厚感があり、“THE 漢方薬”という伝統的な印象。その一方で「どんな症状が改善されるのか」がパッと見てわかりづらかった。

また、実際に漢方セラピーを販売する薬局・ドラックストアなどの販路の面でも、発売当初はスムーズに導入が進んだわけではありませんでした。

商品数が多く、お客様への説明が難しい漢方薬を積極的に販売すること自体にそこまで賛同が得られなかったことが理由にあります。

そのため漢方セラピーブランド、発売開始後10年ぐらいの期間は苦労しながら、徐々に成長していくような形となりました。

ーー そこからブランドを伸ばしていったきっかけは何かありましたか?

砂橋さん:1つは、弊社の強みとして、「シャンプーやお菓子などの生活に身近な製品を出しているメーカー」といった親しみやすいイメージを持ってもらっていたことがありました。

そのようなイメージが既に定着しつつあったので、漢方セラピーのコンセプトである「分かりやすさ」や「身近さ」は広めやすかったように思います。

クラシエグループでは「いち髪」などのヘアケア商材や、「ねるねるねるね」などのお菓子など人気商品を多数手がけている。

ーー 漢方って体質から改善できる一方で、どこか「効きづらい」といったイメージもあります。

砂橋さん:最近は「漢方」というワードが広がっていく一方で「薬じゃない」というようなイメージを持たれている方もいらっしゃいます。薬膳とか、ハーブ、お茶のように、幅広く「漢方」という言葉が使われていますよね。

選択のハードルが下がることはとても良いことですが、医薬品としての信頼感が薄まってしまうことは、医薬品メーカーとしては少々もどかしさを感じます。医薬品なので、症状や体質に合ったものを選べば効き目はあります。

だからこそ、60ものラインナップを揃え、サイトにも副作用に関する記載があります。

ーー コロナ禍を経て何か変化はありましたか?

砂橋さん:はい、特にお客様の消費傾向が変わりました。

例えば、コロナ前までは足のつりに効く「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」という漢方が売れていたのですが、コロナ後は外出や運動する機会が減ったため売り上げは減少しました。

ーー それまでは、運動して足がつるから飲んでいたけれど、家の中にいて運動しないから足をつる頻度が減ってしまったということでしょうか?

砂橋さん:そうですね。外出頻度が減ったり、運動系のイベントも自粛が続いたことで足をつる頻度が減ったのだと思います。

あとは、コロナ禍でいうと、喉のつかえ感や不安神経症に効く「半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)」という漢方も緊急事態宣言が出るたびに需要が高まる傾向がありました。コロナ禍による意識の変化として、不安やストレスを強く感じる方が増えたことに起因すると考えています。

※参考:東京都福祉保健局、新型コロナウイルス感染症 症状がある方はためらわずに連絡を! ~よくある「自覚症状」のチェックリストより。

ーー 社会や時代の動きによって売れる漢方に変化があったということでしたが、常にメインで置かれているイメージのある、更年期障害用の漢方薬はやはり売れ続けているのでしょうか?

砂橋さん:更年期障害の症状にもいろいろあるため、より自分の症状に近いものを飲んでいただいた方が効果も実感していただきやすくなります。

漢方セラピーにおいても、症状によって製品を細かく分けることでお選びいただける機会は増えたかと思います。

また、人生100年とはいえ更年期の期間は約10年ととても長いです。

今後も「女性の不調」を緩和できる漢方薬は、より広く商品展開していきたいと考えています。

更年期障害の症状に合わせた漢方薬

ひとりひとりに合った漢方を提供するために

ーー 日本では、医療機関でも漢方を処方してもらうことができますが、漢方セラピーをドラッグストアで販売する意味は何でしょうか?

砂橋さん:漢方だけに限りませんが、「病院に行きたくても行けない」「時間がない」という方でもドラッグストアならば症状の緩和にアクセスできる、という意味があると思います。

特にメンタル系の病院は未だに行きづらい方も多いと思うので、そのような人にも漢方セラピーは合っていると考えています。

また、病院に行くほどではないと感じる不調にも、お客様自ら対応できる選択肢を提供できるのがドラッグストアで買える漢方セラピーを販売する意義だと思っています。

ブランドスタート当初から、ひとりひとりの症状に合わせて徐々にラインナップを増やしてきた。

ーー やはり漢方セラピーは、漢方を身近に思ってもらうことを大切にしているんですね。

砂橋さん:分かりやすいパッケージや選びやすいラインアップ展開で、お客様の漢方薬に対するハードルを下げる、漢方をひとつの選択肢としていただけるように心がけています。

漢方セラピーという名前の通り、治療だけじゃなくて「癒す(therapy)」という意味も込めています。

クラシエ薬品株式会社の砂橋久瑠実さん

ーー 病院での処方と違って、ドラッグストアでの販売はひとりひとりに合う漢方薬を提供することが難しいと思うのですが、何か工夫していることはありますか?

