写真=本人提供/Laundry Box

前回までの連載記事の通り、長年の過食症を手放せたことで、食べ物や体重に関する悩みは消えました。

しかし、人間関係のストレスを抱えたときに、私はあらためて心療内科のクリニックに行くことにしました。

今回は、カウンセリングについてのお話をしていきたいと思います。

10代の頃は通院を諦め、独学でなんとかしようとしていた

実は、過食症がひどくなり始めた19歳のときにもクリニックに行った経験がありました。でもそのときは担当の医師の対応に傷ついてしまい、信頼感を持つことができませんでした。

クリニックへ行くこと自体にも勇気が要りましたが、傷ついたことで懐疑的になり「これは私の問題だから、誰かに話したところで解決しないだろう」と思い込むようになりました。医療費も高く、治るかどうかもわからないのに治療を続ける金銭的余裕もない…。

通院を諦め、それからは摂食障害に関する本や体験談を読んだり、独学でなんとかしようとしていました。

相談しやすいクリニックとカウンセラーとの出会い

そんな私が、あらためてクリニックに行こうと思えたのは、明朗会計で時間単位で相談しやすく、話すカウンセリングがメインのクリニックを見つけたことでした。医師とは別にカウンセラーがいて、薬の処方も医師の一方的な判断ではなく、きちんと話し合ってから決められたこともよかったです。

担当のカウンセラーは女性でした。

人間関係の悩みや、自分の至らなさに対する怒りや悲しみ、そして摂食障害だった過去や子どもの頃の話など、さまざまな話をしました。自分が後悔したり反省しているようなことも、否定せずに受け止めてくれたので話しやすかったことを覚えています。

何度か通ううちに、あるときカウンセラーがこういった話をしてくれました。

もしかして、なおさんは自分が何かをしないと人に愛されないと思っていませんか?自分が頑張らなくても、無理に何かしようとしなくても、そこにいるだけで、なおさんはもうすでに愛されるべき存在なんですよ

……雷に打たれたかのごとく、ハッとしました。

自分の存在を肯定的に受け入れてくれる人たちに気づいた

写真=本人提供

あらためて自分の過去の出来事や人生を振り返ってみると、私は心のどこかで「自己犠牲をするほど人に尽くさないと愛情は得られない」と思い込んでいたことに気づきました。

例えば、ダイエットを始めたきっかけは、当時の恋人に痩せてほしいと言われたことでしたが、それも結局は自分の心身を壊してしまうことに繋がっていました。そして恋人が私を愛してくれないのは、私が痩せないから、自分の頑張りが足りないからだ、と自分を責めるようになってしまったのです。

人間関係で困ったことがあっても、最終的には「これは私が◯◯だからいけないんだ」「私があのときこうじゃなかったから」と自責にたどり着いていました。

そして、ずっと自分のふくよかな体型を否定する人や社会の意見にばかり注目していましたが、実はそんな人たちよりも、体型にかかわらず私の存在を肯定的に受け入れてくれる友達や家族がすでにいたということに気づいていなかったのです。

カウンセリングは自分の心を映し出す鏡

『自業自得』という言葉もありますが、この言葉を使うタイミングを誤ると、人は自由に生きられなくなってしまいます。

例えば「痴漢されたのは、あなたの服装が悪かったからだ」と非難する声を聞いたことがあります。しかし、そんなときに本当に必要なのは、被害者を責める言葉ではありません。もう十分傷ついている人に「あなたが悪い。自業自得だ」と言うことが、どんなにひどいことかわかるでしょうか。

自業自得と自分に言い聞かせ、何か悪いことがあったときに、傷ついた自分を癒すことより責めることが癖になると、すべての行動に対して自信を持てなくなっていきます。

そんな気づきの経験を通して、カウンセリングは私にとって『自分の心を映し出す鏡のようなもの』へと変化しました。自分を俯瞰して見られるようになったことで、気持ちがラクになり、対人関係に関しても「無理をしなくていい」「まず自分を大事にしてもいい」と思えるようになったのです。

他人に迷惑をかけないように孤立しがちな人こそカウンセリングを

日本では、遠慮したり謙遜したりすることが美徳とされる風潮もあり、どちらかというと他人を優先し、自分のことは後回しにする人が『良い人』だと言われることもあります。

協調性があることや、他人に優しくすること、他人の役に立とうとすることは素敵なことです。しかし、他人に対して必要以上に献身的になるあまり、自分の心身に不調をきたすほどに疲れてしまう人が多いのではないでしょうか。

そこからさらに「他人に迷惑をかけないように」と孤立してしまい、誰にも頼れなくなると、さらに状況が悪化することもあります。

カウンセリングは、モヤモヤした気持ちをそのまま話すことが許される場所です。友達や身の回りの人に気を遣ってしまう人ほど、心の救急箱として役に立つかもしれません。

会話は人と人とのコミュニケーションの上に成り立つものなので、カウンセラーとの相性もありますし、話をすること自体が苦痛だと感じる人もいるので、すべての人におすすめというわけではありません。しかし、もし経験がないのなら試してみる価値があると思います。

最近ではオンラインカウンセリング(※コトリーなど)もあるので、カウンセリングを受けることが便利になりました。

写真=本人提供

ちなみに日本では、困ったり悩んだときにカウンセリングよりも占いに行く人が多いそうです。私も占いは好きなので、意外なことを言われる面白さもわかります。

しかし、カウンセラーとの適切な関係性の中で、自分を否定されることなく話を聞いてもらえたり、自分の気持ちを整理しながら「自分が傷ついていること」や「心の癖」、「適切なケアやセラピーを望んでいるのだ」と気づくことで、占いに頼るよりも悩みを解決しやすくなるかもしれません。

摂食障害に関しては、カウンセリングのほかにも、ピアサポート(同じような立場にいる人によるサポート)団体があるので、そういったものを試してみることもいいかもしれません。

答えは自分の心の中にある

モデルの仕事を始め、摂食障害についての経験を講演などで話したりワークショップをするようになった今は、仕事の関係で臨床心理士の先生とお話する機会もあります。とある1人の先生に摂食障害やカウンセリングの経験について聞かれたので話したところ、こんなことを話してくれた人がいました。

臨床心理士である僕たちが患者さんを一方的に治療するわけではなくて、実は答えは患者さんの心の中にあるんです。対話のなかで患者さん自身が僕たちカウンセラーに答えを教えてくれるんですよ。だから僕たちの役目はそこに耳を傾けることなんです。

今でもときどき反芻するくらい、とても印象に残っている言葉です。

答えは自分の中にあるーー。

自分の顔や髪に、汚れやゴミがついていても、鏡を見たり誰かに教えてもらわないと気づかないように、モヤモヤした心も、誰かがいて初めて輪郭がつかめるようになるのかもしれません。

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