「わたしのカラダはわたしのもの。My Body My Choice」
当たり前のように聞こえるかもしれないが、その当たり前が望めない、当たり前の前提が異なる環境もあるのが現実だ。
女性器切除(FGM / female genital mutilation)について聞いたことはあるだろうか?女子割礼と呼ばれてもいる。
アフリカを中心に約2000年も前から行われている、女性の外部生殖器を部分的または全体的に切除、あるいは傷つける行為のことであり、世界で少なくとも約30カ国で2億人の女の子や女性が経験しているといわれている。
大人の女性になるための通過儀礼や結婚の条件とされている地域もあることから、アフリカ、中東、アジアの一部の国々では現在も続いており、毎年410万人の女の子がFGMのリスクに晒されている。 ユニセフ(国連児童基金)によると、施術率は、アフリカのソマリアが99%で最も高く、ギニアで94%、スーダン、エジプトで87%、アジアではインドネシアで49%にのぼる。
FGMの種類や影響について
女性器切除という言葉を聞いても、想像しづらいかもしれないが、WHO(世界保健機関)では、FGMを4つのタイプにわけている。身体的な負担が最も大きいのがタイプ3で、膣を覆い、開口部を狭めるための外性器の一部または全体の切除や膣の入口の縫合をする施術だ。
FGMの施術は、全体でみると5歳から15歳の少女に行われるケースが多く、麻酔もなく、医療技術が十分ではない施術師により実施される場合もある。激しい痛みや出血、感染症による死亡、トラウマなどの精神的な苦痛を伴うこともある。
施術後も、排尿の痛みや月経障害、合併症などで学校へ通えなくなることもある。
成人後も、性交渉時の痛みや不妊の原因になるほか、膣を塞いでいた場合には再度切り開く必要もあり激しい痛みを伴うだけでなく、出産時には、新生児、母体の死亡リスクも上がるとされている。
FGMを禁止する法律が制定された
FGMは身体的・精神的な苦痛を伴う行為であり、2019年時点で40カ国以上がFGMを違法として定めており、世界的にも断絶の動きは広がっている。
事実、30年前と比較するとアフリカ地域でもFGMの実施数は減っている。しかしながら、コロナの影響による、学校の休校や貧困による早婚が増えたために、結婚の条件とされている地域でのFGM実施数が増加。国連人口基金(UNFPA)によると2020年からの10年間で200万人増加するとも言われている。
違法でもFGMがなくならない理由やその背景とは?
このような、命すら脅かされるかもしれない慣習が未だに残っているのはなぜなのか?世界的に根絶の動きがあっても、なくならない要因はどこにあるのか。
国際NGOプラン・インターナショナルによると、以下の理由があるという。
1 結婚のための社会的慣習・儀礼
FGMを実施している人が多いコミュニティにおいては、良い結婚をするためには、FGMを実施しなければならない、皆がするなら自分もしなければならないという同調圧力、FGMをしなかった場合コミュニティから排除されるかもしれないという恐怖がある
2 処女性・貞操によるFGM
FGMを実施することで、身体的にも性欲が減る。処女性が求められる結婚において、夫以外との性的な関係が持ちにくいとされている
3 貧困
FGMを実施する施術者の収入になっているほか、FGMを実施した子どもの親はお祝いをもらうケースもある。子どもにFGMをさせ早々に嫁がせ経済負担を軽減せざるを得ない家庭もある
4 宗教に関する誤解
宗教上、FGMが必要なものだと考えられている場合もある。しかし、宗教の経典にはそのような記載は一切ない
5 FGMの弊害を知らない
FGMに関する知識が足りず、身体的、精神的にどのような弊害があるかを知らない
6 人権理解・法律施行の不足
人権を学ぶ機会がないほか、法律はあっても機能していない国もある
FGM根絶に向けて、現在行われている活動は?