砂橋さん:ひとつは、先程もご紹介した更年期障害用の漢方薬のように、ひとつの疾患でも体質によって異なるさまざまな症状に対応できる漢方薬を提供していることです。最近は、化粧品やお菓子といったサブスクリプションのサービスがありますが、弊社の漢方セラピーはそのようなサービスができません。

その代わりとして、質問に答えていくだけで自分の体質を6つのタイプにわけて、タイプ毎にお薦めの漢方薬を提案してくれる「からだかがみ」を提供しています。

約1分ほどで体質チェックができます。

自分の体質を正確に知ることで、より自分に合う漢方薬を選んでいただけたらと思っています。

漢方セラピーの「からだかがみ」(公式サイトより)

ーー 2020年には有楽町で期間限定の漢方セラピーストアをやっていましたね。

砂橋さん:漢方セラピーストアは、漢方セラピーシリーズの商品を販売するだけでなく、さまざまな不調を薬剤師に相談できるカウンセリングコーナーを設けた“体験型ストア”でした。

専門家が、お客様の体質に合わせた漢方を処方できるという取り組みです。

実際に来ていただいたお客様からは、「漢方セラピーに相談してみたかったんだ」や「誰に相談していいか分からないから来てみた」といったお声もいただきました。

そのようなお声をいただいて、漢方セラピーは症状に合わせてお客様自身に薬局で選んで購入していただけるものだけれども、やはりカウンセリングサービスの必要性も感じました。

15周年記念にカードゲームを発売したわけ

ーー 漢方セラピーの15周年記念では「人にやさしくなるゲーム」というカードゲームも出していましたよね。漢方とゲームってなかなか結びつかないのですが、なぜカードゲームを出したのでしょうか?

砂橋さん:元々は、コロナ禍で家での時間が増え、社会全体が不安やストレスで暗くなる中で漢方セラピーには何ができるのかを考えたところからスタートしました。

ただ当然、社内からの反対はありました。「どうしてゲームなのか?」「漢方セラピーのユーザーと、ゲームとの親和性はあるの?」といった反応ですね。

しかし、より多くの方に漢方セラピーを知っていただくといった意味では、漢方薬と一見関係のない分野にも参画していかなければいけないと思い、ゲームを出すに至りました。

ーー 実際の反響はどうだったのでしょうか?

砂橋さん:結果、弊社が思っていた以上の反響をいただきました。

人にやさしくなるゲーム」は、体調不良が書かれたカードを引いた人に、周りの人がやさしい言葉“セラピーワード”を言うことで、何の体調不良かを当てるゲームです。

例えば、「頭痛」のカードが出たら、「横になるといいよ」といった言葉をかけるんです。

実際にゲームを体験した方からは、「生理痛のような個人差のある体調不良では、言われて嬉しい言葉などを知ることができた」という声を聞きました。

インタビュー中に、実際にゲームを体験させてもらった。ひとりが引いた「症状」のカードに合わせて、そのほかのメンバーがジェスチャーやオノマトペ、優しい言葉をかけるなどのアクションを行い、カードを引いた人がその「症状」を当てるゲーム。写真は、「二日酔い」に合わせてジェスチャーをする阿部さん。想像していた以上に楽しく、盛り上がった。

ーー 思いやりや優しさが体験できるゲームですね。

砂橋さん:ルールが「優しい言葉をかけてください」なので、自然と相手を思いやることができますよね。そこに注目したメディアの方からも、問い合わせを多くいただきました。

また、漢方セラピーはそれまで健康やヘルスケア分野にしか露出することがなかったんですが、ゲームを通じて、全く違う領域の方々からも関心を寄せていただくことができました。

お客様と対話できる場づくりを目指す

ーー 体験型ストアやカードゲームの実施など、新たな取り組みをすることでさまざまな声が届いていると思うのですが、現状、課題に感じていることはありますか?

阿部さん:お客様とのタイムリーなコミュニケーションを実現することが、難しい課題ですね。

例えば、実際にお客様から「こんな症状に効きました」といった嬉しい言葉をもらっても、薬機法に則った返信しかできない。「用法・用量を守ってください」くらいしか言えないんですよね。

ただ、そういう難しさがあるからこそ、広告などで漢方セラピーを知り「効きました。ありがとう」といった言葉をいただいたときはとても嬉しいです。

電話やお手紙、SNSを通じてお寄せいただいたお客様からの声は、弊社のチーム内で、すべてに目を通すようにしています。

クラシエ薬品株式会社の阿部容子さん

ーー 今後、漢方セラピーが注力していきたいことは何でしょうか?

砂橋さん:漢方セラピーだけの店舗は難しいですが、お客様と実際に対話できる場を作っていきたいと思っています。

お客様お一人おひとりの声を聞くということが、お客様の不調を改善する最良の方法だと考えています。

あとは、継続的にオンラインセミナーやドラックストアでの漢方セミナーも実施しています。そのような「誰から買うのか」が、お客様から見えるような信頼感のある漢方セラピーにしていきたいですね。

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