フランスではここ数年、「生理の貧困」の解決に向けて動き出しています。フランスではおよそ170万人の女性が「生理の貧困」状態にあると言われ、中学生や高校生、大学生などにとっても生理用品にかかる費用が大きな負担となっているのが現状です。

そんな中、政府は2020年3月、生理用品の無料配布に向けて100万ユーロの予算を組むことを発表。同年9月から実験的に、中等教育以上の生徒・学生、受刑者、生活困難者と路上生活者たちに生理用品の提供を始めることを明らかにしたのです。

フランスでは新学年を迎える9月。無料配布は実際にどのように実施されているのでしょうか。生理用品の配布機を提供しているMarguerite&Cieの代表、ギャエル・ルノアヌさんと、フランスの生理用品の無料配布の状況について取材しました。

生理用品の無料配布。その背景に驚きの調査結果

フランス世論研究所のifopが2019年に実施した調査によるとイル=ド=フランス地域圏の3人に1人の女子生徒が「生理用品を適切なタイミングで交換できていない」、「代替品を使用したことがある」と回答。パリを含めるイル=ド=フランス地域圏の知事、ヴァレリー・ペクレス氏はこの調査結果も踏まえた上で、9月より試験的に地域圏内の31の高校で無料配布機を設置することを発表しました。

本プロジェクトに関する予算は10万ユーロ(1200万円程度)で、この10月までに31の高校で設置が完了する予定です。これら31の高校で良い結果が得られた場合、同圏内の他465校にも設置をすることが検討されています。

セーヌ=サン=ドニ県のヴィルモンブル市の公式インスタアカウントより。市の公立ブレーズ・パスカル高校にペクレス氏が訪問した際の写真

他にはブルターニュ地域圏でもこの9月より、有志の10の高校で無料配布が開始しました。

ローカルレベルでも広がるパリの生理への理解

こうして大規模に始まった生理用品の無料配布ですが、学校や企業などのローカルレベルではこの9月の前からすでに取り組みが始まっていました。

例えばパリ市の10区は、2019年に区内の公立中学5校のトイレに生理用品の無料配布機を設置することを決めました。この決定の背景には、同年に実施されたifopの調査において12歳から19歳の女子生徒の97%が生理用品を「高い」と感じると回答したことや、10人のうち7人が、学校で生理用品がない状況に陥った時に先生などには相談しにくいと回答した結果がありました。

また、女子生徒だけではなく男子生徒に対しての生理に関する教育も重要視している10区の区長は、生理用品の無料配布と同時に生徒たちに向けた生理に関する冊子を作成。10区内全ての中学で配布されました。

10区はこのような試みを通し、生徒たちが自分の体のことをより深く知るきっかけを作るだけではなく、オーガニックの生理用品を配布することで環境への配慮も目指しています。

Photo by Sam Manns on Unsplash

カラダにも、地球にも、他人にも優しい生理用品を

この無料配布機のメーカーのひとつがフランスのブルターニュ地方出身の女性、ギャエル・ルノアヌさんが立ち上げたMarguerite & Cieです。この配布機の中にある生理用品は、オーガニックで環境に優しいプラスチックフリーのブランド、ナトラケアの製品です。

配布機では紙ナプキン、アプリケーターあり・なしのタンポンをそれぞれ提供。300個程度のストックが可能で、順次補給をしていくというシステムです。現時点ですでに、大学や企業、地方自治体などに設置されています。

Marguerite & Cieの創設者、ギャエルさんはそもそも生理とは全く関係のない発音矯正士の仕事をしていました。しかし2017年、タンポンに有毒性の高い成分が含まれていることを知り、プラスチックフリーかつオーガニックの生理用品の必要性を痛感したことから、オーガニック生理用品のみを取り扱う会社を立ち上げたのです。

環境への高い意識を持つギャエルさんはオーガニックのブランドであるナトラケアとの独占契約を結ぶことに成功。現在、彼女の会社が扱うのは全てナトラケア製品です。

このMarguerite & Cieが提供するサービスは主にふたつ。ひとつ目は、会員になると毎月ナトラケアの生理用品が家に届くというサービス。助け合いの精神を大事にしているMarguerite & Cieでは、利益は生理の貧困で困っている人のために使います。つまり会員は購入という行為を通じて、困っている人にも生理用品を届けられるという仕組みです。

ふたつ目のサービスが、上記でふれた生理用品の配布機の提供です。配布機は全てリース契約(顧客の希望する物品を購入し顧客に長期間賃貸する取引)で、中に入れるナプキンとタンポンはもちろんナトラケア 製品。2019年の7月に特許を取得したこの配布機は、中身の取り換えが簡単にできる仕組みになっています。交換は設置先が各自で行いますが、トイレットペーパーの交換と同じ感覚でできます。

こだわりが共感を呼んで、変革を起こす。

2019年にレンヌ第二大学に初めて設置された配布機第一号は、大成功。その後ブルターニュ地方を中心に少しずつ配布機の設置が進みました。現在では16の大学、中学高校も合わせて100校ほど、そして国有鉄道事業者のSNCF社のような大企業にも社員向けに設置をしているところがあるそうです。

学校や自治体、ソーシャルハウジング関係などから毎日15件ほど、配布機の設置に関する問い合わせが来るほどに知名度が上がってきたとギャエルさん。今後、政府は高校などでの設置をさらに進めるため、配布機設置に関する公示を予定しています。Marguerite & Cieにも競合他社はいますが、「特許を取っている当社の配布機は環境に優しく、また交換のしやすさに優れている」とギャエルさんは自信たっぷりです。

女性の健康と生理の貧困に関する活動を続けてきたギャエルさんは、人々の生理に対する視点がここ数年で大きく変わってきたと感じるそう。アメリカから始まったこの動きはフランスにとどまらず、これからも世界各国に広がっていくだろうと予想します。

「Marguerite & Cieのサービスが必要なのであれば、どんなに遠くの国であろうとも駆けつけます」と語る彼女からは、女性の健康と環境に対する強い想いが伝わってきました。

生理の貧困の解決に向けて諸制度の整備も重要ですが、フランスの活動家たちが指摘するのは、ここ数年で大きく変わってきている人々の意識。フランスの全ての中高で無料配布が始まるのも、もう遠い日のことではなさそうです。

ランドリーボックスでは、「生理の貧困」に関する国内外の情報を集めています。自治体や教育機関、企業、団体などが取り組んでいる施策、無料配布が行われている地域など情報をお持ちの方はぜひ、こちらのフォームにご記入ください。

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