村上吉宣さんは、ふたりの子をもつシングルファザー。息子が1歳、娘が生後7カ月のとき、妻とは別の道を歩む選択をした。以来17年間、ふたりの子どもをひとりで育ててきた。
村上さんは「パパと子どもたちに笑顔を」というテーマで、父子家庭を支援する団体の代表でもある。そんな彼が、子育てにおいて大きなできごとが「むすめの初潮」だった。
むすめの初潮教育にどのように向き合ったのか?村上さんに話を聞いた。

トイレトレーニングから悩んだ
—おひとりで2人を育てるのはご苦労があったと思います。女の子の子育ては、やはり違いますか?
男の子には、自分の体験からなんでも教えてあげられるけど、女の子の身体のことはわからないので、どうしたもんかと。
最初の壁は2歳のときのトイレトレーニングでした。問題は前から拭くのか、後ろから拭くのか。これはどっちが正解なのだろう?って悩みました。
同じ保育園に通うママさんに、勇気を出して聞いてみたんですよ。そうしたら『どっちでもいいのよ!』って(笑)。どっちでもいいの?本当に?と拍子抜けしましたが一瞬で解決しました。
こういうことは自分ひとりで考えたりネットで調べたりしてみても、なかなか出てこないんですよね。聞いてよかったです。
むすめが不安にならないように早めに準備
—生理については、なにか準備をしましたか?
生理に関しては、むすめを持ったときから「いつかやってくる」とずっと気になっていました。
股から血が出てくるなんて、男からしたら恐怖ですよ。しかも、いつやってくるのかわからない。正しい知識がないまま初潮を迎えたら、小学生の女の子は怖がると思ったんです。
そこで、生理について解説している『おしえて!しきゅうちゃん』(当時、自費出版で限定販売されていたもの)という子ども向けの絵本を取り寄せました。
小学校低学年のうちから、一緒に読んでむすめが生理を受け止めやすくするなるよう準備をはじめました。「生理がくるのは普通のことなんだよ」と言い聞かせていました。
パパの前に「親」だよ

むすめが小学校3年生くらいになった頃です。むすめは徐々に周りの目を気にしたり、周囲に合わせなきゃという意識が高くなっていました。
クラスのお友だちに「お父さんが生理の話をするなんておかしいんじゃない?」「変なんじゃない?」と言われたそうなのです。
「パパがそういう話するのはデリカシーないよね?」って。どこからか聞きかじった言葉を持ち出して私に言ってきました。
そこで私はむすめにこう伝えました。
「なに言ってんの? パパの前に親だよ。親として、むすめの体の変化を気にしたり、教えることは当たり前でしょ? とくにうちにはお母さんがいないんだから」
「でも、それを気持ち悪いって感じることも、別に悪いことじゃないんだよ。パパは生理を経験したことがないんだから、相談できる相手を作ろう。ふたりで学校に行って、保健の先生や女性の先生に相談しに行ってみようか」
むすめはこの提案に応じてくれました。
先生にはこう伝えました。
「家でも教えてはいるけれど、本人の気持ち次第で、父に話したくない感情が生まれたときには、相談に乗ってもらってもいいですか?」と。
先生は快諾してくれて、むすめも安心したようでした。
それから、むすめと生理用品を買いに行きました。「サニタリーショーツっていうのはよくわからないからお店の人に聞いてみようね」と話した記憶があります。
初潮を迎えた日のこと
—実際に初潮を迎えたときはどうでしたか?
このように準備をしてきたから、初潮を迎えた日も、おおごとにはなりませんでした。
むすめは「きたーーーーー!」とすぐに報告してくれて、「おお。大人の階段登ったなぁ」というシンプルな会話でした。
念のため、手帳に書いておくといいよ。次、いつくるかわからないから、しばらくポシェットはいつでも学校に持って行くといいよ。と教えました。
ファッションやメイクのこと

—とても素敵ですね。生理のほかに戸惑ったりしたことはありますか?
成長とともに、ファッション、メイクなどむすめの興味は広がってきます。ちょっと露出度の高いファッションを「かっこいい」と感じる年頃になったときは「こういう服を着ると、男の子からどう見られるか」「大人の男の人の目線にも気をつけたほうがいい」などを話しました。
性暴力被害などのリスクがあることを、慎重に言葉を選びながら。
「メイク教えて」に関しては全く対応できませんでしたが(笑)。「一番肌がキレイなときなのに、お化粧で隠すのはもったいないんじゃない?」って伝えました。
恋愛・セックスのこと
その後は恋愛・セックスと続きます。伝え方は悩みました。
「大好きな人に触れたい、抱きしめてもらいたい、と思うのは自然なこと。ただ、学校でも教えてもらったと思うけど、女の子は妊娠するかもしれないんだよ。まだ成長段階なのにセックスをしてしまうと、身体に悪い影響があることもある」
「中学校で子どもができたら育てられる?パパの問題にもなるし、大好きな男の子の親御さんの問題にもなってくる。もしもの時に、お金がなくて困ったり、子どもを幸せにできなかったり、家族がバラバラになったりしたらどう? それって悲しいことでしょ?」
自分の伝え方が正しいかどうかわかりませんが、10代で妊娠・出産するリスクを自分なりに教えました。
そして「我が家ルールでは18歳からかな」、と。
性教育を堂々とするために
—手探りだったとは思いますが、家庭できちんと教えてきたことが伝わってきます。そこまで出来ない親も多いと思います。
すごく大事なことは、親がひるまないということです。性教育は、教える側がちょっとでも「いやらしいこと」と感じさせる隙があってはいけないと思いました。
性教育はパートナーシップに関する教育でもあるので、まず「愛し合うって素晴らしいことなんだよ」「だからこそ大切にしてほしい」と大真面目に話しました。
パパにとって大事なことは「あなたが怖い思いをしないこと」「後悔してほしくないこと」「だからパパの気持ちもわかってほしい」と伝えました。
もちろんすぐに理解してもらえることではなく、苦労はしましたがむすめになにか言われても「パパは悪くない!」を貫きました。そのくらい言い切らないとダメだったんです。
周りに助けてもらった
ひとりでふたりの子を育てる中で、育児ノイローゼにもなりましたし、鬱にもなりました。洗濯物を干しながら涙を流すなんてことも。
圧倒的に時間が足りない中、育児は自治体の相談窓口や子どもの一時預かりなどを利用しながらやってきました。
また子どもがまだ幼いうちから家事を教えて、家事の半分を手伝ってもらっていました。ときには厳しく指導してきたと思います。
そうして、なんとかやってこれたというだけで自分では、子育てがうまくいったとは全く思っていません。
性教育は、ひとり親である以前に、ほとんどの親が悩むものだと思います。
うちは父子家庭だったことで周りの協力も得られやすかったのかもしれません。実際に、同じ保育園に通うママさんや、学校の先生たちなど周囲に相談しながら、助けてもらいました。
もし、ひとり親で性教育に悩んでいる人がいたら、相談できる相手を探すこと。女の子の初潮については早めに準備すること、親子できちんと会話することをおすすめします。

ランドリーボックスでは特集「#ボクとわたしの生理」を始めます。
ボク?男性に生理は関係ない?そう、生物学的な「男性」に生理はありません。
だけどみんなで社会を築いていく。そう考えたら、それぞれがお互いを知る必要があるのかも。
生理に向き合う多様な人たちの声を集め、性について考えていきたいと思います。