「バースプラン」という言葉をご存知だろうか。
どのようなお産にしたいか自分なりの出産計画を立てることだ。妊娠中の過ごし方から、分娩方法、いざ出産する際には「照明は明るすぎず、曲はこれをかけてほしい」といった細かい指定をできる病院もある。
妊娠が分かったらまずは産院を決め、週数が進み妊娠中期を過ぎた頃に医師や助産師からバースプランを書いて提出するように言われる妊婦は多い。
だけどこれ、順番を逆にしたほうがいいのでは?と、実際に経験してみて思った。つまり、「妊娠がわかったらプランを描き、自分の理想のプランに限りなくフィットする産院を選ぶ」という手順が理想だ。
もちろん自宅出産など、産院以外の場所での出産を希望する場合も例に漏れない。だって産院を決めたあとにいくら妊婦があれこれ希望しても、病院側や医師の方針と合わなければ叶えられなさそうなこともままある、ということがよく分かったから。
私も昔は「産院とはなるべく近所のところを選ぶものなのだろう」と思い込んでいたが(もちろんそれもひとつの選択基準ではあるけれど)、よくよく考えてみたらほかにも重視すべきことがあり過ぎた……!
今回は、私の場合の産院選びの基準をお話したい。
*この記事は個人の出産の場合です。ご自身の考えに合った産院選びをおすすめします。
「やりたくないお産」から考えたっていい
とはいえ、特に初産の場合はそもそもバースプランをどう決めればいいかなんて、分からない人も多いと思う。
私の場合、妊活してから第一子を授かるまでに数年の時間だけはあったので、希望するお産のイメージが割とはっきりしていた。
正確には「こうしたい」というより「これはしたくない」がいくつかあったのだ。
だから今まさに妊娠して産院選びをしようとしている人だけでなく、妊活中の方やいずれは子を持ちたいと思っている人におすすめしたいことがある。
「こんなお産(妊娠〜産後まで)は嫌だ」を考えておくのだ。
これでバースプランは概ねできあがる。
こんなお産は嫌だ(私の場合)
①分娩が痛い
「痛いか」「痛くないか」の道があるならそりゃなるべく痛くないほうがいい。
ところがわざわざこの選択肢が用意されているのが出産なのだ。「お腹を痛めて産んでこそ子どもを大事にできる」と考える人も一定数いる。でも妊婦自身が「出産の痛みを経験してみたい」と希望しない限り、周りの人間があれこれ言う資格はないと私は思う。
歯医者で治療する際に「歯を大事にしたいから」という理由で麻酔を断る人間がいるだろうか。
こうした疑問を常々感じていた私は無痛分娩一択。
「無痛」とは言ったってどうせすべての痛みを取り除けるはずはないのだ。もちろん、分娩時に麻酔を使うリスクやデメリットもないわけではない。
しかし気になるのは逆に、麻酔を使わないことによるリスクがほとんど語られていない点だ。「自然分娩」なんて抽象的な表現ではなく「無麻酔分娩」と正確に伝えてほしい。欧米だけでなく隣国の韓国や中国と比べても、日本は麻酔を使用した分娩がまだまだ浸透していない。
と、無痛分娩を希望している時点で、私の産院の選択肢はかなり狭まる。
②母乳育児を強く推奨される
母乳かミルクで育てるか、はたまた混合か、どの方法を選ぶかは当然親が決めていいことだと思っていた。
ところが調べてみると、産後すぐに母乳指導が(半ば強制的に)入る病院は多くあるようだ。はなから母乳で育てるつもりの家庭にはありがたいことかもしれないが、早くに仕事復帰をする予定の身としては、完全母乳育児を強く推奨されるのはなかなか気が重い……。
もちろん退院後にどういう方針にするかは自由なのだが、出産直後のグロッキーな身体で母乳指導を「受けない」選択肢がないこと自体がもうきついのだ。実際、これが大変で落ち込んだ、泣いてしまった、という経産婦の方は多い。
そこで「産後に母乳相談もできます」というニュアンスの、融通の利きそうなところをいくつかピックアップした。
③産後、母子別室ができない
病院によっては産んだ直後からわが子が自分のベッドの横に運ばれてきて母子同室で過ごすところも多い。早いうちから赤ちゃんとの生活に慣れておくという考え方も、わかる。
ただ私は休めるうちに休んでおきたい。
退院すればしばらく寝れない生活はほぼ確定しているのだ。入院中くらい夜はプロに気軽に預けたい。
ということで夜間は子どもをいつでも預かってもらえる産院を中心に探した。
④ごはんが合わない
これは経産婦の友だちからあらかじめ聞いていたこと。
「とにかく産院のごはんはうまいに限る」
友人は、楽しみが食事くらいしかない入院生活で出てきた献立が「食パンと海苔の佃煮」で絶句したと言っていた。
ここまで①〜③、特に②と③を両方クリアしている産院となるとかなり母体ファーストなところしか残っていないので、この条件は必然的にクリアしてる場合も多い。
以上が私の絶対条件だったが、人によっては「立ち合い出産ができるか」「入院中、家族も部屋に泊まれるか」「分娩の基本価格」「個室の有無とその金額」「NICU(新生児集中治療室)の有無」「なるべく医療を介さないお産」など優先順位は変わってくる。
特に最初の2点はコロナ禍の現在、条件が変動しているところも多いのでしっかり事前確認をしたほうがいい。
「無痛分娩は無痛じゃない」とは?
