弱みや痛みを他人に見せないのは敵に狙われないための動物の本能だといわれている。でも感情を押し殺して平気な顔で過ごす日々が、内側から人間を蝕んでいくとしたら、それは一体何から身を守っていることになるのだろう。

今まで、生理痛や不順に悩まされる友達を見て同情はするものの、完全に外野気分だった。眠気に襲われるくらいで生理痛とは無縁の人生だと信じてたし、最近は漢方でその眠気すら撃退して無敵モードに。

健康でいられることの奇跡をなめていた、と今になって思う。これまで、遊んでいたツケでテスト前に一週間きちんと寝ない日々を過ごしても、休暇期間にどれだけ不摂生な生活をしても、1カ月で5キロ落とすようなダイエットをしたときも、生理はきちんと来てくれていた。

私のからだ、偉い。でも、ごめんね。

バランスが崩れていく生活に、心もカラダも取り残された

そんな私に、4カ月間も生理が来なくなったのだ。きっかけは、新型コロナウイルスをめぐる環境の変化に気持ちがついていけなかったこと。

今まで何年も憧れ続け、準備に準備を重ねて出願した、世界から数名しか選ばれない大学院のプログラムがあった。結果が不安で、アマゾン川で一人ワニに取り囲まれて絶体絶命の夢や中東の紛争地帯で盾として使われる夢などげっそりするような悪夢を見る日々を続けた3月のある日、合格通知を受け取った時は涙が止まらなかった。

でもその喜びもつかの間。感染症拡大の影響で、半年間働いてお金を貯めようと思っていたインターンが軒並み中止に。もちろん計画していた旅行も、卒業式も。そして、進学にあたり必要不可欠なビザも先行きが不透明なことを受けて、大学院のオンライン移行を知らされる。

大学院は入学延期システムを導入しておらず、私の前にあるのは自分の部屋のパソコンの前で過ごす時間に多額の学費を払うのか、念願の合格を取り消すか、の二択だった。

私は出口の見えないトンネルに自ら入っていくような気持ちで、進学を取り消す選択をした。

自粛要請が緩和されて同級生たちが遊んでいる姿やバキバキに働いている姿をSNSで見かけるたびに、毎日一人で家事をこなしている自分はどこで何を間違えてここにいるのだろうという焦燥感と劣等感が相まって、ふとした瞬間に涙が出るようになった。

友達と取り組んでいるオンラインのプロジェクトすら、全くタスクをこなせない。そんな自分への自己嫌悪から夜になると涙が止まらず眠れない。ザ・悪循環に囚われてしまった。

Photo by Maria Ionova on Unsplash

「私やばいかもしれない」やっと言えたSOS

7月。ある俳優さんの不幸な死に関する報道が出た時、その報道自体がつらくてまともにテレビも見られない状況になって初めて、「私やばいかもしれない」と気が付いた。

そして4〜7月の間、一度も生理が来ていないことにも。

図書館で何気なく手にした鬱の本には、最初に現れる身体的変化は生理不順だと書いてあった。でも私が鬱なわけないよな、毎日話す彼氏にも母親にも気づかれないし、とすぐに本を閉じた。

その日の深夜、再び自己嫌悪に襲われ、泣きながら大学時代の親友になんでもないふりを装ってメールした。秒で既読をつけた彼女はすぐに異変に気がつき、話を詳しく聞いてくれた。上から目線の解決策をアドバイスするでもなく、同情するでもなく。ただ寄り添ってくれただけで、心がほどけていくのを感じた。

生理と向き合うことは、心身の声を聞いてあげること。

やるべきことは山積しているのにやる気が出ず布団を出られないこと、世界中の人と自分を比べて苦しくなること、義務感からやっている行動、全部を受け入れて、一回俯瞰するようになった。

両親の、友達の、彼氏の、社会の、そして自分自身の期待に応えようとしないこと。感情や好きなことに集中することで、少しずつ少しずつ、毎日が色彩を取り戻していった。

Photo by Gwendal Cottin on Unsplash

子宮に違和感を感じるようになってようやく8月に駆け込んだ産婦人科で、今まで放置していた子宮内膜が尋常じゃなく腫れていること、そして水が溜まっていることを告げられる。薬で強制出血を起こして様子をみることになり、1カ月後の診療では無事に元どおりになっていた。

今まで自分の心も体が異常をきたしていることは気づいていたけど、無視してやり過ごそうとしていたんだと思った。

私のからだにとって、生理はすごくわかりやすい健康のバロメーターで、気づかないうちから心の異変を知らせてくれていたと思うと、感動するし、なんだか愛おしい。今回は薬で治せたけれど、次からはちゃんとメッセージを受け取って、自省に活かしていきたい。

助けを求めること、痛みを認めて弱みをさらけ出すことは逃げなんかじゃない。むしろそれはすごく重要なプロセスなんだと気づけたことは、この全ての禍から得た唯一の収穫だと思う。

競争やステータスやエゴでもみくちゃにされやすい、世知辛い世界だけれど、自分自身の心と体の声をよく聞いて、自分や周りの人の異変に気づいてあげられる人でいたいな、と今日も思う。

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