昨年、30〜40代の女性に向けたファッション&ライフスタイル誌『SITRUUNA(シトルーナ)(扶桑社)を創刊した。テーマは「がんばりすぎずに、ごきげんに」。いわゆる“ていねいな暮らし”に少し疲れた女性が、ありのままの自分を認められるような、スタイルではなく気持ちを主役にすることを提案する雑誌である。

高い理想 + ていねいに暮らせない自分 = 自己嫌悪

なんだかギリギリだったのだ。30代後半。責任のあるポジションを任されるようになった仕事が楽しくてがむしゃらにがんばり、一人はもちろん、家族や友人、恋人とのプライベートの時間も精一杯捻出して楽しむことをあきらめない、そんなふうに数年過ごしていたら、40歳直前で身体を壊してしまった。

気分転換に愛読誌を開くと、そこには清潔感をもって美しくしつらえた部屋で、過度な装飾のないセンスのいい服に身を包み、身体にいい食材の味を活かした手製の食事をとり、心から満たされているような表情を見せる穏やかそうな人たち。

私は毎日、時間も精神的にもギリギリで、食事はコンビニやデリバリーばかり、部屋は服や資料の山で荒れていて、毎日メイクも落とさずに寝落ちしてしまうのに。私だってていねいに暮らしたいのに。

そんなふうに素敵に暮らす(ように見える)人たちとの落差に気分が沈み、大好きだったはずの雑誌を開きたくないと思う日が増えた。大好きな雑誌の仕事をしているのに。

昨年40歳の節目を迎えるにあたり、抱き続けるこのモヤモヤを一旦整理してみようと思った。私はずっと何かに憧れ続けたまま、憧れに手が届かず落胆したまま、今の自分に満足しないまま、一生を終えてしまうのだろうか。

そんなのイヤだ! これからの人生、もっとよくなりたい!

ふらりと訪れた書店で『あたしたちよくやってる』という山内マリコさんの新刊にすーっと手が伸びた瞬間、自分が読みたいような雑誌を作ろうと決めた。自分をほめるように、許すように、今の自分が大好きになれる、そんなふうに読者が思える雑誌を。

ほどほどでいい雑誌、『SITRUUNA』創刊

そして昨年、ファッション&ライフスタイル誌『SITRUUNA(シトルーナ)』を創刊した。

テーマは「がんばりすぎずに、ごきげんに」そして「ていねい、ときどき、ずぼら」。

おしゃれも暮らしも「こういうスタイルがいま素敵ですよ!」と形だけ一方的に押し付けるのではなく、読者の方がごきげんでいられるための方法を提案して、思考のきっかけにしてもらえるような雑誌。スタイルではなく、着る人・暮らす人の気持ちを主役にした雑誌。まさに自分が読みたかった雑誌である。

こういう雑誌が作りたいと思ったとき、同世代の友人・知人と徹底的に話をしたのだが、同じようなつらさを抱えている女性がとても多いと感じた。金銭的には余裕が出てきたのに、精神的には全く余裕がない。結婚(するか・しないか)、出産(するか・しないか)、子育て(仕事との両立・家事分担)、仕事(責任・転職・独立)、体形・体調の変化など、人生の岐路に立つ年代であることも大きい。

さらに、私たちは大きな自然災害や未曾有の疫病を経験し、形あるもののはかなさ、無意味さを痛感することになった。物質的な豊かさよりも、精神的な豊かさをより意識するようになった。体裁ではなく、気持ちを主役にした雑誌が作りたいと思ったのは、私の個人的な想いがきっかけだったとはいえ、この時代の自然な流れだったのかもしれない。

これからの“しあわせ”を再定義する

物質的な豊かさよりも、精神的な豊かさにより重きを置くということは、目に見えるものに無頓着になる、ということではない。

やはり、私たちはかわいいもの、素敵なものが大好き。 そのビジュアルから感じるときめきを大きな原動力にして、ビジュアルの向こう側にあるものの意味を深く考え、自分のマインドに作用させ、行動につなげていくこと。それが価値観をアップデートし、新しい“しあわせ”を作っていくためのティップスのひとつである。

毎日ていねいに暮らしている人もいれば、ときどきていねいに暮らしている人もいる。バタバタと慌ただしく生活をしている人も、ずぼらでぐうたらしている人もいる。いろんな人がいて、いろんな暮らし方がある。

でも、どんなふうに暮らしていても、そこにごきげんでいられる心の健やかさがあれば、それはとても豊かな生き方につながる。世界レベルで価値観の常識がどんどん変革しようとしている今、まずはそんなふうに、中心にいる自分のしあわせの価値観を変えていくことで、自分をラクに解放していこう。さあ、「がんばりすぎずに、ごきげんに」

 * 

・『SITRUUNA』最新号

New Article
新着記事

Item Review
アイテムレビュー

新着アイテム

おすすめ特集