Ba-Vulva(ばあばるば)は、外陰部の構造を楽しく正しく理解し対話するためのパペットです。情報を知るだけでなく、対話をすることで、大切な人たちと健やかな日々を過ごしてほしいという想いがあります。
ばあばるばでは、<Ba-Vulva Friend>と題して国内外でSRHR(性と生殖に関する健康と権利)にまつわる活動をする方々にインタビューをしています。
今回は、低中所得国をはじめとして女性の権利を守る活動をする国際NGOジョイセフにて、日本におけるSRHRの啓発活動「I LADY.プロジェクト」を行う青山紗都子さんに話を聞きました。また、ジョイセフI LADY.とBa-Vulvaのコラボレーション企画として、ばあばるばをご購入くださった方々に、ジョイセフI LADY.が制作している「SRHR NOTE」「Men’s SRHR MINI BOOK for All~ みんなで考える、男性の健康とジェンダー~」をお届けいたします。
詳細は以下概要をご覧ください。
https://laundrybox.co.jp/Ba-Vulva/iLADY_collabproject
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若者が感じたSRHRの壁。同じ目線で伝えるプログラム
MISA:ジョイセフの活動について教えてください
青山:ジョイセフは国際協力を主に行っているNGO団体で、今年で57年目です。もともとは女性の権利が低いとされる低中所得国の女性を中心に、家族計画や母子保健サービスの支援を行ってきました。
その中で、私たちはSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利)という考え方を大切にしています。SRHRとは、自分の体、性や生殖について、誰もが十分な情報を得られ、自分の望むものを選んで決められること。そのために必要な医療やケアを受けられること。私たちが心も体も健やかに、自分らしく充実した人生を生きるうえで欠かせない「基本的人権」です。
SRHR実際は日本も遅れているところがすごくあると感じ、2016年にジョイセフの中でI LADY.プロジェクトを開始しました。
MISA:I LADY.プロジェクトとは?
青山:I LADY.は、海外だけではなく日本の若者にSRHRの考え方や当たり前の権利だという認識を持ってほしいと、Love, Act, Decide, Yourselfのそれぞれの頭文字をとって名づけられたプロジェクトです。
15歳から20代の方を対象に、日本では学校で包括的性教育もされていないですし、若者にとってSRHRという当たり前の権利を知る機会があまりに足りないと感じ、若者が自分で学び、同世代に伝えることを大切にするプロジェクトとしてスタートしています。
MISA:若者たちが同じ目線で伝えるからこそ自分ごと化しやすそうです。若者たちはどのような動機でメンバーに?人数は増えているのでしょうか?
青山:やはりSRHRにまつわる課題、女性の権利などで自身が何か壁に当たった経験があったり、社会に出てから、これはおかしいぞと思ったり。大学でジェンダーを学んでいる学生さんも多いです。自身が気づいて、それを具体的に行動したいと感じてメンバーに入ってくれる子が多いです。
今は文京区に在住在勤在学の若者を対象に研修をし、文京区メンバーを中心に活動しているほか、自治体だけでなく、大学や地域の産婦人科、助産師グループと一緒にする取り組みもあります。いろいろな形で活動している方たちと繋がり、若者と接点を持つきっかけとしてもご活用いただいて、最終的にその地域でSRHRがより多くの人に知ってもらえたら嬉しいです。
MISA:SRHRを伝える若者に対しては、どのような学びを提供しているのですか?
青山:文京区のプログラムだと3日間の研修があります。SRHRに関する項目を一つずつ学んでいただきます。最初はインプットの時間になりますが、そこから自分は何をしたいか、誰にだったら話せそうかというプランを考えてもらっています。
グループで行う少しチャレンジングな活動と、個人で家族や友人など周りの人に話してもらう活動の二つをしてもらいます。
まず自分にできることを見つけてプランを練り、それを実現するための環境づくりを大人がサポートしています。
MISA:若者が学びを提供する時に気を付けてもらいたいと伝えていることはありますか?例えば人権の話は、価値観も環境も違うからこそ、言葉選びの難しさがあると思います。
青山:そこは私たちもすごく気をつけています。SRHRに関することだと、トラウマ経験のある方もいらっしゃったりするので、大学などで活動する時にもいろんな人がいることを想定して話してほしいと伝えています。
MISA:他の子に教えた若者たちにはどんな変化がありますか?