FGM根絶の活動をする団体の一つである国際NGOプラン・インターナショナルでは、スーダンとソマリアで「女性性器切除から女の子を守る」プロジェクトを行っている。
スーダンは2020年に刑法でFGMの禁止が定められたが、15歳から49歳の女性において、全土で86.6%の施術率である。
ただし、若い世代の施術率は年々下がっている。
ソマリアでは、FGMの施術を禁止する法整備がいまだなされておらず、現在の施術率は99.2%で、88%が9歳以下で施術されている。
スーダン、ソマリアともに、FGMの種類としては、最も身体負担が大きいタイプ3の施術が多く、施術も助産師、伝統的な施術師によるものであり、合併症リスクや医学的な知見が伴った医師による施術ではない。
実施国に住む女性たちの声と、根絶に向けた取り組み
ユニセフが、スーダンで「FGMをやめるべきかどうか」の調査を行った際、半数以上の女性が「やめるべきだ」と回答したという。
しかしながら、古くから続いている社会的慣習であり、施術をすることで社会から認められる現地において、多数派に合わせざるを得ない同調圧力が働く。個人的にはやめたくても、やめられない環境がある。
そのため、FGM根絶の活動は地域全体を巻き込み、包括的に行う必要があるという。プラン・インターナショナルでは、実施している国に合わせてプロジェクト内容は異なるが、以下のような取り組みを行っている。
1 啓発活動・公共の場で考えを共有
自分以外にもFGM施術に反対の考えを持つ人が多くいること、FGMをしなくても社会に受け入れられるということを理解してもらうために、同じ地域の人たちが集まり、学び、話し合う場をつくっている。
2 社会的・経済的な自立
女性の経済力が低いため結婚が経済的安定のために必要であり、良い結婚をするためには、FGMの施術が必要であるという考えに追い込まれている人もいる。
女性たちの自立を促進するため職業訓練の機会を提供している。
また、FGMは施術師が生きるための仕事でもあることから、施術師にヤギなどを提供し牧畜を始めてもらうなど収入向上支援もしている。
エチオピアでは生理用品がなくて学校に行けず中途退学になることもある。学校へ行けるようにナプキンとショーツの作り方を教え、必要な子たちに生理用品を支給している。
「女の子が学び続けて、社会的、経済的に自立をすることがジェンダー平等促進とFGM根絶につながると考えています」(プラン・インターナショナル プログラム部 冨田さん)
3 行動変容を促すための活動
FGM根絶の取り組みは、外部からの訴えや働きかけだけでは変容が難しいことから、コミュニティにおける対話を重視しているという。
スーダンでは、住民から選定されたFGM根絶に熱心なファシリテーターが住民に啓発を行う。女性に限らず、男性がファシリテーターになる場合や、少年や男性を対象にFGM弊害やジェンダー平等について対話するセッションもある。
4 影響力がある指導者への啓発や法の整備
FGMはイスラム教ができる前から存在し、イスラム教の経典にFGMを推奨する教えは掲載されていない。むしろ体に害のあることは禁じられている。
しかし、FGMがイスラム教で推奨されていると考える人もいる。トレーニングではイスラム教は女性の権利を尊重する考えがあるということを確認しあい、宗教指導者から地域に働きかけている。
また、法律はあれど、刑罰まで機能していない国もある。法的措置を強化したり、法の知識を学ぶ取り組みも行っている。
5 FGM施術をされた女性を対象にした身体・精神的なケア
ソマリア(ソマリランド)の活動においては、未承認国家であり、基本的な薬剤が手に入らない地域もあることから、遠隔地への巡回診療を行っている。モバイルクリニックで対処できない場合には大きなクリニックへ輸送するほか、FGM合併症への治療も行う。なお、これらのクリニックでは、FGM以外の診察も行っている。
とりわけ、ソマリランドでは、一般の方から選抜されたコミュニティーヘルスプロモーターが保健医療従事者と共同で、患者の日常的なケアを行えるようにしている。
当事者ではない私たちにできることとは?
日本に住む私たちには、「FGMは遠い国で行われている出来事」であり、どのように捉えてればよいのかわからない人も多いのではないだろうか。
ソマリアにおけるFGM根絶の活動を担当しているプラン・インターナショナル プログラム部 山本さんは、当事者ではない日本人が活動をする難しさと大切さを、「決して今日明日で答えが出るものでもない」としながら以下のように話す。
「FGMは人権侵害であると同時に、地域に根ざした慣習に対して外部が介入すること自体が暴力であるという論争もある。
プラン・インターナショナルでは、FGMは人権侵害であるという基本方針を掲げているが、この立場をベースにしつつも、私としては単純に欧米と発展途上国という文化相対主義的な立場で頭ごなしに部外者がFGMについて、とやかくいうのは注意すべきだと感じている。
というのも、ソマリランドでは、99%の女性がFGMを経験し、99%の男性が認知しているが、センシティブで当事者間でも語りづらく、公に語るのはタブーとされる側面がある。
昨今、SRHR、体の権利については「My body My choice」という言葉とともに発信することも増えているが、非常にセンシティブな問題なのは日本でも同じだ。容姿に関わること、体型に関わることも他人からとやかく言われることではない。文化的背景をきちんと理解していないと難しい。
だからこそ、プラン・インターナショナルでは、ソマリランドにもオフィスがあり、ソマリランド人の同僚がいる。彼らと一緒に進めていくのがベストな形だと感じている
My body My choiceという観点から考えることで、遠い国の問題を自分事としてとらえることも可能だと考えている」
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ランドリーボックスでは、女性の外陰部を学ぶための教育パペット「Ba-Vuva」の制作販売を開始しました。
Ba-Vulvaの取り組みは、自身の体について理解することで、自分の体の決定権を自分が持ち続けて欲しいという想いがあります。しかしながら、知識だけでは難しい環境もあります。
ランドリーボックスでは、世界に住む少女たちが自身のカラダについて学び、そして自身のカラダを守れるように、FGM根絶の活動を行う団体*に「Ba-Vulva」の売り上げの一部を寄付します。
*国際NGOプラン・インターナショナルが実施している女性性器切除(FGM)根絶の活動、「女性性器切除から女の子を守る」プロジェクトに寄付します。
わたしのカラダは、わたしのものだって言うけれど。
My Body My choice – わたしのカラダはわたしのもの。
あたりまえだし、大切なことだとわかっている。でも、私たちって自分のカラダのことをちゃんと理解している?プライベートゾーンもそう。
「自分にとって、プライベートな場所はどこなのか?それはどのような場所なのか」大人でさえも向き合うことや学ぶことがありません。
本特集では、Vulva(外陰部)をテーマに、さまざまな切り口で、自分のカラダやSRHRについて対話するきっかけを提供できればと思っています。
なお特集に際して、性教育/プライベートゾーンに関するアンケートを実施中です。みなさんのご意見や体験談をお寄せいただけますと幸いです。
本記事はランドリーボックスが企画制作をしている「Ba-Vulvaジャーナル」の記事を一部編集の上、転載しています。