経済的理由や、様々な理由で生理用品が購入できない「生理の貧困」について、フェムテックや医療の視点で考えます。

産婦人科医の宋美玄先生と、「生理の貧困」をテーマに取材を行うノンフィクションライターのヒオカさんが語り合いました。

生理にかかる費用は個人差が大きい

宋美玄さん(以下、宋):貧困の話になると絶対「もっと生活費を削られるのに」っていう人たちが出てきますが、生理の貧困も「本当にナプキン買えない人いるの?」、「ほか削るところあるんじゃないの」「スマホ持てるのに?」という声がありますね。現実問題として、みんな生理用品にいくらくらい出費してるのかな?

ヒオカさん(以下、ヒオカ):個人差がすごくありますね。生理用品に限らず「生理」にかかる出費の総額についてSNSで意見を集めたことがあるのですが、毎月200円〜10000円とかなり幅がありました。

過多経血でショーツタイプのナプキンがないと過ごせないという声もありました。また、月経困難症のためピルがないと生活できなかったり、貧血のため鉄剤が必要になることも。その場合は、かなり割高になります。

宋:生理がひどくて仕事を欠勤するという人もいますよね。そうすると日給がなくなる。

ヒオカ:生理休暇も有給じゃない企業が多いですし、1日休むと1万円くらい(※)は飛びますね。婦人科を受診すると、さらに医療費が1500円ほどかかります。

「特売で200円以内で済ませられる」と主張される方もいましたが、そこは個人差が大きいと思います。生理がある人同士でも理解しあうのが難しい。

※2021年10月から東京都の最低賃金は1041円で8時間労働の場合8328円。例えば時給1200円×8時間=9600円

生理の不快感を誰にも言えず、耐えるだけの子もいる

宋:私はミレーナ(避妊リング)を挿れていてたまに出血する程度で、かつ洗って何度も使える布ライナーを使っているので安く済んでいます。

ヒオカ:自分に合ったものを見つけるってすごく大事ですよね。生理の貧困が話題になったとき、なぜか月経カップをやたらすすめてくる“月経カップおじさん”が現れたんです。そのほかにも布ナプキンをすすめる声もちらほらありました。

ただ小中学生にとっては月経カップは管理のハードルが高かったり、布ナプキンは親や家族に見られるのが恥ずかしくて「つけ置き」できないって声もあるんです。母親が娘の第二次性徴に嫌悪感を示すって声も聞きます。

宋:娘の成長を嫌がる母親って稀にいますよね。生理を周りに知られるのが恥ずかしいというのは分かる。小学5、6年だと周りも生理来ているけど、4年生くらいで一人だけ先に来ちゃうとひた隠しにしてる子とかもいるし。

ヒオカ:そうですね。そして生理に伴う不快感を誰にも言えずに耐えてる子は多い。過去の生理を振り返って、経血漏れが常態化してたという話も聞きます。

親がサニタリーショーツの存在をそもそも知らない。本人も漏れを防ぐ術がわからず学校を休む、寝るときはバスタオルを敷く、地べたに座るときはかかと立てて……なんて声も。根本は「知識の貧困」だなと。そして性教育の敗北を感じます。

ヒオカさん。対談はオンラインで行いました。

生理用品はトイレットペーパーと同じ生活必需品

宋:最近は報道のおかげか学校のトイレに生理用品を設置する動きもありますね。トイレに設置するところと、保健室に取りに行くところがありますが、取りにいくのはそれはそれでハードルがあります。「ナプキンはなるべく自分で用意して、保健室に取りにこないようにしましょう」と呼びかける学校もあるみたいですけど、取りにくる子は「何か事情がある人」だと思われてしまうことが気になってしまう。

そうではなくて学校側は「誰でも気軽に取りにきていいよ」ってアナウンスしてほしいです。うちの子は小4なんですけど、この前学校で生理の授業があって「忘れたときは保健室に来てね」って言われたそうです。学習塾や習い事のところも、トイレに普通に置いてあると聞いて、今はそうなんだ!と。

トイレットペーパーはどこでも備え付けられています。私は生理用品もトイレットペーパーと同じように生活必需品だと思っています。下痢しやすいからといってトイレットペーパーを持ち歩いている人はいないですよね?

