TENGAヘルスケアが運営する、10代向けの性教育ウェブメディア「セイシル」が、“人間と性” 教育研究協議会(性教協)代表幹事の水野哲夫さん、モデルやクリエーターとして活躍する鈴木えみさんをゲストに迎え性教育にまつわるトークイベントを開催しました。
トークイベントのテーマは、社会全体の性に関するリテラシーを高め、性加害や被害を減らすための、「ライフステージに寄り添う性教育のあり方」。
ご自身も元高校教諭として長年性教育に携わり現在は、“人間と性” 教育研究協議会(性教協)代表幹事である水野哲夫さん、モデルやクリエーターとして活躍する鈴木えみさんをゲストに迎え、性教育にまつわるトークが交わされました。
日本における性教育の歴史
日本で本格的に性教育が始まったのは、1992年のこと。現在までにどのような経緯があったのでしょうか。トークイベントの内容に触れる前に、まずは、「セイシル性教育年表」を参考に性教育の歴史を振り返ってみましょう。
1600年以前
日本では古くより、性にまつわる話は親から子へ、年長者から年少者へ、と人から人に伝えられてきました。江戸時代では、「若者組」や「娘組」など、村落での集団で性の知識が伝えられるように。性交場面を描いた「春画」も、性を知るツールのひとつだったそうです。
1960〜1970年代
欧米で「性の革命」が起こります。世界では性教育の内容が見直され、避妊法や性感染症予防、性の自己決定権などが、重要なテーマとなりました。この流れを受け、日本でもテレビやラジオを通して性にまつわる情報が広く伝えられるようになりました。
1980〜1990年代
エイズの蔓延が世界的に大きな社会問題に。欧米諸国では、体や生殖の仕組みだけでなく、人権を基盤とした「包括的な性教育」の必要性が訴えられました。日本でもエイズ患者の増加をきっかけに、「若者に性の知識を教える必要がある」という声が大きくなっていきます。
1990~2000年代
思春期の子どもたちが接するメディア環境が大きく変化。SNSやインターネットなどを通じて、無料または低料金でアダルトサイトにアクセスできるように。結果的に、性行動の低年齢化や活性化を招き、10代の人工妊娠中絶の実施率や性感染症の罹患率が急増、社会問題になりました。
1992年
本格的に学校での性教育がスタートしたのは1992年のこと。小学校の段階から性の知識を教えるようになり、この年は「性教育元年」と呼ばれています。小学校・中学校で使用する授業書が発行され、人の発生や初経と精通が扱われるようになりました。
厚生労働省所管の財団法人母子衛生研究会が「ラブ&ボディBOOK」を作成。中学生を対象にし、性教育教材の一つとして無償配布。しかしながら、未成年にピルを勧め、フリーセックスをあおっている」と一部国会議員が非難し、2002年に絶版回収されました。
2003年
1998年度の指導要領改定に「はどめ規定」が盛り込まれはじめます。そして、2003年には「性教育バッシング」が起こります。発端は、東京都立七生養護学校(現・七生特別支援学校)が実施していた「こころとからだの授業」を、都議会議員が「不適切な教育」と非難し、教員が処分された事件。教員が都教委及び都議会議員に対し起訴し、裁判で決着がつくまでの間、性教育の自粛ムードが広がっていきました。
2021年
「性教育バッシング」から約20年後の2021年には、政府が策定した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」をもとにした、「生命の安全教育」への取り組みを開始。性暴力について学び、自分や相手、他者を尊重する態度などを身につけることを目標に、全国の学校で実施が進められました。
2023年
2023年7月、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が改正、施工されました。性行同意年齢は13歳未満から16歳未満となり、性犯罪の公訴時効期間は5年延長されました。性的様態等撮影罪など、性犯罪に関する法律が改正・新設されました。
性交については触れられない? 「はどめ規定」の誤解
上記のような性教育の変遷の中で、「性教育バッシング」が起きながらも、少しずつ歩みを進めてきている性教育。しかしながら、日本の学習指導要領には指導範囲を定める以下のような「はどめ規定」と呼ばれるものがあります。
・小学校の理科:「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」
・中学校の保健体育:「妊娠の過程は取り扱わないものとする」
「はどめ規定」に基づき、教科書には受精の前提となる性交の情報が記載されていません。
性行為について触れられていない教育現場の状況を反映するように、「セイシル」内に設けられた医師や専門家が性の悩みに答える「モヤモヤ相談室」に寄せられた質問には、性交や妊娠に関する質問も多いといいます。
文科省は、「教えてはならない」という意味ではなく、「必要に応じた指導は可能」と説明していますが、教育現場にまでその認識は広がっていないといいます。
1997年から2013年の定年退職まで性教育に関わってきた水野さんは、この「はどめ規定」に持たれる誤解を指摘しました。
「教育現場では『セックスのことを教えてはならない』と受け止めている教員が圧倒的に多く、生徒が知りたい情報が教えられていない状態になっています。学校が必要だと判断すれば、性交や妊娠の過程を扱うことも、個別の質問にも答えることも可能です。現場の裁量で、はどめ規定をコントロールすることができます」(水野)。
子供から寄せられるリアルな声とは?