青山:みんな共通して、発信が上手になっていきます。最初はインプットが多いのですが、活動を何回かしていくうちに、話し方も上手になっていきます。周りの友人でSRHRに興味がなかった子が関心持ってくれたことにやりがいとか、喜びを感じて、次の活動に進めてくれる子が多いです。
変わる価値観と新たな課題
MISA:素晴らしいですね。大人側が気付かされることも多そうです。
青山:私たちも20代で価値観の近さはあると思っていましたが、世代間ギャップを感じることも多いです。
例えばカードを見ながら自身の経験を語り合う「I LADY CARD」には、「Dating」というテーマのカードがあります。
これは「付き合ってるなら当たり前?『好き』のサインだと思うのはどれ?」という問いなんですが、内容的にはデートDVの例なんです。
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「(相手の)位置情報をチェックする」とかは、大人世代だとありえないとわかりますが、大学生だと当たり前にしていたりします。即レスしないと怒るとか、SNSをすごく気にしてしまうというのは今の若者だからこその価値観や課題ですよね。
MISA:この「I LADY CARD」自体が今の若者たちを反映していますね。
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青山:このカードには、「PREGNANCY(妊娠)」「SEX」「PERIOD(月経)」「DATING」「SRH」という5つの話題が用意されています。
ワークショップで「さあ、セックスや月経の話をしましょう」と言われても恥ずかしさもありますし、なかなか話が進まない。なので、まず選択肢があれば、自分で選びやすいですし、話のきっかけにするためのカードです。あとはデザインも可愛くしているのでタロットカードをする感覚で、気軽に楽しんでほしいなと思っています。
MISA:本当に多くの選択肢がありますよね。妊娠の選択肢も多いですね?
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青山:妊娠のカードだと、「病院へ行く」「ひとりで考える」「相手と話し合う」「信頼できる人に相談する」「出産して育てる」「人工妊娠中絶をする」「出産してほかの人たちに育ててもらう」というカードがあります。
例えば、この「出産してほかの人たちに育ててもらう」という選択肢は、様々な状況が起因して中絶が可能な期間をすぎてしまったり、出産しても育てることが難しい場合など、1人で抱え込んでしまう人たちの選択肢になり得ます。このカードを見ることで、新しい選択肢や、それがどういうことなのかを知ることもできる。ワークショップに参加することで、選択肢が増えるといいなと思っています。
MISA: 知らないうちに、いわゆる「当たり前」の選択を選ぶしかないと思っていたりもするので、多様な選択肢を提示しておけば、自分自身を否定されないし、誰の選択も否定しないというのが伝えられてすごくいいですね。
青山:そうですね、その子が学んだことで、もし友人が困っているときに、こういう選択肢もあるんだよって言ってあげられる人になるといいなと思っています。
SRHRは誰もが持っているもの
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MISA:SRHR NOTEはどのような経緯で作られたのですか?
青山:現代は検索すればなんでも情報が出てくるけれど、本当に正しい知識はどこを見ればいいかがわからない。
SRHR NOTEは、SRHRという言葉を知らない人でも、月経、セックス、性感染症など自分のからだや性のことなども含めて学ぶ最初の1冊にしてほしいなという想いで作っています。
MISA:情報だけでなく、自分や大切な人と向き合うパートも用意されていますよね。
青山:膝を突き合わせて話をするのは難しいけれど、このノートが話すきっかけになったり、話したいとお互いが思っているときに使えるツールになるといいなと思っています。
例えば、お互いのセックスの考え方を確認できるシートがあるのですが、言いづらい人のために「私はこれかな」と指さしで話せるようにしています。若者が「パートナーと話せました」と報告してくれました。
あとは、学校でSRHR NOTEを使った講義も行っています。セルフチェックをして気づけることがあります。
ジェンダーについては、自分ごととして捉えていない若者も多い。ですが、「こんなふうに言われたことありませんか?」という事例で「男性だから人前で泣いてはいけない」「女子力が低い(高い)」などを挙げると、「友達と話したことあるかも」「おじいちゃんおばあちゃんに言われたことあるかも」と気づきが出てきて。そういうことから自分ごととして課題を捉えられる。
学校でも最初は恥ずかしがっていても、自分にも関係があることなんだと気づいてもらえています。保護者さんが子どもに見せたいと購入される方もいます。
MISA:Men’s SRHR MINI BOOK for All~ みんなで考える、男性の健康とジェンダー~はどのような経緯で?