それなのにナプキンは持ち歩く必要がある。ナプキンの設置を求めると「悪意がある人が盗む」という意見があるんですけど、どこにでも設置されていたら盗む意味はない。だから生理用品もトイレットペーパーのように設置されているのがあたりまえになってほしい。

ヒオカ:今設置しようとしてる団体もあるんですけど、いたずらを懸念されて断られたりするそうです。

宋:どんないたずら?

ヒオカ:実際に起きてしまったのは「箱をひっくり返された」など。ただそれを言ったらトイレットペーパーだって、盗難やいたずらは完全にはなくなっていません。それを懸念するより、置くメリットのほうが大きいと思うんです。

初期投資が高い。フェムテックに感じるジレンマ

宋:吸水ショーツなどをはじめ、最近フェムテックに参入する企業が増えていますね。吸水ショーツって何枚くらい持っていたらナプキンなしの生活ができるんですか?

編集部:4〜5枚くらいあるといいと言われています。

宋:結構お高いですよね?

ヒオカさん(ヒオカ):最近は安価なものもいくつか出てきていますが、1枚5000円くらいするものが多いです。

宋:月経カップを1個買って、ショーツは2枚くらいだといいんですかね。それでも1万円は超えてしまう。

フェムテックが流行るのは歓迎です。たくさん売れないと価格を下げられないのもわかるし。一方で「生理の貧困」の文脈で「サステナブルな製品もあるよ」というのは、違和感があります。

ヒオカ:「生理」にサステナブルを求めることに、疑問をもつ声はすでに上がっています。なぜ様々な生活用品がある中で、必需品である生理用品にサステナブルさを求めるんだろう。

宋:好きでなってるわけではない生理に、なぜサステナブルさを求められるのか……。もっと努力が必要な分野があるような気がします。

ヒオカ:フェムテックの台頭によって便利なプロダクトが増えた一方、価格設定が高め、という問題に関して、私は「poverty tax(貧困税)」という言葉が浮かびます。お米が買えないから、コンビニのおにぎり買わざるを得ないというように、初期投資できないのが貧困。

長期的に見てコスパがいいと分かっていても、手持ちがないから手が出せない。価格帯を見て、低所得者層は前提とされてないように感じてしまいます。

ピルへの偏見と、価格について

宋:ところでヒオカさんは、生理痛がひどいとき婦人科に行ってみてどうでしたか?

ヒオカ:私は生理痛や無月経で婦人科に行きました。でも、ピルは高くて手を出せませんでした。

宋:Twitterでもピルの話を見聞きしますが、どうしても高いイメージがあるみたいで。確かに自費のピルは高い。でも、保険効くものだと600円台のもあるんですよ。まだまだピルが高い、というイメージが強過ぎる。

ヒオカ:私もピルって3000円前後のものしかないと思っていました。高いイメージしかないです。 

宋:ピルじゃないけど、ノアルテンという薬だと、保険効くと360円くらいなんですよ。プラスで処方料はかかるけど。そういう薬を使って、頻度や量、生理痛が軽減されたら、生理用品や鎮痛剤などにかけるお金も減ると思います。

ノアルテンだと、片頭痛持ち、喫煙者、肥満でも使えるし有益だと思う。経済的な負担や、副作用のリスクも少なく続けられるものもいろいろある。根本的な解決策になる人も多いのではないでしょうか。

産婦人科医・宋美玄先生

ヒオカ:私が19歳の時に無月経でピルをすすめられた時は、3000~4000円の1種類しか教えてもらえませんでした。もっと安いものもあるなんてびっくりです。学生や若い子たちにとっては毎月3000円って大きいですよね。600円だったら、5分の1……。

宋:ピルを飲まずに、うっかり妊娠したときのリスクも大きいですしね。 

ヒオカ:ピルっていまだに「ふしだら」みたいな偏見も強く、とくに親の世代の偏見が大きい気がします。

宋:ピルがあることをすすめると「私には合わない」という人がいます。月経カップも「そんなの汚い」とか。でも、救われる人も必ずいると思っています。どうやったら情報が届くのかな。

ヒオカ:確かにこういう情報って、いろんな意見がでてきますよね。最近だとタレントの益若つばささんがミレーナを挿れたことを公言して話題になりました。嫌悪感を示す声や偏見の声もあったようですが、「こういうものがあるんだ」「知ってよかった」という声もあり、届く人にはしっかり届いたように思います。

後編に続く。

(構成:ヒオカ)

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