正しい性の知識を広めていくためには、ライフステージごとの学びが重要。包括的性教育を推進するために作成された、ユネスコが提唱する「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、年齢や発達段階に応じた教育内容が特徴となっています。
実際に学校から教えられる性の知識では、10代が知りたい疑問に応えられているのでしょうか? 水野さんと鈴木さんのお話から、性教育の現在地が見えてきました。
「セイシル」の「モヤモヤ相談室」には、2019年のローンチから現在に至るまでの5年間で、約1万5,000件の質問が寄せられています。水野先生は10代から寄せられる悩みの内容やデータを読み解き、これからの性教育に必要なことを呼びかけました。
「モヤモヤ相談室」に寄せられた質問のなかで、男女ともにもっとも多いのはマスターベーションに関する悩み。「1日に何回オナニーをしてもいいのか?」「正しい方法を教えてほしい」などの質問に複数の医師や専門家が回答し、そのなかから自分の満足のいく答えを見つけることができます。
また、16歳あたりから「恋愛・セックス・避妊・妊娠」の悩みが増え、年齢を重ねるにつれて、他者を介した性に関する悩みが増えていることがわかりました。「出会ってどのくらいでセックスをすれば良いのか」「誘い方がわからない」などの悩みを抱えているようです。
水野先生はこうした10代の悩みに対し、「熱心に性教育へ取り組んでも、学校がこういった内容に答えることはおそらく難しい。『セイシル』のような相談先の必要性がわかります」と、10代が知りたい情報を提供できていない性教育の現状を伝えました。
さらに、EU諸国の26カ国では0歳から性教育が実施されている世界の状況を鑑み、「日本では『性教育』を非常に狭く、特殊に捉えているので『0歳からセックスを教えるのか?』と思う人もいますが、『性』というのは、体と心の全てです。
自分の体を大事にする、清潔にする、相手を尊重する。こういうところからが性教育なので、早い段階から始めていく方が良いと思います。発達の段階に応じた内容を学んでいくことが必要です」と、性教育の本質を伝えました。
鈴木えみさんが語る親が今からできる性教育
10代向けのセイシルには、全体の2割以上、大人からの相談も届いています。大人の8割近くの相談が子どもの悩みと同じというセイシルのデータから、性を学ぶ機会に恵まれないまま年齢を重ねた大人も多いことが見てとれます。
子育ての経験から、学校の学びだけではなく家庭単位での教育が必要だと考えた鈴木えみさん。性教育の普及を目指した団体「Family Heart Talks」を発足し、性教育の話をメインとした、親子向けの講演会やイベントを行っています。
SNSで性教育の絵本を紹介したところ、大きな反響があったという鈴木さんは、「みなさん『性教育はやらなきゃならないよね』と思いつつも、実際には何をどう切り出したらいいかわからない。私も含めて親世代でもきちんと性教育を受けてきていないので、困っている方が多いんだなと感じました」と、大人側の知識不足を実感したようです。
鈴木さんご自身も11歳の娘を育てる母親です。自宅ではお子さんの困りごとや必要としている知識を把握できるように、フラットに話せる環境づくりを大切にしているのだとか。
毎日お子さんの髪をドライヤーで乾かしている時間に、その日にあった嬉しかったことと、嫌だったことをお互いに発表しあっているそうです。
そのときに気を付けるポイントとして、「子どもから質問を受けたら、はぐらかしたり、驚いて否定的な態度をとったりしないように心がけています。何でも話せる親子関係が継続できると、悩みやトラブルに巻き込まれているかもしれないときに相談しやすくなると思います」と話します。
話す内容に関しても、「『つまづいて恥ずかしかったんだ』みたいな、些細な出来事を発表するようにしています。そうすると子どもは『大人でも失敗するんだ』『大人でも恥ずかしいって思うんだ』とハードルが下がり、どんな小さなことでも話してくれるんです。5〜10分なら忙しい方でもできると思うのでおすすです」と、正しい知識を伝えるために、習慣的な対話が基盤にあることを伝えました。
幼い頃に性の知識がなく、悔しい思いをした経験から「子どもたちが、自分と同じような、思いをする必要はないはず」と決意した鈴木さん。
「知識を素直に受け止めてくれる早いうちから性教育を始められるのがベストだと思いますが、中学生・高校生だからもう遅いかも、というわけでもありません。ライフステージに合わせて、繰り返し学んでいけるのが理想的。
性教育には体と心の健康を守るたくさんの大切な知識が含まれていて、年齢問わず日々の中で必要な知識だと思います。正しい知識が広まっていけるように、まずは大人たちに届いて知識をアップデートしていただきたいな、と思います」と、呼びかけました。
大人が学べる「おとなセイシル」をリリース
TENGAヘルスケアでは、大人を対象にした性知識メディア「おとなセイシル」を11月にオープン。「実は知りたかった、性のはなし」をコンセプトに、「セックス」「マスターベーション」「妊活」「早漏・遅漏・ED」など幅広いカテゴリを扱い、根拠のある正確な情報を提供しています。
性的同意のニュースが話題になっているように、大人も性知識を学び直す必要性が高まっている今。
子どもだけでなく、大人も性知識をアップデートし続ける必要があるのかもしれません。