さらに調べていくうちに「無痛分娩」とひとことで言ってもさまざまな種類があることがわかった。
【私の無痛分娩のチェック項目】
[その1]24時間365日対応かどうか
まず、いつ産気づいても常に対応してくれる産院ばかりではない、という事実をはじめて知った。無痛分娩、つまり麻酔も担当できる医師が常駐できるわけではないことも多いからだ。
その場合は、あらかじめ予定日付近に産む日時を決定し(つまりわが子の誕生日が事前にわかる)、促進剤を打って出産する「計画分娩」という形をとる。
ところが、その予定日よりも早く産気づいてしまい緊急で夜中に入院し無痛分娩対応時間外で結局麻酔なしの普通分娩になってしまった、という人は結構いる。心の準備がなかった分、ショッキングな体験だろう。
そのため私は、24時間365日、無痛分娩に対応してくれる産院を条件に探した。
[その2]陣痛をなくすタイミング
無事に、24時間365日対応のところを予約できたものの、ここでふと疑問が湧き上がる。
「え?産気づいてから産院に向かうまでの間は、結局陣痛が来ているから痛いのでは……?」
なるほど、「無痛分娩は無痛じゃない」と経験者がよく言うのはこれか。同じ時期に妊婦だった友人(彼女も別の産院で無痛分娩を予約)とは「一秒も陣痛を味わなくていいから、予定日付近になったら即麻酔を打てるように産院の前をウロウロするか……?」と話していた。
そう言っていたものの、妊娠中期を過ぎた頃には「体験のつもりで少しのあいだ陣痛を味わうしかないのか……」と半ば「無陣痛」を諦めかけたタイミングで医師から「出産日を決めましょう」と言われた。
あれ?そういえばこの産院は24時間365日対応なのに前もって出産日を決めるのはなんでなんだっけ……? 初めての経験で右も左も分からない中、医師からしてもらった説明はこうだ。
「うちの病院では赤ちゃんが無事に2,500g以上育っているなどいくつかの条件が合えば、早めに入院して促進剤で陣痛を促し、麻酔を打って無痛分娩をします。少し小さめに産むことは赤ちゃんと母体にとって負担が軽くて良いことと考えているからです」
つまりこの産院では「完全無痛分娩」を推奨しているのだという。
予定日よりもかなり前に入院するので陣痛を味わうこともない。万が一早く産気づいてしまった場合でも、24時間365日対応なので産院に着き次第、無痛分娩にしてくれるのだそう。「計画出産」と「24時間365日対応」の良いとこ取り、ダブルの安心感である。
編集部注:「完全無痛分娩」を「計画無痛分娩」と言うこともあり、医師や産院によって表現は異なります。
出産の考え方は人の数だけある
私にとっては、間違いなくベストな産院を選べた。
完全無痛分娩については予約後に知ったことなのでラッキーなのだけど、上記の条件をすべてクリアした産院だったからこそ、出産に対する考え方が限りなく近い医師と出会えたのだとも思う。(ちなみにこの院長は「出産に『痛み』はいらない」という書籍も出していることを後々知る。最高)
ただし、もしもベストな産院を見つけたとしても、分娩台に空きがあるとも限らないから、予約できるかどうかを含めると、求める条件が多いほど難易度が高くなることは補足しておきたい。
そして、実際に出産してみての感想は「無痛分娩、まじで無痛なんかじゃない」だった。
麻酔が切れてから会陰切開の傷は燃えるように痛かったし、限界まで広がった子宮の収縮は元々重い生理痛の数倍きつかったし、母乳開通で胸がカチカチになった時は痛すぎて腕も上がらず仰向けに寝るのすら怖くて泣きそうになった。
だけど幸運にも、完全無痛分娩のおかげで本当に陣痛”だけは”なく、痛みMAXを示しているらしい数値が100を超えているときも笑って過ごせた。
産後の体調は人生でいちばんヘビーだったが、母乳育児や母子同室を強制されず、毎日3食のごはん(おやつまで!)がとにかく美味しくて、この産院を選んでくれた過去の自分に感謝できた。
もちろん、私の産院の選び方が必ずしも「正解」というわけではない。お産に対する考え方は、人の数だけあると思っている。
同時に、プラン通りにいかないことも、お産にはつきもの。綿密にプランを立てても、プラン通りにいかない場合もあることを伝えておきたい。
ちなみに価格にホスピタリティが比例するわけではなく、超高額なブルジョワ病院でもお母さんにスパルタなところはあるし、そこまで高額でなくとも優しい産院はある。
自分にとってどんなバースプランがベストか、導き出すためにも「こんなお産は嫌だ」のリストアップ、おすすめである。
*この記事は個人の出産の場合です。ご自身の考えに合った産院選びをおすすめします。