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青山:SRHRは本来誰もが関係あることなので、もっと男性を巻き込む必要があると感じていて。
男性からするとどうしても「女性の健康課題の話でしょ?」と距離を感じている人もいる。なので、男性が自分ごと化しやすい内容を掲載しています。
例えばジェンダーでいうと、体育で着替えなきゃいけないときに「更衣室がある女子」と「適当に着替えさせられる男子」とか身近に感じてもらえる事例を入れています。他にも、本当は気になるけど聞きにくいこととして勃起の仕組みなども記載しています。
SRHR NOTEはみんなのことがみんなのために書いてありますが、Men’s SRHR MINI BOOK for Allは、男性のSRHRのことが書いてあり、男性にだけ読んでほしいものではなくて、みんなに読んで欲しいし、みんなで考えようという意味を「for All」に込めています。
現在は、イベントや講演でも配布していますが、Men’s SRHR MINI BOOK for AllはジョイセフのHPで内容を全て公開していますし、申し込んでいただければ無料*で配布しています 。
MISA:女性もですが、男性も性にまつわる悩みを1人で抱えてしまう人が多いですよね。
青山:ジョイセフでは2年ごとに、「性と恋愛意識調査」として、性や恋愛について意識調査をしているんですがこの部分は男女差が大きいです。
23年の調査では、15歳から29歳の若年層を対象としています。性に関する情報をどこで得ているかという問いで、1位が男女共に「ネットやSNS」で、女性だと次が「友達」「恋人・パートナー」で男性だと「アダルトサイト」。教科書や専門家は上位に入っていないんですよね。
性の全般に相談できる人がいるか聞くと、男性は「誰もいない」と答える人がすごく多い。こういうノートを通じて、婦人科、泌尿器科の専門家に相談できるというのも伝えていきたいと思っています。
MISA: 日本国内におけるSRHRの課題はどこにあると感じますか?
青山:本当に多くの課題ばかりなのですが、日本に生きる全ての人が情報を得るには、やはり学校教育が一番大事だとは思っています。歯止め規定もあり難しいと思いつつも、少しずつ変わってきてはいます。
今一番難しいのは、そのような教育を学んでこなかった私たち大人が、若い世代に伝えていかなきゃいけないということです。
私たちも授業の依頼を受けることもありますが、学校の先生がわからないから外部講師に任せて年に1回の授業で性教育は終わりという状況は問題だなと思っています。
本来は、身近な大人が日々のいろんなところで小出しに話して幼い頃から学んだり、身近な大人に相談できたりする環境が一番ですが、大人ができていない。
講演に行って「これは大人に相談しないといけないのかもしれない」と気づいた子が実際に先生に相談した際に、先生たちがその悩みに対応できるのか。外部講師頼りでは難しいと思うので、今まで学んでこなかった大人が学ぶ必要があると思っています。
なのでI LADY.としては、若者の知識をアップデートして、むしろ家族や親に教えてあげて欲しいと思っています。メッセージとしても、「性にまつわる話をしていると否定的な目をしてくる大人もいるけれど、大人も教育を受けてこなかった世代なので仕方がないことでもあるから、若者から伝えてあげられるといいよね」と日々伝えています。
楽しく体の構造を知ることの大切さ。
MISA:私たちは外陰部の構造を理解するためのパペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」を制作しています。SRHRでは体の自己決定権を持つことの大切さも話されていますが、構造を自身が理解しておくことも大切だと感じますか?
青山:そうですね。女性の外陰部は、ぱっと見で見えない場所ですし、見えなくても生活できてしまう場所ですよね。私自身は助産師ですが、看護学生になってから、やっと外陰部について学んだので、普通に生きていたら学ぶ機会ってなかなかないと思います。
I LADY.の研修やセッションでも、自分の体を知ろうねとイラストやスライドを見せたりしますが、学校の授業でスライドを見せてもみんな目を隠してしまうんですよね。
教科書とかにも一応載ってはいるけど、見ていたら、からかわれた経験がある子もいます。やっぱり幼少期に学んでいないからこそ、学ぶ機会をなくして、中高生で教科書を見ても受け入れられない子もいると感じます。
ただ外陰部に限らず自分の体の構造というのは知っておかないといけないので、学ぶことは本当に大事だと思います。
本記事はランドリーボックスが制作している性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」の公式サイトの記事を一部編集の上、転載しています。