社会において、家事、育児、介護などの「ケア労働」はなくてはならないものです。これまで、ケア労働は女性が担うものとされがちで、多くの女性が仕事との両立に悩み、場合によってはキャリアを諦めることもある課題でした。

女性の負担を軽減し、家庭での役割分担を公平にする革新的なサービスが注目を集めています。

現代のケア労働の現状と課題

女性は数多くのケア労働を担う役割として位置付けられ、負担を強いられてきました。「母性」や「献身」といったステレオタイプの押し付けと、重要な労働であるにもかかわらず、軽視され低賃金や非正規雇用といった不当な待遇を受けています。

新型コロナウイルスのパンデミックでは多くの社会変化が起きましたが、その中でも「エッセンシャルワーカー」と呼ばれるケア労働従事者の価値の見直しが行われたことは大きな変化でした。

医療従事者、介護士、保育士、交通機関の労働者、家事労働者などが社会を支えていることや、それらの仕事の多くに女性が携わっているという事実でした。

日本では介護の担い手の約7割が同居の女性

ケアは、個人の生活の質を直接的に支えるだけではなく、家族の健康に重要な役割を持ちます。そして、社会において次世代を育むために不可欠なものです。また、高齢者や障害のある人が尊厳を持って生活できるような支援は欠かせないものです。

しかし、女性に負担がかかりがちであるケア労働を解決していくことはまだまだ課題となっています。日本では、介護の担い手は約7割が女性で、アメリカは介護者の約61%が女性で、39%が男性というデータがあります。

そして、国際労働機関(ILO)の調査では、人々は毎日約164億時間も無償のケア労働に時間を費やしており、これは、世界の全人口の約25%の20億人が無給でフルタイムで働いていることと同じで、賃金換算すると11兆ドルにものぼるとのことです。

ここからは、女性に課せられた負担を軽減する最新テクノロジーや、スタートアップの取り組みを詳しく紹介します。これらの革新的なサービスがどのようにしてケアの負担を軽減し、ジェンダー不平等を解決する可能性を持っているのかを考えていきます。

ケア労働の未来を見据え、すべての人がより充実した生活を送るための新しい選択肢を探っていきましょう。

介護する人をケアするオンラインプラットフォーム『Carewell』

アメリカでは、両親やパートナーや親密な友人に対して、家族や親族が無償で介護などのケア労働を提供しており、その規模は約4,700億ドル規模の価値に換算されると言われています。これは素晴らしい利他の精神を持つ人が多いことを表しますが、介護者の負担も大きいということです。

Carewellでは、突然家族の介護をすることになった人が担う負担を軽減し、「介護離職」を防止する取り組みとして、在宅医療製品を提供するeコマースと教育サービスを提供しています。

福利厚生で介護離職を防ぐ『ianacare』

 ianacareは、アメリカでも課題となっている「介護離職」問題を解決するために、両親の介護を理由に離職した経験のあるCEOが立ち上げた企業です。

「介護離職」を防ぐため、企業の福利厚生として介護者サポートサービスを提供しているのが特徴的です。プラットフォームとしてオンライン相談や服薬管理、送迎依頼などさまざまな機能を提供しています。

送迎依頼の機能では、介護している人の子どもを学校やサッカーの練習からピックアップしたり、処方箋を受け取りに行ってもらったり、リサイクルセンターに品物を届けてもらうなどさまざまな要望をリクエストすることができます。

実際の介護経験があるCEOならではの機能が盛り込まれています。

9割が女性を占める家事代行ビジネスで女性の雇用を創出する『Spritz』

Spritzは、家事代行を行う人の多くが女性で、さらに有色人種や低所得層であることから、それらの人々の社会的な自立を支援する考えで経営されています。家事代行の女性の中でも、個人事業主として働く人のバックオフィス機能や事業計画をサポートし、移民の人にも配慮した多言語展開もしています。

そして彼女たちが安定した収入が得られるプラットフォームで働くことから、労働者が不当な待遇を受けていないことで、家事代行を行う女性の社会的地位を向上させることを目指しています。

育児も企業の福利厚生と主張する『Kinside』

日本と同様に共働きが多いアメリカでは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、リモートワークの増加や感染症予防と療養のために保育施設に預けられない等の理由から育児と仕事の両立が難しくなり女性の大量退職が問題になりました。

しかし、保育の施設が高額かつ、需要の高さから順番待ちの期間が長いうえ、政府の援助には所得制限があるためサポートを得られにくいという課題があります。子育てと同時に経済的な問題が子育て世代に重くのしかかっています。

育児スタートアップ企業KinsideのCEOは、育児は「公共財につながる重要なもの」であると考え、雇用主が医療同様に、育児も福利厚生として重視すべきだと語っています。Kinsideでは、母親が働くことを諦めたり、保育施設探しに疲弊しなくて良いようなプラットフォームを提供しています。

発達障害のある子どもと親を支援する『Kite Therapy』

発達障害についての認知が上がったことで、治療や指導の需要が高まっていますが、オーストラリアでは需要に供給が追いつかず、順番待ちが長かったり、病院の費用が高額になっているという課題があります。親にとって経済的な負担とケアの負担が問題視されています。

メルボルンのスタートアップKite Therapyは、自閉症や発達遅延のある1~9歳の子どもをサポートする企業であり、親に対するサポートを提供しています。

Kite Therapyでは、オンラインでセラピストやコーチと定期的に面談し、親に対しても子どもとのコミュニケーションをサポートしています。課題を治療者に丸投げせず、親子間のコミュニケーションを促進するプログラムが利用者から好評です。

ケア労働の経済的価値を評価する

photo by Dominik Lange on Unsplash

冒頭でも触れた通り、女性のケア労働が正当に評価されず「シャドウ・ワーク」(影の仕事)として軽視されてきましたが、女性の負担をなくし、改善していこうという動きが出てきています。

メディアが発信することはもちろん、子どもの頃から教育の場で他者や自分をケアすることの重要性を伝えていくのも大事なことです。

日本でも家事代行などケア労働をサポートするサービスは増えてきています。しかし、現状は富裕層の利用が多く、ケア労働の負担をしている人々の誰もが使えるサービスではないという課題があるでしょう。

海外では、ケア労働の経済的価値を正式に評価するべきという考えが広まりつつあるからこそ、今回ご紹介したケア労働者の負担軽減やケアの質を向上させるスタートアップが出てきたといえます。

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